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奪われた魔法剣

 空は、晴れ渡っていて、清々しい。

 ミュミュの言った通り、大通りの両側には露店がずらっと並んでいる。


 図書館に行く前に、ちょっとだけ見物しようと、ケインがクレアを誘ったのだった。そうでもしなければ、真面目なクレアは、気を抜けないと思ったからだ。


 おもちゃの短剣や、防具、マント、国旗、冠などを売っている子供向けの店や、動物を形どった置き物、いろいろな色や形をした石やアクセサリー、宝石などの店もある。

 クレアが、アクセサリーのひとつを手に取って、眺めていた。


「それ、気に入ったの?」


「ええ。でも、巫女は、お守りやまじないのアクセサリーしか、身に着けられないから」


「魔道士になるんだったら、多少は、おしゃれしても構わないんじゃないの?」


「そうだけど……」


 クレアは、どうしたものかと、迷っていた。


「おじさん、これ、ひとつくれる?」


 ケインの声に、クレアが慌てた。


「いいわよ、ケイン、わざわざ買ってくれなくても」


「いいじゃないか。こんな時くらいしか、プレゼントなんて出来ないんだから」


 何の気なしに購入すると、ケインは、シルバーのシンプルなデザインのネックレスを、クレアの首につけた。


「ほら、似合うよ」


 クレアは、頬を赤らめた。


「ありがとう。プレゼントなんて、もらったの初めてだわ。……嬉しい」


「そうなの? 巫女って、随分慎ましやかにしてなきゃいけないんだな」


 ケインは、カイルがもったいながるのが、わかる気がした。

 クレアは目鼻立ちも整っていて、控えめな美しさがあった。着飾れば、一国の王女に、見られないこともないだろう。質素な装いしか許されなかったとは気の毒に、ケインは思った。


「ミュミュにも、何か買ってーっ!!」


 いきなり、ミュミュがケインの耳元に現れた。


「うわっ、びっくりしたー! ミュミュ、どこから……? それよりも、カイル見なかったか?」


「知らない。さっきまで一緒だったけど、街娘たちに囲まれて、どっか行っちゃったよー。ミュミュ、ひとりでつまんないから、こっちに来たの」


 ケインは、またしても、彼に呆れた。


「まったく、あいつは! クレアに、『俺たちの側を離れるな』とか言っといて、いい加減な!」


 クレアも、彼の隣で、呆れた顔をしていた。


「それよりも、クレアに買ってあげたんなら、ミュミュにもアクセサリー買って!!」


「ええっ? だって、ここには、ミュミュに合うような小さいものは……」


 ふと、小指用の指輪を見付けた。


「これなら、足にはめられるかな?」


 ケインは、銀色のリングを、つまみ上げ、ミュミュがそこへ足を通す。


「わーい、わーい! はけた、はけたー!」


 その後、三人は、他の露店を見たり、ミュミュの希望で芝居を見たりした。

 見物客でいっぱいだったので、大通りには向かわず、少し離れた道を行くことにしたのだが、そこで、ミュミュは、どうしてもパレードが見たいと言って、消えてしまった。


「私、今まで、こんなに規模の大きいお祭りなんて、見たことなかったわ。もちろん、街の大きさ自体が違うんだけど、モルデラでは、収穫祭くらいしかやらなかったの。それも、毎回準備に追われているばかりで、全然見れなかったし……。今日が初めてよ、見る側に回れたのは」


 クレアが、晴れ晴れとした笑顔で語っている。

 苦労が多かっただろうと、彼女の今までを想像していたケインは、良かったなぁと、微笑ましく、彼女の笑顔を見ていた。


 その時、近くで悲鳴が聞こえた!


「助けてくれー! マリスー!!」


 聞き覚えのある声に、ケインとクレアは顔を見合わせ、声のした方に向かって、走り出した。




 狭い道を抜けると、空き家のような古い家が見え、裏は原っぱになっていた。

 そこで、カイルが数人の柄の悪い男たちに追いつめられ、殴られて吹っ飛んだのか、壁を背に、寄りかかっていたのだった。


 彼の魔法剣は、そのうちの一番大柄な男が持っていた。


(それにしても、こいつ、女に助けを求めるとは……)


