桃太郎
ウチの高校には、とある奇妙な部活動が存在する。
渡辺という奴が部長を務める、活動内容すら不明の『サラダ倶楽部』という名の組織だ。
まあ、俺もその一員な訳だが、内部の人間でさえ何をやる部活なのか分かっていない。
大体部室でくっちゃべって、誰かが言い出した変な遊びを初めてバラバラに帰っていく。
部活仲間と言えば、普通なら一緒に帰ったりとかするもんだと思うが、サラダ倶楽部にはそれが当てはまらない。
何かのゲームをする時、賭けの対象が先に帰る権利だからだ。最後に残った奴は掃除当番である。
しかも、集まる面子も人数もバラバラだ。適当に来たい奴が来て、適当に帰っていく、不思議な部活である。
「レタスセンパイ、レタスセンパイ、待ってました。あたしの書いた小説読んでくれました? 読んでくれましたよね。感想とかなかったですけど、アクセス数増えてましたし、あたし以外のユニークアクセスでしたし」
「うっぜぇ、寄るな、触るな、話しかけんな」
部室に入ってまず話し掛けてきたのが、この謎部活で唯一年下の岡本だ。部長の渡辺の事を心酔して止まないうるさい女である。
適当に思いついた事を始め、適当に盛り上がるサラダ倶楽部の申し子のような奴だ。
「大体てめえ、それって自分以外見てる奴がいないって事じゃねーか。そんなクソつまらねーもん読ませんな」
「あー、ひっどーい。見てる人がいないだけで、読めば面白いんですってばよっ!!」
「読んだが、面白くなかった」
「なんとっ!!」
何を血迷ったか、岡本がネット小説書いたから読んでくれと言われたのが昨日。
倶楽部の連中で誰が読むかを決める為にゲームを始めたのも昨日。
最後に岡本が残ったら面白かったのに、最後の最後で俺と一騎打ちになって敗北。仕方ないので読む事になったのだ。
「なんですか、何が駄目だったんでしょう」
「全部。駄目なところがあったんじゃなくて、全部駄目だ」
「そ、そんな事はないでしょー、またまた」
「お前な……あんなタイトルも、あらすじも、内容も、テンプレだけ突っ込みましたって作品、誰が読むんだよ」
俺だって岡本が言い出す前からネット小説は読んでいた。だから、どんな内容が流行ってるか位分かるし、良し悪しだって多少は分かる。そりゃ検索されやすいタイトルとかあるさ。だが、全部ぶち込んだら意味分からんだろ。
「テンプレが悪いってわけじゃねーぞ。悪いのはお前の頭だ」
「なんとっ、駄目なところは作品ではなくあたしの頭脳と申されますか」
「お前の頭は脳みその代わりに、ニックネームが如くトマトでも詰まってんじゃねーのかって内容だったからな。一つもオリジナルの設定なしで、テンプレ並べただけで作品として成立するわけねーだろ」
こいつの書いたという作品は、そりゃあもう酷いものだった。
テンプレに次ぐテンプレ。その上登場人物の名前はどっかのパクリだし、地の文は謎の擬音だらけで何が起こっているのか良く分からない。しかも、本文よりあとがきのほうが長い。ひたすら作者であるトマトちゃんの一人語りだ。あ、トマトちゃんってのはこいつの事だぞ。
「じゃ、じゃあ、どんなのだったらいいんですかー」
「なぜ、俺が、お前の、小説の内容を考えなきゃいかんのだっ!!」
「あがががががが………」
いかん、ついアイアンクローで持ち上げてしまった。癖というのは怖いもんだ。
「いったーっ!! な、何するんですか」
「悪いな。つい、お前の存在を抹消したくなって……」
「謝られてる気がしないっ!?」
だって、悪いと思ってねーもの。いつもの事じゃん。
「まあいい。……よし、じゃあ、他の奴らが来るまで一緒に考えてやる。五体投地で感謝しろ」
「わーい、やっぱりレタスセンパイはツンデレさんですね」
「ちなみに、あと三分もしない内にハムが来るけどな」
「ちょっ、早く、早くしましょう。メモメモ……良し、カモーン」
カモーンじゃねーよ。それに誰がツンデレだ、このアマ。
「まず、大前提としてお前はどんな話を書きたいんだよ」
「そうですね。オリジナリティ溢れる、新境地ですかね」
「初っ端から道間違えてるじゃねーか」
「あれは、とりあえずですよ。とりあえず、どんな感じで書いてみたらいいかなって」
なにがとりあえずだ。とりあえずでテンプレ並べて大失敗じゃねーか。むしろ逆走している感まである。
「テンプレなぞってパクってあのレベルで、どうやってオリジナリティ出すっていうんだよ」
「そこはあれですよ、ちょこーっとずつ変えてですね」
「お前のいうちょこっとは一文字とかだからな。先が遠すぎる」
あまりに遠過ぎて目標が地平線の彼方だ。
「じゃあ、どうすればいいってんですかよ」
「まずはジャンルだな。どんなジャンルで、どんな内容にしたいか。言っておくが、オリジナルってのはジャンルじゃないからな」
「えーとですね、冒険物がいいです。王道の、なんていうか悪い奴らはバッサバッサと御用でござる」
……時代劇? ダメだ、どんな内容を想像しているのかすら分からん。
こいつ、時々ほんと訳わからん口調になるよな。渡辺とかもそうだから、伝染ったのか?
