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桃太郎の後日談




 久しぶりに訪れた部室に謎の物体が鎮座していた。

 ゴールデンウィークの間日本にいなかった俺は、当然の如く部活動に参加できなかったわけだが、一体何があったというのだろうか。


「……これはまさかトマトちゃんなのか?」


 机の上にポーズを取って飾ってあるそれは、どこからどう見てもトマトだった。トマトに顔のパーツを配置、顔が胴体の扱いなのかトマトの部分から直接手足が生えている。どこかの稼働フィギュアからもぎ取ってきましたという感じでくっついている手足が微妙にリアルで気持ち悪い。というか、全部気持ち悪い。こいつ、なんで半笑いなんだよ。

 悪戦苦闘したのか、周りには大量の銃火器の小物が散乱し、こいつがトマトちゃんであると主張している。

 一体誰が作ったんだろうか。……いや、こんなのを作るのはマヨネーズの奴しかいないな。3Dプリンタで出力したんだろうか。だが、あいつは立体物は美少女フィギュアしか興味がないと言っていたのに、何故にトマトちゃんが立体化されているのだ。

 一体、この数日間でサラダ倶楽部に何があったというのか。


「しかし、不気味だな」


 こうして立体物として鎮座していると、不気味さが一層際立って見える。

 少なくとも主人公のポジションで描かれるキャラではない。シュール系ギャグ漫画のチョイ役的ビジュアルだ。殴られて中身とか飛び出しそう。


「あ、レタスセンパイ、お久しぶりです。

どーですか、1/8トマトちゃんフィギュアです。マヨセンパイに作って貰いました」

「……あ、ああ、この数日の間に何があったのかと疑問に思っていたところだ」

「良かったらお一つどうぞ。一杯あるんで」

「え、一杯あんの!?」


 岡本は、カバンから何体かのトマトちゃんフィギュアを取り出し机に並べていく。何体あるんだよ。

 やべえ、並んでると一層不気味だ。お前ら半笑いでこっち見るんじゃねーよ。

 なんで量産されてるんだよ。つまりこれは量産型トマトという事なのか?


「この前、トマトちゃんが日刊にランクインしたんでお祝いに作って貰ったんです」

「え、ランクインしたのか?」


 こいつの言う事だからおそらく300位とかなんだろうが、それでも凄いな。一体何が流行るか分からない世の中だ。


「ツナセンパイ、これ見て無言で帰っちゃったんですよ。勝負に参加出来なかったのが悔しかったんですかね」


 いや、こんなのに出迎えされたら、誰でも帰りたくなるわ。


「というか、勝負って……ゴールデンウィーク中に何かやったのか?」

「トマトちゃんの話をしたら、みんなでそれぞれ何か書いてみようという事になりまして。あ、ひょっとしてレタスセンパイ見てないんですか。あたしのユーザページから飛べるようにしてあるのに」


 そもそも、トマトちゃん自体最初の数話位しか読んでないのだ。


「日本にいなかったからな。……実は本編結構進んだのか? 一話の感じだと結構長くなりそうな感じだったよな」


 サイクロプス四天王とヨーゼフの激闘が一話丸々使って描写されていたくらいだ。進行はかなり遅いはず。

 そもそも、その時点でトマトちゃんは影も形もないので、タイトルのトマトちゃんがまったく意味が分からない状態だ。


「今五十三話で、四天王戦がそろそろ終わりそうなところです。いやー、視点がコロコロ変わって大変でした」

「そんなに進んでんのっ!?」


 あのシュールな設定の作品をそんなに書き続けたのか。というか、あとちょっとでゴールじゃないか。岡本、超凄え。


「か、感想とか書き込みあったりしたのか?」

「はい、結構。そろそろ百件越えます。でも、背景設定聞かれても考えてないわけですし、答えられないんですよね。大体後の伏線という事にして誤魔化してあります。トーマスさんの登場とか唐突過ぎて、説明が凄く困難でしたよ」


 後の伏線も何も、そこまでいったら後はラスボス戦くらいしかないじゃねーか。

 スマホで二回しかアクセスしていない『トマトちゃん』のページを開くと、本当に五十三話分掲載されていた。まだ二週間くらいしか経って無いはずなんだけど、どんな執筆スピードなんだ。


「レタスセンパイが考えた設定なんだから、背景とか考えて下さいよ」

「なんで俺が……ここまで進むと当初の予定からズレて来てるんじゃないか?」


 俺の考えた設定そのままだと無理あり過ぎだろ。というか、今更それを求められてもな。整合性とるの大変じゃね?


