とある朝
また夢を見た。
それは昨日と同じ夢だった。
今度は思ったよりはっきりと記憶に残った。
それでも女の子が誰なのかは分からない。
分かったのは、白い世界は雪でできていたということと、よく見れば門があったこと。
そこがどこなのかは分からない。
ふわあ、とあくびをして上半身だけ起き上がる。
目をこすって携帯を見れば、時間はいい感じに6時40分をさしていた。
一度大きく伸びをしてから、布団から出てリビングに出た。
そこには大学生と高校生の弟が2人と大学生の妹が1人いた。
下の弟は1人だけダイニングテーブルで朝食を食べている。
テーブルの上にはあと2人分の朝食がある。ちなみに目玉焼きだ。これは残りの弟妹の分だから食べてはいけない。
「ヒロ、それとって」
下の弟、八尋はおはようも言わずに兄である僕を使う。
八尋が指しているのは多分醤油。八尋は目玉焼きには醤油をかける派だから。
弟に使われて多少ムカつくが、ここは年上の余裕を見せて、ちゃんと醤油をとってあげよう。
「はい」
「ちげーし、ソース!」
「あれ?八尋は目玉焼き醤油派じゃないの?」
「最近ソースがうまいって気づいた。
いいから、はやく」
呆れるように溜め息をついた八尋。
人を使っておいて溜め息つくなよ、とは思うが、何も気にしていない風にソースをとってあげた。
僕って優しい、なんて自惚れていたのは一瞬で、上の弟と妹も食事の席に着く。
「あ。ヒロ、醤油もとって。俺が使うから」
「あたしマヨネーズねー」
「はぁ!?」
ちなみにこの声は怒りではなく驚きだ。
「お、お前等…どうした…?」
上の弟、秋尋はソース派だった。
妹の麻尋はいつも気分で変わっていたが、それでもマヨネーズなんて冒険はしなかった。
「別にいいじゃん?
あたしたちが何かけてもヒロには関係ないし」
「ヒロの分の目玉焼きもないし」
僕の弟妹はみんな反抗期のようだ。
しかしマヨネーズとはデブコースまっしぐらだぞ、我が妹よ。
そんなこと思いながら自分の分の朝食をつくっていると、後ろでは弟妹3人が仲良くしゃべっている。
「今日ヒナちゃん来るんでしょ?
誰だか覚えてないけど、確かヒロが小学生のとき好きだった人だっけ?」
「そうそう、ヒロが部活内で後輩に手を出したんだよな」
「なんだかんだで引っ越しちゃったんだっけ」
話題はヒナのこと。
麻尋は覚えてないとか言いつつ、しっかり覚えているようだ。
「そうだったねぇ!ヒロが号泣して帰ってきてさぁ!!」
と、麻尋が爆笑。
「ぶは、あれはうけた!
小6の兄が泣いて帰ってくるとは思わないもんなぁ!」
そう言って秋尋も爆笑。
「え?そうなの?」
僕と7歳差ある八尋はあんまり記憶がないみたいだ。
僕が小6、ということは八尋は幼稚園行ってたぐらいの歳。覚えていないのもしょうがないだろう。
実際、ヒナのことだって少し話を聞いて得た知識だ。
「ねぇヒロ!」
「んー?」
八尋に声をかけられる。
なにかと思えば、
「ヒナちゃん来るってことは、ヒロは仕事休むわけ?」
いなくていいのに、とでもいうように聞いてきた。
「まあね。」
と答えれば、3人全員嫌そうな顔をする。
そんなに嫌そうな顔することないじゃないか。
「ヒナちゃんはいつ来るの?」
「10時ぐらいかな。学校はちゃんと行くんだぞー」
「なにその年上ぶってる感じ」
「父親じゃあるまいし」
「ヒロのくせに調子のんな」
くせにって何!?
あくまでも心の中でツッコむ。
口に出したらどうなるか分からない、ああ怖い怖い。
凶暴でわがままな僕の弟妹は、長男の僕にだけ反抗期だったりする。