表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神の代行者 〜Peace illusion〜  作者: 伊東 晶
戦火の予兆
6/56

第五話

 ベルスティアの首都・スペルド。

 そこには大勢の人々が暮らしており、活気づいている。

 しかし今日この日、兵士たちが出兵したことで、住人の一部には暗い影を落としていた。

 どちらかと言うと、明るい雰囲気の人が大半なのだが。


「スペルドって、こんな活気づいてんのか……」


「すごいね……。『ゲール』は絶対、こんなにならないよ」


 スペルドを知らない、ジャンとリオがそう言う。しかし、


「ああ、そういや今日までか?年に一度の祭りがあったからじゃねぇか?」


「そういえば、今日までお祭りだったっけ」


 実はこの日までの三日間、大きな祭りがあったのだ。そのため、今でもそれなり以上に活気がある。


「そういや、なんでお前らはゲールみてぇな田舎に来たんだ?」


 ジャンの抱いて当然と言える疑問。なぜ、彼らは田舎に引越したのか?


「それは国の政策、ってとこかな」


「国の政策?」


「そう。国境の近くのほうが戦場になりやすいでしょ?だから、戦闘センスが特に優れている人は、国境近くの田舎に飛ばされるの」


 これが彼らがゲールへ引越した理由だ。




 ベルスティアでは、数百年前からこの政策が続いている。

 戦争で主戦場になりやすい国境付近に、それなりに大きい都市がつくられており、そこに特に優れた兵士を派遣する。同時に、その近くにある村や小規模の街にある中等・高等学院に、戦闘センスの優れた子ども達を入学させる。


 そうさせる理由は、高等学院卒業後は基本的にその地方の軍に入るからだ。それに、国境付近の都市のほうが戦闘的に優れた人材を欲しがる。また、首都からの応援が間に合わない場合は、その近くに住む学生たちが出兵される。

