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スジモン・レポート

予想を裏切りたかったんだ。(*´∀`*)




-経緯-



 私がソレに出会ったのは、取材に訪れた香港での事だった。

 ライターとして生計を立てる一方、個人でレトロゲーのレビューサイトを抱える私はネタを調達すべくその手の店を物色していたのだが、その片隅で奇妙なゲームカートリッジを見つけてしまった。

 もはや、古典扱いされてもおかしくないほどに古い携帯ゲーム機のカートリッジだ。香港のアングラショップはおろか、日本の中古市場でさえ珍しくないパッケージなし、マニュアルなし、剥き出しのままで放置された商品。ここまでなら良くある商品だろう。しかしカートリッジは無地で、ゲームタイトルなどが記載されたシールなどもない。工場から直接流出した生カートリッジかと思うような代物である。

 ただ、メモ書きのように商品説明は貼られていて、そこには汚い日本語で『スジモン』と書かれているのが読めた。名前からして某有名モンスター収集ゲームのパチモノか何かに感じるが、ここは香港のアングラショップである。日本語どころか中国語すら理解できていなさそうなベトナム人の店員がタイトルを間違って記載してしまったとしてもおかしくはないのだ。購入時に確認したところ、店員はタイ人のようだったが、それは特に関係ない。

 もちろんこの手の商品に手を出すのは初めてではない。過去、何度も正体不明のカートリッジに手を出して、その度に市販品のコピーだったり、SM調教師瞳だったり、ジーコサッカーだったりとがっかりさせられてきた経験がある。似たような経験を持つクソゲー愛好家も多い事だろう。

 今回もどうせその手の類だろうと期待せずに購入して帰国。仕事に忙殺されて購入した事を忘れ、ようやく手を出したのがつい一週間前の事である。

 結果から言ってみれば、コレはアタリだった。私のようなクソゲー愛好家にとってのアタリなので、実際のところは評価の難しい代物ではあったのだが、少なくともネタにはなると確信が持てるほどの一品だったのだ。


 特に重要なのは、私が知らない作品であるという事。自慢ではないが、これまで散々この手の商品に触れてきたという自覚がある。にも関わらず、聞いた事すらない作品なのだ。

 独自に制作されたオリジナルかハックロムかは別として、インターネット社会においてこの手の情報が一切ないというのはかなり珍しい。ましてや完全なオリジナル……いや、この場合オリジナルと言っていいのかは微妙なところだが、とにかく既存の商品に軽く手を加えただけではない作品は希少どころの騒ぎではないのである。



-ゲーム概要①-



 この『スジモン』。起動してみて発覚したのだが、何かの誤字でメモが付けられていたわけではなく、タイトルもそのまま『スジモン』だった。

 タイトル画面がカタカナなのでおそらく日本で作られたと思われるのだが、某モンスター収集ゲームのように併せて正式名称が書かれているわけでもないのでなんの略称かは分からない。ひょっとしたら略称ではなくスジモンが正式タイトルなのかと思い至ったのはプレイを始めてからだ。

 何せ、モンスターの呼称はスジモンだ。そのままド直球なタイトルで間違えようもない。略称でないかもと判断したのは彼ら……スジモンの方向性である。もうぶっちゃけてしまえば、そのスジの人たちだ。チンピラやヤクザの方々が人間扱いされずにスジモンというモンスターとして扱われているのだ。冷静に考えてみればひどい話である。……冷静に考えなくてもひどい話なのだが、ゲーム中で表現されるドット絵を見ていると特になんとも思わないのは製作者の狙いなのかもしれない。もしもコレが昨今のフォトリアル的な3Dグラフィックで描かれていたら少々どころではない問題作である。これが8ビットの魔力という事か。

 その内容は例に挙げたゲーム同様、モンスター収集ゲームだ。戦闘システムも似たようなもので、そこに独自要素は見いだせない。モンスターを弱らせ、ボールを投げつけて捕獲し、成長させて戦闘を行う。パクリというか、パロディというか、似通ったものである事は間違いない。しかし、その中身は似て否なるもの……というかコレを一緒の扱いにしたら元ネタも不本意だろうというほどに不健全さが際立っている。これが商業扱いでパクリ認定されたとしても、元ネタのほうから同じにするなと怒られるだろう。

