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Dragon Sword Saga1『旅の仲間(前編)』   作者: かがみ透
第Ⅲ話 黒い竜——ダーク・ドラゴンの力
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湖の怪物

 まるで、唐突に夜になってしまったかのように、辺りは暗くなっていた。

 湖から姿を現した、その巨大な生き物は、体中に藻や苔を付け、もとの色がわからないほどだ。

 四人が目を凝らしてよく見みると、白い触手が密生していた。

 中でも、一際(ひときわ)長い触手が三本、頂上でうねっている。


中級(ミドル)モンスターだわ!」


 マリスが、叫ぶと同時に立ち上がると、触手の一本が、クレア目がけて降りかかる。


「きゃああ!」


 とっさに、カイルが、クレアを草むらの上に押し倒した。


「クレア、カイル、大丈夫か!?」


 ケインとマリスが、二人に駆け寄る。


「ケイン! カイルが……!」


 起き上がったクレアは、青白い顔で訴えた。

 カイルが、右腕を押さえながら、ゆっくり起き上がる。


「お前、やられたのか!?」

「大丈夫だ……、(かす)っただけだ」


 とは言うものの、傷口は、皆が思ったよりも深く、紫色を帯びている。


「どうやら、あいつの触手は、毒を持っているようね」


 マリスが、モンスターから目を離さずに言った。


「毒ですって!?」


 クレアが泣き出しそうな顔で、カイルを見た。


「大丈夫だって……」


 というカイルの額には、早くも脂汗が浮かび上がっている。

 マリスが布を取り出し、カイルの腕の、傷よりも上に固く縛り、毒が全身に回るのを防いだ。


「即効性の毒を持つモンスターのようね。ちょっと厄介かもね」


 マリスがそう言う前から、クレアが毒治療の呪文をかけている。

 幸い、モンスターは、陸までは上がって来られないらしく、湖に浮かび、三本の触手をバタバタさせているだけだ。

 カイルの顔色が、ますます悪くなっていく。


「だめだわ。私の知ってる呪文じゃ、モンスターの毒には効かないみたい。いったい、どうすれば……!」


「落ち着くんだ。何か方法があるはずだ。とにかく、モンスターから離れよう」


 泣きそうな顔のクレアを諭すと、ケインはカイルを抱え上げ、なるべく動かさずに、クレアと、水辺から離れたヴァルドリューズのところまで避難した。

 そこで、マリスが、傷口に唇を押し当て、毒を吸い取り、吐き出した。

 血と混じった紫の液体が、草の上に溜まっていった。

 ケインが、マリスの肩に手を置く。


「代わるよ」

「いいえ。モンスターの毒の場合は、なるべく普通の人は、直接口に含まない方がいいわ。私は、免疫(めんえき)があるから、ちょっとは大丈夫なの。さっきの変な魚とかモンスター化したものを食べると、多少は魔物の毒に免疫が出来るって、じいちゃんから教わってて」


 クレアは、マリスの隣で、カイルに両手を向け、回復の呪文をかけ続けていた。治療にはならなくとも、失われて行く体力を少しでも補充するように。

 だが、それは、ほんのその場しのぎにしか過ぎない。カイルの生命は、危険にさらされていた。


「ヴァルは、まだ目覚めないのか!? 毒治療は出来るんだろ?」


「ええ、彼ならモンスターの毒治療も出来るわ。でも、こっちから呼び(さま)すことは出来ないの。彼の魂が、永遠に『時空のはざま』で彷徨(さまよ)うことにもなり兼ねないから」


 こんな時にーー!

 誰もが、同じ思いであった。


 ケインは立ち上がると、決意に満ちた瞳で、苦しんでいるカイルを見下ろした。

 意識が朦朧(もうろう)とし、半分目を閉じたまま、辛そうに肩で息をしている。


「死ぬなよ、カイル……!」


 ケインは、背中のバスター・ブレードを降ろし、布を解いた。

 湖の怪物は、白い触手をくねらせて、まるで手をこまねいてでもいるかのようだ。

 ケインは、バスター・ブレードを構えた。

 長い触手のうちの一本が、ゆるゆると近付く。

 間近で見て初めて、ケインにはわかった。その触手全体を、細かい(とげ)繊毛(せんもう)のように(おお)っていたのだと。


「この刺が肌をえぐり、毒を浸透(しんとう)しやすくするんだろう。ミドルモンスターなら、倒せない敵じゃない!」


 ケインは、触手の動きを見逃さず、間合いを詰めて、一本を斬りつけた!

 

 ぶしゅうううう!

