大迷宮の冒険
フランジェの街から出発して五日目、ハヤト達はグランドリバーに到着した。
グランドリバーとは巨大な渓谷のことで、風化や浸食の影響を受け巨大な迷宮と化している。
中には小型のモンスターが巣食っており、一体一体は脅威ではないが数が集まると厄介だ。
「とりあえず、モンスターに遭遇しても戦闘は避けて迂回していこう。」
「ささーっとやっつけちゃえばいいんじゃないですか?」
「戦闘音を聞きつけて次から次へとモンスターが集まってくるだろうな。」
「うへぇ・・・それはしんどいです・・・。」
「私は全然問題ないわよ?」
「いえ、カエデさん。ここはハヤトさんの指示に従いましょう。」
「つまんないのー。」
「さて、さっそく入るとしようか。」
四人は迷宮の入り口へと足を運んだ。
「な、なんだか不気味なところですね、真っ暗です・・・。」
「やけにじめじめしているな。どこかに湖でもあるのか?」
「この渓谷は大地が侵食されてできたものだから、今も地下水脈とかがあるんじゃないかな。」
「ナナちゃん、足元滑るから気をつけてね・・・ってあれ?」
「ううぅ・・・カエデさん、言うの遅いです・・・。」
「すでに尻もちついた後だったな。」
「あらら、大丈夫?」
「はいぃ・・・。」
「しっ!静かに・・・。」
「なんだ、敵か?」
「そうみたいだ。敵は・・・ウィンドリップが3体だ。やつら自体はたいした敵ではないけど他のモンスターを呼ぶ習性がある。こいつは厄介だな。」
「とりあえず、見つかる前に迂回しましょう。」
「そうしよう。」
ウィンドリップ・・・植物型のモンスターで基本的に移動しないタイプのモンスターだ。
ただし、プレイヤーには聞こえない周波数の音を出しており周囲のモンスターとコンタクトを取っているとされている。
事実、彼らに見つかると知らず知らずのうちに他の小型モンスターに囲まれている、なんてこともある。
気付かれる前に殲滅する、というのも手だが、ここでは条件が厳しい。
何より、戦闘音を聞きつけられては元も子もない。
「しっかし、よりによってこんなとこにウィンドリップかよ。」
「運営側もいじわるですよね。この辺りは小型でもレベル高めだし。」
「きっとニヤニヤしながらモンスター配置したんだろうな。」
「迷路みたいになってて先も把握できないし。」
「想像以上にこのエリアは難易度が高いみたいだね。」
不意に遠くから爆発音が聞こえた。
「な、なんだ?」
「誰かがモンスターと戦ってるのかも・・・。」
「ちょうどいい、モンスターの大群は爆発音の主に頼むとしよう。」
「ラッキー!」
「出来るだけ音のした方とは逆に進もう。」
「了解です!」
さっきの爆発音、モンスターももちろん聞いたはずだ。
とりあえず音のした方へ向かうはずだが、このエリアはもはや乱戦状態だと考えていいだろう。
こうなればセオリー通りの戦術とはいかない。
もはや隠れて迂回して、というのは通用しないだろう。
「みんな、もう隠れてもあまり意味がない。モンスターは見つけ次第殲滅だ。」
「おうよ!」
「ふふ、腕が鳴るわね。」
「カ、カエデさん・・・楽しそうです・・・。」
「行くよ!」
「は、はい!」
四人は一気に走り出す。
途中何度かモンスターに遭遇したが、幸い1体のみだったりレベルが低かったりして大きな問題にはならなかった。
問題にはならなかったのだが・・・。
「・・・なんでこんなことになってるんだ・・・。」
「ご、ごめんなさい見知らぬ方たち!!」
「誰なんですかあなた!なんでこんなにモンスター連れてくるんですか!!」
「ご、ごめんなさいごめんなさい!!」
見知らぬプレイヤーが半泣きで連れてきた大量のモンスター。
運よく開けた場所まで来れたが、彼が連れてきたモンスターをどうにかしないと。
「とりあえず、やるしかない!」
「あんた、名前は?」
「ひ・・・デリウスです・・・癒法士です・・・。」
「リグレか、ちょうどいい。あなたは僕たちの回復にまわって下さい。」
「で、でもこんな数のモンスターどうやって・・・。」
「大丈夫、とにかく回復に専念して。」
「わ、わかりました!」
「カエデ!」
「わかってる!!」
カエデはすぐに連射型の銃に武器を切り替えた。
「MG-グリフォン。これで殲滅するわ!」
驚異的な連射と威力でモンスターを圧倒する。
