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Dragon Sword Saga1『旅の仲間(前編)』   作者: かがみ透
第Ⅲ話 黒い竜——ダーク・ドラゴンの力
9/20

妖精

「どう?」


 湖の底を静かに見据えていたヴァルドリューズに、隣に立つマリスは、慎重な様子で尋ねた。


「これまでのいきさつから、この湖の底に異次元への出入り口が出来ていたようだが、今は何も感じない。おそらく、マスター・ソードの力で、消し去られたのだろう」


「それなら、良かったわ。さっきの怪物は、ミドル・モンスターだったわ。魔界の入り口まで開いていたなんて……何者かが呼び出し……!?」


 突然、マリスの言葉が途切れた。


「……ヴァル、……それ、なに?」


 かなり間の抜けたマリスの声で、ケインたち三人がヴァルドリューズを振り返ると、彼の周りを、何かが、ちらちらと飛び回っていた。

 ちょこんとヴァルドリューズの肩に腰かけ、三人を、じっと見る。

 ピンク色の肩につかないくらいの巻き毛に、薄いピンク色の衣をまとい、ムシや、蝶に近い形の、透けた羽を生やした、妖精の女の子であった。


「ミュミュ!」


 ケインが、大きく目を見開いた。

 妖精は、みるみるふくれっ面になって、ケインをにらんだ。


「ひどいよー、ケイン! ミュミュのこと、完っっっ全に、忘れてたでしょー!!」


 一同は、驚いて、ケインと、てのひらほどの大きさであるミュミュとを見比べた。


「ごっ、ごめん! だけど、今までだって、急にいなくなったり、しばらく出てこなかったこともあったじゃないか。こっちも、いろいろあったからさ、それどころじゃなくて……」


「それどころじゃないって、どーゆー意味さ!? ひどいよ! ミュミュはねっ、知らない時空で迷っちゃって、一人ぼっちで、とっても淋しくて、泣いてたんだよ! そしたら、ヴァルのおにいちゃんが助けてくれたんだよー!」


「ヴァ、ヴァルのおにいちゃん……?」


 ケインも皆も、今度は、ヴァルドリューズの方を見る。

 彼は、いつもの無表情で、淡々とした口調で語った。


「瞑想から戻ろうとした時、異次元の空間で彷徨(さまよ)っていたのを、たまたま見つけたのだ」


 ヴァルドリューズに礼を言ってから、ケインが、ほっとしたような、呆れたような顔になって、ミュミュをもう一度見た。


「それにしても、妖精が時空で迷うなんてこと、あるのか?」

「ケインがミュミュのこと放っておくからだよー! バカー!」


 ミュミュは、ケインの頭を、か弱い拳でぽかぽかと殴った。


「ごめん、ごめん! ホント、すっかり忘れてて」


「なにぃー!? もーっ! ミュミュ、ケインなんか、知らないもん! ホントに、怒ったんだからね! これからは、ヴァルのおにいちゃんに『付く』よーだ!」


 そう言うと、ミュミュは、ヴァルドリューズの肩に腰かけ、ケインからは、ぷいっと顔を背けてしまった。


「まいったなぁ、今度こそ、本気で怒らせちゃったかな?」


 ケインは、苦笑いしながら、頭をかいた。

 妖精は、頬をふくらませたまま、ヴァルドリューズの頬に、くっついた。


「あ、あのー、お取り込み中、悪いんだけど……」


 マリスが、まだびっくりした目のまま、切り出した。


「ケインと、そこの妖精って、知り合いだったの?」


「知り合いなんてもんじゃないよ。ミュミュは、ケインがマスター・ソードを持つようになってからだから、二年くらい、一緒にいるんだよ。ミュミュたち妖精ーーニンフとかの子供たちは、『伝説の戦士』になる人間に、付くことになってるんだよ。

 ミュミュ、ケインのこと、『伝説の戦士』だと思って付いて来たのに、ケインてば、全然『伝説らしいこと』はしないし、ミュミュのことは、放っとくし……! もう、『伝説』は、ヴァルのおにいちゃんにするから、いいんだもん!!」


「ありゃりゃ、『伝説の戦士』ってのは、妖精の、しかも子供の気分次第で決まるのかよ?」


 カイルが、()頓狂(とんきょう)な声を出した。

 ケインも、肩をすくめてみせた。


「あれっ? あんたの剣……」


 突然、ミュミュが、カイルの剣に、目を留め、ふーっと側に飛んで行った。


「『ここ』には、精霊がいるよ! 何の精霊かは、わかんないけど……」


 ミュミュは、カイルと、ケインとに振り向いて、言った。


「精霊だって?」


 カイルが、首を傾げた。


「ああ、でも、言われてみれば、そうかも知れねぇ。この剣は、俺を護ってくれてるような気がしてたんだ。よくないことや、危険を察知して、なんとなく教えてくれるーーそんな場面が、いくつかあったんだ。それは、この剣に宿る魔力が、そうしてるのかと思ったが……精霊が()んでたってワケか」


