四つの影を照らす月
「今夜はここで野営しよう。」
周囲には崩れた廃墟や巨大な門、地面には深くえぐれた部分もある。
場所だけ見れば、何か大きな戦争でもあったかのような悲惨な光景だ。
「ハヤトさん、ここなんなんですか?なんか壊れた建物とかたくさん・・・。」
「ここは掃討作戦跡地だ。だからモンスターはいない。」
「掃討作戦・・・?そんなのあったんですか?」
「掃討作戦っていうのは、ゲーム側のシナリオだよ。」
「カズさん!」
「50年前モンスターの大群が攻め込んできて、あらゆる都市が壊滅に追いやられた。」
「・・・ごくり。」
「そんな中、12人の若者が名乗り出てそれぞれが武器を取った。」
「そのうちの一人が掃討作戦を指揮して、ここがその場所だったって設定。」
「な、なるほど・・・。」
「その12人はのちに十二英雄と呼ばれるようになり、その者たちの名が各都市に付けられた。」
「え?じゃあこれから向かう商業都市クランっていうのも・・・。」
「そう。十二英雄の一人、クラン・バリウェストから取った名前だ。」
「そうだったんですか・・・。なんだかかっこいい話ですね!」
「あなたたち、野営の準備、私だけにさせるつもり?」
「ご、ごめんなさいカエデさん!」
「そうだ、ナナちゃん!フラッシュマインドをシャンデリアの形にして出せる?」
「シャンデリア・・・ですか?やってみます。」
ナナが意識を集中させる。
すると目の前にシャンデリアの形に光が出現した。
しかし・・・。
「ちょっと明るすぎないか?これ・・・。」
「明るいっていうよりまぶしいよね・・・。」
「ナナちゃん、これは失敗だったわ。普通に球体に戻していいよ。」
「もう!なんなんですか!!大体野営にシャンデリアっておかしいですよ!!」
「まぁまぁ、おかげでテント張れたから。焚き火付けるから魔法解いていいよ。」
フランジェの街を出発してからすでに3日が経過しようとしていた。
ハヤト達はフランジェとクランのちょうど中間地点の掃討作戦跡地まで来ていた。
ここから先は少し地形が厳しい。
巨大な渓谷『グランドリバー』に、年中吹雪の山『エターナルスノウ』・・・。
どちらも越えるのは骨が折れる。
おまけにエターナルスノウには大型のボスモンスターがいるという。
はたしてどこまでやれるか・・・。
「おーい、飯取ってきたぞー。」
「うわ、すごいですねー!」
カズが中型のガイルを仕留めて帰ってきた。
ガイルとは鳥型のモンスターで、大きな羽と赤いくちばしが特徴だ。
「あれ?でもこの辺はモンスターいないんじゃなかったでしたっけ・・・?」
「ん?ああ、こいつは『調理可能モンスター』だから、普通のモンスターとはちょっと違うんだよ。」
「調理可能モンスター?」
「簡単に言えば、食材ってことよ。一般的にモンスターは『討伐対象』と『狩猟対象』がいるの。討伐対象っていうのはプレイヤーに危害を加えようとするモンスターのことで、倒して経験値や戦利品を手に入れるくらい。逆に狩猟対象は倒して食料にしたり、武具の材料にしたり、加工品にして売ったりもできるのよ。その代わり、経験値は低いし、武具をドロップしたりもしない。」
「そんで、掃討作戦では、討伐対象のみ殲滅したってこった。」
「なるほど・・・。つまり、ガイルっていうのは狩猟対象で、プレイヤーに危害も加えないからこの辺りでも普通にいるってことですね?」
「そうそう。」
「でも普通、掃討作戦に巻き込まれちゃいますよね・・・。」
「そこはほら・・・ゲームだし。」
「な、なるほど・・・は、ははは・・・。」
「ははは・・・。」
「・・・。」
「・・・・・。」
「とにかく、ご飯にしようか・・・。」
「そうですね!カエデさんがいて、本当に助かります!」
「うふふ、ありがと。」
「いやー、ほんと助かるぜ。生活スキルなんて俺たち誰も習得してないからな。」
「あんたたち、よくそれで旅ができるわね・・・。」
「え、えへへ・・・。」
生活スキルとは、例えば料理や釣り、裁縫、栽培などの文字通り生活のために習得するスキルのことであり、ハヤト達は誰一人習得していないスキルであった。
「少なくとも、ナナちゃんは料理出来たほうがいいんじゃない?」
「う・・・なんだか料理ってめんどくさくて・・・。」
