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崩願美生記  作者: 糸瀬 吉良
希望 ~始まり~
2/3

山賊の双将・伊勢三郎義盛 登場!

 牛若丸と弁慶の二人は平泉へ向かうべく伊勢国(いせのくに)(※現在の三重県)の森を歩んでいた。

 真夜中に鞍馬山を出たが、すっかり木の葉から日差しが差し込んでいる。

 夜通し歩き続けている二人であるが疲れた様子はまったくなく、むしろ朝の日差しを気持ちよく感じていた。


 「(あるじ)様~」

 弁慶が楽しそうに話しかけてくる。それに対し牛若丸は苦笑ながら返す。

 「その主様というのはやっぱり馴れないな…」

 「フフッ、それでも家来が主君の名前を呼ぶのはおかしいですよ」

 「まぁ、そうだけどさ。それよりもなんか少し変わったね、弁慶」

 弁慶は先ほどまで後ろを歩いていたが、その言葉を聞き牛若丸の隣へ駆け寄った。

 「それはもちろん。今こうして好きなことをやっている以上自由ですからね。これが本来の私です!それに、一応私は主様よりお姉さんですから」

 牛若丸は笑い、続けて尋ねる。

 「それで、さっきはなんで呼んだの?」

 「あ、はい。主様は木刀以外にも刀を持っていたのですね」

 弁慶は牛若丸の腰に着けた刀を指差し意外そうな顔をする。

 「あぁ、これね。鞍馬山を出る際に師匠から頂いたんだ」

 「へー、見せてくださいな」

 弁慶という豪快な名前とは正反対な茶目っ気。

 それを聞き、牛若丸は笑って刀を抜き上に振りかざしてみせた。


 その刀は持ち手は白く美しい形をしており、刀身は真っ黒な色をしている。

 牛若丸はその刀を見せながら誇らしく語った。

 「この刀は師匠が自分の羽で作ってくれたもので凄く軽いんだ。刀身も自然に近い黒で、夜この刀をふると刀身が闇に同化して見えなくなる」

 「へ~、それはすごいですね」

 「うん。速さだけの僕にはまさにうってつけなんだ」

 「名前とかあるんですか?」

 牛若丸は弁慶に尋ねられ、少し考えた後に刀を見て答える。

 「師匠の刀ですからね。 妖刀・烏天狗(からすてんぐ) かな」

 「なるほど、いいですね!」

 弁慶が刀を誉めた後に牛若丸は尋ねる。

 「そういえば君のその薙刀はどうしたんだい?」

 質問を投げ掛けられた弁慶は矛を取り出して答えた。

 随分立派な薙刀だ。

 「私も出る際に天狗様から頂いたんです。なんでも父上が倒した鬼の素材を使っているみたいです」

 牛若丸は凄いと思い、ためしにその薙刀を持ってみようとしたが重すぎてよろけてしまった。

 通常の3倍ほど重い。

 「凄いな、こんなのを扱うのか君は」

 「はい。頼もしいですよね!?」

 弁慶は嬉しそうに答えると、続けて話した。

 「そうですね、主様のように名前を冠するなら 妖刀・鬼独首(きどくしゅ)といったところですかね!」


 二人はお互いの刀や荷物などを話ながら森の中を歩き続けた。

 少しして牛若丸は口元はにやけたままであったが真剣な眼差しをして小声で弁慶に話しかけた。

 「誰かいる…それも複数」

 「え…」

 弁慶は驚いた顔をして牛若丸を一回見た後、弁慶は気を引き締めて口を開いた。

 「どうしますか?主様」

 野生の獣に似た警戒。

 「別にどうもしないさ。ただ、警戒しているだでいい。危害を加えてくるようならこちらもやり返すまでだ」

 「…なるほど、わかりました」

 そう言うと二人は先ほどのように歩き始めた。


