スジモン
謎のブロッコリーはしまっちゃいましょうねー。(*´∀`*)
ある日、部室に行くとアホな後輩が携帯ゲーム機を持って唸っていた。
アホな後輩こと岡本美弓は、高校進学時に文明から取り残されたような超田舎からちょっとマシな田舎であるこの街に引っ越して来たという経緯を持つが、それでも一応は現代人だし、辛うじて女子高生というカテゴリに含まれてもいる。
女子高生が学校にゲーム機を持ち込んでいるのはあまり見た事はないが、まともな女子高生でない岡本なら携帯ゲーム機で遊んでいてもそこまで不自然ではないだろう。……それが、普通の携帯ゲーム機であればだが。
「なんで今どき初期型なんだよ」
「あ、レタスセンパイ。一週間ぶりですね」
そういえば、こいつ先週顔出さなかったな。他の奴もあんまりいなかったから気にもとめなかったが、結構珍しいかもしれない。こいつ以外に後輩の顔見知りはいないから分からないが、先週って何かそういう行事あったっけ?
「お前、レトロゲーの趣味あったっけ?」
この部室には何故か古いゲーム機も置いていたりするが、今岡本が持っている携帯ゲーム機はなかったはずだ。
正確には同じカートリッジでプレイできる本体はある。なのに、わざわざ旧型を使う理由は分からない。
「ロッカーの奥のほうにグンペイの遺産もあるが。あの赤いバイザーもどき」
「あんな目の疲れそうなやつはいいです」
「ゲーム界の偉人相手に失敬だな」
基本的にはすごい人なんだぞ。結構前に亡くなってるから詳しくは知らんが。
「ちなみに何やってんの? わざわざそんな古いゲーム機で」
「モンスターを集めて戦わせるゲームです。新しいゲーム機はセンパイがたが持っていっちゃって」
「ああ」
部活内で古いゲーム熱が燃え上がってしまったパターンか。他の連中と勝負してたりするのかもしれない。
そして、ポテトを抑えて部内カースト最下位のこいつが古いゲーム機を押し付けられてしまったというわけか。
「ちなみにどっち? 赤、緑? 初代は結構やり込んでるから色々教えられるぞ」
「どっちでもないです。青でも黄色でも群青色でもないですね」
「群青色とかないけどな」
あったとしたらパチモンだ。
「多分、レタスセンパイの想像してる奴とは違いますよ、これ」
「ポケットに入っちゃうモンスターさんのゲームじゃないのか?」
「違います。これはキャベツセンパイ企画、マヨセンパイ制作の自作ゲームです。音楽もなしのアルファテストってやつですね」
自作ゲームならPCでいいだろうに、カートリッジ作っちゃったのね。
「で、とりあえず代表的なそれを模倣してみましたと。まあ、内輪の技術テスト的なアレなら多少パクリでも問題ないか」
「ええ、タイトルは『スジモン』といいまして、個性豊かなスジモンたちを集めて社会の闇を戦い抜くゲームです」
「う、うん? そこまで違うとパクリじゃないような気もしてきたぞ」
多分、気のせいなんだろうが。
そのスジの人たちモンスター扱いするの? 捕まえても、いう事きかなそうなんだけど。
「最初のスジモンは『鉄砲玉』、『族上がり』、『チンピラ』の三体の中から選択可能です」
「どれも似たようなもんじゃねーのか」
その三つ、全部の要素を兼ね備えたスジモンがいても不思議じゃないだろ。並んでても見分けつきそうにない。
鳴き声が違ったりするのか?
「アレだろ? 主人公が選ばなかったポ……スジモンをライバルが持っていく展開なんだろ?」
「いえ、ライバルとかいないんで、選ばれなかったスジモンは処分されます」
「いきなり真っ黒な展開だな、おい」
その三匹が生き残るために必死にアピールしたりするのか。序盤……というか、オープニングでえらいもの見せられるんだな。
「大丈夫です。最初に限らず、処分されたスジモンはその末路まで紹介されますから」
「キツ過ぎるわ」
何が大丈夫なんだよ。むしろ末路は知りたくねーよ。
「たとえばですね、最初の族上がりを処分すると、あなたが選ばなかった大澤雄一(25)は三年後、大阪湾近郊のドラム缶から発見された。遺体は死後数ヶ月経過しており大部分が腐乱状態にあった。また、下半身に相当する部分の骨は見つかっていない……という詳細なプロフィールが……」
「スジモンさんのフルネームを出すな」
何が起きたのかさっぱりだが、妙に想像力を掻き立てられる末路である。
「つーか、思いっきり日本人じゃねーか」
「スジモンです」
大澤雄一(25)さんが人間じゃないとでもいいたいのか。確かに人間扱いされてはいないけど。
「つーか、捕まえるような連中じゃねーだろ、スジモン。最初の奴らはまあ、組から紹介されたという事でいいとしてもだ……」
「組ってなんですか?」
「……ヤクザの抗争モノじゃないの?」
「スジモンっていうモンスターを使った戦略ゲームですよ。ヤクザじゃないです」
「……まあ、そういう世界観なんだろうな」
ゲームなら、そういうものだと言い張ってしまえば、たいていの事はゴリ押しできてしまう。現実ではないのだから。
しかも極限までデフォルメされたドット絵なら、そこまで凄惨さは際立たない。
「で、どうやって捕獲するんだ? 収集型なんだろ?」
「ええ、野性のスジモンは話を聞かないので……」
「聞かないだろうな」
あの手の人たち、何言ってるのか分からない事あるし。
「まず手持ちのスジモンを使って相手を殴る蹴るなどして弱らせます。殺したり骨折させたりすると面倒なので、違法改造スタンガンかロープ、後は関節外しなどが有効です。長引くとケーサツが飛び込んでくるので時間との勝負ですね」
「お、おう……。変なところでリアルだな」
「場所によってケーサツが現れるまでの時間が異なるので、できるだけ人気のない場所に追い込んでからのスジモンバトルがいいみたいですね。夜の廃工場とかで囲むのが鉄板かと」
「実際のRPGにもありそうな舞台がまた嫌な感じだな」
探索するわけじゃないんだろうが。多分、ダンジョンギミックとかもない。
「あとは、拉致したところで脅迫材料の詰まったキョウハクボールを投げつける事でスジモンゲットだぜ、という流れになります」
「ボールである必然性が一切見えないんだが」
「そこはゲームですからね」
ゲームだったら、もう少し緩い設定でもいいんじゃないかな。というか、拉致って言っちゃってるし。
「でも、脅迫に屈しない肝が座った奴もいるだろ。そういう奴……スジモンはどうするんだ?」
「バイオベース送りですね」
「そういうトラウマダンジョン的な施設はやめろよ!」
なんで脈絡もなくいきなりゲーム的なブラック設定が出てくるんだよっ!!