「内容は大体そのままですよ。レタスセンパイの言ったそのままでも結構人気出ました。やっぱり原案があると違いますね。ヨーゼフがワイバーンの生贄になった話なんて、感想の伸びが凄かったですからね。意外と人気あったんですけど、当初のプロットの段階で生贄になる事が決まってたんで、泣く泣くぶっ殺しました」


 そらそんな場面を描写したらどんな外道な主人公だって話になって感想も付くわ。しかも、生贄にされるのは下手すりゃ主役級の扱いで激闘を演じたジジイだ。トマトちゃんの恩人でもある。


「最初から怪しかったんですけど、あそこら辺からトマトちゃんの狂気性が顕著になって、読者さんもそういうキャラなんだって分かってくれたみたいです」


 どんなキャラだよ。俺、そんな設定してねーよ。


「お供も結構人気出てきたみたいなんで、この後コングキングがトマトちゃん庇うシーンとか反響が期待出来そうですね」

「そうだろうが、お前は自分のキャラが死ぬ事に何も思うところはないのか?」

「え、だって、ただのでかいゴリラですよ」


 いや、そうなんだけどね。コングキング喋るじゃん。


「で、どんな設定が答えられないんだ?」

「トーマスがどこから武器調達してるのかとか、そんな武器があるならなんで巨人野放しなんだとかですかね。確かに対物銃とか地雷とか使ってる描写書く度に、あたしも疑問に思ってました」


 そんなのむしろ俺が知りたいわ。


「後は、最初の方で初対面のトマトちゃんに後を託すヨーゼフの心境が理解できないってのもありました。生贄にされた後は余計にそういう感想が多かったですね」


 謎のトマトに後を託す理由なんて、俺も理解できねーよ。桃太郎だったからしょうがなかったんだ。


「ま、まあ、ちょっと待て。本編読むにはちょっと時間が足りないが、感想を一通り読んでみる」

「そうですか。じゃあその間私はトマトちゃん達で組体操してます」




 スマホから感想欄を開き、最初から読んでみる。

 内容を知っているはずなのに、感想欄の最初から読んでいってもトマトちゃんに関する感想とは思えない。『コングキングとの死闘はシビレました』とか、最早ギャグで言っているんじゃないかというレベルだ。


 さっき言った通り、爺さん婆さんを生贄に捧げてお供をアドバンス召喚したあたりで感想の数が増えてるな。

 生贄になるあたりで挿入されたらしきヨーゼフの回想が妙に評判がいい。一体こいつの過去に何があったというのか。感想欄で聞かれても俺には回答出来ないぞ。

 クレイモア地雷を使った自爆覚悟の特攻ってなんだよ。俺知らねーよそんな設定。なんで銃器を型番まで考察してる奴とかいるんだよ。


「なあ、感想欄に時々出てくる金太郎とか浦島太郎ってなんだ? まさか出てきてるのか?」

「あ、いえ、それはセンパイ方が書いた短編です。別作品として載ってますよ」

「あいつら何やってんだ……」


 なんで童話ネタで統一してんだよ。そういう縛りか何かなのか?


「一部で評判が良かったのはドレッシングセンパイの『金太郎』ですね」

「あいつが書く金太郎とか、想像も出来な……いや、ちょっと分かるな。超見たくない」


 どうせBLかガチホモだろう。


「結局、金太郎だけは成人向けに移動する事になっちゃいました。ドレッシングセンパイちょっと凄いんですよ。流石師匠は格が違いますね。あたしの理解不能な領域に到達しています。弟の玉次郎とクマさんがくんずほぐれつするシーンとか、年齢制限あったらとても書けない描写です」


