第七話
新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いしますm(__)m
今年も変わらず、スローペースでやっていくつもりです。
魔力制御の練習を終えたレストアとルティアは寮へ戻ってきていた。
既に夕食は食べ終え、風呂も済ませている。
「あぁ〜、今日も終わるなぁ」
「何年寄りくさいこと言ってるの……」
レストアの様子に思わず突っ込むルティア。
そんなルティアに、レストアは笑いながら返す。
「ただ思ったことを言っただけさ。……明日からは面倒になりそうだし」
何も面倒くさくなることはないはず、と思うルティア。
明日は闘技の授業はないため、全て通常科目だ。
なのに何故、面倒なのか――。
「あ。課題出されるの、兄さん嫌いだもんね」
ルティアの核心を突く一言に、レストアは渋面を浮かべる。
「ちゃんとやらないと駄目だよ。成績にも響くんだし」
「やる、やらないは別で面倒なんだよ……。お前は面倒だと思わないのか?」
「特には。将来、役に立つのかどうかはわからないけどね」
それを聞くとレストアは、これだから真面目は、と呆れたようにため息をつく。
レストアはルティアの真面目な面を尊敬しているが、自分がそうなろうとは思っていない。というより妹が真面目な分、それに甘えてしまっている。
その結果、中等学院1、2年生のときに不仲になってしまったのだが。
今はルティアがある程度諦めたため、大分仲は戻っている。
だが、兄が若干不真面目ならば、ルティアはそのことにとうの昔に諦めをつけているはずだ。
当時、諦めをつけきれなかった理由は――。
「兄さんは私のこと真面目って言うけど……兄さんも根は真面目でしょ?」
「さあ?どうだか」
「生まれた時から一緒なんだから、ごまかせないって、わかってるよね?」
「へいへい……」
兄は根は真面目だと知っていたからこそ、ルティアとしては諦めをつけきれなかったのだ。
例え根だけが真面目だったとしても、そうでなかったら提出物など全てサボるだろうし、授業態度も相当に悪かっただろう。
兄の真面目な面を知っている分、課題をサボって居残りをさせられたり、先生に怒られたり、友人に非難されるのを見ているのが耐えられなくなったのだ。
結果、兄によく突っかかるようになってしまい、レストアはそれを煙たがり、果てには無視し始めるようになった。ルティアはその態度にさらに怒り、余計に突っかかってしまう。
そんな負のスパイラルに陥ってしまった。
今では抜け出しているが、もしそれが続いていたらどうだったのだろうか。
そんなこと考えたくはない、とルティアは頭を振ってその考えを頭から追い出す。
「とりあえず、課題はしっかりやること。サボってためたら最後に泣くのは自分なんだから」
「お前は親父かよ……」
「努力型なのは父さんの良いところだしね」
一旦は言いたいことを言っておくことにするルティア。
レストアはそれに小言を返すが、ルティアもそれに返す。
上手く返されてしまい、レストアは再びため息をついた。
中等学院の二の舞にならないといいけど、と今後のことをルティアは少しだけ心配した。
授業が始まって三日目。
この日――洋ノ日は六時間全てが通常授業だ。
もちろん、昨日――時ノ日の午前中にあった教科も一部含まれている。
その教科からは、案の定課題が出されることになった。
「うあぁ、課題だぁりぃ」
「ああ、全くだ……」
「ホント、二人に同意するよ」
課題を出された途端、レストア、ジャン、リオはこの反応である。
それを見てルティアは深々とため息をつき、セリファとサシュラルは困ったように苦笑する。
これはすでに中等学院で見慣れた光景だ。
「でも、レストアはちゃんとやらないとルティアが怒るでしょ?課題はちゃんとやらなきゃ。ね?」
「お前に言われると……なぁ」
セリファにやんわりと釘をさされ、レストアはバツが悪そうにする。
「あ。何でしたら、放課後に図書館でみんなで勉強会、というのはどうでしょう?そうすれば課題は終わせるでしょうし、わからないところは教え合えますし……」
サシュラルが案を出す。
ルティアとセリファはその手があったか、と感心し、レストア達三人はそれなら、といった表情をする。
「では、決まりですね」
誰も反対しないため、一瞬でサシュラルの案が通る。
こうして、この日の放課後はパーティ全員で勉強会をすることになった。
この日に出された課題は科学だけだ。
内容は中等学院の復習で、そこまで難しい問題でもない。
「……気体で最も軽く、火を近づけると爆発を起こす気体……って何だ?」
難しくないはずなのだが、早くもジャンが音を上げる。
「お前……それは水素だよ」
「あ〜、そうだっけか」