 地方へと移った高等学院の生徒ともなると、実力では大人にも劣らない。ただ、戦闘経験がほとんど無いため、戦場で戦力になるかはいまひとつだが。

 とはいえこの世界では案外戦場でパニックになる、ということはほとんど無い。どちらかというと戦術的な面で、という意味である。




「なるほどねぇ……」


「でもボクとジャンも、三人には及ばないけどかなり実力はあるほうだったから、そういうの考えたりしなかったなぁ……」


「てか、んな事考える奴はそうそういねぇよ」


 そんな話をしながら、王城から送られた手紙に書いてある宿の住所の近くまで来た。


「そろそろ着くはず……だけど」


「ん〜……そうだな。多分、あのあたりか?」


 この辺りは宿場町で宿が多い。そのため、彼らの宿が何処なのか分かりにくい。


「宿の名前とかはねぇのかよ?」


「……実はこの辺りって、何故か名前の無い宿が多いんだ……」


「……え」


「住所をあてにするしかない」


「……ひどくない?」


「……ひどい」


 そう、何故かこの辺りは宿に名前がない。かといって住所をあてにするにしても、スペルド出身の三人は宿に泊まることなど無かったので、この辺りの土地勘はない。


「……ここ、じゃないか?」


 唐突にレストアがそう言い、みんなを呼び止める。


「え?この辺りの住所とかわかるの?」


「……いや、なんとなく」


「え、なにそれ……」


 本当になんとなくだった。誰かに『ここだよ』と言われたような気がしたのだ。それが声だったのか、自分がそう思い込んだのかはわからなかったが。


「とりあえず、違ったら受付の人とかに聞いてみるか」


「……それもそうね」


 どうせわからないのだ、間違っていれば聞けばいい。そんな感じで宿に入るレストア達。


 そしてそこは、レストア達が泊まるべき宿だった。


「なんで分かったの?兄さん」


「……いや、誰かにここだ、って言われたような気がして……な」


「でもま、見つかったんだし、その話は置いとこうや」


「そうですね」


 ジャンとサシュラルの言葉に頷き、その事は置いておくことにするレストアとルティア。今は、部屋分けをしなければならない。


「まず部屋わけだが、どうする?」


「二人用で三部屋とられてるからねぇ……」


「……やっぱり、リアはレイと?」


「絶対ない」


「え……」


 リオの言葉に対し、即答するレストア。これにはリオも、唖然としてしまう。セリファは、わかっていたのか驚いていない。何故かルティアもだ。


「えと……じゃあ、誰と?」


「……まあ、いつも通りルティアとかな」


 その言葉を聞き、ジャンとリオは一つの結論に達する。


「……お前もしかして……シスコン、ってヤツか?」


「ボクもそう思った」


「おい変な言い掛かりはやめろ」


「あははっ」


「ふふっ」


 その言葉にレストアはキレ気味に答える。ルティアとセリファはそれを見て思わず笑ってしまう。


「変な勘違いしてるようだが、別にそういう事じゃねぇよ。ただ、いつも家ではルティアといるんだから、それが一番楽だと思ったんだよ」


「ふ〜ん……」


 レストアは弁解するが、リオとジャンはあまり納得していないようである。レストアは諦め、話を戻そうとする。


「んで、とりあえずお前らはどうすんだ?」


「ん〜〜、私はサシュラルとかな。普通に考えて」


「そうですね」


 セリファの言葉にサシュラルが頷く。そうなると必然的に、


「んじゃ、俺はリオとか」


「そうだね」


 リオとジャンのペアは予想通りといったところか、驚いていない。それどころか、そうなって当然ともいえる雰囲気だ。

 そこで、レストアは先程までの仕返しをしようと思いついた。


「……お前ら付き合えば?」


 唐突の付き合え宣言。これを聞いたジャンとリオは、


「「リア、お前バカにしてんのか?」してるの?」


 と、すぐさまそう返す。

 これを見たレストアは、気を良くしたのか笑いを必死に堪えていた。

 そうこうしているうちに、もう夜も遅い時間だったため、各自部屋に行くことにした。


 遅くなった原因は、主にスペルドに着いてからだ。

 スペルドの街に入るとき、身分証明書を提示しなければならない(どの国のどの街でも同じだが)。時間帯的に人の通行がほとんど無くなる時間だったため、予想よりも長引いてしまったのだ。

 この世界では、昼の人通りの多いときは必要最低限に、朝方や夜など人通りがほとんど無いときは厳しくなる。

 その時間帯にあたってしまったため、遅くなってしまったのだった。





 レストア・ルティア組の部屋。二人はいつも通りでリラックスしているのだろう、ゆったりしていた。


「そういや、風呂の時間決まってたっけな。俺らが先にって言われたが、お前はどうする?」


「確か20分位で分けてるんだっけ?だったら一緒に入るよ。その時間までに上がれる気、しないし」


「そうか」


 普通なら驚くところだが、この二人にとってはそれは普通の域に入る。

 まだ実家で暮らしていた時代、時間というものに厳しかった。それは入浴も例外ではない。そのため、二人の入浴の時間も限られており、どうしても間に合わない場合は二人で入っていた。

 中等学院に入学してからも習慣として身についていたため、その生活を続けていた。

 中等学院ではクラブ活動があり、その影響で遅くなったりした時も、一緒に入っていた。最初は二人も嫌々であったが、次第に慣れていき、今ではなんの抵抗もなくなってしまった。


 とはいえ、これはあくまで二人の時であり、他の異性と入れと言われれば二人共全力で首を横に振るが。また、二人が特別なだけであって、兄妹だろうが双子だろうが年頃の男女が一緒入ることなど、この世界でもまず無い。