「ジャンル決めすら難しい段階って事か。……ならアレだ、何か元ネタ決めて、そっから設定組み替えていくぞ」
「二次創作って事ですか?」
二次創作でもいいが、元の作品を良く知っていないと酷い惨劇になるからな。
「原型留めない位設定変えりゃ大丈夫だろ。難しい設定のない話で王道……よし、桃太郎だ」
「何故桃太郎です。プロレスでもするんですか?」
その漫画じゃねーよ。あれくらいぶっ飛んだ設定なら問題ないが。
「今回は絵本とかの通常版桃太郎だ。これを原型留めない位組み替えていくぞ。吉備津彦命とか、そういう深い考察のいりそうなのも除外だ。あくまでオマージュ」
「は、はい。なんだか良く分かりませんが」
「まずタイトルだ。桃ってのがまず作品の象徴的なものだから、これをぶっ壊そう」
「いきなり、先行きが不安なんですが。……桃太郎をぶっ壊すってなんですか、金太郎にするんですか?」
作品変わっただけじゃねーか。
「それだと渡辺の同僚になっちまうだろ。……そうだな、桃以外で何か河から流れてきておかしくない食い物……よし、お前が書く話なんだからトマトだな」
「と、トマト太郎!? あたし、女の子なんですが」
「じゃあ、トマト子でいいだろ。元々、設定を壊す前提なんだから、性別くらい変えても問題ない」
「あ、そうか……じゃあ、トマトちゃんで」
お前、それ作者名じゃねーか。作者が主役とか、逆に珍しいんじゃねーか?
……まあいい、タイトルと主役の名前はこれでいこう。
「次は基盤設定だ。桃太郎について俺は常々疑問に思っていたんだが、なんでトマト……桃の中に赤ん坊が入ってるんだ?」
「いや、知りませんが、種みたいなもんなんじゃないですか」
桃太郎植えると、巨大な桃の生る木になるというのか。しかも生った桃の中には桃太郎がいて……とんでもない不気味さだな。
桃から生まれた桃太郎、桃太郎から生まれた桃次郎と桃三郎って量産すれば鬼退治も楽に済みそう。多分、桃太郎侍はそうやって生まれたんだな。
「それも新しいが、アレどうやって中に入ったか分からないんだよな。継ぎ目があるわけでもないんだろ?」
「そもそも、子供が入るくらい大きな桃の存在からして謎なんですが」
そういう不可思議設定は、どこかで折り合い付けなきゃいけないんだよ。
「じゃあアレだ、そんなでかいトマトが生る位だから、河の上流……山に巨人が住んでるって設定はどうだろうか」
「いきなり突拍子もない設定が出てきましたね」
「おじいさんは山に芝刈りに行ったわけじゃなく、巨人退治だ。ほら、強い熟年キャラとか、意外と人気出たりするだろ?」
「超強そうなおじいさんですね」
渋くて強いおっさんキャラは作品にとって良いスパイスになってくれるもんだ。
主人公にすると若い読者にはウケがいまいちだが、サブキャラクターならいいだろう。
「なるほど、アリですね。となると、敵は鬼ではなく巨人……」
「じゃあ、トマトは流れてきたんじゃなく、逃げてきたって設定にすれば自然だな」
「巨人に住処を追われたトマト族が、最後の希望として子供を河に流したと。……中々ハードな物語ですね」
