第3話 カナ=アイルスとの出会い
彼女と出会ったのはまだ俺が冒険者になるためにこの街へ来たばかりの頃だった。
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「ねぇ、そこのあなた?」
誰?
そう誰もが最初に思うであろう疑問が頭の中に降って湧いた。目の前に立っているのは見た目俺より4歳ほど年下であろう少女が立っていた。彼女の目は全てを見透かすような鋭い目をしていた。それに加えた美貌に少し緊張しながら俺は返事をする。
「え、えっと俺のこと?」
「そうよ、あなたよあなたに頼みたいことがあるの」
そう言ってきた。なんだろう、こんな少女か俺に頼むようなことなんて…まさか俺のかっこよさに惚れて「私と付き合ってください」とかだったり………
「私まだこの街に来て少ししか立っていないから道がわからないの。だからあなたに私を案内する名誉をあげるわ」
否、そんなことは無かった。というか随分と図々しいなこの子。服装が結構豪華なのを見るときっとどこかの貴族令嬢かなんかなんだろう。ていうか…
「俺もこの街に来たばっかりであんまり知らないんだ、ごめん」
これは仕方ないんだ、誰にも責められるいわれはない。なのに…
「なによ役立たずね。ああ、もう行っていいわよ」
なのにこの言いよう。…酷くないか?知らないって言っただけだ。それに謝ってるだろ。
「ぼーっとしてないでさっさと行ってくれる?邪魔」
危うくキレそうになりながら早足でその場を立ち去る俺。誰かに褒めてもらいたいぐらいだよ全く。
そしてこの街に来た目的でもある冒険者になるための試験をするためにギルドへと向かった。
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あの子と会ってから数日たった。俺はギルドで受けた簡単な薬草採取の依頼のために街から少し離れた森に来ていた。ここにはほとんど魔物がおらず、いてもスライムなどの弱いヤツがほとんどだ…たまに例外があるらしいけど。結局は居住区以外はどこも危険ということだ。
にしてもギルドの試験は簡単だったな。魔物の名前とかランクの種類とかぐらいしか無かったぞ?あんなんで大丈夫なのかよ……。
「よし、これで最後か」
そう思いながら最後の薬草を手に取りポーチへと入れる、そんな時だった。
ーーーーーッ!
ーーーッ!ーーーッ!
突如として森の奥から魔物の叫び声が聞こえた。
「怖っ、これからこれが日常茶飯事になるのか。」
そんな事を考えながらさっさと街に帰ろうとした。
…聞こえた声が魔物だけだったら。
……だ………たすけ……
そんな助けを求める悲痛な声が聞こえた時俺はその声がする方へと走り出していた。
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木々の隙間から様子を伺うと4人の子供たちが森狼に囲まれていた。森狼は白狼の亜種で、その名の通り森での戦闘に特化した狼だ。背中は緑、腹が白のこの魔物は一対一であれば俺がなんとか勝てるというレベルだ。だが目の前にはその一対一でなんとか張り合える魔物が目測で30匹。何でここにこんな奴らがいるのだろうか。
ーーーーーッ!!
そんなことを考えていると森狼の苦しみ紛れの悲鳴が聞こえてきた。そちらを見ると3人の子供の前に血塗られた細身の剣を構えた少女が立っていた。よく見るとこの間街であった少女だ。しかし倒れた森狼もタダではやられまいと思ったのだろう。彼女のスカートは半分裂けてその下に現れた白い太ももから薄く血が滲んでいた。
単体では勝てないと思ったのか今度は3匹同時に彼女に飛びかかる。しかし少女は正面から来たやつに剣を突き刺し、右から来たやつには右足の蹴りを、左から来たやつには左手の裏拳を食らわし吹き飛ばした。
…なんだろう、俺が来る意味はあったのだろうか。ついそう考えてしまう。
しかし後ろから飛びかかってきたやつの爪で彼女の左肩あたりの服が大きく裂かれ珠のような白い肌と小さな方ろが見える。
…エロい。って違う、そんなこと考えている場合じゃない。彼女は気づいていないようだが後ろにいる森狼が今にも飛びかからんとしている。そして森狼が一歩踏み出したっーー、と共に俺も勢いよく飛び出し腰に付けた剣をさやから抜き払い彼女が「誰!?」と言うとともに森狼の首筋を切る。そのまま森狼は力なく地面へと倒れ込んでいく。
一撃で倒せてよかった。日頃の鍛錬の成果が出たようだ。
「あんた誰よ、助けなんていらないわよ」
「その格好じゃ説得力ないよ」
「くっ」
本当に悔しそうな顔でそういう。そんなに俺と戦うのが嫌か。どちらにせよ飛び出してしまったからには逃げられない。
「とにかく今は目の前の敵を倒すのに集中しよう」
「そうね、わかったわ」
…思ったよりもすんなりと受け入れてくれたな
「なによその顔、なにか文句でもあるわけ?」
「いや、少し意外だなって思ってさ」
「今は敵を倒すのに集中するべき、そういったのはあんたでしょ?」
「そうだな、やるぞ!!」
「ええ!」
そう軽く言葉を交わしてお互いに森狼へと切りかかる。やはり彼女は強い。俺が一匹を倒す間に三匹近く倒している、このままなら行ける!そう思った時だった。彼女がバランスを崩し地面へと倒れ込みそこを狙って森狼がいっせいに飛びかかる。まずい!そう思った俺は軽く立ち上がった彼女を奥へと突き飛ばす。その時の彼女の顔はなんとも言えない顔をしていた。
次の瞬間俺は一気に森狼によって地面に叩きつけられていた…。
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気がつくと見慣れない天井が見える。こまかな装飾が施されていてとても高そうだ。体を起こそうとすると全身に痛みが走る。見下ろすと手足が包帯でぐるぐる巻だった。見えるところでもこれだけ酷いのだ、きっと服の下はもっと酷いだろう。
「…やっと起きたのね」
体の調子を見ているとそう呼びかける声が聞こえた。
「うん、君が助けてくれたのか?」
「当たり前よ、助けてもらったのに目の前で見殺しにするなんて後味悪いじゃない。感謝しなさいよ」
「ああ、ありがとな」
「お、お礼なんていらないわよ!」
顔を真っ赤にして彼女はそう答える。そうだあの時満身創痍になった俺を誰かが引っ張るのが朦朧とする意識の中で感じたが彼女だったか。
「とにかく助けてくれて本当にありがとう。おかげで命拾いした」
「こっちこそ危ないところを助けてもらったわ、ありがと」
伏せ目がちでそう彼女は答えてくれた。
「あの子供たちは助かったかい?」
あの時彼女の後ろにいた子供たちの安否がきになりついきていてみた。
「大丈夫よ、少しかすり傷があったりはしたけどみんな無事よ」
「そうか、良かったところであの子達とは知り合いなのか?」
「いいえ知らないわ。ただ悲鳴が聞こえたから駆けつけた、それだけよ」
「優しいんだな、お前」
「なっ!そんなことないわよ!人が困ってたら助ける、当たり前の事じゃない!」
「ああ、そうだな」
苦笑しながら俺はそうつぶやく。
「なによ!笑って、そんなに面白い?」
「いや、とにかく改めて礼を言わせてもらう。俺はマーカス=ライトだ」
「カナ=アイルスよ、よろしく」
「よろしく頼む」
そうお互いに笑いながら握手を交わした。これが彼女ーカナとの出会いだった。
投稿遅くなってすいません。