 あいつは馬鹿なんだろうか。

 金太郎で何書いてるんだよ。

 玉次郎って誰なんだよ。どう考えても縦読みさせたかっただけじゃねーか。絶対どこかで無駄に改行入っているぞ。


「登場人物としてトマトちゃんが出てればいいって縛りなんで、みんな自由に書いてましたよ」

「いや待て、どの作品にもトマトちゃん出てるのかよ」


 どんだけ自己主張の激しいトマトなんだ。


「大体チョイ役になってますけどね。ハムセンパイのかぐや姫では集めてくる秘宝の一つになってましたし、マヨセンパイの浦島太郎では宇宙船でした」

「トマトちゃんは一体何モノなんだ」


 そして一体、このサラダ倶楽部の連中の頭の中はどうなっているんだ。

 俺も大概だが、設定が適当過ぎるだろ。どうしよう、興味は凄くあるのに超見たくない。

 色々カオス過ぎて頭がどうにかにそうだ。階段登ったはずなのに降りてたような気分を味わわされたぜ。


「部長……渡辺はどうしたんだ? あいつこういうの書けないだろ」

「さっきも言いましたけどツナセンパイは辞退しましたね。自動的にゲーム不戦敗で掃除していきました。

レタスセンパイ除けば、サラダ倶楽部の辞退者はツナセンパイとポテトだけです」

「犬が何書くんだよ」


 渡辺、犬と同列かよ。


「しかし、感想欄見てもまったく桃太郎臭を感じられないな」

「今のところ元ネタの突っ込みはないですね。ここまで変えると気づかないものなんですかね」

「そりゃな」


 多分、他の作品も元ネタの原型留めてないんだろうな。

 辛うじてタイトルから連想できそうなのはキャベツの宇宙戦菜トマトくらいだ。ダジャレかよ。


「とりあえず感想見て分かったという事は、既に収拾不可能なレベルでカオスだって事だ。整合性を持たせた追加設定とか無理」

「えー、ここまで頑張ったのにー」

「いや、完結はさせろよ。内容は無茶苦茶だとしても、もうちょっとなんだろ」

「でも、ラスボス戦の後の展開とかどうしましょうか」


 ラスボスなんだから、倒したら終わりじゃないか?