それなら、鬼……じゃない、巨人と戦う設定にも無理がない。
「もういっそ、トマトの中にトマトちゃんがいるんじゃなくて、主人公をトマトそのものにしようか」
「え、トマトから手足が生えてるとか、そんな感じですか?」
「そうだ、まさしくトマトちゃんだな」
自分で言っててなんだが、超不気味。まあ、謎の生命体として登場したほうが、中に子供が入ってるよりは理解を得やすいかもしれない。
「そして、お爺さんは巨人と戦い、死闘の末敗れると」
「ここまで来ると、爺さん婆さんにも名前をつけてやりたいよな。ヨーゼフとかどうだろう」
「日本じゃないっ!?」
巨人とか、トマト星人出てる時点で地球ですらないがな。
「婆さんはバーバラな」
「一体全体、どこから来た名前なのかも想像が付きません」
そりゃあ、適当だからな。
……既に桃太郎と連想出来る部分が皆無になってきたな。よし、いい感じだ。
「巨人との死闘を潜り抜けたヨーゼフが戦えない状態になって帰還して、トマトちゃんに後を託すのもアリだな」
「何故にその時点で面識のない謎のトマトに後を託すのか分かりませんが、そこは上手く設定を作ればいいんですね」
「分かってきたじゃねーか。そういう細部を作っていくのが大事なんだよ。無理のないようにな」
「既に無理しかない状態ですが、分かりました、頑張ります」
ハードルが上がりまくってるのは分かってる。だが、自重はしない。困るのこいつだし。
「爺さんの怪我は、重症って言っても分かりやすいのがいいな。腕と脚を一本ずつもいどくか」
「超悲惨な話じゃないですか!」
「それくらいシリアスなほうが、戦う理由になるだろ」
どうやって帰還したのかとかは考えてくれ。そこら辺は作者の腕の見せ所だ。
「そして、桃太郎と言えばお供の犬、雉、猿だな」
「そうですね、きび団子如きで懐柔される畜生共です」
「あれも、鬼と戦うには厳しい面子だよな。明らかに火力不足だ」
「しかも、今回は巨人ですからね。踏み潰されそうです。……私の中では巨人はサイクロプスのイメージになってるんですが」
「イメージはいいんじゃね? そのサイクロプスを倒せるお供が必要だな」
そもそも主人公であるトマトちゃんがどうやって戦うのかが分からんが、それは置いておこう。
「まず犬……。犬っぽくて、サイクロプスと戦えそうなお供……ケルベロスとかでしょうか」
「いいんじゃないか? 三ツ首の巨大犬だ。それなら、なんとかなりそうじゃないか。じゃあ、雉はワイバーンだな」
「わ、ワイバーンですか? 既に鳥ですら……いまさらか」
「となると猿は……なんだろうな。……斉天大聖?」
「桃太郎じゃなくて西遊記になっちゃうじゃないですか! えーと、猿っぽくて強そうな……じゃあキングコングで」
「キングコングだと、キャラクター名になっちまわないか? 適当に名前変えようぜ」
「じゃあ、コングキングで」
適当過ぎるがまあいいか。分かりやすいし。
ケルベロスはどうなんだろう。これって個体名なのか?