 

 切り口からは、モンスター特有の、黒ずんだ緑の体液が吹き出した。

 それも毒を含んでいる可能性はあったので、念のため、バスター・ブレードを盾にして防いだ。


 モンスターは、痛みを感じているかのように、きゅいきゅい鳴き声を立てながら暴れ回り、残りの触手を振り回した。

 ケインが、同じように切り刻むが、数えきれないほどの触手が、次々向かってくる。

 その上、モンスター自身には、それほどダメージは見えない。


「やっぱり、本体を攻撃しないことには倒せないか。あんまり使いたくなかったけど、仕方ない」


 ケインは下がると、バスター・ブレードを地面に置き、そして、腰に下げていたマスター・ソードを抜き取る。


 クレアが回復魔法に全力を注ぐ間、カイルの応急処置を終えたマリスは、その場所から、戦況を見守っていた。


「いよいよ、あの『ドラゴン・マスター・ソード』を使うのね!」


 マリスは、自分が戦いたくてウズウズしていたが、モルデラではケインの戦いを最後まで見られなかったのを残念に思っていたので、この場では、見守ることに決めていた。


 もう一つ、カイルはもちろんのこと、クレアの心配もあった。

 カイルが自分を庇ったために危険な状態にあることに、おそらく、彼女は責任を感じているだろう。同時に、彼の命は、自分にかかっている、というプレッシャーで押しつぶされそうになっているクレアの側に、ついていた方がいいように思ったのだった。


 ケインは、バスター・ブレードを振った位置よりも、モンスターから距離を取り、触手を伸ばし、なんとか彼を捕えたそうにしているモンスターを見据えてから、口を開いた。


『剣に()まいし黒き竜ーーダーク・ドラゴンーーよ

 今こそ目覚め

 偉大なるその力を

 貸し与えよ!』


 ケインが剣を握り直すと、剣は、黒い影に覆われた!


「なっ、なんなの、あれは……!?」


 思わず、マリスは目を見開いて、その光景を見つめた。

 黒い影は、剣全体を包み、巨大化していくと、黒い炎のように、吹き荒れた!


 炎は、ダーク・ドラゴンーー長い首と尾、丸みのある胴体から生えた、悪魔のような、コウモリのような黒い翼を持つという、伝説の黒い西洋竜ーーの形を連想させた。


 ケインは、それを、モンスター目がけて放った。

 ダーク・ドラゴンの影は、モンスターの中心を、瞬時に、突き破って行った!


 黒い炎は消え、モンスターは貫かれたことに気付かないように、触手を、だらんと下げ、あたかも放心状態のようだ。


 すかさず、ケインは踏み込み、元に戻ったマスター・ソードで、次々と()いでいくと、きゅううう! と、モンスターは高い音を発し、湖の中へと、落ちて行ったのだった。


「な、なんだったの? 召喚魔法とは違うような……? ドラゴンそのものを召喚したんじゃなくて、影だけみたいな?」


 思わず呟いたマリスは、ケインをーーマスター・ソードを、食い入るように見つめた。

 モンスターが消滅すると、ケインが湖に向かって、構える。

 マリスたちの話から、『魔界への通路』を、塞ぐのだった。


 構えたマスター・ソードは、またもや実態のない黒い竜を出現させると、竜巻のようにぐるぐると渦巻いていく。

 先ほどの何倍もの大きな規模となってから、ケインは剣を振り下ろし、竜巻を湖に打ち降ろした。

 湖全体は黒々と染まり、あちこちでビカビカと、稲妻のように輝いている。

 光が収まると、ダーク・ドラゴンの影は消えた。

 怪物の姿もなく、湖の色も、徐々に、澄んだ碧色へと変貌していった。


 湖とケインの後ろ姿を見ながら、マリスは、満足したように、頷いていた。


 戦いが終わったケインは、安堵したり、満足感に浸る間もなく、カイルの元へと急いだ。


 彼の知らないうちに、ヴァルドリューズが、カイルを治療していた。

 草むらに座ったクレアが、カイルを抱きかかえ、心配そうな面持ちで見ている。

 その隣では、マリスが見守っていた。


「ヴァル! 戻ってたのか!?」


 ケインがほっとして、顔をほころばせた。

 ヴァルドリューズは、両手をカイルに(かざ)したまま、ゆっくりと顔を上げた。


「遅くなって、すまなかった」


 カイルの顔色が、徐々に良くなっていくのを見ると、皆も、ほっとしていった。

 治療が終わると、クレアの膝の上で、カイルが、うっすらと目を開いた。


「カイル! 大丈夫!?」


 カイルは、ぼんやりと、クレアを見つめた。


「……ああ、クレア? ……大丈夫だったか?」


 かすれた声で、かすかな笑いを浮かべていた。


「何を言ってるの! 私よりも、あなたの方が大変だったんだから!」


 クレアの瞳からは、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。


「ごめんなさい。私の為に、こんな目に……本当に、ごめんなさい……」


 クレアは、流れ落ちる涙を拭いもせずに、同じ言葉を繰り返していた。

 カイルは、横たわったまま、手を伸ばすと、彼女の涙を、指に吸わせた。


「大丈夫だって。俺には、きみの涙は、もったいない……」


 カイルは、涙を拭った手で彼女の顎を軽くつかむと、そのまま自分の顔へ引き寄せていく。

 ーーと、ケイン、クレア、マリスの三人の鉄拳が、彼に降り注いでいた。


「冗談だよ、冗談! ひでーよ、お前ら、ケガ人に寄ってたかってさ。おお、いてえ!」


 カイルは、起き上がって、腹と頭とをさすった。


「じょ、じょーだんで、こんなことっ、しないでよねっ!」


 クレアは、怒りの余り、言葉がとぎれとぎれであった。


「へー、じゃあ、本気だったら、良かったわけ?」

「あ、あなたって人は……! もうっ、最低っ!」


 クレアが、つんのめりかけて叫ぶ。

 マリスは、クスッと笑ったかと思うと、すぐに真面目な表情になった。


「ヴァル、あの湖を調べてくれる?」


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