表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神の代行者 〜Peace illusion〜  作者: 伊東 晶
戦火の予兆
9/56

第八話

 ………………………


 …………ここはどこだ?

 気がついたら俺の知らない場所にいる。

 闇に閉ざされていないなら光に包まれているわけでもない。


 ただ単に、光が反射したときの、あの虹色に覆われた『地上ではない』どこかだ。


 ………意識が戻ってしばらくしたからな、大体状況がつかめてきた。

 まず、今の俺は実体を持っていない。ただ、一部の感覚は残ってる。だから魔力の濃度がわかる。視界もあるみたいだな。

 魔力濃度からして、ここは地上ではない。なぜなら、地上はここまで魔力は濃密じゃない。てか、地上にある魔山と同格かそれ以上の魔力濃度じゃなかろうか。

 視界からわかるのは、……多分この虹色の輝きの外に一人の、それもおそらく人間でない人型の何かがいる。


 さ〜て、なんでこんな事になったのやら……。







 時は少し遡る。

 午前9時ごろ、ゲールの中等学院では卒業式が始まった。


 レストアは思う。ダルい、と。

 そう、ダルい。ただ単にダルい、ものすごくダルい、本当にダルい、とでも言いたげな雰囲気だ。

 卒業証書授与くらいならまだいい。だが、校長式辞やら送辞やら答辞やら、聞いていてもほとんど忘れるような話をなぜ聞かねばならない、と本心から思っていたりする。


 しかし、送辞と答辞にはこの世界ならではの伝統がある。


 内容としては、それぞれの学年の序列1位と2位が戦い合う。ただそれたけだ。

 とはいえ、生徒たちはこれを楽しみにしていたりする(レストアも例外ではない)。また、闘技場で行われるからか、式の一部であるにも関わらず、式中としての雰囲気は欠片もない。


 後輩たちの試合が終わり、ついに三年生の番になる。

 三年生の序列1位はセリファ、2位はレストアなので、二人は闘技場のフィールドに出る。

 その瞬間、凄まじい歓声が巻き起こる。二人の試合は学年を超えて有名だ。だから当然というものであろう。

 だが今回は、それとは別の理由があった。

 幻装の使用が特別に認められたのだ。

 ただ単に二人の試合だからではなく、幻装を使った試合というのもあって、これだけの歓声が上がったのだろう。




 闘技場フィールド。


「前回は何かと手札を切るのが遅かったからな。今回は最初から全開で行くぜ……?」


「では、開始ッ!!」


 と、ここで試合開始の宣言がされる。


 直後、二人はフィールド中央で鍔迫り合いになる。

 レストアが魔法の炎剣をセリファへ振り下ろすと、彼女はそれを回避、鍔迫り合いが解除される。

 

 レストアは一旦距離を取り息を吐く。冷静になるためだ。

 手札を切ると言った以上、あとには引けない。

 だからここで、三重術式を展開、四つ(・・)のフィールド魔法を繰り出す。


 術式に関して、ここで補足説明をしよう。

 個人によって、扱える術式数は違う。例えば、三重術者が三つの術式を使っている状態で、新たな魔法を扱うことはできない。

 レストアは四重術者だ。つまり、あともう一つの術式が残っている。


 プラスしてフィールド魔法についても。

 文字通り、フィールドに魔法を付加する術式だ。自然化できる者にとってはいつでも自然化できるし、魔法による自傷もしない。そのため、使う者によっては天と地の差が出る魔法だ。

 また、フィールド魔法展開時は、その属性の魔法の術式は練る必要がない。例として、火のフィールド魔法を使っているときには炎系の魔法を自由に使える。ただし、火の魔法以外は、術式を練る必要がある。


三重術式(トライ・キャスト) 煉獄・永久凍土・走雷」


 大地深くから凍てつくフィールド、その表面を焼く炎。その影響でフィールドは深い霧に包まれる。フィールドとその上空では文字通り、雷が走る。


 お気づきだろうか。何故三つの魔法で四つの魔法ができるのか。


 氷を温めれば溶け、水になる。


 それは世界が変わったとしても、変わらぬ常識であった。だから四つのフィールド魔法になったのだ。


「最初から飛ばすねぇ……じゃあ、こっちも……!」


 そう言い、セリファが右袈裟斬りをお見舞する。さらに逆袈裟に繋ぎ、左手で突きを放つ。だがレストアはそれを読みきり、受け流す。

 そこで、セリファは右の剣を逆手持ちにし、回転斬りを放つ。が、レストアはバックステップで距離を取ると、氷の中に炎を閉じ込めた槍を無数に生成し、セリファに放つ。

 対してセリファは、無数のレーザーで迎撃する。直後、レーザーが爆裂し、レストアの魔法を打ち消す。

 爆炎から飛び出したレストアが上段から斬り下ろし、セリファは双剣で挟み込むようにして受け止める。レストアの剣を弾き、持ち前の剣速でレストアを飲み込もうとする。その連撃をレストアの蒼眼が捉え、剣と魔法を織り交ぜた防御で難なく捌ききる。


