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決戦だ、約束のバトルフィールドへ

 やっぱこうなりますよねー。

 とはるか上空で滞空しながら溜息をつく。現在竜の主力がいるのは大体王国中央部だ。

 主要な都市を薙ぎ払った後、夜になりこうして一時進軍を中断していた。


 王国対竜で言うならばもう圧勝に次ぐ圧勝だ。適当に反撃してくる敵軍をちぎっては投げ、逃げる軍には後ろから焼き尽くす。

 此方の被害はどれくらいか? 十は遣られたとは思うが、それ以上の被害は聞いていない。

 というかあそこで何々がとか伝聞方式なため、誰かが死んだかは分かるが、誰が何人死んだのかは想像に任せるしかないのだ。


 兎に角も戦争として見ればこれはもう万々歳。大本営発表も真っ青な戦果な訳だが。

 逆に生存競争として捉えると微妙の一言に尽きる。


 竜は強い。そりゃあもう滅茶苦茶強い。本気だせば今の人類文明など数回はリセットできる。

 しかしだ。人類を滅亡させようとすると途端に難しくなる。


 今日の戦いもそうだ。勝ってはいるが人を半分位は取り逃がしてしまっている。

 敵わないのならば当然逃げるし隠れる。そのため探して殲滅するために一々手間がかかる。

 それが如実に出たのが今日までの進軍スピードだ。実力で言えばもう王都まで走破していても可笑しくはないのにまだ半分しか達成していない。これでは先が思いやられた。


 そして一番きついのが。

 蔓延る厭戦気分である。厭戦では語弊がある。皆が満足しだしてやがる。

 焼いたし殺したしこれ位で満足かなーとかといった感情が出てき始めている。今はそう問題になっていないが、これが続けば無視できない大きな要因になるだろう。

 全く前途多難である。


 

 やはり一応の保険として自身が手を出さなかったことは幸いか。

 もしも失敗した場合数百年後ならどうにか誤魔化しが……いやいや何故そんな誤魔化しがいると言うのだ。

 人間は殲滅しないといけないし、それは無理にでも叶えなければならないのだ。

 最近はどうにも思考矛盾が酷い。疲れているのだろうか。

 

『ほう湿気た面しているな。白竜の』


 気を揉んでいると最近付きまといが激しい赤竜が隣に飛来していた。この赤竜戦争が始まってから元気爛々で近くにいると消耗甚だしい。

 竜殺しが出たらいの一番に飛んで行ってすぐさま焼き払う姿は、竜の中でも特異だ。


『余計な御世話です。赤竜の。ですが今日はお疲れ様です。貴方がいなければ更に何人かの同胞がきっとたおれていたことでしょう』

『お前はそうなっても白竜のよな。そこまでいけば黒竜が幾らか執着するのも分かる』


 可笑しなことを言っているが今日は許してやろう。

 こいつが竜殺しの使い手を倒してくれたおかげで、横からどんどん『我々』が回収できた。

 力も更に強大になったことだし大目に見るのが大人としての度量というものだろう。


『無駄話も良いですが貴方の役目をお忘れなく。青竜と赤竜。古竜は貴方方しかこれに参加していないのですから。圧勝しているからといって戦力の要が腑抜けいては困ります』

『青竜は古竜とはいってもなり立てだからな。だからこそ余計に何かあった時、動かなければならないのは俺ってのも理解してるさ』


 青竜の方がお前よりも万倍役に立っているけどな。

 皆を煽てて躍らせるのは俺の役目だが、実際の戦闘指揮は青竜が仕切っていた。

 若い竜だとどうしても重みが欠ける。だからこそ青竜という古竜を指揮に加えることで説得力を出していた。


『とにもかくにも明日は人間達の必死の抵抗が予想されます。ゆめゆめ、油断の無きようにお願いします』

『分かっているさ。白竜の』


 本当に分かっているのか、こいつ。











 



 王国に取って一番長い日が始まろうとしている。

 王国軍、貴族軍の連合軍凡そ三十五万は王都より一刻程離れた場所で布陣していた。

 王国中から文字通り掻き集められた兵だ。これが突破された場合、王国に戦力はもう僅かたりとも存在しない。

 それは集められた兵士自身が理解している。だから絶望的な状況の中、それでも士気は辛うじて保っていた。


 しかしそれも敵が現れるまでだ。

 敵影確認。伝令が通信術で各部隊に流す。それから半刻後、遠見の術を使えない者でも敵の姿を視認することができるようになった。

 離れているから、その姿は小さく見えた。


 だがだ、それが飛んで雲を横切るたび、雲と大きさを対比させてその大きさに気付く。

 でかい。誰かが呟いた。しかもそれが空一面に何千と飛んでいる。あれと自分たちは戦うのだ。

 逃げたいとどの兵士も心に思った。だがそして多くの兵士が逃げてはいけないとも考えた。


 決戦が始まる。



「なあー」

「なんだ」


 義兄は弟に声を掛けた。


「普通こういう生死が掛かった決戦の時とかさ、大概前夜に皆で飲み明かすという決まりって知ってたか? そして絶対生きて帰ろうな! 帰ったらこんなことがしたいんだ! と語り合うんだ。なのに俺らときたら昨日は作戦を只管練ってただけじゃねえか」