 10分ほど歩いたところでガサッと茂みから男が二人飛び出してくる。

 「へへへ、おはようさんお二人さん~♪」

 男が上機嫌に話すと、さらに男が三人牛若丸達の後ろから姿を表した。

 「俺たちお腹減ってるの~荷物全部置いてってくれねぇかい?」

 男達は周りを囲いこむ。

 俗にいう追い剥ぎというやつだろう。


 牛若丸は恐れる様子を見せるどころかイキイキとした表情を作る。

 弁慶もその顔を見てフフッと笑った。

 「なに笑ってんだテメェら!」

 怒号。

 バカにされていると勘違いしているのか、気がたっている。

 「どうしますか、主様?」

 「正当防衛だ。仕方ない…やるよ」

 「承知しました」

 二人は武器をとりだす。

 弁慶は矛を後ろの男三人に向かって構え、牛若丸は目の前の二人に妖刀を構えた。

 (やっぱり軽い…!)

 牛若丸は師匠から貰った刀を初めて実践で使う。

 身を守ろうといった気持ちは一切なく、早くこの刀を使いたいという好奇心もあったが冷静に 殺すなよ と弁慶に釘をさした。

 「おいおい、コイツらやるきだよ」

 「バカだなぁ。まぁ、素直にしてても殺してたけどな」

 男達は笑いながら話し合い、刀を構えた。


 「へっ、オラァァア!」

 目の前の男が牛若丸に切りかかってきた。

 男が刀を振り下ろすと一瞬のうちに牛若丸はその男の背後に立っていた。

 「な…に!?」

 男が驚き振り返ると同時に牛若丸は刀の峰でみぞおちを叩いた。

 「かッ!?」

 「一体なにが!?」

 男がやられるのを見ていたもう一人のやつが助けに入ろうと一歩踏みしめた瞬間…!

 牛若丸がその男の前に低い姿勢で潜り込み、顎めがけて峰打ちをした。

 「ゴハッ!」

 男は血を破棄ながら後ろにのけぞって気を失った。

 牛若丸は目の前の的を倒し終わり、後ろを振り向くと弁慶が1人で立っていおり足元には三人倒れていた。

 「…もう終わったのか?」

 牛若丸が聞くと元気よく弁慶は答えた。

 「はい!凪ぎはらったら一発でしたよ!一石三鳥ってやつですね」

 さすがは弁慶だ。

 正直いって牛若丸よりも強いだろう。

 「うん、そうだね。じゃあ先に進もうか」

 二人は武器を納めて旅をはじめた。


 「主様~、今日はどこへ泊まるのですか?」

 日が落ち始め辺りは薄暗くなってきたため、不安な表情で弁慶は尋ねた。

 「どこかに宿があるといいのだけどね」

 「こんな山道にあるのですか~?」

 「きっと…、大丈夫だよ」

 牛若丸は少し困った口調で返した。

 二人が今晩の宿(やど)について話しながら歩みを進めた。


 「ッ! なんだ…これは?」

 牛若丸が急に歩みを止め呟いた。

 牛若丸の目の前には鋭利な刃物で切り裂かれたであろう死体がいくつも並んでいた。

 服装や荷物を見ると、どうやら先ほどの山賊の仲間のようだ。

 「一体だれがこんなことを…」

 弁慶が一歩さがりながら呟いた。

 牛若丸は辺りの死体を見渡すと、木々の奥に古家が一件建っているのが見えた。

 「あそこへ行けば何かわかるかもしれない」

 牛若丸は弁慶にそう伝えると二人はその古家へ足を進めた。


 近くまできて見るとずいぶん古い家だ。

 牛若丸はノックをしようとドアを開けようとしたその時ー

 何者かが背後から二本の刀を振り下ろしてきた。

 「危ない、主様!」

 弁慶はその刀を(鬼独首)で防ぐと力のかぎりはね除けた。

 「何者ですか!我が主に刃を向けるとは!」(二刀流か…)