 この作品がいつ頃作られたものなのかはどこにも表記はないが、扱っている題材的に元ネタの年代以前という事はないはずだ。加えて作中で使用されるパロディネタから逆算してみれば、つい数年前のものと想定できる。妙に政治的な時事ネタが多いので、普段からニュースを見る人なら時期が把握できるはずだ。



-主人公とスジモンについて-



 プレイヤーの分身たる主人公の立場は良く分からない。特にそのスジの人というわけでもなく、かといって一般人とは言い難い。あえて言うのならスジモン・マスターなのだろうが、これは筆者が勝手に付けた呼称であって、作中でそう呼ばれる事はない。

 何故スジモンを捕獲する能力を持っているかも分からない。スジモン・マスターが集い、その腕を競う大会が開かれているのだが、その描写を見るに誰もがスジモン・マスターになれるわけでもないらしい。

 主人公はゲーム開始直後、唐突にスジモンを渡され、この大会を制覇する事を求められる。この最初のスジモンを渡してくる謎の人物も最後まで正体が明かされる事はない。作中に登場する人身売買ブローカーとグラフィックが一緒なのは容量的な問題なのか。

 しかし、唐突かつ意味不明ではあるが、ゲームとしての主人公の目的ははっきりしている。スジモンを集め、強化し、大会で優勝する事だ。優勝商品や出場資格すら不明な大会ではあるが、提示された目的には違いない。


 この主人公は喋らない。古典RPGからの手法であるが、プレイヤー=主人公という構図であり、その中でとる行動もプレイヤーに委ねられている。……もう一度言うが、プレイヤーの良心に委ねられている。

 画面上の描写としては大した事はなくとも、凄まじいド外道行為を平気で行ってしまうので、感情移入してしまうのは危険だ。そしてゲーム的にプラスになる行動ほど、ド外道なのは現実的というべきか。

 分かりやすい例で言うとスジモンの処理方法だろうか。能力的な問題だったり、所持出来るスジモンの枠の問題だったりするが、古いスジモンを処分する事になる。ここで普通に解放するのが通常のパターン。無理やり捕まえて洗脳じみた方法で従わせてはいるものの、スジモンもどうやら解放はされたいらしく、解放すると感謝のメッセージが出力される。こんなヤツ相手に感謝もクソもない気がするのだが、ストックホルム症候群とかそういう効果が働いているのだろう。

 しかし、ただ解放しただけではプレイヤーにはなんの得にもならない。不要なものだったとはいえ、ただデータが失われるだけ。いや、極低い確率ではあるが復讐に来たりもするので、はっきりいってマイナスだ。では、これをプラスにする方法がないのかと言えば、ある。

 代表的な方法の一つがスジモンは謎の施設『バイオベース』(おそらく読者が想像している通りのもの)に売って処分する事だ。処分するスジモンにもよるが、金銭だけではなくアイテムや他のスジモンへの能力付与など、多大なメリットが存在する。デメリットとしては処分されるスジモンの罵倒と悲鳴が発生する事と、スジモンの末路として登録される事くらいだ。末路図鑑埋めには必須でもあるので、ゲーム的にはやらない理由はない。

 こんな外道行為をやるかどうかもプレイヤー次第。実にゲンナリさせられるゲームである。


『や、やめろー! オレはあんなばけもののいちぶなんかになりたくねぇーっ!! ふつうにころしてくれーっ!!』(※作中の悲鳴の一つ)


 ……実にゲンナリさせられるゲームである。



-ゲーム概要②-



 そして、肝心のゲーム部分はといえば、これが地味に良く出来ている。

 システム的に目新しいものはないものの、洗練された、長いゲームの歴史の中で磨かれたノウハウを上手く消化し、レトロゲームという型に落とし込んでいるといった感じだ。バランス的に大味ではあるものの、作者は各種のゲームを良く知り、その中で使用されているシステムの用途を理解しているのだろう。意味のないシステムもあるにはあるが、大凡すべての要素が上手く絡まるように調整されているのだ。