「あの状況で酒なんて飲んだら周りに殺されるぞ」

「うわ嫌だ、出たよ正論。普段変なことしかしない馬鹿の癖にこういった時だけ真面目ぶる」


 やれやれとばかりに肩を竦める。


「こんな時は『そうだな。それじゃあ生きて帰れたら酒盛りでもしよう』とお前が答えて、俺が『おいおいそれだと死にそうな言い方じゃないか。縁起悪いな』と返すわけだよ」

「そうか」


 アリューは近づく竜の群れから目を離さず微動だにしなかった。

 それを眺めてオードランは深いため息をつく。そして沈黙。


 だがそれも二分もすればまたオードランから破られる。


「なあ」

「なんだ」

「多分これが大成功に終わってもな、これから死ぬほど辛いことが続くと思うんだ」

「……」


「王国はこんなクソみたいに荒れちまって復興にどれだけかかるか分からねえし、きっとその間すげえ国民が飢えて死んでいくんだろうぜ」

「……」


「そうなりゃ絶対竜と人間の関係なんてこじれるにこじれるさ。もう絡まり過ぎて団子になるほどにな」

「だからどうした」

「確認したいだけさ。これが成功すればお前さんはまさに英雄さ。恐らく政治的なこともあるだろうから余計に祭り上げられる。その時になって相手は竜ってのはすげえお前にとって不利になるぜ。はっきり言って足枷だ」


「だから止めろと?」

「違うさ確認だ。文化、寿命、社会情勢、経済状態。その他全てあいつを追っかけるのには不利だけど、それでも好きな女を追い掛け回すのかって聞いてるのさ」


 幾ばくかおいてアリューは言葉を返した。


「やりたくないことの無理な理由を探すのは好きだが、やりたいことの無理な理由を探すのは好きじゃない」

「なんじゃそら」

「これが答えだ」

「そうかい」


 んんー、とオードランはわざとらしく伸びをする。鎧ががしゃりと音を立てた。

 そしてさも良案を思いついたかのように提案する。


「それじゃああれだ。生きて帰ってこれたらやりたいことのやれる理由でも考えようぜ」

「それだと死にそうな言い方だ。縁起でもない。止めろ」

「了解」


 オードランはにっかりと笑う。それにつられてアリューも口を緩ませた。

 二人笑い合っていると彼らの仲間もやって来た。


「おうおうーお二人さん熱いねー。傍から見てると火傷しちゃうよ」

「止めろギー。これはあれだ。水入らずというやつだ。文字通り水を差すんじゃない」


 ジルとギーも二人とも朗らかで緊張はまるでしていない。これからそこらに散歩するような気軽さであった。

 しかしそれこそが生き残るための最善手であると彼らは心得ているのだ。


 彼らの周りに続々と人が集まってくる。その誰もが悲壮感など一欠けらもなく、ただ前の敵を見据えている。

 その数凡そ九百。ここに集まった総数三十五万に比べれば一%にも満たない。

 だが彼らこそ最精鋭。

 王国を賭けた戦いの時に振るわれる剣だ。


「行くぞ」


 青年の手に持つ竜殺しが眩い光を放った。








 流れるように最終決戦まで漕ぎ着けた。まあ敵が戦力集中を図ったのだから、ここまですいすい行けるのは当然のことだろう。

 道中の人間は夜の内に何処かに四散していた。

 王都への道の途中には埋め尽くさんばかりの人で一杯である。若く弱い連中はその数に少しばかりビビっていたが、逆に好都合だ。わざわざ探して追い詰める手間が省けるものである。


『同胞よ聞いて欲しい。あれが我々に敵対する者の最後の牙だ。あれを排除して初めて我らは敵の柔らかい腹を食い破ることができるだろう。そして彼らが持つ武器の中には私達同胞の骸も混じっている。解放してやろう。彼らに安息の眠りを。皆の健闘を祈る!』


 戦場という空気でテンションの上がった、彼らは適当な言葉ですぐさまボルテージを上げる。

 青竜が命令をしたのだろう。群れが降下を始める。

 ある程度の強さを持つ竜ならば兎も角も、大多数を占める弱い竜ではこの距離では攻撃できない。


 竜も地表近くまで降下しなければならない。


 地面が近づくにつれ、降下の速度を落とし始める竜が出始める。

 身体の小さな者は兎も角、そろそろ大きな者達は着地を検討しなければならない高さだ。

 このまま相手の陣地に突っ込み、そこでその巨体を活かして存分に蹴散らすことだろう。


 



