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メギドブレイク  作者:
1/10

始まりのメギドブレイク


VRシステム

この技術が根付いて早三十年。

大手のゲームメーカーは多くのユーザーが求めていた新感覚RPGの開発に力を注いだ。

その理由はもちろん需要に対する供給がゼロであるため、開発成功がそのまま企業の利益になるためだ。

しかし、それ以上に開発者グループの情熱が大きかった。

ゲーム開発に携わる人間として、VRMMORPGを開発することは一つの目標のようなものだ。

その為の技術が完成したのだから、当然瞬く間にVR技術を使ったゲームは浸透した。

主にオープンワールド式のRPGが主流の中でも、様々な工夫を凝らした他ジャンルのゲームもたくさん登場した。

だが、結局のところ剣や魔法を駆使して戦うRPGが主立ったジャンルであることには変わりない。

人々は普段できないことを仮想の世界でしたがるものなのだ。

剣を振って敵を倒す、魔法で敵を吹き飛ばす。

そんな爽快感が、プレイする人間を虜にしてしまうのだ。



--メギドブレイク--

無数に存在するこの手のゲームの中でも、ユーザー数はトップクラスであり、

実装されている機能も充実していて、人気度ランキングでも常にトップランカーだ。

現時点でアカウント数は五百万人を突破しており、このゲームがどれほど人気なのかがうかがえる。

ゲームの内容はシンプルだ。

遥か昔に発生した謎の大爆発【メギドブレイク】により

誕生した新たな太陽系【グラエラ】。

中でも人類が生存するのに適切な環境を持つ惑星【コールロッド】。

プレイヤーはその惑星を新たな生活拠点とした人類となり、まだまだ未開の地の多いコールロッドを冒険する。

冒険といっても自由度は高く、普通に町で生活することもできる。

つまり惑星コールロッドの住人となることができるのだ。

その居心地のよさに現実世界を忘れメギドブレイクに没頭してしまう人間もいる。

「ロストブレイカー」呼ばれる彼らは現実世界を生きるのを忘れるほどに夢中になってしまうのだ。

そのため、大きな事件に発展してしまうこともあった。

十年ほど前、ゲーム内で有名だったとあるプレイヤーが死亡したという報道が流れた。

その男性は一人暮らしの大学生で、死因は餓死だったそうだ。

別に食べ物に困っていたわけではない。

ただ夢中になってしまったのだ、食事さえ忘れてしまうほどに。

また、ゲーム内で有名だった料理人の女性は、

現実世界の調理師試験に落ちたショックで自殺してしまったという。

現実を忘れたロストブレイカー達は仮想の世界が全てなのだと認識してしまう。

だがしかし、こんな事件に発展してもなおランキングトップを取り続けるのは、

やはりこのゲームの、もはや魔力ともいえる程の魅力が勝るからなのだろう。


事件が明るみに出てから、プレイヤー自身の意識も上がり、幸いにもこういった大きな事件は発生しなくなった。


しかし、いまだに彼らロストブレイカーは存在する。




「いらっしゃい!今日はいい食材が入ってるよ!」

「あらお客さん!これなんかどうだい?」

「いらっしゃいいらっしゃい!今日はチコルの実が安いよー!」


ミルガルデの町。

大きさもそこそこだが、それ以上に商業で有名な町だ。

この町で活動しているプレイヤーはおよそ四万人。

大体は冒険者だが、商人や料理人、占い師なんてのもいる。


「お客さん!ちょっと見ていかないかい?」

「え?あ、いや僕は・・・」

「そこの兄ちゃん!どうだいこの剣!安くするよ!」

「え、いやだから僕は・・・」

「そこのお兄さん!暇ならちょっと・・・」

「そこの旦那、いいモンがあるぜ・・・」

「ねぇお兄さん、少し遊んで・・・」

「お兄ちゃん!何か探し物?だったら・・・」


「し、失礼します!」

「あ、お客さん!・・・ったく。」





「ミルガルデ・・・初めて来たけど、すごい活気だなぁ・・・。」


どこか趣のある地中海のあたりの旧市街のような町並み。

見上げれば真っ青な空と気持ちよさそうに飛ぶ鳩たち。

脇には露店が立ち並び、食欲をそそる匂いがたちこめる。

始めて見る巨大な町にハヤトは期待に胸を膨らませた。


「えーっと・・・待ち合わせの場所は・・・。」


確かメールには噴水門広場とあったはずだ。


「あの、すいません。噴水門広場っていうのはどこにあるんですか?」

「噴水門広場?ああ、それならこの道をまっすぐ行ってしばらくしたら見えてくるよ。」

「ありがとうございます!」