「そーだよ。この剣の『精霊さん』は、剣の持ち主を、護ってくれるんだよ。だから、この剣の魔法は、持ち主しか使えないの。他のヒトが、やろうと思っても、ダメなんだよ」


「確かに、俺以外のヤツには、『浄化』の魔法は使えなかった」


 カイルが、感心して、ミュミュを見た。


「お嬢ちゃん、教えてくれて、ありがとよ」


 ミュミュの機嫌は直ったようで、満足そうに笑っていた。


「ついでに教えてあげようか? 妖精は、『いろんなもの』が見えるんだよ。『ヒトの守護神』とかも」


 すっかり得意気になったミュミュは、マリスの目の前に飛んでいく。


「あんたの名前はねぇ、マリス・アル・ティアナ……えーと、あれ? なんだったっけ?」


 みるみるマリスの顔色が変わっていく。


「な、なんで、あたしのことを……」


 妖精は、ますます調子に乗って、続けた。


「守護神は、『雷獣神サンダガー』だね!」


 一同、驚きのあまり、絶句していた。


「ケインの守護神は、ジャスティ……いたっ!」


 ミュミュは、舌をかんでしまった。


「ええと、ジャスティ……何だっけ? もう、いいや。で、ちなみに、この金色の髪のおにいちゃんは……」


「ミュミュ」


 ミュミュがカイルに何か言う前に、寡黙(かもく)な魔道士が、珍しくその場を(さえぎ)った。


「人には、余計なことは、わざわざ知らせない方がいい。知ったことによって、不幸になることもあるのだ。私や、マリスのように」


「は〜い」


 甘えた返事をすると、妖精は、ヴァルドリューズの頬に、再びすり寄った。

 彼の言葉に、妙に重みを感じた一同は、マリスとヴァルドリューズを見つめる。


(もしかして、ヴァルもマリスも、特殊な能力を身に付けたため、或は、目覚めたために、国を追われたり、魔物と戦わなくてはならない宿命になってしまったとか? それとも、何か他にも……?)


 ケイン、カイル、クレアが、そのように考えている間、マリスは、うつむいて、唇をかみしめていたが、キッと顔を上げた。


「あたしは不幸なんかじゃないわ。運命なんて、自分のこの手で変えてみせるんだから!」


 静かだが、そう言い切った彼女の横顔を見つめながら、ケインは、なんとなく、自分は、それを見届けるんじゃないか、という気がしたのだった。


(それは、単なる俺の希望なのかも知れないけど……)




「おお、お待ちしておりましたよ。ご希望の品は、こちらでよろしいですかな?」


 一行は、鍛冶屋を訪れていた。

 異様な煙が立ち込め、何度見ても、不気味なところである。

 夜になっても、湖は静まり返り、その周辺でも、低級な魔物ですら出現しなかったところを見ると、異次元への出入り口は、ヴァルドリューズが確認したように、マスター・ソードの力によって、完全に閉ざされていたと言えた。


「さすが、噂通りの良い腕だな。これは、報酬だ」


 マリス扮するマリユスは、男言葉に切り替え、大金を支払った。


「こ、こんなに……ですかい!?」


 鍛冶屋は、驚いていた。

 見開かれた目は、より一層大きく、相変わらず、充血していた。


「それから、このことは、黙っていて欲しいんだ。万が一、鎧の持ち主に伝わってはマズいからな」


 そう言って、マリユスは、口止め料代わりに、更に金額を追加した。


「ふっふっふっ、これで、思う存分、暴れられるわ」

「……って、今までのは、違ったのか!?」


 不適な笑みを浮かべているマリスに、ケインは驚いていた。

 アトレ・シティーに戻る道中、マリスは、新品の剣を取り出し、クレアに渡した。


「これは?」

「クレアは剣持ってなかったもんね。これ、護身用に使って。メタル・オリハルコンで出来た、あたしの鎧の一部を使って、軽めに作ってもらったから、大丈夫。ヴァルに魔力を吹き込んでもらえば、魔法剣にもなるわ。それとも、魔法上達したら、自分でやってみる?」


 マリスが、ウィンクした。


「マリス、ありがとう! 大事にするわ!」


 クレアの瞳は潤み、美しく輝いていた。それを認めたマリスも、嬉しそうに微笑んだ。


「それと、そこの妖精サン、あたしは、ここでは『マリユス・ミラー』って名乗ってるんだから、人前では、違う名前で呼ばないでね」


 ミュミュが、パッと現れた。


「偽名使ったって、わかるヒトには、わかっちゃうのに」


 妖精は、ブツクサ言った。


「あの、ケイン」


 クレアが、ケインを向いた。


「私に、剣を教えてくれるの、今夜からでもいい?」


「わかった。でも、さっき、カイルに回復魔法をかけ続けてたから、疲れてるんじゃないか? 今日はもう遅いし、明日にしよう。疲れを取ることも大事なんだぜ」


「今は、そんなこと言ってられないわ。やっぱり、私が一番足手まといだもの。剣ももらったことだし、もう、誰の足も引っ張りたくないの。寝る前に、ちょっとだけでいいから、お願い」


 ケインは、クレアの瞳に、強い意志の光を見た。

 彼女も、マリス同様、自分で運命を変えようとしている人に、違いなかったのだった。


「わかったよ、クレア」


 ケインは、やさしく微笑んだ。


 宿に着いたときは、夜中であった。先に予約を済ませておいて正解だったと、一行は思った。

 ケインは、クレアには、剣の握り方と、構え方だけを教えた。


(今日はいっぱい歩いたし、釣りもしたし、モンスターも倒して、次元の穴を塞いだ。カイルは死にかけて、ミュミュは見つかった……いろんなことがあった。ロクに観光出来なかった城下町も、明日は、少しは見て回れるかも)


 宿屋のベッドの上で、そんなことを考えているうちに、ケインの意識は、すぐに眠りの中へと、引き込まれていった。


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