新しい力Ⅱ~ウエストサイド~
「さて、今日から新しい編成で、かつそれぞれ夜行性モンスターとの戦闘になるけれど・・・。」
カエデを筆頭に四人は一旦昼の間に作戦を立て直すことにした。
夜のモンスターは、昼のモンスターに比べ強さはもちろん、昼間に見かける同種モンスターとは違う攻撃パターンも持っているためである。
「まず、この辺で夜に出現するのは確認できているだけで三種類いるわ。」
「うん、僕たちが確認しただけでホワイトウルフ、グリムワーカー、そしてスティックナイトの三種類が夜に行動している。」
「どれも聞いたことのないモンスターです・・・大丈夫かな・・・。」
「俺はホワイトウルフなら前に戦ったことがある、昼間だったけどな。」
「カズさん、いつの間に・・・。」
「皆と会う前だよ。そしてその時は負けた。」
「ま、負けちゃったんですか・・・?」
「当時俺はまだ32レベルだったんだ。」
「なるほどね。ホワイトウルフは昼間でも大体40レベル以上推奨のモンスターなの。」
「ひ、ひえぇ・・・。」
「このゲームは基本的に推奨レベル以上の実力がないとモンスターを倒せないからね。」
「でも今ならきっとやれる。そんな気がするんだ。」
「もちろんよ。私がサポートするわ。」
「助かるよ。」
「あ、あの、ハヤトさん・・・私・・・。」
「安心して、ナナ。ナナも僕がちゃんと守るからさ。」
「ハ、ハヤトさん・・・・・。」
ナナはうっとりとした顔でハヤトを見つめる。
当のハヤトはそれに気付かずモリモリと朝食を食べている。
「あれは鈍感を装っているのかしら。」
「もしそうだとしたら、俺はあいつには怖くて近寄れない。」
「・・・そうよね。」
「ナナが不憫だな。」
「まぁ、とてつもなく幸せそうな顔してるからほっておきましょ。」
「・・・。」
「とにかく!これからモンスターの説明をするわ。まず、このホワイトウルフについてだけど・・・」
カエデのモンスター講座はお昼過ぎに終わった。
その後は夜まで体力を温存するという意味もかねて四人で村をふらついていた。
その時にたまたまマリアと再会し、ナナとカズがマリアと遊んだり、人見知り体質なハヤトが頑張って輪に入ってみたり、それを後ろでカエデが笑ってみたりと、平穏な時間を過ごした。
そして夜。
「さて、準備はいい?」
「ああ、もちろんだ。」
「ナナも、そろそろ行くよ?」
「は、はい!頑張ります!」
「それじゃ、お互いデスペナルティーだけは避けましょうね。」
「不吉な事言わないでよ!」
アンクル平原西、夜。カエデ・カズチーム。
ハヤトとカエデの情報通り、平原にはホワイトウルフやグリムワーカーが至る所に生息していた。
「さてと、カズはナナと共闘したときどんな風に立ち回っていたの?」
「そうだな・・・俺が積極的に囮役になっていたよ。ナナは体力も少ないから出来るだけヘイトは俺が稼がないとって。」
ヘイトとは敵モンスターがプレイヤーを攻撃する際に、どのプレイヤーを優先して攻撃するか判断するときの数値だ。
プレイヤーの行動で数値へ流動的に変化し、数値は上昇したり下降したりする。
ヘイトの数値が高いプレイヤーはモンスターから優先的に狙われ、逆に低いプレイヤーは狙われなくなる。
「なかなか紳士なのね。」
「からかってるのか?」
「そんなことないわ。むしろその判断は正しいわね。」
「そうか?ならいいんだけど。」
「だがあえて言おう、それは正しくはあっても正解ではない!!」
「・・・ちょっと言ってる意味が解らないんだが・・・。」
「安心しなさいそれは私も同じよ。」
「安心できない。」
「まぁつまりこういうことよ。あなたの職業は?」
「ん?俺は暗影士だ。」
「そう、暗影士。プレイヤーのプロフィール画面ではキラーって名前で表示されてる職業。」
「そんなことわかってるよ。」
「ほんとにそうかしら・・・?」
「な、なんだよ・・・。」
「暗影士の利点はスピードと気配よ。」