「でも、この化物三匹をどうやって従えるかが問題だよな。きび団子じゃ懐柔出来ないだろ」
「きび団子出しただけで桃太郎ってバレますからね。いや、ここまで違えばバレても問題ない気もしますけど。……この怪物達だと、団子どころか食べ物で従ってくれそうにないんですが、どうしましょう」
きび団子如き、人間にとっての豆一粒みたいな巨体だろうからな。腹の足しにもならないだろう。
「……昔から、そういう超存在にお願い事をする場合は生贄ってのが相場だな」
「誰を生贄にすると。……お婆さんとか?」
いきなり恩人を捧げるのか。だが、それならまあ……きび団子よりは説得力はあるな。大切なものを差し出す葛藤は物語として中々良いかもしれない。
拾ってくれた人を生贄に捧げるトマトちゃんはマジ外道。
「バーバラだけだと一匹しか従わせられないな。じゃあ、ヨーゼフも生贄にしよう」
「段々、凄惨な話になって来ましたね。……でも、それだと二匹で生贄が足りません。後一匹はどうするんですか?」
……トマトちゃんを差し出したら話が終わっちゃうしな。
かと言って、二匹だけってのも桃太郎としてどうだろう。
「最後の一匹は、従えた二匹と力を合わせて戦うんだ。イメージ的に一番でかいコングキングが三匹目の役割だ」
「少年漫画のノリですね。倒して仲間にする。で、仲間になると弱体化すると」
うん、爺さん婆さん食った仲間とすぐ共闘とか新しいな。ちょっと、トマトちゃんの精神構造が心配になる。
「こうなってくると、敵側も濃い設定が欲しくなってくるよな。どうせ短編じゃなくて連載なんだろ?」
「あ、そういえば小説の話でしたね。忘れてました」
そこは忘れるんじゃねーよ。根幹部分じゃねーか。
「物語として考えた場合、第一の山場はヨーゼフとサイクロプスの死闘だな。よし、こいつを四天王のリーダーという事にしよう」
「なるほど、そんな強い奴と戦って負けたのかという意味で、後々お爺さんの存在感をアピールするわけですね。憎い演出です」
四天王と再戦する頃には、ヨーゼフは生贄になってるわけだけどな。
「そいつの体にデカイ傷とかあれば、ヨーゼフが頑張ったっていう証拠になるな」
「おお、中々良い演出ですね。……そうか、それに四天王なら、トマトちゃん達と数も一致する。凄いです、レタスセンパイ」
「だろ? 演出的には一対一を四戦にして、ヨーゼフの仇とトマトちゃんが戦うのがベストだな」
「まさしく仇討ちというわけですね。くー、燃えてきました。……でも、ちょっと待って下さい。お供三匹はともかく、トマトちゃんの戦い方がいまいち掴めないんですが」
ちっ、気付いたか。
「それは、作者の力量でなんとかしろよ。サイクロプスと戦える強い武器持たせるとかさ」
「下手な武器じゃ野菜が巨人に勝てるイメージが……」
まあ、そりゃそうだろうよ。トマトが巨人相手に刀とか振り回してもギャグにしかならん。
「なら銃火器だな」
「じゅ、銃ですか!? ファンタジーじゃなかったんですか?」
「誰がファンタジーって言ったよ。これ元ネタ桃太郎だぞ」
「そ、そうでした。つい……って、桃太郎でも銃火器はないんじゃ……」
その元ネタから離れようとしてるからいいんだよ。
大体それくらいやらないと、巨人に太刀打ちなんて出来る訳ないだろ。野菜だぞ。
「確かに突然脈絡もなく銃火器が登場するのもな……。よし、ヨーゼフの知人として、死の商人を追加しよう。こいつの名前はトーマスだ」
「つ、ついに、まったくのオリジナルに踏み込むわけですね」
桃太郎にはいない、完全な新キャラクターだ。
しかしこうなってくると、ヨーゼフがどんな人間だったのかさっぱり分からんな。まあ、細かい設定はしなくても、謎が多いほうが読者の想像出来る余地が出来ていいだろう。
「トマトちゃんは岡本と同じくらいな背丈なわけだろ。コロポックル対サイクロプスじゃ、相当重装備じゃないとキツイよな」
「あのー、何故トマトちゃんのモデルがあたしになっているのでしょうか」
「名前からしてそのままじゃねーか。大丈夫だよ、こっちのトマトちゃんは見た目トマトなんだから、読者もお前とは思わないだろ」
「なんだろう。どこからおかしくなったんだろう……」
もうこのまま最期まで突っ走るがな。
「イメージ的にはランボーだな。ミサイルランチャーとか使おうぜ。アフガンとかで無双しそうな感じで」
「ミサイルランチャーとか担いだ重装備のトマトの絵が頭に浮かんでくるのが嫌な感じです」