「ぞ、続編とか考えてたりするのか?」

「え、はい。一応ちょっとですが人気も出ましたし。じゃあ、レタスセンパイ、続編のアイデア出して下さいよ」

「あ、アイデア……」


 普段ならここでアイアンクローだが、こんなものを世に出してしまった罪の意識でそんな気力が沸かない。

 これの続編とか、一体どうしろっていうんだ。


「……岡本はどんなジャンルで行こうと思ってるんだ? この流れだと硝煙臭の漂う戦争モノとかか?」

「今度はラブコメがいいですね」

「意味分からんわっ!!」


 無軌道過ぎる。新作じゃなくて、続編でラブコメとか無理があるだろ。恩人生贄に捧げる奴が、どんな相手にラブコメするんだよ。


「前みたいな適当な感じでいいんじゃないですか。適当って言っても、レタスセンパイの適当はマネできないですけど」

「適当っていうと、童話か? 確かにラブコメは色々ありそうだけどな。かぐや姫とかはもう使っちゃったんだろ?」


 しかもトマトちゃんはヒロインでもなんでもない。かぐや姫から要求される秘宝の一つだ。


「そうですね。ハムセンパイの作品で使われました。でも別に設定変えれば同じ作品でもいいんじゃないですか? 今回もそんな感じですし」

「いや、一度作品でネタを使ってしまうと、どこか似通ってしまうものなんだ。ここは別作品でいこう」

「童話でラブコメ要素のある別作品っていうと、なんでしょうかね。……ドレッシングセンパイの金太郎みたいなのはハード過ぎてちょっと」

「何でいきなりホモになるんだよ! トマトちゃんの介入する余地がないだろうがっ!!」


 ドレッシングェ……。

 くそ、ラブコメか……海外のでもいいんだろうか。


「人魚姫とか……いや、シンデレラはどうだ?」

「成る程、トマトちゃんが王子様に見初められるんですね」


 どう考えても、その王子様は狂ってるな。


「実際の元ネタは、意地悪姉妹が目を繰り抜かれり、かなり凄惨なラストになってるはずだが、この流れだとそんなに変でもないだろ。主人公トマトちゃんだし」

「巨人達ぶっ殺しまくった後ですからね。意地悪姉妹とか母親殺しても違和感がないです。トマトちゃんですし」


 違和感がないのが違和感しかないわけだが、もういい。あきらめた。


「問題はどうやってあの家族の中に溶け込むかだな。元ネタは継母とその娘達なんだっけ? 少なくとも元々家族っての無理があると思うぞ」

「斡旋所とかから、お手伝いとして派遣されてくるというのはどうでしょう?」

「どこの世界に巨人倒した英雄をお手伝いとして派遣する組織が存在するんだよ」


 お前はむしろ戦場に行け。


「あれだな、いっそ家族の一員という設定は捨ててしまおう」

「……大胆ですね。それだと物語が始まらない気もしますが」


 虐められる設定って重要なのかな。トマトちゃん虐めるとか、自殺行為以外の何物でもない気がするんだけど。


「最近、肉食系の女が多くなってるイメージがあるから、時代に合わせていこうか」

「確かに逆転してる感じがしますよね。ツナセンパイも肉食系って感じじゃないですし。いくらアプローチしても反撃されますし」


 いや、あいつは間違いなく肉食系だが、問題はお前にあると思うぞ。


「といっても、元ネタの意地悪姉妹を完全に消してしまうのもなんだな。……いっそこいつらをライバルにするか」

「戦って王子様を取り合う感じですかね」

「そうそう、王子の意思じゃなくて、国のイベントで、王子の結婚相手を決める戦いが始まるんだ」


 それなら、トマトちゃんに恋する王子様っていう悪夢の設定も必要なくなる。


「まさか、バトルになるんですか? 書いてみて分かったんですけど、大人数のバトルロイヤルってキツイんですよね」

「じゃあ、トーナメントの勝ち抜き戦だ。これなら一対一になる」


 少年漫画のセオリーならトーナメント戦は盛り上がる。小説を読んでる側としても、戦ってる人数が少ないほうが理解し易いしな。


「魔法使いのお婆さんはどうしましょうか。魔法が介入する余地がないような気がしますが」


 確かにトマトちゃん銃火器のエキスパートだからな。巨大な実績ありの英雄だ。むしろ、相手が可哀想になってくるレベルの兵士に仕上がっているはず。


「相手が巨人より強くないと、トマトちゃんが無双してしまいそうだな」

「といっても本人達があんまり強いってのも、王子様争奪戦としてどうなんですか。女の子アピールが難しくありません?」


 俺TUEEEは確かに受けるが、これはラブコメだしな。


「じゃああれだ、本人以外が強くなるイメージで魔法を使おう。それならババアも活躍出来て丁度いい」

「魔法でも本人が強い事には変わりないんじゃ」

「そこで、魔法で作ったロボット的な何かに乗り込んで戦うんだ」

「成る程、それなら本人が強いわけでもなく、ロボットが強いという事になりますね」


 やべえ、ロボットとか、もうシンデレラ的な部分が残ってないぞ。

 ……ま、いいか、小物で誤魔化そう。


「トマトちゃんはシンデレラな訳だから、ロボットはカボチャだな」

「や、野菜が野菜に乗って戦うんですか!?」

「だって、魔法使いのババアが用意したのはカボチャの馬車だろ」


 馬車になる時点でとんでもな訳だから、ロボットになっても大して変わるまい。


「な、なるほど、そんなところでシンデレラネタが……」

「カボチャロボットの名前はサンドリヨンだな」

「音的には格好いいですけど、それだとトマトちゃんじゃなくて、カボチャロボットがシンデレラになっちゃいます」

「ロボット作品ってのは大抵、タイトルがロボットの名前だからいいんだよ。ついでに、このロボットは強いけど、稼働時間の制限の弱点がある事にしよう」

「十二時で魔法が切れる設定の踏襲ですね。小粋じゃないですか」


 弱点はやっぱり必要だよな。

 この設定の良いところは、乗り回すロボットについた弱点だから、トマトちゃん自身の設定を変える必要がないところだ。

 重症を負ってとか、変なパワーダウンがあると騒ぐ読者とかいそうだしな。中身のトマトちゃんは俺TUEEEのままでいいだろう。


「後は細かい演出だが、起動前は灰色で、起動するとカボチャ色になるっていうのはどうだろうか」

「灰被りって奴ですか。意外とシンデレラしてるんですね。凄いじゃないですか。何か、色変わってる間は実弾攻撃とか無効化しそうです」


 強引過ぎて何も凄くないと思う。言わないけど。


「じゃあ、次は参戦理由ですね。そういうイベントが開催されるのはいいとして、トマトちゃんがどういう理由で参加するのか。あたし、ちょっと慣れてきたんでそういうのは大事だと気付いたんです。成長しました。えへん」