 その時全ての竜は人間は受け身で自身等こそが相手に押し寄せるのだと考えていた。

 そしてすぐ後千ばかりの一団が此方に突っ込んでくるのに前衛の竜達は眼を丸くする。

 唯の兵士たちであれば歯牙にもかけない雑魚たちである。ブレスで焼くのも押し潰すのも好きな方が選べる。

 忌々しい同胞の骸の使い手でもこの数の差だ。少々気を付けながら数の利で押し潰せる。


 どちらにせよ愚策。血迷ったかと竜の多くが嗤う。

 前衛の竜達が貪らんとばかりにその一団に突撃する。その数三百。彼らの正面だけで五十はいる。

 全員が一瞬の後愚か者たちが引き裂かれることを予想した。


 だがそんな予想を、集団の先頭に居る者が白く目を覆わんばかりの光を纏った剣を一閃すると、前衛の竜達と共に吹き飛ばした。






 は?

 状況を言葉で説明したい。敵の集団が突然にぴかーと光ったら、レーザーみたいのが一閃されまして、近くの味方が一気に一掃されました。

 …………


 あれなんだよ! なんでこの時代に光学兵器めいたもんがあんだよ! 何処から持ってきやがった!


 しかもその一団は群れの中を一気に突っ切って中心部に向かってきた。

 そう具体的に言えば俺の元目掛けて突撃してきたのである。頭がくらくらした。何だあれは。あんな物を持っていたのなら何故もっと前に出してこない。

 誰かから貰いましたとでもいうのか馬鹿馬鹿しい。


 そして集団の先頭を視認できた。


 あのクレイジー裏切り青年アリューだ。


 どこまでも邪魔をする。やはり人間は害悪。滅ぼさなければならない。余りの怒りに口から唸り声が漏れる。

 早急に排除する必要がある。そう思い立ったところで又も邪魔を、いや今度は手助けをする者が現れた。


『いいねえ。強者を相手に晴れ舞台での戦い。心が躍る』


 クレイジーサイコ蜥蜴、赤竜の登場であった。


 











 王都の外れ、王国の命運を決する戦いが起こっている方角に面する所に一人の少年が立ち尽くしている。

 人間の視力では到底見えるはずもないのに、ずっと遠くを見つめている。


「もうすでに戦いは始まっているか。だとしてもまだ私には止められる。いや力を発揮できないのだから赤竜のの言う通り止められないと言うのがやはり正しいのか」


 そう独り言ちる。

 別に人間が何人死のうがそれ程彼の心は痛まない。彼は人間をどちらかと言えば侮蔑している。

 利の為に媚びへつらい、どの様な汚いこともし、此度のように生きる糧ではなく死肉すら弄ぶ。

 好きになれる訳がない。


 しかし国が変われども『彼』の故郷のこの地で、人が死に絶えるのは寂しさを覚えた。

 できるならば止めたいとも思った。


 だが黒竜にはできない。『彼』の同胞を助けることが、『彼』自身の存在によって妨げられている。

 守るために力を使わないという強迫感情めいた誓いが本来の力を封じ込めてしまっていた。


「あの愚か者が羨ましい」


 何も考えず、ただ本能に従って生きる青年のことを、少しだけ嫉妬してしまった。


「女々しい。何時までここに居る。できぬのならばとっとと帰るべきだ」


 そう自分に言い聞かせ転移し東の地へ帰ろうとした瞬間、突然に右腕を何者かに掴まれてしまう。

 考え込み過ぎていて生物の接近を見落としていた。何という失態かと黒竜は自身を罵る。


 苛立ちと驚愕から掴んだ相手を睨みつけた。そして息が止まる。

 外見上は黒竜と同じ十歳にもなっていない童だ。顔には擦り傷、髪はぼさぼさでやんちゃ坊主に相応しい様相であった。

 だが黒竜が驚愕し釘付けになったのはそこではない。


「こんな所で何してんだっ! 大人達が避難しろって言ってただろうが! 馬鹿かお前!」


 頭ごなしに怒鳴られて面喰ってしまう。

 そんな黒竜を無視して子供は無理やり引っ張っていく。勿論方向は町の中だ。


「おい放せっ! 何をする!」

「煩い! 馬鹿の話なんて聞いてられるか! いいからこっち来い!」


 振りほどこうと思えば、いつでも振りほどけるはずなのに黒竜は引きずられていく。

 怒り引きずる少年の瞳と髪は、黒竜と同じ綺麗な黒だった。

戦力増強(ビーム兵器)

実際強い。しかし描写しないだけで後続はごりごり脱落している

仕方ないね

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