この道の先に彼が待っている。

小学生時代の親友で、中学生に上がると同時に北海道へ転校してしまった彼が。

久しぶりに連絡を取って偶然二人ともメギドブレイクをプレイしていることを知ったのだ。

それで、ゲーム内で久しぶりに会おうということになったのだった。


「タケちゃん、待ってるかな。」


タケちゃん、本名は大橋武。

下の名前のタケルからタケちゃんと呼んでいる。


「あ!おーいハヤトー!」

「タケちゃーん!」


プレイヤーネームはタケル。

そのまんま・・・。

まぁ、僕もそのまんまハヤトだけど・・・。


「久しぶりだな!ハヤト。」

「ほんとにね!元気にしてた?」

「おう!ハヤトの方こそ元気そうだな。」

「うん!」

「積もる話もあるし、とりあえずその辺の店にでも入ろうぜ!」

「そうだね!」



「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」

「えっと、じゃあルルクのソテーとコーラで。」

「僕はチコルベリージュースで。」

「ん?飯はいいのか?」

「うん。済ませてきたから。」

「そうか。じゃあ以上でお願いします。」

「かしこまりました、少々お待ちください。」


ウェイトレスは軽く頭を下げてから注文を伝えにいく。

その頭上に青色のアイコンが表示されていた。


「あの店員さん、可愛いな。」

「何言ってんの、まったく。」

「にしても、まさかこのゲームをハヤトもやってるとはなー。」

「始めたのは結構最近だよ。だからレベルもまだ5で・・・。」

「そうだったのか。このゲームは面白いぞ。」

「うん、とっても楽しいよ!タケちゃんはレベルいくつなの?」

「ん?んー、秘密だ。」

「え?なんで!?」

「まぁまぁ、そんなことより料理きたぞ!」


お待たせいたしました、とさっきとは別のウェイトレスがやってくる。

頭上には緑色のアイコンが光っていた。


「こちら、ルルクのソテーとコーラになります。」


タケルは、うひょー!と一声上げた。


「そして、こちらチコルベリージュースになります。」

「ありがとうございます。」


目の前に出されたグラスの中には、この世界特有の食材「チコルの実」を使ったジュースが注がれている。

独特の酸味とほど良い甘みが特徴で、このゲームを始めて以来の大好物だ。


「んまい!にしてもやっぱりルルクの肉はうまいなぁ!リアルにもあればいいのに!」


ゲームプレイヤーの中には現実世界のことを「リアル」と呼ぶ人もいる。


「確かに美味しいよね、硬すぎず柔らかすぎずで。」

「俺このゲームやっててほんとによかった!」

「大げさだよ・・・。」

「そんなことないって!リアルじゃこんな美味いもんそうそうお目にかかれないぜ!」

「はいはい。そんなことより・・・。」

「ん?どした?」

「いや、さっきのウェイトレスさん、プレイヤーだったなーと思って。」


頭上に緑色のアイコンが表示されていた店員のことだ。

アイコンはその色でそれぞれ意味を持っている。

黄色はこのゲーム内の住人、いわゆるNPCというやつだ。

そうは言っても高度なAIプログラムを持っているため、ほとんどプレイヤーとは大差ないのが現実だ。

そして緑色。これはゲームをプレイしている人間であることを示している。

つまりさっきの店員はプレイヤーだということになる。

そしてもう一つ。赤色のアイコンというものがある。

これは一般的に街の外や洞窟などに生息しているモンスターに表示される。

つまり敵だということを示すアイコンだ。


「このゲームの売りは、『冒険以外も楽しめる』ことだからな。」

「うん。でも僕は冒険がしたい。」

「お、意外な発言だな!!」

「な、なんだよ。いいだろ?」

「もちろん!俺はうれしいよ。」

「なんだよそれ。」


ははは、とタケルは笑う。


「どうだ、なんだったら俺と一緒に冒険するか?」

「ほんとに!?じゃあ一緒に・・・」


ガシャーンという音が店の外から聞こえてきた。

その次に男の怒鳴り声。


「な、なんだ?」

「け、喧嘩かな・・・とりあえず行ってみよう。」

「そうだな、店員さん、これお代!」

「は、はい!」


店の外には既に人だかりが出来ていた。

その中心には男が二人、どちらもプレイヤーだ。

何か揉めているようだ。


「お、おいあれ!」


男の一人が剣を抜いた。


「まずいぞ!みんな危ないから離れろ!」


剣を抜いた男がもう一人に切りかかる。


「タ、タケちゃん!あの人切られちゃうよ!!」