 残念ながらスジモンの種類は多くない。某モンスター収集ゲームの151種類などには到底及ばず、筆者が確認出来た範囲ではせいぜい30種類前後。加えてグラフィックの使いまわしも多い。

 しかし、このゲームにおけるスジモンの個体は決して同一の存在ではない。個体ごとに僅かなステータスに違いがあるという程度ではなく、保有スキルや個体名称もバラバラなのだ。もちろん種族ごとに傾向はあるが、数体同じスジモンを囚えた程度では絶対に同じ個体にはならないと断言できる。レベルアップで覚えるスキルも個体によって違うので、育ててみないと有用かどうかも分からないのだ。

 尚、捕獲した時点で各種パラメータは確定しているのか、レベルアップの際にリセットして数値や習得スキルを厳選という事は出来ない。気に入らなければ別の個体を捕獲しないといけない。


 最初に言った通り、スジモンとはそのスジの人である。少なくともそれを模した存在である。だから言ってみれば人間なわけで、それぞれ生まれた時に名付けられた名前が存在するわけだ。

 このゲームもそれは同じで、スジモンにはランダムで用意されたらしき名字と名前がつけられている。「たなか」とか「すずき」とか「ごんだわら」とかいう名字と「たろう」、「ひろし」、「ぴかちゅう」といった感じだ。ここに挙げられた名前は筆者が確認済みのものである。プレイヤーが名前を付ける自由度は失われているが、そういった面も含めて味なのだろう。一応、四文字のあだ名を付ける事は出来るが、後述の理由によって筆者的にはあまり推奨しない。感情移入する人は尚更だ。

 スジモンの大多数は日本人(の名前)がつけられているが、レアモンなのか時々外国人も混ざっている。別段能力に差があるわけではないが、名前がカタカナになるという特別な存在だから狙ってみるのもアリかもしれない。


 また、外国人以外にも特別な個体も存在する。どうも名字と名前が上手く組み合わさると一風変わったスジモンになる事が確認出来た。

 たとえば筆者のエースとして『すずき』『いちろう』というスジモンがいるのだが、超普通な名前なのに強い。思わずあだ名に『イチロー』と付けてしまったほどだ。(名前を付けて愛着が生まれた結果、後悔する事にはなった)

 容量の関係かそもそもの名字と名前のバリエーションが豊富でないためそこまで多くはないが、そういった特別なスジモンも存在するというわけだ。もちろん、特別だからといって強いとも有用とも限らない。汚職政治家と同じスジモンを連れていたらいつの間にか所持金が減っていたり、有名な扇動家と同じ名前のスジモンを連れていたら他のスジモンが洗脳されたりもする。性能が尖り過ぎているケースも多いから、一長一短だろう。

 筆者の初期プレイ中に出会う……というか気付く事が出来たのは上記のイチロー他数体で、正直なところどれだけの組み合わせがあるのか分からない。特徴が出ていてもほとんどは些細なもので、気付きにくいのだ。

 たとえば、後から特別なスジモンだと気付けたケースとして種族:てっぽうだま限定らしき名前の『つな』というスジモンをゲットしたのだが、変わった名前だなという以上の感想はなかった。(もっと変な名前は山ほどあるのだ)

 ところが、これに加えて名字が『わたなべ』の場合は異様なキャラクター性能が追加される。

 ぶっちゃけ筆者は特に気づかず、普通に鉄砲玉として使っていたのだが、このわたなべつな、死なないのである。いや、死にはするのだが、バッドステータスである『重症』でも『致命傷』でも普通に復活してくるのだ。正にゾンビとしかいいようのないキャラなのだが、そのおかげでトーナメント戦において非常に活躍してくれた。非常に入れ替わりの激しいトーナメントのメンバーの中でイチローと彼だけはレギュラーだったのだ。