 弁慶は牛若丸を後ろ隠すように矛の先を相手に向かって構えた。

 相手の男も二本の刀を向けながらこちらを睨み付けている。 

 「大丈夫だ、弁慶。ありがとう」

 そう言うと牛若丸は自分をかばっている弁慶の前に立った。

 「何者ですかあなたは?」

 牛若丸が相手に聞くと、返答もなく大声をだしながらまたしても切りかかってきた。

 「ヒャハハハハハ!殺す、コロス?こロす!」

 牛若丸は(烏天狗)を引き抜き迎えうった。

 弁慶も加勢しようと一歩踏み込んだが、牛若丸に止められた。

 「これは僕が受けた戦いだ。僕1人でやらせてください」

 弁慶はその言葉を聞き矛を下げた。


 二人はお互いにかすり傷1つつけることなく切りあっている。

 牛若丸も強いはずたが相手も相当強い。

 「あなた強いですね!周りの人はあなたが殺したのですか?そもそもあなた何者ですか!?」

 牛若丸は刀を降りながら口元をにやけさせ一度に尋ねた。

 「キルノ楽しいカラナ!お、俺の名前はッ!オレノ!」

 相手は狂ったように刀を降りながら言葉を発している。

 「俺ノ名前ハ!伊勢ッ…伊勢サ、サブロウだ!」

 牛若丸は命懸けの戦いにも関わらず相手の名前が分かると、切り合いながら自己紹介をした。

 「そうですか、伊勢三郎(いせのさぶろう)さんというのですね!僕は牛若丸といいます!」

 牛若丸は好奇心をもった顔をして、伊勢三郎という男は狂ったように笑いながら戦っていた。


 二人の戦いが始まり15分ほどした時 ー

 「グ…カッ!」

 相手の伊勢三郎は一瞬ん何かに苦しみ、その隙を牛若丸は逃さなかった。

 牛若丸は肩からズバッと切った。

 切られた伊勢三郎は血を吹き出しながらその場に倒れー

 「カカカカカッ!」

 倒れない。

 明らかに意識はない。

 「ッ!ならばこれで!」

 牛若丸は(烏天狗)の峰で額にガツンと叩きこんだ。

 さすがの相手もその攻撃で倒れた。


 「死んだのですか?」

 弁慶が牛若丸に尋ねると、牛若丸は首を振り答えた。

 「いいや。それなりに加減して切ったから気絶してるだけさ」

 「この人どうします?」

 「男が持っていた刀と合う鞘が置いてある。おそらくこの家の主だろう。手当てをして今晩ここに泊めて貰おう」

 「本気ですか、主様!?」

 弁慶は驚いたが倒れている伊勢三郎を家にいれようとしている牛若丸を見て、しょうがないといった顔をして手伝った。


 「…ここは?」

 2時間ほどして伊勢三郎という男は目を覚ました。

 「大丈夫ですか?」

 牛若丸は心配そうに尋ねた。

 すると男は驚いた顔をして口を開いた。

 「だ、誰だあんた!?」

 「先ほどあなたと戦ったではないですか」

 「何いってるんだ!俺は争いは苦手なんだぞ!」

 牛若丸と弁慶は顔を見合わせてキョトンとした。

 「あなた…さっき切りかかってきた伊勢三郎さんですよね?」

 牛若丸は確認するように聞いてみた。

 「切りかかった?何言ってるんだ?それに、俺の名前は三郎じゃねぇ。」

 「え?」

 「俺は泣く子も黙る山賊の知将!伊勢義盛様だぞ!…アテテテテ」

 男は威張るようにいったが体の痛みがあるらしく顔をしかめた。

 男は痛みをこらえながら続けて話した。

 「よくわかんねぇがお前ら俺を助けてくれたみてぇだな」

 「まぁ…そんなところです」

 「礼というわけじゃねぇが山賊の家でよけりゃ泊まってきな」