ひどい絵面だ。お供と並ぶと一層意味分かんねー。少なくとも主人公には見えない。
「で、四天王を倒したらラスボス戦だな」
「まあ、四天王ってくらいですからね。それを従えるボスとなると強そうなのになるでしょう。お供連れての総力戦ですからね」
「……いや、ここはドラマチックに、三匹とも四天王と相打ちというのはどうだろうか」
最終決戦を前に一人……一匹ずつ仲間が倒れていく王道展開だ。
「成る程、ベタですが良い展開です。相打ちの仕方もバラバラとかですね。……一匹位ギリギリで助かって、最後にトマトを助けて死んでいくってのでもいい感じです」
「それはいいな。『ふ、お前との旅も悪くなかったぜ』って感じで」
「え、喋るんですか!?」
「当たり前だろ。会話ないと、独り言か地の文ばっかになって読者も辛いだろう」
これはあくまで小説だからな。絵本とか漫画なら喋らなくてもいいかもしれないが。
「い、言われてみれば……深いですね。そっか、絵がないんだから、そういうのも考えるべきなのか」
「基本だ、基本。それで話を戻すと、最後に庇う役はコングキングだな」
「良いですね。一番最後まで敵だったキャラが、一番最後に体張って助けてくれるシチュエーションは燃えます。ツンデレっぽくて」
「だろ? で、死力を振り絞って、銃弾を撃ち尽くすまで激闘を繰り広げた後、ボスが基地毎自爆するんだ」
「なんのために自爆装置があるのか謎ですが、ハリウッド的な奴ですね。ギリギリで脱出する感じの」
「そうだ。出口から飛び出す感じだな。イメージし易いだろ」
飛び出した瞬間、トマトちゃんの背後の基地が大爆発、炎上する感じだ。
自爆装置とかそういうのも、銃火器がある世界なら不自然じゃないしな。何故そんな装置を基地に設置してるのかは置いておく。
良くある設定っていえば誤魔化せる程度にはポピュラーだし。突っ込むところ他にたくさんあるし。
「あとは……そうですね。ラスボスがどんな感じなのか決めないと……ラスボスってくらいだから強いですよね」
「そりゃ、ラスボスが弱くちゃ話にならんだろ」
「でもサイクロプスって時点で既に強い感じなんですが、どんな強化パターンがありますかね」
「そうだな……目を増やすとか?」
「それだとただの巨人になってしまいます。……いっそバイザーつけてビーム撃ちましょうか」
アメコミになっちまうじゃねーか。バイザーつける必要もないし。
「じゃあ、もっと増やす。腕も」
「あ、阿修羅になっちゃいますが」
「そこはあれだよ、四天王の体を吸収する感じで。魔法陣か何かで四天王の体を呼び寄せて融合だ」
「何事なんですか、そのラスボスは。……となると、腕は十本、顔が五つの足が十本と、阿修羅ってレベルじゃないですね。想像すると不気味です」
最早サイクロプスでもなんでもないクリーチャーだな。
「そこまでいったら、いっそやられたお供三体も吸収させるか」
「なんと。それはヘイトが溜まりそうなイベントですね」
「『殺してくれ』って語らせれば完璧だ。……いや、『助けてくれ』でもいいな」
「トマトちゃんなら無視して戦いそうですけど」
ワイバーンの翼とコングの体、ケルベロスの下半身に、サイクロプス五体の超絶合身だ。ラスボスに相応しい超生命体だな。因縁もバッチリだし、読者のヘイトも稼げてる。これはいいんじゃないか?
「いやー、凄いですね桃太郎。こんなにキャパシティを持っている作品だったとは」
「だろ? やっぱり王道ってのは、王道である意味があるって事だな」
「勉強になりました。早速、家に帰ったら書き始めてみます。……そういえば、誰も来ませんね」
おかしいな。ハムの奴は来るって言ってたのに。すっぽかしやがったか。
……あ、メール来てる。俺が気付かなかっただけか。
「ツナセンパイも来ないみたいですし、もう帰りましょうか」
「まあ、二人じゃな。……じゃ、お前掃除な」
「え、なんでですか。ここは公平にゲームで決めましょうよ」
「お前、さんざんアドバイスしてやっただろ。偶には先輩を敬えよ」
「う……分かりました。確かに参考になったし……今日はあたしが折れます」
こいつはこういうところは素直だ。いつもこうなら、渡辺の奴もウザがったりしないだろうにな。
「よろしい。じゃあ、小説頑張って書いてみろよ」
「はい、お達者でー」
その日の夜中から連載開始された作品「トマトちゃん」は、前の作品よりはちょっとだけアクセス数と評価ポイントを稼いだようだ。
まあ、面白くはなかったが。
何書いてるんだ……。(*´∀`*)