「スピードと・・・・気配?気配ってなんだよスピードはわかるにしても。」
「カズ。あなたヘイト稼ぐの大変じゃない?」
「な、何で解るんだ?」
「私もキラーの時は経験値稼ぎ大変だったのよねー。」
「え!?カエデもキラーだったのか!?」
「ふっふっふ・・・他にもたくさんこなしてきたわ・・・。」
「・・・なんだか恐ろしいな・・・。」
「とにかく、キラーっていうのはね、他の職業よりもヘイトが低く設定されてるの。だから前衛として戦闘を行うのは少し無理があるのよ。」
「・・・そうだったのか。」
「まぁ、キラーよりもヘイトの低い職業もあるらしいけれどね。」
「つまり、キラーは遊撃タイプってことか?」
「理解が早いわね。そう、味方の壁となって守るルークなんかと違って、キラーは敵の後ろから味方を守るの。」
「敵の・・・後ろから・・・。」
「要は低いヘイトを利用して後ろに回りこんでぶっ倒せってことね。」
「・・・ずいぶんざっくりだな。でも、よくわかった気がする。」
改めて、ハヤトがカエデを信頼している理由がわかったような気がした。
カズはそんなことを考えていた。
「んじゃ、私今からルークやるから、モンスターは全部カズが倒してね。」
「・・・は?」
「ワークシフト。」
カエデがそう唱えると、カエデの周りにさまざまなウィンドウが表示された。
そのほとんどがカズには目視不可の設定になっていたが、その中に見覚えのある表示を見つけた。
「・・・・暗影士?」
「ん?ああ、これね。上級版バトルシフトってやつかな。バトルシフトは知ってる?」
「えっと、確かインベントリを開かずに装備を変えることだろ?」
「正解。ちなみにこんな感じね。」
カエデはそういうと右手に小型の弓を召喚する。
その弓を上に投げ上げると瞬時にマシンガンへと装備を変えた。
「す、すごいな・・・。」
「これも出来るようになってもらうからね。」
「え、俺にか・・・?」
「もっちろん!それで、今出てるこれだけど。」
カエデはウィンドウを指差す。
「これはワークシフトっていうバトルシフトの上位互換的な技ね。」
「それで一体何が出来るんだ?それに、何で暗影士の表示が?」
「それはね、こういうことよ。」
そう一言言うとカエデはすうっと息を吸い込む。
「コール!『暗影士』!」
その瞬間カエデを光が包み込み、その光が消えると中には軽装装備のカエデが立っていた。
「こ、これは・・・。」
「簡単に言えば、転職屋に行かずに転職したって事。」
「そ、そんなこと可能なのか!?」
「可能よ。現に私は出来てるんだから。それに、転職屋って一応あるけど料金取ったりしないじゃない?多分運営がこれを認めてるからよ。」
「そうなのか。じゃあカエデは今暗影士なのか?」
「そうよ。」
一瞬でカエデの姿が消える。
50メートルくらい先にいたモンスターが一瞬で消滅する。
「なっ!?」
「これが私の暗影士としての実力よ。」
50メートルも先のモンスターに一瞬で近づいて、気付かれる前に一撃で・・・!?
カズは息を呑んだ。
「でもま、今重要なのはそこじゃないわ。」
「あ、ああ・・・。」
「ふふ、動揺してるわね。」
「いや、まあそりゃ、あんなの見せられたらな・・・。」
「ゲームの特徴は『数値ですべてが決まる』ということ。だからあんなことは誰にだって出来ることなのよ。」
「そりゃあ、そうかもしれないが・・・。」
「だから、私たちはそれ以上の力を手に入れる必要があるの。」
「それ以上の力・・・!バトルシフトやワークシフトか!」
「そう。だからそれを手に入れるためにもまずは・・・コール!『ルーク』!」
一瞬の光の後、重装備のカエデが姿を現す。
「まずは力を付けないとね。」
「や、やっぱりそうなるのか・・・。」
「もちろん。この防御力とヘイトの高い職で私が囮をやるから、カズは出来るだけヘイトを上げずにモンスターを倒し続けて。」
「わ、わかった!」
「さて、それじゃあ始めるわよ!」
「おう!」