 男は偉そうに言った後、横になりくつろぎ始めた。

 牛若丸と弁慶はなにがなんだかさっぱりわからない様子だった。

 「まったく俺の仲間はなにやってんだか…」

 男はボソッと小声で独り言を言った。


 古家で三人がゆったりしていたが、急にガツンと壁をぶち抜いて石が投げ込まれた。

 「誰だ!?俺様の家に!」

 男が傷を気にすることなく起こりながら外へ出ていく。

 牛若丸と弁慶もそれについていこうとした。

 その時 ー

 ズブッと鈍い音をたてて男の肩を弓矢が射ぬいた。

 「グァ!」

 男が苦しみながらヒザをつく。

 外は完全に日が落ち真っ暗なはずだが、点々と松明(たいまつ)の明かりがあった。

 牛若丸が男に駆け寄り辺りを見渡すと、50人を越えるであろう山賊が埋め尽くしていた。

 「てめぇら!誰に向かって…」

 男が痛みをこらえながら山賊達に向かっていい放った。

 どうやらこの山賊達は男の仲間のようだ。


 「もうあんたの乱心にゃ付いていけねぇんだよ」

 一人の山賊が口を開く。

 「…どういうことだ!?」

 男が戸惑った表情で尋ねると、山賊の一人が話始めた。

 「あんた自分じゃ気付いてねぇだろうがよ、あんたは二重人格ってやつなんだよ!今のあんたは尊敬できる俺らのリーダーだが、たまに狂ったように敵味方関係なく切りかかってくる。そっちの方は三郎とか名乗ってるみたいだがな!」

 「なんだと…」

 「これ以上、あんたといるとこっちが危ねぇ。だからよ、大人しく死んでもらいますぜ」

 「クッ…」


 「なるほど…先ほどの会話の謎が解けましたね、主様」

 「うん。そういうことだったのか」

 「どうしますか、主様…?」

 二人は男と山賊の話を聞き、古家での会話を理解した。

 牛若丸は弁慶の方を向いた。

 「放ってはおけない!あの傷は僕がつけたものだ!」

 「…。分かりました、主様」

 二人は助けることを決め、男の前に立ち武器を構えた。

 「お前ら…!なにしてやがる!?」

 男はキョトンとした顔をして尋ねた。

 牛若丸は男を見ること言った。

 「あなたが怪我をしているのは僕のせいです。それに、あなたは死ぬには惜しい力を持っています!まだ正々堂々と僕と決着をつけていません」

 先刻の牛若丸と男の戦いは、おそらく二重人格の頭痛で隙ができたのだ。

 牛若丸はそこをついたのだが、戦闘が原因の隙ではないことに不満を感じていた。


 「これはよぉ、お前らも殺して欲しいということか?」

 山賊が少しイラついた口調で言った。

 「これはこの人を殺させないという意味ですよ!」

 牛若丸は笑って言い返しすと、それに続くように弁慶もそうだ!と言った。


 「いくぞ、てめぇら!全員殺せ!」

 一人の男が合図をすると山賊達は血相を変え、襲いかかってきた。

 牛若丸と弁慶は恐れることなく迎え撃つ。

 牛若丸は速さで、弁慶は持ち前の剛力で…。

 「コイツら強ぇぞ!」

 二人の強さに山賊が焦り始める。


 「ハァァァァア!」

 弁慶が薙刀(鬼独首)を手首で振り回して、勢いをつけ ー

 「覇山(はざん)ッ!」

 遠心力が付いた薙刀を地面に叩き降す。

 地面はベリッとひっくり返るようにめくり上がり、相手目掛けて飛んでいった。

 今の攻撃で10人以上倒したであろう。

 弁慶はやりましたよと言わんばかりに戦闘中の牛若丸を見た。

 ー …あぶないッ!