 この死にづらいという特性は、このゲームにおいて非常に有意に働くので同じようなスジモンを探したりもしたのだが、見つかるのはせいぜい重症から復帰可能な程度で、致命傷からパラメータの劣化もなしに復帰してくるゾンビ的な死にづらさを持つ個体は彼以外に見つからなかった。

 元ネタは多分平安武将の渡辺綱なのだろうが、何故こんな性能になったのかは良く分からない。渡辺綱にそんなゾンビ的なエピソードはなかったはずなのだが。



-戦闘システム-



 次に戦闘システムについて。

 はっきり言ってしまえば、このゲームは基本的にレベル上げをするようなゲームではない。多分、読者が想像したような戦闘システムではあるし、経験値によるレベルアップもある。なんなら解析した結果、努力値らしきものまで設定されていた。そこら辺は普通のRPGといえるだろう。実際鍛えないよりは鍛えたほうがはっきりと強い。

 しかし、スジモン・トーナメントを勝ち抜く上で、手持ちのスジモンをすべて生かしたまま勝ち抜く事はほぼ不可能に近いのである。

 スジモンが死ぬ。RPGに慣れた読者なら、それの何が問題かと思うだろう。……大問題だ。実は、このゲームでは死亡したスジモンはロストする。生き返らせる手段は一部あるものの、ステータスが劣化したり、スキルが使用不可になったりと元通りにはならない。

 そして、ゲームの本筋であるトーナメントは死闘とも呼ぶべき極めて過酷な消耗戦となり、一回戦でも八体の出場メンバーの内半数程度は死ぬバランスになっているのだ。というよりも自己犠牲を前提としたスキルが多いので、そういった戦術を取らざるを得ないという事でもある。

 あと、戦闘中の回復手段がほとんど存在しないのも厳しい。戦闘終了後であれば医者にかかる事も出来るのだが、致命傷を受けていたり、復帰の見込みがないスジモンは回復する事が出来ない。温情処置なのか引退させる事は出来るが、簡単な引退後の末路を読む事は出来るもののパーティへ復帰する事はないのである。ちなみに、その末路も大体が悲惨なものだ。

 プレイヤーとしては、もう助からないような状態まで追い込まれたなら使い捨て覚悟で特攻させるのが攻略の近道といえる。良心が傷まなければだが。

 つまり、スジモンは基本的に使い捨てであって、間違ってもあだ名をつけて可愛がるような存在ではないという事なのである。下手に思い入れがあると筆者のように切なくなってしまうから気をつけるべきだ。

 ちなみに、筆者は自爆特攻メインで削りに来る三回戦のロシアンマフィアを脱落者なしで攻略する方法は見つからなかった。捨て駒は必須である。

 こういったロスト前提の戦闘バランスの上で上記のわたなべつなは非常に大活躍してくれた。もちろん、ウチのエースであるイチローには及ばないし、レベルアップしても性能はさほどでもない。しかし、メンバーの中には必ずいた。ロストするスジモンが一体でも減らせるというのは非常に大きいのである。

 現実的に考えても、絶対に生還する鉄砲玉など、どこのヤクザさんでも重宝するだろう。



-捕獲システム-



 某ゲームをパロっている事を認めたくないこのゲームだが、モンスター(○○モン)を捕獲する流れについては概ね同じである。同じである事を認めたくないのだが、概要だけ書くと同じになってしまうのである。

 まず、野生のスジモンと遭遇すると戦闘に入る。単に道端で因縁付けられているだけのようにも見えるが、ゲームシステム上ではそういう扱いだ。メッセージでも『やせいのスジモンがあらわれた』である。

 正直、こんな訳の分からない外道を相手に因縁つけてくるチンピラ……もといスジモンもかなり無鉄砲だなとは思うのだが、そういう状況判断が出来ないからこそのスジモンなのだろう。


