第七話
「……幻装の使用許可、だと?」
リティエルの思わぬ発言に問い返してしまうレストア。
レストアの反応にリティエルは一つ頷き、
「そう、幻装の使用許可。君たちには、それを使いこなせるだろう、という直感からだけどね」
「そ、そうか……」
と答えた。
レストア達はどこか納得できない、といった表情だが、話を進めようと思ったのだろう、続きを促す。
「まあ君たちは既知の事だけど、次は大規模になるだろう。そうしたとき、幻装の使い手は一人でも多いほうがいいからね」
「……そうは言うが、国からある程度の信用が無ければ使用許可は下りないはずだが?」
そう、レストアの言う通り、国から一定以上の信用が無ければ使用許可は下りない。
レストア達の場合、まず信用されていないだろう。先程の件もあったところだ。
しかし、リティエルは許可を出すという。レストア達は何故なのかわからなかった。
「その点はあたしが信用している。これで問題ないさ」
「あんた一人の信用でか?」
「まあね。これでもあたしは、軍務局のお偉いさんなんでね」
にわかに信じがたい事だ。リティエルはどう見ても20代、いくらなんでも30には届かないはずだ。
にも関わらず、軍務局の高い地位に就いている。レストア達は自分の耳を疑った。
「まあ、人を見た目で判断しちゃいけないってことさ。こう見えても、ベルスティアの軍であたしと同格なのは、両手の指で数え切れるくらいだしね」
「……マジかよ……。あそこで抵抗しなくてよかったぜ……」
思わずそう呟いてしまうジャン。それにはセリファ達も同感だった。
「さて、そろそろ話を戻そうか。とりあえず、幻装の発動体を持ってくる。少し待っていてくれ」
そう言って席を立ったリティエル。戻ってくるまでに少し時間が掛かりそうなので、とりあえず雑談をすることにするレストア達。
さて、レストア達の雑談に入る前に『幻装』についての説明をいよう。
幻装とは、一括に言ってしまえば『特殊な能力とそれに伴う代償、人間の感情に近いものを持った装備』のことだ。
能力・代償共に幻装それぞれであり、似通った能力・代償はあれども全く同じというのは存在しない。また、自然化した人間に対して攻撃が通る。
上記にあるように、幻装には感情に近いものがある。そのため、扱う人との相性が悪いと拒絶されてしまう。逆に相性が良ければ、能力を最大限に発揮できる。しかし、背負う代償も大きくなるという欠点もある。
このように、なかなか個性的であることと扱う者の相性と素質が高ければ相当な戦力になるため、相応の信用が無ければ許可が下りないのだ。
では、レストア達の雑談に戻ろう。
「ところで、さっきの幻獣使って件。あれいつからわかってたんだよ?」
「『目』で見た瞬間から、ってとこだな。……あいつ、あまりにも『白』過ぎたからな」
「……そんなに?」
「まあな。でも、なんであんなに『白』いのかわかんねぇな。いくら幻獣使でも、ルティアはあそこまでじゃねぇし」
「やっぱり、平和に関してどれだけの関心を持っているか、ってところなのかな?」
「多分な。それか、あいつが使う幻獣の特性故なのか……」
「ごめん、待たせたね。それじゃ、これが今ある幻装だね。好きなのを選んでくれ」
レストア達が雑談をしていると、リティエルが戻ってきた。幻装の発動体が入ったケースをキャリアーで運びながら。
「ここにあるので全部なのか?」
「まあね。今使ってる人は十数人くらいだけどね」
思っていたより幻装の数が少なく、思わずそう訊いてしまうレストア。
しかし幻装とは、『幻』と付くように本来はそこまで数は存在しないはずなのだ。にも関わらず、今では世界中にある幻装の数は百を超える。
幻装を開発したのは、今は亡き種族である。
彼らをしても偶然の産物であり、生産・加工レシピは不明だった。そのため、当時はそれこそ『幻』の存在だったのだ。
しかし、偶然が重なり量産できるようになってしまう。そして、世界に幻装の存在が広まってしまったのだ。
そうなれば、軍事力に力を入れているイブリスが黙ってはいない。その種族が住む地域を取り込もうとする。
しかし、他の国はそれを良しとせず、それが原因で大規模な戦争が起こったのだ。その戦火に巻き込まれ、その種族は滅んだのだという。
そのため幻装は、その数が少なくて当たり前の物なのだ。
「まあ、じゃあお言葉に甘えて選びますかね」
そうしてレストア・ジャン・セリファは幻装を選ぶことにする。リオ・ルティア・サシュラルは選ばないようだ。
「……これは……」
「ん……あれ?」
「………」
と、唐突に三者三様の反応を示す。
それに気付いたリティエルが何か納得したような表情を見せる。