 え、それ考えるの? 巨人と戦う時は理由適当だったじゃん。


 いや……一応故郷を滅ぼした敵だったから、動機がないわけでもないのか。

 むしろ、ないのは爺さんが後を託す理由のほうだな。……もう終わった事だから永遠に謎でも構わないだろう。


「参加者の中に巨人の手先がいるというのはどうだろうか」

「なるほど、人の社会に潜伏した巨人の尖兵ですね。その後始末の為に戦うと。でも、その手先が誰だか分からない。……勝ち進んでいく内に判明する展開ですか」


 次の相手がその相手かも知れないって展開だな。途中で本物っぽいのを混ぜて、ミスリードを加えると面白いかもしれない。

 でも、大抵こういうのは最後まで本物は出てこないのがお約束だけどな。


「向こうも巨人を滅ぼしたトマトちゃんに恨みを持っているだろうからな。お互いに探りあう感じでもいいかもしれない。

……となると、ライバルは多いほうがいいな。その国の地域毎の代表者って感じがいいかもな」

「国って位だから、領地も分かれてるでしょうしね。ロボット……ロボットの維持費も大変でしょうし、パトロンの貴族がいるわけですか。

貴族ならお金持ってそうですし、自分の手下が王子と結婚すれば出世にも繋がります」


 なんか結構、基盤の設定が固まってきたじゃないか。


「なんか弱小的な領地のほうが、強大な敵に打ち勝つカタルシスを得られるよな」

「実際、直前に文字通りのジャイアントキリングを成功させてるわけですからね。トマトちゃんはそういうの得意だと思います。……ストーリー的には、領地の代表者選出から始める感じでしょうか」

「そうだな、サンドリヨンに適応するパイロットを探してるとか、そんな感じで」

「誰でも乗れるってわけじゃないんですね。……ああ、同じ野菜なら適応してもおかしくないって事ですね。やりますねセンパイ。そこまで考えていたなんて」


 いや、なんかそれっぽいけど、今決めたんだ。


「強さの比較対象がいたほうがいいな。展開的には、元々の候補がいて、そいつが大会開始前の模擬戦か何かでやられてしまう。……で、試合の途中でトマトちゃんが代わりに乗るわけだ」

「それで本来の性能を発揮して勝つと、中々憎い演出です。本戦で戦うライバルの設定を掘り下げる事もできますね」

「最近だと、そういうライバルは『お前を倒すのは俺だから、本戦で当たるまで負けるんじゃないぞ』って言いつつ、他のライバルの強さを際立たせる為に負けちゃったりするんだけどな」

「つまりレタスセンパイみたいなツンデレさんと……。野菜の星の王子様もツンデレでしたしね。……きっとそれで相手の弱点とかトマトちゃんに教えてくれるんですよ」

「ああ、そういう展開も燃えるな。いいかもしれん。なんだ、結構分かってきたじゃないか」

「あたしも桃太郎で成長しましたからね」


 ドヤ顔だが、それは成長なんだろうか。本人がいいならいいんだが。

 あとツンデレ言うな。


「領地対抗戦だと、領地の名前とかも必要だよな」

「それは面倒臭いですね。適当にある地名をパロっちゃいましょうか」

「分り易くていいかもな。じゃあ熊本だな」

「日本ですかっ!?」


 だって、トマトの名産って熊本だよな。……北海道?