タケルの方を見た・・・・が、タケルはいなかった。

そしてすぐに金属のぶつかりあう音が響く。


「だ、誰だあいつ!!」


ハヤトは慌てて中心を見る。

そこにはさっきの男と剣を合わせるタケルがいた。


「タ、タケちゃん!?」

「おいあんた、ここは戦闘禁止区域だろ。」


町によっては、安全に生活を送るため戦闘禁止区域が指定されている場所がある。

ミルガルデの名物噴水門広場周辺は戦闘禁止区域に指定されている。

戦闘禁止区域といっても物理的な拘束力は弱い。

その為、各町には治安を維持する為の部隊が存在する。

そして、そのメンバーのほとんどがプレイヤーで構成されている。


「そんなもん関係ねぇんだよ!」

「大事なルールだ。」

「うるせぇな!俺はあいつに用があんだよ!」

「ひ、ひぃ!」


もう一人の男がタケルの陰に隠れる。


「どんな用事だろうと町のルールには従ってもらう。」

「ルールなんざ知ったことか!そんなに邪魔がしてぇならまずはお前からだ!!」


男は一度距離をとってから再びタケルに斬りかかった。


「タケちゃん危ない!!」

「ハヤト、危ないからそこで見てな。」

「へっ!余裕かませるのも今のうちだぜ!」


男がタケルに斬りかかろうと剣を振り上げた瞬間、タケルの姿が消えた。


「なっ・・・!?」

「お前にはとりあえず治安維持隊の本部まで来てもらうぞ。」

「・・・ばか・・・な・・・。」


ハヤトには何が起きたのかまったく理解できなかった。

ただ、タケちゃんがあの男を倒したのだということはわかった。


「それに、さっきまで武器なんて持ってなかったのに。」


タケルの手には剣が握られている。

それに、さっきまでは普段着のような格好だったのに今は鎧を着けている。


「おい、さっきのあれ見たか?」

「ああ。即時換装ってやつだ。あいつ相当な使い手だぞ。」


「即時・・・換装・・・?」


一体それはなんだろう。


「即時換装というのはね、武器や防具をインベントリから選ばずにそのまま装備する技術だよ。」

「え・・・?」


振り返ると後ろに女の子が立っていた。

見た目は同い年くらいだろうか。

このゲームは他のゲームには無い『フィギュアトレース』という機能が搭載されている。

特殊なセンサーで自身の細かい身体データを記録し、それを元にキャラクターが自動で生成されるというものだ。

そのおかげで性別詐称や身長・体重の調整がキャラクター作成時には出来なくなっている。

これには一部のプレイヤーが抗議をしていたが、偽り無くゲームをプレイできるという安心感からか、支持する声も多い。


「即時換装はスキルじゃない。感覚で行うものなんだ。」

「か、感覚・・・?」

「そう。だから相当な経験が必要なんだ。」

「そ、そうなんだ・・・。」

「きっとあの人、レベル60は軽く超えてると思うよ。」

「そ、そんなに!?」


タケちゃん、そんなに強かったんだ・・・。


「あ、そうそう!私はカエデ、よろしく!」

「あ、うん。僕はハヤト。よろしく。」

「よろしくハヤト!そういえばあの男の人、さっきハヤトと一緒にいなかった?」

「ん?ああ、彼はタケルっていうんだ。」

「・・・え・・・?」

「ん?」

「あの人・・・タケル・・・なの?」

「ん?そうだよ?」

「ま・・・まさか・・・・。」

「ね、ねぇどうしたの?カエデさ・・・」

「あの拘束部隊副隊長のタケル!!??」


「お、おい!もしかしてあのタケルか!?」

「なんだって!?あの人が伝説の!?」

「す、すごい!!あの有名人に会えるなんて!!」


広場は一気に大騒ぎになった。

みんながタケルの元に集まる。

先ほど剣を交えた男は放心している。


「な、なんだぁ!??」


タケルも慌てているようだ。

とにかくこの状況を何とかしないと。


「タ、タケちゃん!」

「あ、ハヤト!」

「とりあえずこっちに!」

「お、おう!」




「はぁはぁ・・・こ、ここまでくればもう大丈夫だと思う・・・。」

「す、すまん、助かった・・・。」

「それにしても・・・。」


あの盛り上がりようは何だったのだろう。


「タケちゃんって一体・・・」

「見つけた!!」

「ひっ!?」


声の方向にはさっきの女の子が立っていた。


「カ、カエデさん!」

「何だ、ハヤトの知り合いか?」

「い、一応。」

「やっと見つけたわよ、タケル!」

「え、俺?」

「あなた、『中央拘束部隊』の副隊長タケルよね?」

「な、何を言ってるんだか・・・俺にはさっぱり・・・」

「とぼけても無駄よ!さっきの剣技、そうとしか思えないわ!」