 戦闘が開始されるとキョウハクボールを使うか、手持ちのスジモンを呼び出すか選択出来る。上手くいけば戦闘を行わずにそのままゲットする事も可能だ。

 この捕獲用ボールなのだが、便宜上ボールの形をしているだけで、中身は脅迫材料である。この中身に折れるような心の弱いスジモンは抵抗すら許されない。

 一体どんな中身なのかと気になるところではあるが、作中の描写から分かる限りでは対象の本名、住所、家族構成、履歴といった情報の詰まった個別のキョウハクボールと、スジモンが怖がりそうな拷問写真や末路の情報など汎用的なキョウハクボールに分かれるようだ。道端で因縁つけたはずなのに、その相手が自分の事を完全に把握して脅してきたらそりゃ怖いだろう。

 また、どうやってかは知らないが、事前に家族を誘拐しているケースもあるようだ。別段描写はされないのだが、凄まじい手腕である。

 あるいはスジモンが因縁つけてきたのは家族を救い出すためという可能性も考えられるが、それなら実に家族愛に溢れたスジモンだ。大抵の場合は心折られてしまうわけだが。


 もちろん、キョウハクせずに戦闘を開始しても構わない。主人公は特に戦闘技能は持たないらしいので、手持ちのスジモンを呼び出して戦う流れだ。

 こう聞くと電話か何かで呼び出すようなイメージが湧きそうだが、スジモンはボールから出てくる。こういうところだけゲームっぽいのである。

 あとは死なない程度に痛めつけて屈服させればスジモンゲットだぜとなるわけだ。実はボールがなくともゲット自体は可能なのである。


 しかし、こういった手段でゲットしたスジモンは大抵が言うことを聞いてくれない。忠誠値が一定を超えない場合、戦闘中に逃げ出したりする事さえある。

 キョウハクボールを使った場合は初期状態である程度の忠誠値が溜まっているためそこまで気にする事はないが、ボールを使わない捕獲の場合は注意が必要である。

 もっとも、忠誠値を上げる手段には事欠かない。主人公はその手のエキスパートだし、拷問施設に送り込むなり、バイオベースに送り込むなりで容易に対処は可能だ。

 バイオベースに送り込んだ場合はどういうわけかシンジャという微妙に弱い種族に変化したりもするが、頭数や材料としてなら問題はない。そのまま売り払ってもいいだろう。



-スジモン以外の戦闘-



 さて、スジモンというゲームタイトルである以上、基本的にスジモン対スジモンのモンスターバトルを想像するだろうが、実はこのゲームではスジモン以外の敵も存在する。

 警察や自衛隊などの治安維持組織だ。作中ではケーカン、キドータイインなどと書かれているが、見た目はまんまである。

 残念な事に彼らをスジモンとして捕獲する事は出来ない。キョウハクによって心を折る事は可能なのだが、決してボールには入ってくれないのである。

 そして、地味に強い。そこら辺のスジモンなどでは歯が立たないくらいには強く、人数も多い。避けられる戦闘であれば避けたいところだが、ストーリー上彼らと対峙せざるを得ない場面はいくつか存在する。

 表に出てくる数値ではないのだが、どうも主人公が悪事に関わる事で悪徳ポイント的な内部ステータスが増加し、これが高くなると国家権力との遭遇頻度が上がるようなのである。

 指名手配されてしまった場合は更に大変だ。戦ってもゲット出来ない敵が沢山襲いかかってくる。最悪の場合は戦車を持ち出してくる事もあるのだから、どれだけ主人公が危険視されているかという話だ。まあ、こんなヤツ野放しにしていいはずがないのでその対応は妥当だろう。

