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神の代行者 〜Peace illusion〜  作者: 伊東 晶
戦火の予兆
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第一話

「兄さん起きて〜、朝だよ〜」


 ドアのノックと共に少女の声が聞こえてくる。

 少年はまだ重いまぶたをこすりながら、ようやく起き、ベッドから出る。

 ハンガーにかけてある制服をいつものように着込み、自分とその少女の共同の部屋を後にし、食堂へと向かった。


 少年の名はレストア。蒼い眼に月光のような銀髪しており、この世界の身長の基準よりやや高い身長の持ち主だ。肉付きは平均的である。しかし、右腕のみは女性らしい細さとしなやかさがあり、異様と形容せざるを得ない身体である。

 彼の前髪は少し特徴的で、左側だけ、目が少し隠れてしまうほどのばしている。また、制服の着込み方も独特で、中のシャツには袖を通しているのに、上着は右腕だけ通さないという着方をしている。


 食堂では丁度、彼と瓜二つな少女が朝食を作り終えたところだった。

 唯一違うのは、髪の色と長さ、そして女性体であることだろうか。


「おはよう、兄さん。丁度できたよ」


「おはよ、いつもサンキュな」


 朝のあいさつを交わし、朝食をとる。

 いつも少女が朝食から夕食を作る。それは彼らの中での取り決めだ。


 少女の名はルティア。レストアの双子の妹で、兄とは違い、薄い紫髪をしている。身長は女性の平均から見ればやや高く、胸も年の割には少し大きめである。髪は左のサイドテールにしている。

 彼女はレストアと違い、制服は普通に着ている。


 しばらくして朝食も食べ終わり、歯磨き等のため洗面所へと向かう。


「顔洗って、少しは目が覚めた?」


「……まぁ、少しは」


 レストアは低血圧のためか寝起きが悪く、朝の機嫌も悪い。下手をすると、朝は家を出るまで一言も話さないこともあるくらいだ。


 しかし、彼にはこれからしなければならない仕事がある。それは


「今日はどんな日になりそうか、見てもらっていい?」


 そう、『今日一日を見通す』という仕事だ。

 これはかなり重要な仕事であり、国の命運にも関わってくる。というのも、彼が『黒』といった日は必ず、悪いことが起こる。例えば、敵国の軍が攻めてきたり、魔物の大量出現などである。

 そのため、彼らが住むこの国『ベルスティア』は、彼の力で数十回と助けられてきた。だから、国の命運に関わるほど、重要な仕事なのである。


 魔物がどういったものなのかという紹介は、今回は省略する。


 レストアは全神経を集中させ、虚空を睨みつける。このときの彼の眼からは、蒼い眼光が迸っていた。


「………『黒』だ」


「そっか……」


 『黒』ということは、今日は悪いことが起こるということだ。しかも、彼はこう言い添える。


「この黒さはおそらく戦争だ」


 ルティアは一瞬驚きはしたが、すぐに冷静になり、紙にペンを走らせ始める。


「兄さん、先に学校に行ってて。私が書いておくから」


「わかった、先に行ってる」


 レストアは国王宛の文書を妹に任せると、マフラーとコートを着て、学院へと向かうのであった。


 レストア達が通っているのは中等学院であり、彼らは3年生である。つまり、13月末であるこの時期、卒業を間近に控えているのだ。しかも、この日は通常授業が最後の日であり、レストアは何とも言えない気持ちになっていた。


「よ、リア」


「リア、おはよう」


 そんな時、よく見知った人物から声をかけられた。


 最初に声をかけた方の少年の名はジャン。身長はレストアよりも少し高い。また、結構筋肉質で、レストアよりもガッチリとした体格の持ち主だ。黒髪で眼は赤色だ。


 ジャンのあとに声をかけたのはリオ。ルティアよりやや大きい位の身長に、金髪碧眼の美少女だ。女性特有のしなやかな身体をしており、セミロングの髪をストレートにしている。


 ちなみに『リア』とは、レストアの愛称である。


「リアお前、今日はしけた面してんなあ」


「今日、『黒』……だったの?」


 ジャンはイマイチピンときていない様子だが、リオは気づいたようだ。


「ああ、『黒』だった。しかもこの濃さは戦争が起こる」


 その言葉に、ジャンもリオも何も言えなかった。

 そんな話をしていると、ルティアが追いついてきた。


「ふぅ。リオ、ジャンおはよ〜」


「おはようさん」


「ん、おはよう」


 そうして四人が合流したところで、再び学院に向かって足を動かす。その道中では、今までの中等学院生活を振り返って、楽しい思い出やら黒歴史やらの話で盛り上がっていた。


「にしてもまあ、お前がレイと付き合うとはなぁ、夢にも思わなかったぜ?」


「おいおい失礼だな、その言い草」


「正直、私も思ってなかったな〜……」


「おいルティア……そりゃねぇぜ……」


「あはは、ごめんリア」


 そんなこんなで、いつの間にかレストアの恋愛話になっていた。

 実は、レストアは前の年の7月に彼女ができたのだ。本人はかなり喜んでいたが、一ヶ月から二ヶ月ほど、周りからは嫉妬の視線を浴びていた。


「みんな、おはよう」


 噂をすればなんとやら、レイことセリファがこのパーティに合流した。


 セリファはエメラルドグリーンの髪に薄い青色の瞳をした、文句無しに美少女と言える少女だ。身長はルティアと同じくらいでスタイルも良く、胸はルティアよりも大きい。髪型はポニーテールだ。


「何の話をしてたのかしら?」


「レイとリアが付き合うとはみんな思ってなかった、って話かな」


 セリファの問にリオが答える。すると


「あ〜、実は私も…」


 セリファですら肯定してしまう。

 これには流石にレストアも落ち込む。

 しかし、セリファ達が口を揃えて予想できなかったというのには理由がある。

 実のところセリファは公爵家、つまり貴族の令嬢なのだ。そのため、今のベルスティア王国ではあまり身分に関心を持たなくなってきてはいるが、付き合いが認められるかはわからなかったのだ。


「親に付き合いを許されたとき、本当に嬉しかったわ」


「俺もだよ。ってか嬉しくなかったらどうすんだ、って感じだけど」


「ふふっ、そうね」


 そんなこんなで甘い雰囲気をダダ漏れにする二人を見て、残りの三人は


「私もいい人、見つけないとなあ」


「俺も恋はしてみてぇがなぁ……」


「ジャンは性癖から直さないとね」


「リオ、お前にだけは言われたくねぇぞ……?」


 自分達も二人のような恋がしたいと、そう願うのであった。



 学院につくともう一人のパーティメンバー、サシュラルはすでについていた。


「あ、皆さんおはようございます」


「ああ、おはよう、サーシャ」


 サシュラルは人間ではなく天使族(アンジュ)という種族の少女である。しかも彼女は『神の眷属』であるそうで、普通は二枚一対の翼を持つのに対し、四枚二対の翼を持つ。肩甲骨の辺りから生えている翼のほうが大きく、その下にある翼はそれより少し小さい。

 翼がある以外、ほとんど人間の女性と変わりはない。背中まである水色の髪はストレートにしている。リオよりも身長は高く、また、セリファ以上にメリハリのきいた身体は、男子のみならず女子の視線すらも離さない。


 こうしてレストア達は、今日が『黒』であったこと以外は、いつも通りの、そして最後の通常学院生活を送ろうとしていた。

 この世界の暦は1〜15月まであり、一ヶ月はだいたい20〜22日程度です。異世界要素のために自分で暦を書かないと分からなくなりますね……。

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