 ここで両者共に距離を取り、一旦息を整え直す。


「今回は、見栄えは気にしてられねぇな……」


 セリファに聞こえないように呟くと、凄まじい魔力を放ち始める。

 その意図に気づいたのだろう、セリファが阻止しようと動くが、遅い。


「GAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」


 龍が召喚され、凄まじい咆哮上げる。同時にセリファの動きが阻害される。

 そんなことはお構いなしに、斬撃を放つレストアと雷撃を放つ龍。


「ぐっ………!」


 斬撃をいなし、雷撃を自然化することで回避するセリファ。

 しかし、ここで彼女は一つ選択を誤る。


「幻装にとっちゃ、ただの餌食だぜっ!」


「きゃあぁぁぁっ!」


 自然化して、その場にとどまった。これがミスだ。

 ダメージを負ったセリファに、火・水・雷・氷の魔法に龍の猛攻が襲いかかる。

 セリファは自然化と剣術、幻装の能力でどうにか凌ぎきる。

 その間にレストアは再び距離を取り、幻装に右手(・・)を添えようとする。




 ここで彼らは気づくべきだった。何故、レストアの右腕(・・)が健在なのか……と。




「あ………?」


 突如、レストアの景色が歪む。


「レ、レストア!?」


 直後、レストアの意識は途絶えるのだった。







 ……そーいや、今頃どーなってんのかねぇ。

 ……まあ、大騒ぎってとこか。いきなりぶっ倒れて、それを介抱しなきゃならんし、なんで意識を失ったか、とか調べんとならんし。


 そんなことより、


(そこにいるのは誰だ!?)


 !? 声が出ない……!?