 なお、この際に拳銃などの装備や装甲車、戦車を奪いとる事は可能なので、ある意味では有用な敵と言えなくもない。状況に応じて敵対するかどうかを判断したいところである。

 彼らはあくまで真っ当な治安維持部隊なので、初期段階であればスキル:人間の盾などが有効だぞ。



-そしてトーナメントへ-



 スジモンをゲットし、強化して、その先で挑むのは最初に提示された目標であるトーナメントだ。

 といっても試合の時期などが決まっているわけでもなく、訪れた時に試合が始まるゲーム的なスケジュールになっている。いつ行っても対戦相手が待機していてくれるのである。

 さすがに同日に連続して試合をする事は出来ないようだが、翌日になれば試合に挑む事が出来るので、施設で時間を潰していけば問題はない。なんなら、試合会場のベッドで寝てもいい。寝込みを襲われる事はあるが、それは会場以外も変わらない。


 試合形式は一貫して最大八体のスジモンを戦わせるチーム戦だ。どのスジモンを出すのかが勝負の鍵となる。もちろんただ強いだけのスジモンでは一回戦突破も難しいだろう。

 前述の通り、このトーナメントの前提は消耗戦だ。こちらがどうというよりも、相手がそれをしてくるのだからそれに合わせるしかない。

 自爆特攻は当たり前、場合によってはそれにのみ特化して殺しにくるスジモンもいる。使用したら再起不能になってキャラロストする薬物を平気で使ってくるし、自分のチームのスジモンが死んだら悲しみによってパワーアップする理不尽なスジモンがいたりもする。悲惨な境遇の者同志友情が芽生える事もあるのだろう。

 そんな相手と戦うのだから、こちらもそれなりの戦い方を求められる。つまり消耗戦だ。このゲーム、ロスト前提のスキルが多い上に強力なのである。

 主人公のキョウハクが使えるのならもう少しなんとかなりそうな気もするのだが、トーナメントにおいてはそれも出来ない。ただの指示役だ。アイテムも事前に持たせたものしか使えない。


 初っ端から死闘が確実なトーナメントであるが、一回戦、かなりムリはあるが二回戦も、鍛え上げたスジモンたちならロストなしに切り抜けられるかもしれない。素直に捨て駒を用意したほうが楽ではあるが、ロストしたくないというプレイヤーもいるだろうし、そんな戦い方もここまではギリギリ通用する。

 しかし、第三回戦からはロスト前提の戦い方を強いられる。自らの生き残りを考えない狂気の戦闘マシーン八体を揃えたロシアンマフィアがはっきり境界線と言っていい。表に出てないスジモンにすら直接攻撃してくる卑怯な戦術は、初見のプレイヤーをパニックに陥れる事だろう。

 実のところ、勝つだけならばどうとでもなるのだ。ただ耐えきってスジモンが一体でも生き残っていればいい。向こうは全員が特攻上等な狂人なので、放っておいても壊滅する。しかし、大事なスジモンをロストさせずに、となると途端に難易度が上昇する。目安として、半数程度は死亡、重症、あるいは致命傷といったロスト前提の状況に追い込まれるだろう。

 だからこそ、そんな状況でも平然と生き残るわたなべつなは有能なのだ。



-入手方法について-



 実際のゲーム画面がどういったものなのかはこのサイトに張られた画像と、アップロードしたプレイ動画を見て頂くとして、どうやったらこれをプレイ出来るのか気になる読者も多いだろう。

 私はアングラな業界には詳しいものの、このソフトが違法データとして流れているのを見た事がないし、本物のカートリッジに関しては私の手元にあるものを除いて存在が確認出来ない。

 そもそも、ネット上で検索してもこのサイトくらいしか見つからないだろう。それくらいレアな代物なのである。

 ちなみに、私はネットリテラシーに厳しい常識人であるが故にこのデータを吸い出して放流するなどという事はしない。決してレアモノを持っている事を自慢したいがための事ではなく、単純に違法行為であるからだwww


 ところでコレを見て欲しい。これは私が購入したスジモンの実物写真なのだが……。


[ 無地のカードリッジが二本写った写真 ]