アレか、生きたまま建物と同化させられるのか。
「ただ、バイオベース送りになると一律シンジャになってしまうので戦力としてはかなりダウンするんですよね。キョウハクボールはできれば成功させたいところです」
「あ、一応生きてはいるんだ」
洗脳はされそうだが、人としての尊厳を完全破壊されるわけじゃないって事か。
……ヤクザの組どころか、もっと恐ろしい組織のような気がしてきた。
「まあ、施設の強化に一定数必要だったりするんですが、それはスジモンじゃなく街の人でもいいので」
街の人拉致するのか。それ、スジモンと街の人が同じようなもんって言ってるのと同じなんだけど。
「バイオベース送りにされた街の人はどういう扱いになるんだ? そこまで外道な内容なら解放されたりはしないだろうけど、ゲーム的な扱いがあるだろ? 時間が来たらリポップとか」
「そのままです。ゲーム的に会話やイベントがあるわけでもないので、画面が寂しくなるくらいですね。あと、通報される可能性が低下します」
「施設を強化するために、死の街に変貌しそうだな」
次々と消えていく街の住人。拉致誘拐どころか、謎の施設送りにされる超絶ブラック展開だ。
地下採掘場とかあるんだろうな。……そこら辺が一番健全な施設で。物理的に何かの材料にされてしまう危険まである。
「ちなみにこのバイオベースを使って、スジモンのパワーアップを行う事が可能です」
おや、チンピラのようすが……。
「一番簡単なのはヤクチュウというスジモンに進化させる事なんですが、定期的にアイテムを使わないという事を聞かなくなるのが問題ですね」
「おいやめろ」
恐ろしいネタを使うんじゃない。いや、パクリでなく、あくまでスジモンというゲームの話ではあるんだが……。
何も共通点はない。
「というかさ、この流れだと一切華がないだろ。むさ苦しい男だけの画面になるぞ」
「血の華が咲き乱れますが」
「そういう事を言ってるんじゃなくな……。ほら、萌えキャラとかそういうのはいないのか」
ドット絵に期待などできないが、設定だけでも潤いは欲しいだろ。
「そりゃいますよ。重要ですからね」
「あ、そうなんだ」
となると、ありがちだが何でこんな女の子が戦ってるのっていう画面になるわけか。ありえない光景ではあるが、厳つい連中ばかりよりはゲームとして正しい気もする。表現としては上辺だけでもマシになるだろうか。スマホゲーだったら、レア扱いだ。
「スジモンとしては登場しませんが、キョウハクボール作成の際に相手のイモウトとかをハイエースしたりします。その後登場はしませんが、地味に自動収入が増えるんですよ」
「その主人公最悪だな」
やってる事は凶悪犯罪のオンパレードじゃねーか。最初に想像したヤクザ同士の抗争の方が遙かに健全って、一体どういう事なんだ……。
「というかそのゲーム、最終的に何が目的なんだよ。日本転覆か?」
「年に一度開かれるというスジモントーナメントで優勝するのが目的ですね」
「なんでいきなりゲーム的な目的になるんだよ!」
そいつらがやってるのは裏社会の抗争とか、反社会的な何だろ。ゲームの方向性やカラーは一定させろよ。
都合が悪いところだけ仕様として誤魔化しやがって。
「だがまあ、そういう大会があるなら一応ゲームとしては成立しそうだな」
真っ黒過ぎる背景はあるものの、やる事はスジモン集めて強化して戦うってだけだ。
ゲームとしての最低限の体裁は整えている。
「未完成品もいいところですけど、結構面白いのがアレな感じですね。キャベツセンパイの高笑いが聞こえてきそうで」
「お前ら仲良いのか悪いのか良く分からないからな」
「気になるならやりますか、スジモン。カートリッジはありますけど」
「……やる」
そこまでひどい設定なら、むしろ気になってしまう。
こうして、部室に来たばかりだというのにシールが貼られていないゲームカートリッジだけを受け取って帰宅する事となった。
家に帰って、自分の部屋のクローゼットから古いゲーム機を取り出す。岡本が使っていたよりも後に出た互換機だ。
結論からいえば、スジモンは結構面白かった。
なのに何故だろう。この釈然としない感じは。……ああ、だから岡本のテンションが低めだったのか。
分かるわー。
ドット絵なら誤魔化せるというミラクル。(*´∀`*)




