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神の代行者 〜Peace illusion〜  作者: 伊東 晶
夏季休暇編
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第五話

平成最後の〇〇はいろんなところで言われているため、平成最後の投稿とは言いません(言ってるじゃん)


「あっ」


「ん?」


 少女がルーメルティアの巫女だということを告白した後、何かを思い出したように声を上げた。


「そういえば、自己紹介、していませんでしたね」


「……たしかに」


 自己紹介のタイミングを逃し、忘れていたことに気がついたようだ。レストアが警戒しまくり様々な問答から入ってしまったせいであるが、忘れていたことはいただけないと思ったのだろう。


「私はエリス・メルートです。気軽にエリスと呼んでください」


「知ってるようだけど常識だし、一応。俺はレストア・エスパーダ。レストアでも、リアでもいい」


 自己紹介をし終えある程度落ち着きを取り戻したレストアが、ここで先程の話に戻す。


「ところで、エリスもルーメルティア……様に呼び出されたって話だけど」


「ああ、そういえばその話をしていたんでしたね」


「俺が呼び出されたのは初めてだと思うんだが……エリス、経験は?」


「いえ。神託なら巫女になってから何度もありますけど、こんな時間に、しかも神殿まで来てほしいというのはさすがに」


 ここで二人は黙考する。

 レストアは初めての経験ゆえ何がなんだかわからず、思考は空回り気味。しかし、信託を何度も下されているエリスは違った。


 エリスとルーメルティアの相性はかなり良く、別に神殿に居なくとも神託を下せる。つまり、ただ単に神託を下すだけなら神殿まで呼び出す必要は全く無い。


 ならば、神殿でなければならない理由があるということだ。

 そして、その理由のいくつかにエリスは心当たりがあった。


「……呼び出された理由、いくつか心当たりがありますけど、聞きますか?」


「ああ。こういう経験がないから正直、俺は全く想像がつかない」


 エリスの申し出にレストアは早々に今までの思考を放棄する。

 そして、レストアが聞く準備を整えるのを待ってエリスは口を開く。


「神殿に直接呼び出されるということは、神殿でしか行えない何かをしてほしい、ということだと思います」


「……ああ」


 レストアは釈然としない顔で頷く。

 レストアもそこまではわかっていた。だが、その先からが全く想像がつかなかったのだ。


「そして、神殿でしか行えないことといえば、まず先に挙げられるのが儀式関係です」


「そういえば、神官や巫女は儀式を……」


「はい。瘴気を払うためや、神への感謝を捧げるために行うことが主ですね」


「なるほど。話は変わるが、瘴気とは?」


 儀式をする理由について納得したところで、気になった単語についての説明を求める。


「そうですね……簡単に説明するとしたら、生物が生命活動を行う際に生まれる、負のエネルギー、といったところでしょう」


「生命活動による負のエネルギー?」


「はい。わかりやすい例えですと、感情ですね。怒りや憎しみ、絶望といった感情は負の感情ですよね? つまり、負のエネルギーとなります。結果として瘴気になる、というわけです」


「そんなものが……。じゃあ、その逆も?」


「もちろん、ありますよ。希望や楽しい、喜びの感情は正のエネルギーであるといえます。私たちはそれを、聖気と呼んでいます」


「瘴気に対して聖気、か。ちなみに、瘴気がふえ……いや、話が脱線しすぎるな。自分から脱線させて悪いけど、そろそろもとの話に戻ろう」


「そうですね」


 一度知ってしまったことで新たな疑問が降って湧いてしまった様子だったが、どうにか自制するレストア。とりあえず、話を聞く体勢を整える。


「じゃあ話を戻して。……その儀式とやらを俺たちにやらせたい……というよりは、やる必要があるということか?」


「多分、儀式とは少し違うとは思います。レストアさん、神殿に入って気を取られた物とかありませんでしたか?」


「気を取られた物?」


 レストアは考え込む。気を取られた物、といえばあったような気がするがすぐには思い出せない。というより、神殿がもつ圧倒的な雰囲気に呑まれて、本来気を取られるような物が霞んでしまっていたのだ。