 スマホで調べてみたら、やっぱり熊本だ。


「熊本だったら何か強い感じがしなくていいだろ」

「それは熊本県民を侮辱してるんですか?」

「そういうわけじゃなくてだな。……例えば、群馬とか結構アレな感じでネタにされるけど、いざこういう戦いになったら強そうだろ」

「そ、そうですね。勝てる気がしません。じゃあ、ラスボスは群馬県と……」


 多分、インディアン的な連中がいる領地なんだろうな。


「そのまま使う訳にもいかないから、グンマーとかでいいですかね」

「群馬はそれでもいいが、熊本はどうするんだよ。語呂悪いぞ」

「ネオ・クマモトで」


 いいんだろうか。確かに架空の地名ではあるんだが。


「首都のト・キーオに近い程、シード権を持っている設定にしましょうか。ネオ・クマモトは遠いから、それならバトル数も増やせます」

「確かに通常のトーナメントみたいに、二の倍数で割り切れないから、そこら辺はちゃんと理由付けたほうがいいな」

「これなら読者の方の出身県で感想欄が盛り上がりそうです」

「そうだな、ギリシャ神話の星座使ったあの作品も、そんな感じだったみたいだしな」


 昔の話だからリアルタイムでは知らないけどさ。


「県の名産をロボットにすればいいわけだから、設定が楽になったな」

「でも、カボチャの名産は熊本……ネオ・クマモトじゃないんじゃ」


 そういやトマトから決めちまったな。……でも今更変えるのもな。


「じゃあ、どこだか知らんが、カボチャの名産地のロボットはサンドリヨン・シャドウにしよう」

「成る程、そっちが本家の筈なのに勝手に使うんですね」

「そこはそうだな……元々そこで開発していた技術者が、ロボットごと逃げてきたとかだな」

「残っていた技術データを元にサンドリヨンを作ったと。良くありそうな設定ですね」


 ちなみに調べてみたらカボチャの生産量が多いのは北海道らしい。


「北海道ならネオ・クマモトから遠いから、トーナメント表の反対側になりそうですね」

「また一つライバルが増えてしまったな。準決勝当たりでぶつかりそうだ」

「ラスボス前の展開としてはいい感じじゃないでしょうか。……きっとアレですね、なんかシャドウの方がビジュアル的には格好良かったりするんですよね」

「カボチャ色よりは黒いほうが格好いいだろうな」


 今更だけど、ビジュアル的に格好いいカボチャとか想像つかんな。


「ちなみにラスボス予定のグンマーは何が名産なんでしょうか」

「俺の母親が群馬出身だから聞いた事があるが、こんにゃくとかみたいだな。後はネギとか。うどんも結構有名らしいが、うどんは強烈なのがいるからな」

「うどん県相手にうどんで張り合うのは中々難しいですね。じゃあ、グンマー代表はネギ持ったこんにゃく的なロボットで」

「合わせ技か。……中々いいかもしれない」


 最早ロボットでもなんでもないが、今更だろう。

 ここまでついてきた読者なら、なんでも受け入れてくれる筈だ。問題ない。


「じゃあ、グンマーのライバルは香川だな」

「成る程、ちょっと一方的にライバル意識を持っちゃってる感じですか」


 トーナメントの勝敗とかよりもグンマーを仕留める事を目標としているソルジャーだ。

 実際にうどんで張り合っているかとかはまったく知らんが。


「これなら後半は盛り上がりそうですけど、序盤は流していく感じになりそうですね。俺TUEEE的に」

「ばっか、鹿児島とか宮崎とか超強そうじゃねーか」

「トマトに負けると切腹しそうですけど。『生きてはおられんご』って」


 トマトちゃんなら介錯してくれるさ。合掌ばい。


「直接描写がなくても、そういう裏設定があると、話に深みが出来るからな。……設定は大体こんな感じでいいか?」

「そうですね……あとはロボットものだったら、お約束として機体の乗り換えかパワーアップイベントが欲しいです」

「確かにそうだな。後半戦に向けてこなしておきたいイベントだ。忘れてたぜ」


 そのタイミングで、オープニングとかが変わっちゃうわけだな。


「でも、カボチャのパワーアップってなんでしょうか。……煮物?」


 それだとただの料理だ。


「適当なアルファベットとか付けとけばいいんじゃね? Zとか、Vとか……この場合はGでもいいな」