「まあジャンは興味無いことは全く覚えてないから……仕方ないよ」
レストアが答えるが、ジャンはいまいちピンときていない。それに対しリオは、なっているかわからないが一応フォローする。
その様子を見ていて、真面目組の女子三人は安心した表情をする。
「これだったらリアも課題をやってくれるし、ホント良い案だったよ、サーシャ」
「ふふっ。ありがとうございます、ルア」
「リオもジャンも、ちゃんとやってるみたいだし、良かったわ」
今日、それなりにしっかり出来ているのだからこれが続けば、とルティアとセリファは思う。
ルティアとしては、中等学院時代のように兄と比較されて、レストアが非難されることが無くなるであろうことに安堵する。
「高等学院はパーティ単位での評価もあるから、パーティメンバーが一人でも課題を出さなかったりすると評価に響くらしいのよ。そうなると私はリーダーとして責任を負うことになるから面倒なのよね…」
セリファは、パーティリーダーとしての監督責任を追及される可能性の芽を摘めることに安堵している。
「パーティ単位でも評価されるのですか……それは知らなかったです」
「一応、闘技の授業内容の中にパーティ同士の戦闘訓練もあるみたいだし、パーティ単位の評価もある、って考えられるもんね……」
サシュラルとルティアは、パーティ単位でも評価されることに少し驚いている様子だった。
「と、そろそろ私たちも課題やりましょうか。意外と、範囲も広いみたいだし」
「まあ、明日提出じゃないけど、やれるだけやっておいて損はないもんね」
「そうですね」
そうしてセリファ達も、課題に取り組むことにした。
学院の図書館も閉館時間を迎え、レストア達は寮へと戻った。
レストアとルティアの部屋では、二人で夕食を作っているところだった。
「兄さんはどの位課題終わせた?」
ルティアが何となく訊く。
「全部終わったが?」
「え!?」
レストアが何でもないように答えると、ルティアは驚き声を漏らす。
それを見たレストアは怪訝そうな顔をする。
「そこまで驚くことじゃねぇだろ……。あの程度だったら、お前でも終わせると思うが?」
「そ、それはそうだけど……」
今日の課題の範囲はそれなりに広かった。
そのため、ルティアとしては明日も使ってゆっくり終わそうと思っていた。
しかし、レストアはすでに終わらせてしまっている。
レストアの事だ、面倒臭くなって今日のところはある程度進めて放置すると思っていただけに、ルティアは驚きを隠せなかった。
「その目は……放置でもするだろ、って思っただろ?」
「う……」
レストアにズバリと言い当てられてしまい、狼狽するルティア。
嘘をつこうにも、レストアには通用しない。ルティアは諦めた。
「うん、そう思ってた。……だって兄さんだし」
「うん、さり気なく貶されたけど……それは俺の行いの結果だから仕方ないな」
などと言っているうちに夕食も完成し、机に並べる。
「じゃ、いただきます」
「いただきます」
二人はそう言って食べ始める。
二人は食事中にほとんど話をしないため、非常に静かだ。大して量の多くない料理はどんどん減っていく。
そして、10分足らずで完食してしまった。
「さて、洗いますか」
「じゃあ私、先にお風呂入ってくるね」
「あいよ」
いつもと変わらず、夕食の後片付けと風呂の時間になる。
ふと、レストアは、こんな日常がいつまで続くのだろうか、と疑問を抱く。
が、今はどうでもいいと頭から追い出し、食器を洗い始めた。
「そういや明日、武術があるんだっけか……」
風呂から上がり、レストアは明日の授業の準備をしながら呟く。
「うん、そうだよ。何やるのかな?」
その呟きにルティアは反応する。
ファルガから、武術で何をするかは一切聞いていない。武術の担当でないということを考慮するなら、それが普通だろう。
「ま、適当に楽しみにしとくか」
「楽しめるかはわからないよ?」
「……そうだな」
話しながらも準備を進めていく。
話が終わる頃には、二人とも準備はほとんど終わっていた。
「あとは寝るだけか」
「私は課題の続きでもするよ」
「そうか。んじゃ、俺は先に寝るな。おやすみ」
「はーい、おやすみ」
レストアがベッドに入った後、ルティアは黙々と課題を終わらせるのだった。
翌日。然ノ日。
地球でいう木曜日のこの日、午前中の授業は武術だ。
「今日も武術は俺が担当する」
この日も、ファルガが武術を担当していた。
話によれば、今日もただ監督するだけなので、担当する教師は誰でもいいのだそうだ。
「昨日、授業内容を言うのを忘れていた。言い忘れたところで、大して問題がある訳でも無いが」
授業内容の話になり、生徒たちは真剣になる。
ファルガはひと呼吸おき、こう続けた。
「今日は、パーティ同士での試合をしてもらう」