「あ、あんなのたまたまだって・・・。」

「そんな訳無いわ。即時換装は相当な熟練者しか扱えない技術よ。そもそもあれはスキルじゃない。経験で習得するものなの。」

「く・・・よく知ってるじゃないか。」

「当たり前よ!私はレベルこそ低いけど、知識では負けないもの。」

「カエデさんは、何でも知ってるんだね。」

「もちろんよ。」

「そ、それで俺に何のようなんだ・・・?」

「まず確認しておくわ。あなた、本当にあのタケルなのね?」

「・・・そうだ。」

「本当に!?すごい!!握手して!!」

「・・・へ?」

「だから!握手しなさい!!」

「あ、ああ。」

「キャー!!本物のタケルと握手しちゃった!!こんな奇跡って!!」

「な、なんだかすごく嬉しそう・・・。」


カエデは嬉しさのあまりか飛び跳ねている。


「えっと、カエデさん?」

「ん?何よハヤト。」

「用事って、それだけ?」

「そうよ?」

「え?」

「何よ。」


なんだか放心してしまった。


「ぼ、僕てっきり『親の仇ーー!!』とかいって斬りかかって来るのかと・・・。」

「あっはっは!!そんな訳無いじゃない!」


カエデはお腹を抱えて笑っている。


「そ、そんな笑わないでよ!」

「あはは・・・ごめんごめん。」

「にしても、あの大騒ぎは一体・・・。」

「あ、あはは・・・。」


タケルは苦笑いしている。


「ハヤトってこのゲーム初心者なの?」

「え?うん。最近始めたばっかりで。」

「あら、だから知らないのね。」

「知らないって、何を?」

「タケルのすごさをよ。」

「え?」

「いい?タケルはね、中央拘束部隊っていうギルドの副隊長なの。」

「まぁ、そういうのはいいじゃねぇか。ハヤトには何にも関係ないって。」

「ま、まぁいいけど。とにかく、めちゃくちゃ強いのよ!」

「そ、そうだったんだ・・・。」

「タケル、この街にいるってことはこの街の警察隊を管理してるの?」

「いや、今回はハヤトに会いに来ただけだぞ。」

「ハヤトに・・・?一体どういう関係なの?」

「どういうって、俺たちは親友だよ。」

「そうなんだ。」


「・・・へ?」



「えええぇぇぇぇえええええ!!」


カエデは驚いて目を丸くしている。


「そんなに驚くことか?」

「だ、だってあのタケルと親友だなんて・・・。」

「タケちゃん、そんなに有名だったんだ・・・。」

「あ、いや、周りが騒いでるだけだって。」

「でも、副隊長ともあろう人が、中央からこんなに離れたところにいても大丈夫なの?」

「え?あ、大丈夫だって!仕事は任せてきたから。」

「それ大丈夫じゃないわよきっと・・・。」

「タケちゃん、その『中央』ってとこで仕事してるの?」

「ああ、まあな。」

「・・・そっか・・・。」

「ん?どうした?ハヤト。」

「・・・。」


タケルは拘束部隊の副隊長だ。

きっと中央で街の安全や安心のために仕事をしているんだ。

それなら・・・。


「タケちゃん、さっきの話だけど・・・。」

「ああ、一緒に冒険するっていう話か?それなら・・・」

「僕、一人で行くよ!」

「え?」

「タケちゃんは大事な仕事があるんでしょ?」

「それは、そうだけど・・・。」

「僕、いつまでもタケちゃんに頼ってばっかりじゃいけないと思うんだ。」

「ハヤト・・・。」

「それに、自分の力でタケちゃんに追いつきたい!タケちゃんを守れるようになりたいんだ!」

「・・・そうか。わかったよ。それなら、ハヤトにはしっかり頑張ってもらわないとな!」

「うん!」

「早く俺を助けてくれよ?相棒!」

「任せてよ!!」


ハヤトとタケルは力強い握手を交わす。


「うっ・・・うっ・・・いい話だなぁ・・・。」

「カ、カエデさん!?」


それを傍らで見ていたカエデはいつの間にか号泣していた。


「な、何泣いてんだよ!」

「な、泣いてなんか・・・いないんだから・・・ぐすっ・・・。」

「・・・泣いてるね・・・。」

「私・・・私・・・。」

「な、何だ?」

「わだじきめだ!ハヤドどいっじょにぼうけんずる!!」

「カ、カエデさん!?そんなにずるずるになって!!」

「お、ハヤト!さっそく仲間ができたな!」

「あ、あはは・・・。」

「ずず・・・私のことは・・・カエデでいいから。」

「そ、それじゃあよろしく・・・カエデ。」


「・・・うん!」


こうして、ハヤトとカエデは冒険を始める。




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