「バトルシフト!やっぱりカエデさんも・・・!」
「ナナちゃん、後ろ!」
「え?」
「あぶねぇ!」
ナナを狙うアークゴブリンを間一髪でカズが仕留める。
「す、すいません!」
「怪我はないか?」
「はい!」
「ナナ範囲魔法頼む!」
「了解です、カズさん!」
ナナが魔法の詠唱を始める。
ナナの周囲に電気が走る。
「あの魔法、サンダースコールですか!」
デリウスが声を上げる。
「デリウスさん、危ない!」
「ひっ・・・。」
ゴブリンの攻撃をハヤトが防ぐ。
「ハヤト!後ろ!!」
「なっ!?ぐあっ・・・!!」
「ま、任せてください!ヒールライト!」
ハヤトのダメージが回復していく。
「助かる!」
「はい!」
癒法士。リグレとも呼ばれる職業で、回復魔法を得意とする職だ。
体力や攻撃力は低いが、味方を回復できる数少ない職業なため、パーティーには欠かせない職業といえる。
「準備できました、いきます!!」
詠唱を完了したナナが魔法を放つ。
一瞬光が走り、次の瞬間ナナの周囲に雷が降り注ぐ。
「サンダースコール!!」
圧倒的な威力でモンスターが倒されていく。
しかしモンスターは次から次へと襲い掛かってくる。
「ハヤト!きりがないわ!」
カエデの方も押され気味だ。
カズもこんな乱戦状態じゃ力を発揮できない。
ナナの魔力にも限界が来るだろう。
「やむを得ない、撤退だ!ナナ!」
「了解です!!みなさん!一瞬目をつぶって下さいね!!」
ナナが詠唱を始める。
「いきます!!フラッシュマインド!!」
辺りが閃光に包まれる。
モンスターたちは瞬間的に視力を失った。
「今です!」
「よし、撤退だ!」
「ふぅ・・・・ここまで来れば大丈夫ですかね・・・。」
「なんとか、なりそうだな・・・。」
「全く、一時はどうなることかと思ったわ・・・。」
「すいませんでした、みなさん。」
デリウスは深々と頭を下げた。
「いえ、誰もやられてないし、結果オーライですよ。」
「そう言って頂けると・・・。」
「にしても、何であんなところにいたんです?それもよりによって癒法士一人で。」
「ちょっと、パーティーメンバーと待ち合わせしていて・・・。」
「そうだったんですか。それで、その相手は?」
「もうすぐ来ると思うんですが・・・。」
ピコーンという音が周囲に響いた。
「あ、来ました。」
「ボイスチャットですね。」
「ええ、すいません。」
そういってデリウスはボイスチャットに出た。
どうやら彼の仲間は近くまで来ているようだ。
「みなさん。本当にお世話になりました。」
「いえ、こちらも助かりましたよ。ありがとうございました。」
「またいずれどこかでお会いしましょう。」
そう言ってデリウスは走っていった。
「回復系の職業って大事ですねぇ・・・。」
「そうだな、彼にはすごく助かった。」
「優秀な回復職でも仲間にする?」
「それもありかな。ちょうど一枠空いてるしね。」
「とりあえず、これで迷宮から出られそうだな。」
「え?」
カズの指差す方をみんなが見る。
そこにはこの迷宮の出口があった。
「で、出口です!!」
「やっと出られるのね。」
「よし、大迷宮脱出だ!」
「おう!」
「そういえば、あの爆発音って誰だったんでしょうか。デリウスさん?」
「それはないんじゃないかな。癒法士にあんな攻撃はないと思うけど。」
「そうなんですか、謎ですね・・・。」
「ま、いいじゃん。出られたんだし。」
「そうですね、カズさん!」
四人は自然の大迷宮を突破した。
一方その頃。
「あれ?なんで癒法の指輪なんか付けてんの?」
「さっき一緒だったパーティーに回復系いなかったからさ。」
「ああ、あの雑魚パーティー?」
「そうそう。あれでよく回復職なしでいけるよ。自殺行為だ。」
「ははは、やめとけよ。つか『本職』で戦えば雑魚モンスターなんて一瞬だったんじゃねぇの?」
「まぁそうだけどさ、『特殊職』なんてそうそう見せるもんじゃないかなって。」
「出し惜しみってやつ?」
「そうじゃないけど。」
「まあなんにせよ、ここのエリアボスが一撃ならそこそこ使えそうな技じゃん?」
「派手なの嫌いなんだけど・・・。」
「まぁまぁ、ドカーンとやろうぜ?ドカーンと。」
デリウス・デルタ
職業、炎操士『ファイアクター』
レベル、94
所属ギルド
『漆黒』