「・・・そんなんじゃハヤトに嫌われちゃうぞ・・・?」
「!?カ、カエデさん!!」
「んー?」
「私に、料理教えてください!!!」
「あらあら、わかりやすいこと。」
「ち、違いますよ!私だって立派な女の子なんですから、料理くらいできないと!!」
「はいはい、それじゃあ簡単なものからね。」
「よろしくお願いします!!」
「なんだかナナが張り切ってるね。」
「そうみたいだな。」
「にしても、カズはほんとに狩猟得意だよね。」
「ん?ああ、リアルでも狩猟経験はあるからな。」
「え、そうなんですか!?」
いつのまにかハヤトの隣にいたナナが驚きの声を上げる。
「ああ、元々猟師の家だったから。俺は今東京で一人暮らししてるけどガキの頃はよく親父と狩りに出かけてたよ。」
「す、すごいなぁ・・・。」
「だから食料確保ならまかせとけ。」
「頼りになりますね!」
「おうよ!」
「そういえば、カズの職業ってなんなの?私知らないんだけれど・・・。」
ふと思い出したようにカエデが質問する。
「俺か?言ってなかったか?俺は暗影士だよ。」
「暗影士・・・キラーってやつね。確かに狩猟にも適した職だわ。」
「カズさん、戦闘になるとすっごく速いですよね!」
「まぁ素早さがこの職の特徴だからな。」
「カエデさんは弓系の職ですよね?大きな弓で戦ってるし。」
「私?私は狙銃士よ。」
「ショット・・・?弓士じゃないんですか?」
「狙銃士っていったら弓系の上位職じゃねぇか。なんで銃を使わないんだ?」
「んーなんていうか、あんまり好きじゃないのよね、銃。」
「え、それだけ?」
「うん。お気に入りの銃はもちろん持ってるけど、弓も各種使えるからなっただけで、私弓のあの自然と一体になってるような感覚が好きなのよ!」
「は、はあ・・・。」
「何ていうのかしら、あの「私、生きてます!!」みたいな感覚?最高よね!」
「すいません、それはちょっとわかりかねます・・・。」
「なによ、あなたたちも弓使ってみたらわかるわよ、今すぐ転職しなさい!」
「いやいや、それはちょっとな・・・。」
「そ、そうですね・・・。」
「何よつまらないわね。」
「そ、そうだ!ハヤトさんは職業何なんですか?私知らないです。」
「そういえば俺も知らないな。一体どんなすごい職業なんだ?」
「んー、まぁ秘密ってことで・・・。」
「ハヤトは接剣士でしょ?」
「え?」
「え?」
「ちょ、ちょっとカエデ!」
「だってそうじゃない。昔から戦い方ずっと変わらないし、武器も剣一本だし。」
「ほ、本当に接剣士なんですか・・・?」
「いや、まあ・・・・そうだよ。」
「本当にか!?基本職の、それまた最初に選べる職だぞ!?」
「・・・そうだって。」
「す、すげーな・・・基本職であそこまで強くなれるのかよ・・・。」
「私でさえ基本派生職の攻魔士なのに・・・それでもハヤトさんの方が強いですよね。」
「まあ、僕は接剣士が好きだからやってるだけだよ。ずっとやってるからこの職のクセや強みを誰よりも知ってるってだけで・・・。」
「でもすごいです!」
「そ、それはどうも・・・。」
「ハヤトはただの極めオタクだから、そんな褒めるようなことじゃないわよ。」
「カ、カエデ!」
「何よ、その通りでしょ?」
「・・・・・。」
「でもいずれ限界は来るわよ?」
「ああ、それはわかってる。」
「ま、転職した時はまた私が一からみっちり訓練してあげるわ。」
「・・・それが恐ろしいんだよなー・・・。」
「何か言った?」
「言ってません!」
「にしても、景色が最高だな、ここは。」
「そうですねぇ、星が綺麗です!」
「こんな景色、リアルじゃ見れないもんなー。」
「そういうのも、このゲームの魅力かもしれないね。」
「ほんとですねぇー。」
「私眠いから寝るわー。」
「雰囲気ぶち壊しだなおい・・・。」
「だって私弓引いてる時が一番楽しいし。」
「カエデは戦闘狂だから・・・。」
「今すぐハヤトを仕留めるわ。」
「ごめんなさいっ!!」
ははは、と乾いた笑い声が響いた。
みんなで並んで夜空を見上げる。
満天の星空と丸く浮かんだ青い月。
現実世界では見ることのできないこの幻想的な景色に、
いつしか四人は惹きこまれていた。
四人の旅を暗示するかのように、
月は静かに雲に隠れる。