 弁慶は焦った。

 先ほどまで倒れていた伊勢(いせの)という男が刀を二本携え、牛若丸に切りかかろうとしていた。

 「あぶない、主様!」

 弁慶の声に牛若丸が振り返る。

 牛若丸の目の前には怪我をしているとは思えない動きをした男が写った。

 「ヒャハハハハハ!キル切ルキルキル!」

 ー ……ッ!

 牛若丸はとっさに片手で腰にさしていた木刀で刀の起動をかえ、かすり傷ですんだ。

 「クッ…」

 牛若丸すぐに刀を構え直した ー

 だか男は目の前におらず、山賊の相手をしている。

 「大丈夫ですか、主様?」

 弁慶は知かずいてきて、心配そうに尋ねた。

 「大丈夫だよ。これは…」

 「おそらく…もう片方の人格が出てきたのでは?」

 二人は武器を握りしめたまま、狂ったように暴れる男を見た。

 やはり強い。

 怪我をしているとはとても思えない。

 山賊達も恐れをなしている。


 一人で山賊達を切りまくっている。

 伊勢義盛…いや、いまは伊勢三郎なのか…。

 さすがに傷が広がり血がたくさんでている。

 だが、彼はそんなことに気をとめることなく戦い続ける。

 もはや山賊達も恐れをなし逃げ出しており、一方的な虐殺になっている。

 「止めないと…」

 牛若丸は立ち上がって言った。

 「分かりました」

 弁慶も答えたが、今回も1人で相手をしたいらしく牛若丸にまたしても止められた。

 「ここにいてくれ。僕が止める!」


 牛若丸は伊勢三郎の前に立ちはだかった。

 山賊はその隙に脱兎の如く逃げていく。

 「ここからは僕が相手だ」

 「ソウダオマエ!俺を切っタやつだ!」

 三郎は先刻戦ったことを思い出したようだ。

 伊勢三郎は二本の刀を構えている。

 それに対して牛若丸も木刀との二刀流の構えをした。

 木刀は逆手で握っている。


 二人の二回目の戦いが始まった ー

 が、すぐに決着がついた。

 牛若丸が独楽(こま)のように回転すると、相手の刀を二本とも弾きとばし額に木刀で一撃をいれた。

 「ク…ソ…」

 三郎はその場にたおれこんだ。

 弁慶はそこへゆっくりと近づいて行き牛若丸に尋ねた。

 「また、助けるのですか?」

 「放ってはおけない。義盛さんは案外いい人だ。問題なのはこの三郎なんだ」

 弁慶はその言葉を聞き溜め息をついたが、助けることに承諾した。

 二人は男を担いで古家に入り手当てをし、夜も遅いので念のため武器を握ったまま寝ることにした。


 ー 翌日

 「ここは…俺は…一体?」

 男が目を覚ました。

 「おはようございます。いまは義盛さんで…あってます?」

 牛若丸は挨拶をしながら質問した。

 「あ、あぁ…」

 男が答えると思い出したように言った。

 「そうか、俺は…仲間に…」

 独り言のように言うと、うつむくように顔を下して牛若丸に語りはじめた。

 「なんとなくだがよ、わかってたんだ…自分じゃないなにががいるのが。夢だと思ってた。仲間を殺してたのが…俺だなんて思いたくなかった…」

 牛若丸はそのことを聞き、重い口調で言った。

 「あなたは自分を律する力を持たないとなりません」

 牛若丸は立ち上がり出ていく準備をした。

 弁慶はすでに支度できていた。

 「……」

 男はいまだに頭を下げ悩んでいた。

 「ではいきますか、弁慶」

 牛若丸は古家の外へ出て弁慶を呼び掛け、その場を後にした。


 10分ほど進むと後ろの方から牛若丸を呼ぶ声が聞こえた。

 二人は振り返ると伊勢義盛が走ってくるのが見え、その場に立ち止まった。

 二人に追い付いた義盛は息を整えた後、深呼吸をして話した。

 「家臣でもなんでもいいから、俺も連れていってくれ!」