 宿の浴場は意外と広かった。多人数が同時に入ることも想定しているのだろうか。

 レストアとルティアはまず髪を洗ってから体を洗い、そして湯船に二人で浸かる。


「……ふぅ」


「いい湯だな……」


 湯船の温度は二人にとって丁度良かったようだ。体を伸ばしてリラックスする。


「……そういや、お前と入るのは慣れたが……やっぱおかしい……んだよなぁ」


「……最近そんなこと考えなかったよ……」


「そうだな」


 二人も年頃の男女が一緒風呂に入るのはおかしい、とは認識しているようだ。


「そういやお前は俺に襲われるかも、とか考えねーの?」


「考えないけど……。って、急にどうしたの?そんなこと聞いて」


「…………いや、なんとなく」


 全く無警戒であると、レストアとしてもやや複雑だった。

 信頼されている、といえばそれまでだろうが、逆に舐められているのでは、という思いも出てこなくはない。


「それより、私で大丈夫だったの?レイを選ばなかった理由が分からないんだけど……」


 ルティアの当然の疑問に、思わず渋い顔をしてしまうレストア。


「お、まえなぁ……。俺だって年頃の男だぞ?悪ぃが、夜一緒だったら自制できる自信がねぇ」


 レストアとて年頃である。欲がないと言えば嘘になるのだから、それは当然といったところだろう。


「……私だったら自制できると……」


「まあな。……っていっても、別にお前に魅力がねぇって訳じゃねぇぞ?ただ単に、俺がそういう目で見るのはセリファだけ、ってこった」


「……そっか」


 即答されてしまい、自信をなくしかけるルティア。だが、とっさのフォローで何とか自信をなくさずに済んだようだ。思わず、レストアはため息をついてしまう。


「……レイに怪しまれたりしない?」


「ま、大丈夫だろ。あいつがそんなんで怪しんだりしねぇさ。そんなこと、お前でもわかるだろ?」


「まあ、一応確認、って意味だけどね」


 セリファは他の女子と仲良くする事に関して、そこまで関心を持っていない。そのため、レストアも他の女子との関わり方を変える必要がなく楽だった。


 この国では一対多、つまりハーレム等が認められている。そのためか、例外を除けばそこまで関心を持つことがない。


「……こうして見ると、ルティアも成長してんだな……」


「え?……ちょっ、いきなり何言い出すの!?」


 レストアのまさかの不意打ちに、思わずそう返してしまうルティア。この趣旨の話は、今まで一度もしていない。というより、しないのが当たり前なのだが。


「いや、お前を見てたらそう思ったから」


「…………まあ、ね。胸とか、この一年で結構大きくなったし」


「お前、普通に魅力的なんだから、告られたりとかねぇの?」


「何回かは。でも、なんか体目当て、みたいな感じだったから全部断ったよ」


「そいつはひでぇな、男が」


「そうだよ。……私も普通に恋がしてみたいな……」


「お前なら大丈夫。きっと叶うさ」


「ふふっ、ありがとう兄さん」


 そんな話をしているうちに時間が迫っていた。すぐに上がり次の組、ジャン・リオ組を呼びに行くのだった。





 レストア達が上がってからしばらく経った浴場。そこには、湯船に浸かるリオとジャンの姿があった。


「やっと授業が終わったぜぇ」


「確かに、学院の授業は今日で終わりだもんね」


 こちらは日常的な会話のようだ。通常授業が終わりようやく楽になれる、といったところか。


「にしても、いきなり王城からお呼ばれするとは……」


「そうだね。レストアだけならわかるけど、なんでボクたちも呼ばれたのかなぁ……」


 王城から呼ばれた理由を考えているようだ。

 確かに、リオの言う通りである。そうなると、やはり王城側に何か考えがあるのだろう。


 しばらく考えていたが、わからずに諦めたのだろう。ジャンが唐突に、


「俺は長湯する気はねぇから、温まったらすぐ上がるが……お前はどうする?」


 と、言ってきた。それに対し、リオはこう答えた。


「ボクは少し長めに入ってくよ。今日はなんだかんだで疲れたし」


「そうか」


 そう言うと、ジャンは数分後、浴場を出ていった。


「はぁ……気持ちいいなぁ……。ジャンももう少し長く入っててもいいと思うのに」


 リオは一人、リラックスして時間ギリギリまで湯船に浸かっていたのだった。




 現在、浴場の湯船にはセリファとサシュラルが浸かり、リラックスしていた。


「んん〜〜、生き返る……」


「ははは、お疲れ様です」


「サーシャは闘技の授業は免除されてるからねぇ……疲れないか」


「そうですね、そこまでは疲れてませんね」


 どうやら、セリファは相当に疲れていたようだ。

 それも無理もないだろう、レストアとあれだけの激戦を繰り広げたのだ。疲れないはずがない。


 ちなみに、天使族(アンジュ)を含む亜人族は、闘技の授業は基本的に受けない。理由としては、それぞれの種族の戦い方があり、それを尊重しているから、といわれている。


「……それにしても、リアさんはルアさんと一緒で、大丈夫なんでしょうか?」


「ふふっ、大丈夫よ、きっと」


 即答で返されると、逆に困ってしまうサシュラル。何故そんなに自信満々に否定できるのか、これがわからなかった。


「……まぁ、レイさんがそう言うなら、そうなんでしょうけど」


 どうにも返しづらく、そう言うしかないサシュラル。セリファは、相当にレストアを信用しているのだろう。


「そういえば気になったんだけど、天使族って、みんなサーシャみたいに大きいの?」


 セリファの疑問に対し、サシュラルは取り乱す様子もなく答える。

 ルティアが慌てたのは、兄とはいえ男に聞かれたからなのだろう。


「そうですね……。私自身、相当大きい方ですけど、この国の平均よりは大きいですね」


「へぇ〜、そうなんだ」


 何故かどこか嫌な感じのする笑みを浮かべながら、セリファがそう言う。

 嫌な予感がしたのだろう、そっと距離を取ろうとするサシュラル。しかし、セリファは逃さなかった。


「ねぇ……ちょっといいかな……?」


「え……えと、だ、駄目ですぅ!」


 しばらくの間、浴場の中からは二人の少女が楽しむような、慌てたような声が響いていたという。

 第四話を執筆している際、何回か何処ぞの本部から通信妨害をくらいました。この度にス○ーム○ンに助けてもらいました。

 ちゃんと内容が保存されていて良かったです……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