「フッ、何かを感じたんだろう?なら、その幻装を展開できれば……」
その先はリティエルが言わずともわかった。『幻装に選ばれた』と言いたいのだろう。
その言葉が言い終わる前に、レストアは金色の刀剣、セリファは白銀の炎を纏った双剣、ジャンは紅蓮色の大剣を展開していた。
「……レストアは『月詠の霊器』、セリファは『陽炎の神器』、ジャンは『禁忌の滅刃』……か。どれも気難しいと評判なのだけど……」
気難しいというのは、幻装の(人間でいう)性格のようなものだ。そのため、この三つの幻装の使い手はなかなか現れなかったという。
「リティ、三人の幻装の能力は?」
気になって仕方がない、とまではいかないがかなり気になっているのだろう、ルティアがリティエルにそう訊く。
「うん、そうだね。まずレストアのからいこうか」
そうしてリティエルからの説明が始まる。
レストアが展開した幻装は『月詠の霊器』。
能力は密度制御。ありとあらゆる密度を操ることができる。そのため、自分の密度を過疎化させて霧散させたり、力の密度を高めて純粋に火力を上げるなど、多種多様な使い方ができる。
もう一つの能力は魔力の流れで使用者の心を読むこと。この能力により、使用者が扱いたい武器種・長さになることができる。ただし、複数に分裂することは出来ない。
代償は使用時間が長くなるごとに重量が増えていくこと。そのため、最終的には振るうことができなくなる。
セリファが展開した幻装は『陽炎の神器』。
能力は神炎制御。この炎により、ありとあらゆる炎を操れる。また、火の魔法適正を得る。
だが、神炎の本当の能力は他の幻装の能力の無効化である。強力無比な能力故に気難しく、使用者は片手で数える程度だという。
また『月詠の霊器』と同じく、使用者の扱いたい武器種になることができる。『月詠の霊器』と違うところは、複数分裂ができること、盾にはなれないことだ。
代償は使用時間が長くなるごとに高温になっていくこと。最終的には緊急冷却に入ってしまう。ちなみに緊急冷却の時間は2時間程度。
ジャンが展開した幻装は『禁忌の滅刃』。
能力は強制破壊。使い手の意思により破壊対象を選択できる。ありとあらゆる物を破壊でき、人間の精神をも破壊できる。しかし、物理的な接触・威力を持たないため、普通の武器では相手はできず、幻装でしか撃ち合えない。ちなみに、幻装を強制破壊することはほぼ不可能。
代償は使い手の狂化。能力の使用により狂うことがある。そのため使い手の意識が乗っ取られ、幻装の意思で破壊し始める。
代償があまりにも重すぎるため、使用者の数は極端に少なかったようだ。
リティエルの説明を受け、どんな能力か、どんな代償かを確認し終えるレストア達。
しかし、レストア達の表情は冴えない。なぜなら
「……ジャン、危険すぎるね……」
「……そうだな……」
ジャンが背負う代償が重すぎるからだ。
ジャンは緊急時以外に使用しないことを誓い、レストア達は幻装の使用手続きを済ませる。
「とりあえず、今回はこんなところだ。あとは宿に戻るなりゲールに帰るなり、体を休めてくれ。………君たちには期待しているからね」
「……え?」
最後のリティエルの呟きがよく聞こえず訊き返すが、「いや、何でもない」と答えてはもらえなかった。
王城を出て、まず宿に戻り今後の予定を立てることにするレストア達。
その後、スペルドの街を散策したり、レストア達の実家に行ったり、充実した一日を過ごすレストア達だった。
ベルスティアの王城、謁見の間。
そこにはリティエルとベルスティア国王がいた。
「それで、彼らはどうだった?」
「少なくとも、我々の味方であることは確かです。それと幻装の使用許可を、勝手ながら出させていただきました」
「貴女が認めたのなら、大丈夫だろうな。ところで、何故厄災を予兆できるのか、わかったか?」
「そうですね……。多分、彼の『目』がそれを見れるのかと」
「どういうことだ?」
「彼をあた……私が見極めようとしたとき、彼の目が光っていました……物理的に」
「……つまり、その時の『目』が見通せるという訳か」
「恐らくは」
「……報告ご苦労だった。今日はもう上がっていい」
「はい、では」
会話が終わり、リティエルが退室する。
その姿を見届け、国王は呟く。
「彼は……使者なのか?……しかし、歴史上そんな人間は存在しないはずだ……。ではなぜ……?」
レストア達だけでなく、この世界のほぼ全ての人間が知りもしない疑問と戦うことになる国王だった。
レストア達といったりセリファ達といったり統一感が無いと思われるかもしれません。
レストア達の場合パーティを、セリファ達の場合レストアを除くパーティを表しています。