 私はクソゲー愛好家ではあるが、コレクターではない。二つ抱えてもしょうがないので、一本は近々オークションにでもかけようかと思う。

 そのイベントの模様はまた別にレポートを上げるので楽しみにして頂きたい。







-どこかの部室-




「おい根津、なんか一部で大変な事になってるぞ」

「あー見た見た。スジモンな。ちょっとレポート面白かったな」


 実質的な制作者である根津は、備品のパソコンに向かったまま何でもない事のように言った。俺としてはたった今知った話なのだが、どうやら既知の話らしい。


「そこ、俺の巡回先なんだよね。スジモンの名前が出た時、マジでビビった。いや、別に悪い事をしたわけじゃないからいいんだけどさ」


 俺は良く知らないが、このサイトの主はそれなりに有名なライターだったはずだ。根津が知っててもおかしくはないか。

 アルファテストの後、最終的なバージョンまでプレイした身としてはプレイ感の良く分かるレポートだと思う。良く出来すぎているという評価も含めて共感してしまう。実際、当時の大作とまではいかないが、クオリティ的にはかなり高いものに仕上がっているだろう。倫理的に表に出していい代物ではないが、そこは認めざるを得ない。悔しい。


「オークションの額すごかったよな。手元にあるカートリッジ出したいくらい」


 イベントと称して始まったオークションは予想以上の値段が付いてしまった。こんな素人の作ったアンティークモノのゲームソフトに二桁万円の金を出す人がいたのだ。ちなみに、レポートの作者が香港で購入した時の値段は一つ100香港ドル程度だったそうなので、ボロ儲けだ。

 ちなみに、部室には結構な量のカートリッジが鎮座している。アルファテスト分も含めるともっとだ。これをオークションに出したらいくらくらいになるのだろうか。部費が必要な部活でないから困窮する事はないが、それはつまり懐に入れても問題ないという事に……。借金で苦しんでいるウチの顧問とかは監視の必要があるかもしれない。


「とはいえ、ウチだけの懐に入れるのもまずいから悩ましいよな」

「出してもいいんじゃないか? 制作お前で、企画キャベツだろ。テストプレイだって部活メンバーだけだし……」


 個人のポケットに入れるなら文句も出そうだが、最悪、部費として扱うなら誰も文句は言わないだろう。取り分に関しても大きく声を上げる気はないし。


「いや、常識的に考えて俺だけで作れるわけねーだろ。ドレッシングの知人で昔プログラマーやってた人がいて協力してもらってたんだよ。音楽も同じツテ」

「ああ、外注がいるのか」


 当然といえば当然である。単にパソコン上で動かすだけのプログラムではなく、ちゃんと実機で動作するものを仕上げるとなると、どう足掻いても個人では厳しい。どういう契約になっているのか、そもそも契約があるのかどうかも分からんが、そういう人たちを無視してオークションに出して儲けようというのは問題がありそうだ。そもそもがオリジナルとはいえ違法ロムだし。


「良く分からないところに売りさばくならともかく、オークションは足が残るしな。まあ、高値が付いたのも希少価値故だろうし、これだけあったら安くなるだろうから、儲かるかは微妙だよな」


 確かにそうだ。ネットの極限られた範囲とはいえレポートという宣伝があって、希少価値をアピールした上の落札価格だ。同じものをただ出しただけでは買い叩かれるに違いない。ネタとしてはアリかもしれんが。


「そういえば、この筆者が買ったっていうロムはどこから流出したんだ?」

「ウチの誰かじゃね? 海外良く行くお前とか」

「いや、香港はしばらく行った覚えが……」


 いや、どうだろうか。そういえば、最終バージョンのロムを最近確認していないような……どこやったっけ?



 こうして、謎の違法ロム『スジモン』は局地的な盛り上がりを見せて終息、知る人ぞ知る伝説のソフトとしてゲーム業界の歴史の片隅に名前が残った。

 それが如何なる経緯で制作され、流出したものなのかは、流出者当人が誤魔化したため謎のままである。






誰か作ってクレ。(*´∀`*)

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― 新着の感想 ―
[一言] スジモン発売おめでとうございます
[一言] スジモン発売おめでとう!笑
[一言] まさかの嘘から出た真ですね…笑。 本当にスジモンマスターが売られてしまうとは。
感想一覧
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