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BELIEVE STORY   作者: ずのり。
6/6

みお

 俺の目の前にいるのはおそらく魅陽なのだと思う。

俺の名前を知っていることも、瞳の大きさ、髪の色も。だが、確信は持てない。

「もしかしてみおさん?」と尋ねてみる。


時が戻るように、あの頃のようにとは案外いかないようで、さん付けしたことに違和感を抱えつつ女性に問いかける。彼女は深く呼吸をし、「・・・そうだよ!ねぇ、これまで何をしていたの?会えてうれしいよ!!ひとまず雨も強くなってきたから、私の今過ごしているあの小屋に行こう!」とレンガ小屋を指さしながら俺の方を手招きする。


道がたがえていたんだ。変わっていることもある。その方がきっと多いと思う。その分、こういった些細な立ち振る舞いの変わらないしぐさに、なんというか、愛しさというんだろうか。真っ暗に停電し、ろうそくに灯る炎に消えないでほしいと念を送る感じだろうか。俺はこの子を確かに好きだった。そのことを思い出させるにはあまりに十分で、魅陽を直視できないでいた。


彼女は前を向いて進み始める。目的地は50mほど先だ。後れを取らないように進む。魅陽はやけに早足で、隣に追いつくことはできない。走れば追いついて隣に立つことはできるが、何故か、それはできなかった。背中を見ながら追いかける。背が伸びたような気がする。凛々しくきれいだ。あれから何年経つのかわからない。背が、背が伸びているのに少し猫背であるためか、やけに切ない雰囲気を感じる。彼女は、何を抱えてきて、今があるんだろう。俺のように、意思を持ち、それを持ち寄って候補者の一人となって誰かと相対して・・・生き残ってきたんだろうか。魅陽が小屋の扉に手をかけ、中に入っていく。そのあとに俺も続く。空はいつから灰色だっけ。未だ雨は上がらない。



 外観の見た目通り、中も洋風だ、広くはないが、平屋の、優しい土の香りがする。レンガの香りなのだろうか。なんて思っていると、「伝、濡れてるでしょ、風邪ひいちゃいけないからシャワー浴びてきなよ。お風呂はないけどお湯は出るから気持ちがいいよ。」と、タオルで自分の髪を拭いて、暖炉に火をつけてながら伝えてくれる。入口にたたずむ俺に、タオルと男性用の服を渡してくれた。「これ、ここに置いてあったの、使わせてもらおう。伝が選ぶよりたぶんおしゃれだよ笑?」とにやけながら目が合う。「失礼な!」と声掛けをし、シャワー室へ向かう。ありがたい本当に。



 「あーーーー、恵みで溶けそー。」といつぶりかのシャワーを浴びて声が出る。ありきたりだが、悲しいことをすべて洗い流したいと思う。感謝だ、ここに連れてきてくれたことにも、そもそも居てくれたことに。


シャワーから出たら何を話そうかな。俺のことはどう思ってくれているんだろう。明るく話してくれたし、案外元気だったのかな?そういえば魅陽の家族、妹のゆきちゃんと、両親のお二人にはお世話になっていたな。まさにあの親御さんたちだから魅陽がいるって感じの、優しく明るいお父さんと物事をハッキリさせたい強いお母さんだったな。思わず思い出して、笑みがこぼれる。と同時に、一つ疑問が。



じゃあ、何故いない?


俺の家族のように魅陽の家族も選ばれずに急に居なくなっちゃったのかな。

あれ?でも確か、学校には普通に来て、そこで誰もいなくて可笑しいって気づいたって離れる前は聞いていたような。・・・となると、どうなんだろう?


と思考を巡らせ、身体を拭き、誰のものかかわからない服を着る。「すみません借ります。」と声をだす。サイズもほとんどぴったりで、何故だか着心地がいい。


ソファーに座った魅陽が振り返る。

「あ、さっぱりした?これ飲んでね。」と、テーブルにお茶を用意してくれている。

時間を埋めるように距離が近づくことはなくて、思い出すように振る舞う。でもそれは悲しい気がして、新たに関係性を作っていかなければいけない気がする。すぐに「なんで一人なの?家族のひとたちは?」と聞けるような愚者ではない、大人になったのだ。だからこその気まずさと、ドキドキさと、この状況に困ってしまうんだ。だからこそ、ソファーの隣にではなく、斜めに置いてあるどう見ても座り心地の悪そうな椅子に座ってしまう。


察したように苦笑いを浮かべ、初めて俺をハッキリと見つめ、「やっぱり、戻れないね。」とやつれた笑顔を見せる。意志の強さ、言葉に重量感があり、押しつぶされた時には安易に声が出ない、いや、出したらすべてが終わってしまう直感があるのだ。


静寂が広がり、やがて意識は、パチパチッと鳴る暖炉の炎に移る。


ポツリと彼女が言う。

「でも、信じたいな・・・伝、私のこれまでを、聴いてくれる?」


彼女はもう泣かない。

所詮時がたてば他人で。もう一度を願いあえるか・・・

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