 そしてしばらく考え込んだあと、どうにか思いだす。


「そういえば、あの水晶が気になったな、不思議と」


 レストアのその言葉にやや驚いた表情を見せるエリス。その直後に納得したような様子も見せる。


「なら、それに触れてみましょうか」


「大丈夫なのか?」


「はい、余程の瘴気をまとっていない限りは。といっても、そこまでの量の瘴気を溜め込んでいたら、神殿に入るどころか近づくことすらままならないと思いますけどね」


「なるほど」


 エリスの言い分に納得し、なら大丈夫かと安心するレストア。

そして二人は水晶の前まで移動する。


「準備はいいですか?」


「ああ」


 エリスの確認にレストアは頷く。

 そしてエリスは右手で、レストアは左手でその水晶に触れた。


 その瞬間。


「……!」


「うおっ!」


 目を開けていられないほどの光が水晶から放たれ、神殿内部を光で満たす。

 光は15秒ほど放たれようやく収まる。


「何だったんだ、今のは?」


 レストアが薄目を開けながらエリスに問う。


「どうやら、ルーメルティア様は復活なさるおつもりだったようです」


「つまり、今ので復活が完了した、と?」


「おそらくは」


「……なんでそんな重要な事を先に言ってくれんのかね……」


「あはは……。ルーメルティア様は、たまに抜けているところがありますから……」


「オイオイ……」


 神のどこか人間臭い一面を知ってしまい、そう返さずにはいられないレストア。やはり、神も完璧ではないのだろう。

 そもそもの話、神が完璧な存在ならば、わざわざ時空神やら海洋神やら生命神やらに分ける必要などないのだから。


「あとは……ルーメルティア様が降臨なさるまで、待ちましょ――」


「ッ!!」


 エリスが待ちましょうか、と言おうとしたその瞬間、禍々しい気配と殺気を感じ、レストアは咄嗟にエリスを抱きかかえ横に跳ぶ。


 その直後、禍々しい力を帯びた黒い棘のようなものが二人のいた空間を貫いていく。その直線上には水晶や龍の像があったが、それに触れた途端激しくスパークを起こし、弾かれる。