「ゴッド……グレート……ジャックランタン?」

「それだとJだけど、いいかもな。ハロウィンな感じのパワーアップだ」

「サンドリヨン・ジャックとかですか? あんまり格好良くないですね」


 それだと、名前並べただけみたいに見えるしな。


「じゃあ、ジャック・オー・サンドリヨンとか? ……いや、ここは音から拾って、J・キング・サンドリヨンだ」


 ついでに、ジャックからキングに昇格もするぞ。


「おお、意味はまったく分かりませんが、ちょっとそれっぽいです」

「後はあれだな、単純にパワーアップイベントをこなすんじゃなくて、倒した相手の名産品を奪っていく形にしよう」

「倒したライバル達の力が少しずつ宿っていくんですね。後に託したぞって感じで燃えますね」


 バトルのマンネリ化を防ぐにも良さそうだ。試合の度に武装が増えるわけだし。


「いっそ、武装じゃなくて、機体を融合していってもいいかもな」

「サイクロプスみたいにですか? ……ああ、成る程、その魔法をトマトちゃんが手に入れたって事にすればいけそうです。つまり、試合をこなす度にカボチャからかけ離れていくと。そして最終的には全ての特産品を融合した究極ロボットに。まさしくキングですね。巨人の手先だったら同じ魔法を持っててもおかしくないですし、相手もパワーアップを続ける……中々良い設定です」


 普通のロボットなら格好いいかもしれないが、名産品だからな。ひどい絵面になりそうだ。


「後は、シンデレラといったらガラスの靴とかですかね」


 え、まだシンデレラ続けるの?


「……ガラスの剣でいいんじゃないか? 一試合一回しか使えないけど、なんか超強いの」

「いいですね、それにしましょう」

「……いや待て、こうしよう。ガラスの剣は一度使って失われるんだ。盗まれるとかでもいいかな」

「ほう」

「で、最終決戦前に王子から返されるイベントが発生するんだ」

「ほうほう。まさしくシンデレラじゃないですか。じゃあ、ラスボスのグンマーはそのガラスの剣でやられると」


 王道じゃないか。いいんじゃない?


「いや、ここはもう一捻りいこう。トマトちゃんなんだから、ここは白兵戦での決着だろう」

「なんと。……そういえばこれはトマトちゃんでした。じゃあ、ロボットは相打ちになって、コックピットから飛び出したトマトちゃん達が戦うっていう展開ですね」

「最後の最後は殴り合いだな」

「ああ、良くある展開ですね」


 こんな感じだろうか。相変わらず原型は留めてないが、桃太郎を作り上げた岡本ならきっとやってくれるはずだ。


「いやあ、凄いポテンシャルでしたね、シンデレラ。正直思いも寄らない設定になりました」

「だろ? やっぱり王道ってのは、王道である意味があるって事だな」

「勉強になりました。では、桃太郎の直後から始めてみます」

「今の内から伏線張っておくといいかもな。融合魔術とか、トーマスとの会話とか」

「確かにロボットなら、死の商人が絡んでこないのはおかしいですね。まさか、彼にそんな役割があったとは……」


 思いついたのは今だがな。


「じゃあ、誰も来ないみたいですし、帰りましょうか」

「その組体操トマトちゃんはちゃんと片付けろよ」

「え、せっかく頑張って組んだのに……」

「そんな不気味なの置いてたら、渡辺が寄りつかなくなるぞ」

「う……確かに、トマトちゃん見てゴーホームでしたからね。分かりました。私が片付けておきます」


 いらん事しなければ、渡辺もむやみに避けたりしないだろうに。

 ……キャラ固まった後だからもう今更だな。多分、こいつはずっと弄られ続ける事になるだろう。


「よろしい。じゃあ、小説頑張って書けよ」

「はい、お達者でー」


 まあ、読みはしないんだけどな。だって、ひどい内容になりそうだし。


 その後、この作品「トマトリヨン」は、コアなファン向けにアクセス数と評価ポイントを稼いだようだ。

 読む事はなかったのだが、いつの間にか部室にサンドリヨンらしき模型が飾られていたので、マヨネーズあたりは読んだのだろう。




2人とも、途中でラブコメ要素がなくなった事に気付いていない。(*´∀`*)

(*´∀`*)も忘れてた。

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