 まあそうか。今実体ねぇし、だったら声帯があるわけ無いしな。


「……………そうですね、これから浅くない関係になる訳ですし、自己紹介はすべきですね。私は海洋神・マリフィアと申します。これからよろしくお願いしますね」


 …………は?今、この女性は自分を『神』って言ったか?どういうこった。


「流石に、目の前にいる女性が神と信じるのは難しいようですね。ふふっ、まあ無理もありません。ですが、いずれその事実を知ることになります」


 一体何を言っているのか。今の俺にはさっぱり理解できん。


「少し……雑談でもしましょうか、今の状況を伝えるためにも」


 ………そう言って、雑談することになった。







 レストアは倒れそうになるが、どうにか踏ん張りこらえる。

 そして目の前の少女に、己が持つ刀剣を向ける。


「…………あなたは、だれ……?」


 目の前の少女――確か名前はセリファといったか――が疑問を投げかけてくる。

 レストア…の姿をした何者かが、その問いに答える。


「今はまだ正体を明かすつもりは無いです。……まあ、自分に勝ったら、教えてあげてもいいですよ?」


 レストアの姿をした何者か――仮に少年としよう――がそう言うと、セリファは凄まじい数のレーザーを放ち、同時に猛烈な斬撃を繰り出す。

 しかし少年は、それを事も無げに受け流し、さらには魔法を織り交ぜ、セリファに手傷を負わせる。

 そこに龍も加勢し、セリファは一瞬でピンチに追い込まれる。


「やっぱり、大したことないな。これじゃ満足に戦えない」


「くっ……!わるかったわね……!」


 セリファは自分のことを言われたのだと思ったのだろう、怒気を発しながらそう言ってくる。

 少年はそれを慌てて訂正する。


「い、いや、貴女のことではありません。憑依体……レストアの事です」


「え……えと……」


 いきなり意味のわからないことを言われて戸惑うセリファ。しかし、少年は待ってはくれなかった。


「残念ながら、こうしているのも時間が限られているのです。

 『龍鎧』」


 そう言うと、龍が消滅し、両腕両脚に龍の鱗・甲殻が展開される。まさしく、龍の鎧であった。


 セリファがその光景に一瞬だけ、目を奪われる。

 その一瞬が隙を生む。

 すれ違いざまに、突きの如き斬撃で首を斬ったのだ。

 血こそ出ないが、ダメージが大きく倒れかける。


「すごい反応速度。これは……」


 セリファが一瞬でダメージを治癒したのだ。


「私も、お返しよ!」


 セリファはすぐさま立ち上がり、無駄も隙もない斬撃が少年に襲いかかる。

 しかし、その斬撃は届かず……


「ごめん、卑怯だけど……」


 ここで時間が停止した。

 すると少年は、月詠の霊器(ルナ・ゲシュペンスト)のリーチを数メートルまで伸ばし、フィールドを斬りとる。

 そしてそのフィールドを八等分し、月詠の霊器の能力で密度を凝縮、八つの岩石を転移させる。

 そこで時間は動き出すが、勝負は決まっていた。


「え……えぇーーーー!?」


 八つの岩石が隕石となって降り注いできたのだ。


「きゃあぁぁぁぁあああぁぁぁぁっ!!」


 避けることは叶わず、セリファは巻き込まれてしまう。その爆炎はフィールドを穿ち、凄まじいクレーターを作っていた。


「……まあ、教えないのも卑怯ですよね。それでは、少しばかりヒントを。

 スペルドの国立図書館で調べれば出てくると思います。あと、キーワードは幻獣使(ファンタジスタ)、ですね」


 ここで試合が決着してしまう。

 そんな時に耳元で囁かれ、一瞬呆けてしまう。が、言われた意味は理解できたため、聞き返すようなことはなかった。


「……少しだけ席を外しますね」


 そう言うと、そのまま何処かへ転移してしまう。


 全く状況が頭に入ってこないセリファだった。







「さて、雑談はこんなところにしましょう。彼女が帰ってきますし」


(彼女?彼女って誰だ?)


「それは……あなたに一番(ちか)しい者です。ですが、今はまだ、会ったことはありませんね」


 ……とりあえず、雑談の中である程度の情報を聞き出せたから良しとするか。……彼女というのが気にはなるが。


 手に入れた情報は四つ。

 一つ目は、ここは神々が住まう地・天上界という場所であること。

 二つ目は、今俺がいる所はとある神が眠る水晶の中であること。

 三つ目は、各国の王、あるいは王族は神々に関して深い知識を持つこと。

 最後に、スペルドの国立図書館になら、神々に関して詳しく書かれた書物があること。


 これだけの情報があればまだマシか。


「おや?マリフィアさんではないですか。どうされました?」


「あっ……ルーメルティアさん……。すみません、貴女の憑依体が気になってしまって……」


「あらあら、そうでしたか」


 あ……?なんで()がそこにいる……!?


「……レストア、はじめまして。貴方の身体に憑依している、時空神・ルーメルティアと申します。これからもよろしくお願いしますね?」


 え……っと、よろしく……?


「はい……!」


 俺って笑うとあんな顔なのか。


「それでは、私は戻りますね」


「はい。それでは」


 マリフィア……様は帰ったのか?


「うん、自分の神殿に。……レストア、まだ少しだけ君の身体借りてるから、待ってて?」


 あいよ。ってか、口調変わったな?


「まあ……さっきまでのは外行きのだからね……。普段はこんな感じだよ」


 そう言うとルーメルティアは何かをし始めた。……俺にはなんなのかさっぱりわかんなかったけど。

 しばらくして、その何かが終わったのかこっちに来た。


「それじゃあ、やるべきことは終わったから身体、返すね。貸してくれてありがとう」


 いや、半ば強引じゃねぇか。


「それもそうだったね……はは。……じゃあ、またいつか。その時は、私の本当の姿で会えるといいな……♪」


 ……またな、でいいのか?


「うん。じゃあね♪」







「レ、レストア!?レストアだよね!?」


「お、おう。ど、どうしたんだよ?」


「は〜〜、良かった……」


 うん?なんか話が見えん。なんでこんな本人認証みたいなことされてんだ?


「なあ、何かあったのか?」


「え〜〜と、実は……」




 セリファから事情を聞き、どうなったかはあらかたわかった。

 とりあえず結論としては、スペルドの国立図書館で調べ物をしなければいけないようだ。

 他にh……




 だが、その時だった。


「『黒』……!この濃さ、戦争か!?」


 突如として表れた戦争の兆候。

 その数分後、北西部のほとんどの部隊が召集され、イブリスとの国境にある大平原に出撃したとの情報が入った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