 牛若丸と弁慶は一瞬なにを言われたのかわからず言葉につまってしまった。

 「一体どうして…?」

 「俺は確かに自分を律する強さがないとダメだ。あんたと一緒ならもう一人の俺が出ても止めてくれるだろ!」

 「いや…そんな歯止めの役割を押し付けられても…」

 「頼む。あんたしか頼めるのはいないんだ!迷惑ばかりかけるかもしれねぇがきっと役にたってみせるからよ!」

 「僕は平家を敵にまわすのですよ?」

 「かまわねぇ、元々山賊、敵は山の数ほどいますんでね」

 牛若丸は少し考えこんだ。

 すると、弁慶は牛若丸の前に立ち伊勢義盛を睨み付けた。

 「私は反対ですよ。なんか、邪魔されるみたしですし。何よりも危ないですしね」

 義盛は弁慶の言葉を聞き、驚いたように返した。

 「あ、あんた女だったのか!」

 ……確かに弁慶は義盛に対してあまり喋らなかったし、顔の布もとっていなかった。

 気づかないのも無理はなかった。

 「わるいですか?」

 弁慶は少しムスッとしたように言うと、牛若丸は笑いをこらえられずわらった。

 「フフフ、まぁ気づかなかったのも無理はないですね。僕も最初はわかりませんでしたよ」

 「あ、主様」

 弁慶が少し照れるように言うと、牛若丸は何かを決心したように言った。


 「じゃあ、一緒に行きますか義盛さん」

 「!?本気ですか、主様!?二重人格の家来なんて旅の邪魔でしかありませんよ!」

 弁慶は焦ったように言うと、牛若丸は弁慶の肩を叩いた。

 「弁慶…、山に残しておく方が周りの迷惑です。一緒につれてって改善策を見つけないとこの先きっと大変なことになってしまいますよ」

 弁慶に言ったのだか、牛若丸の何気ない言葉に義盛は苦笑をした。

 弁慶も反対する立場なのに納得してしまった…。

 「…じょ、冗談きついですよ、牛若丸…殿」

 義盛のその言葉に思わず牛若丸も弁慶も笑ってしまった。

 その様子をみてつられるように義盛もわらった。

 「では、いいですよね弁慶?」

 「フフフ、はい分かりましたよ」

 弁慶は笑いをこらえながら義盛の参入を承諾した。

 「あ、ありがとうございます!」

 「こちらこそよろしくね。ところでこれからなんて呼べばいい?二人いるとどっちを呼べばいいかわからないのだけど」

 「俺は伊勢義盛なんですが、もう一人は三郎ですからな。もう一人も自分であるには変わりない…」

 義盛は少し考えたあと、牛若丸と弁慶の二人を交互に見てにやけながら答えた。

 「お手数ですが、その人格の時の名前でよんでくだせぇ」

 「本当にお手数ですね…」

 弁慶がツッコムように呟いた。

 牛若丸はその呟きを耳しにクスッと笑った。

 「では、これからよろしくお願いしますすぜ!頭!」

 「か、頭?」

 牛若丸は慣れない呼び方をされ、ガクッとしたように返した。

 弁慶も頭と呼ぶのも、内心ありだなと思い一人でうなずいていた。



 各々のことを話し終わると伊勢国(いせのくに)を後にし、旅を続けた。

 新しい仲間?の伊勢三郎義盛が増え、三人で旅をすることになった牛若丸一行(うしわかまるいっこう)は次どこへ向かうのか?

 果たして平泉へ無事たどり着くのか?


 今回のお話はこれにておしまい。

 今はまだ幼名の牛若丸なのでそう書いてるのですが、たまに行き急ぎすぎて義経って書いてしまいます。

 気楽なのが、この話は人の名前と後の展開が決まっているのでスムーズ書けます。

 まだ小説の書き方がつたないですがこれで上達していけたらいいなと思います。

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