 この時点でレストアは、その力の正体に思い至った。


「エリス、あれが瘴気ってやつか?」


 未だ何が起こったか分からず、呆然としているエリスに問う。

 ここでようやくエリスが反応する。


「は、はい。でも、なんで……神殿の聖気なら、浄化されて……」


 瘴気の棘の出元に視線をやると、そこには人型の瘴気が。

 しかし、あくまで人型に見えるというだけで、それは異形であった。

 見ているだけで正常な思考が汚染されていくような、そんな形をしている。


 そしてその異形の者は、身体から再び瘴気の棘を放つ。その数は18本。


「エリス、とりあえずあれを何とかするぞ。あれに有効な手段は?」


 レストアは両眼に宿る時空神の加護を使い、時空断絶の術式を即座に組み上げる。

 瘴気の棘はレストア達を貫くことはできず空振りに終わる。


「は、はい。えっと……」


 どうやらまだショックから回復しきれていない様子のエリス。レストアは急かさず、エリスが落ち着きを取り戻すのを待つ。


「すみません、やっと落ち着きました……」


「いや、気にしてない。エリスはどう見ても戦闘経験は無いだろ? なら、唐突に命狙われたら落ち着いて対処なんかできやしないさ」


 レストアはどうにか立ち直ったエリスをそう宥める。そして、話の続きを待つ。


「瘴気に対しての有効な手段、でしたよね?」


「ああ」


「瘴気を浄化できるだけの聖気をぶつけるほかありません……」


「つまり、エリスに頼るしか無いわけか」


「ですが……」


 エリスは苦い表情で言う。その表情を見てレストアはすぐに察する。


「あれを浄化できる力が無い、か」


「はい……」


 ここで沈黙が訪れる。レストアは障気についての知識がないため何も言えず、エリスは申し訳なさと情けなさで口を開けない。


 そしてしばらく経ち、エリスがはっとした表情をし、再び表情を曇らせる。もちろん、レストアはそれを見逃さない。


「何か、思いついたみたいだな」


「え? あの、えっと……」


「可能性があるんだろ? なら、試してみないと損だ。というより、それに賭けなきゃ俺らは瘴気に取り込まれるだけだ」


「それは……はい……」


 レストアの言葉を否定できず、エリスは覚悟を決める。


「何らかの理由で神殿内部に発生した強大な瘴気を浄化するために、神殿全体に浄化魔法の術式が刻み込まれています。それを発動すれば、確実に浄化できます」


「なら、それを使う上での問題点は?」


 エリスが表情を曇らせる理由は浄化魔法の効力には無かった。ならば、その他の点で問題があるはずだ。


「……私がそれを使うとなると、術式を起動して魔法を使用可能になるまで5分、さらに魔法の発動まで最速で2分はかかります……」


「つまり、最速で7分はエリスが完全に無防備になるわけか」


「はい……」


 なるほど、確かにそれは使用を渋るわけである。

 あの瘴気を前に無防備を晒せば即座にあの棘に貫かれるだろう。そうなればレストア達は瘴気に取り込まれてあらゆる意味で終わる。


 しかし、エリスが生身で使える浄化魔法であれを消滅させられない以上、それを使うしかない。


 レストアの覚悟は決まっていた。


「それでいこう」


「え……? で、でも」


「7分だろ? なら、その間俺がお前を守ればいいだけだ」


「ぁ……」


 なんでもないかのように言ってのけたレストアのその言葉に、エリスは言葉をつまらせる。


 しかしレストアはそれに気づいていないのか、話を続ける。


「まあ、後ろに立たせるだけでも怖いけどな。いつ、後ろから殺られるかわかんねぇし。でも、今はそうも言ってられねぇ」


 エリスは、レストアを巻き込んでしまったことと彼に頼るしかできない自分に罪悪感を覚えた。


 とはいえ、その罪悪感は筋違いでしかない。

 今回のことに彼を巻き込んでしまった張本人は呼び出したルーメルティアだし、彼を頼るしかないという点ではレストアも同じだ。

 レストアは浄化魔法を使えないのだから、エリスを頼って当然なのだ。


 しかしエリスは筋違いな自己嫌悪の渦に取り込まれてしまい、それには気づいていない。


「俺はエリスを信じるしかない。信じなかったら、どうせ待ってるのは俺らが死ぬという結果だけ。なら、自分の弱い心捻じ伏せて、エリスを信じて、あの瘴気をどうにかする。それが最善じゃないか?」


 エリスはまだ立ち直らない。


「エリス。お前がなんでそんな暗い顔してるか何となくわかるけどよ、それじゃある意味アイツの思う壺じゃないか? 瘴気は、生物の負のエネルギーを食らって成長するんだろ?」


 ここでようやく、エリスは顔を上げレストアを見る。


「ならさ、そんな顔してないで笑えよ? そして、上手くいったときのこと考えようぜ?」


「……はい。ごめんなさい、レストアさん。私、変なこと考えてた」


「立ち直ったなら、それでいいよ。さて……」


 レストアは目を瞑り、一つ深呼吸をし、ゆっくりと目を開ける。その表情は先程エリスを宥めていた穏やかさは消え、凛としていた。


「ところでレストアさん、どうやって瘴気の相手を?」


「一応、物理は効くよな?」


「はい。でも、浄化魔法よりはかなり効果は……」


「いや、本命はエリスの魔法だ。なら、ほんの少しでも力を削ぎながら、注意を引ければそれでいい」


 そう言ってレストアは左眼を光らせる。直後、レストアの右手には鞘に入ったいつもの刀剣が。


「準備は?」


「大丈夫です。あ、一つだけいいですか?」


「ん?」


「結界を解除したら一つ魔法を使いますので」


「了解」


 互いに準備ができたところで、レストアは時空断絶の魔法を解く。二人は再び神殿に戻ってくる。


 そしてすぐ、エリスはレストアに魔法をかける。すると神殿内部に神聖な光が立ち上り、その光がレストアを守護するかのように覆い始める。


「これは?」


 レストアが問うと、エリスが苦笑しながら魔法を解説する。


「聖域創成の魔法です。瘴気を一定以上溜め込んだ存在を除き、すべての者に聖なる力を与えます。今回のは神殿の聖気を悪用しているので、あまり使っていい魔法ではないですけどね」


「なるほど。つまり、これで俺の攻撃も少しは通るというわけか」


 レストアは解説に一つ頷き、鞘から愛剣を抜く。既に瘴気はレストアに狙いを定め、襲いかかろうとしている。


「じゃあエリス、頼むぜ」


「はい、お任せを。レストアさん、頼みますね」


「ああ、任された」


 二人はそう言い合う。

 レストアは襲いかかる瘴気を切り払い、エリスは後ろに下がって魔法の準備を始める。


 神殿内に湧いた瘴気の粛清戦が始まるのだった。

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