 駆けつけて、呆れた顔をしているケインを見付けると、尻餅をついているカイルが、情けない声を出した。


「ああ、ケイン! ちょうどよかった! 助けてくれ!」


 ケインは、カイルと男達の間に入った。その後ろで、クレアがカイルを抱え起こす。


「ほう、知り合いがいたとはな」


 男たちは、町人のなりをしているが、この街の、出会って来た人々とは雰囲気が違っているように思えた。

 といって、山賊や盗賊とも違うようだ。


「五人がかりで一人を襲うとは、賊まがいのことをして、何のつもりだ」


 ケインが男達を見据えるが、彼らは答える気はないようだ。にやにやして、ケインを見回しているだけである。


「ケイン、こいつら、やっちゃってくれよ! ちくしょー、俺の剣を返せ!」


 カイルは、そう(わめ)いているが、ケインは、やたらに戦うことはない、話し合いで解決するならば、と思っていた。

 もっとも、このパターンで、今まで、話し合いが通用してきたことなどなかったが。


「この剣は頂いていく。ついでに、貴様の剣も、置いていってもらおうか」


 魔法剣を持っている男を除いた四人が、それぞれ剣を構え、じりじりと間合いを詰めてきた。


「取れるもんなら、取ってみな!」


 言うと同時に、ケインはマスターソードを抜いて、手前の者に向かっていった。

 ただし、剣は、あくまでも防御のためだけである。


 相手の剣の攻撃をマスターソードで(かわ)しながら、右手で続けざまに二人、腹と鳩尾(みぞおち)に重い一撃を喰らわす。

 下手に、顔などを殴るよりも、この方が、しばらくは苦しくて身動きが取れないからであった。


 彼らは、ケインが剣を使うものとばかり思っていたのか、少々面食らっている。

 すかさず、ケインは、ひらりと飛び上がると、『(かしら)』と思われる、魔法剣を手にした男の前に降り立ち、男の喉笛に、ピタリと剣を当てた。

 飛び越された男たちは、追いかけようと体の向きを変えたところで、足を止めた。


「さあ、その剣を、こっちに返してもらおうか」


 静かなケインの声に、頭目の額から、一筋の汗が、つつーと流れた。


 と、その時ーー

 何もない空間に、割れ目が出来た!


 垣間(かいま)見える空間の割れ目の中は、空とは全然違っていて、いろいろな色が混ざり合ったような、見たことのない景色であった。


 賊の頭目が悲鳴を上げ、暴れながら空中に浮かぶと、その中に吸い込まれていく。

 残りの賊たちもわめきながら、それぞれ宙に浮かび上がり、困惑しているうちに、空中にあちこち出来た、同じような他の割れ目へと、それぞれ消えていってしまった。


 恐ろしい恐怖の叫び声は、割れ目が消えるとともに、シャットアウトされた。


「……そ、そんな……! 何だったんだ、今のは……!?」


 ケインは、目の前で起きた光景に、驚きを隠せなかった。

 クレアも、声も上げられないほどであった。


「俺の剣ーっ!!」


 後ろから、カイルの叫ぶ声がした。


「ごめん、カイル。魔法剣、持って行かれちゃった」


 ケインは、振り向いて、「てへっ」と、笑ってみせた。


「笑ってごまかすなーっ! そんなこと、男がやってもかわいくないぞーっ!」

「やっぱり?」


 ガミガミとケインを(ののし)っているカイルには構わず、背を向け、ケインは腕を組んで、考えた。


「それにしても、空間に消えるなんて、あんなこと、奴らに出来るはずがない。あれは、魔法なのか?」


「私、さっき見たの。最初に、魔法剣を持った人が、割れ目の中に吸い込まれた時、中から引っ張っている手が見えたの」


 ケインもカイルも、クレアに注目する。


「あんなことが出来るのは、人間では、魔道士しか考えられないわ」


 がくっと、カイルが(ひざまず)いて、頭を抱える。


「ああ、なんてこったぁ! 俺の剣が、よりによって魔道士の手に渡ってしまうとは……!」


「でも、カイルの魔法剣の魔法は『浄化』で、ミュミュによると、精霊の意志が関係してるんだろ? だったら、たとえ魔道士が持っていたとしても、悪いことには使えないんじゃないか? ましてや、それを使って俺たちがやられることもないし」


 カイルが、がっくり肩を落として溜め息をつく。


「ケイン、お前って、つくづくおめでたいヤツだな。あんな、空間を行き来するなんて、相手は上級の魔道士だぞ? そんなヤツなら、他の魔法攻撃も出来るように、剣をちょっと改造しちゃうかも知れないし、だいたい、今、俺の身を守るものがないじゃないか! 普通の剣じゃ、中級モンスターを倒すことすらできないんだし、お前のバスター・ブレードみたいに、対魔物用に出来てる剣なんて、そこら辺には……」


 カイルは、はっとなって、ケインの手にしている剣を見た。


「ケイン、その、そのマスターソードってヤツを、俺に貸してくれ!」


 カイルは、すばらしい思いつきに、瞳を輝かせていたのだが……。


「……………………………………………………………………………………」


「そんな、不審な者でもみるような目つきで、俺を見るなよ。なっ? なくさないようにするからさ、貸してくれよー」


 無言で疑いの目を向けているケインに対して、カイルはヘラヘラと愛想笑いを浮かべた。


「カイル、ひとつ聞いていいか? お前ほどの腕なら、さっきの奴等なんか、簡単に追っ払えたんじゃないのか? それが、どうして?」


 カイルは、クレアの方をちらっと見たが、すぐに目を反らした。


「一緒にいた女を助けたかったら、武器を捨てろって言われたんだ。彼女が逃げてから殴られた。幸い、顔じゃなかったから、良かったけどな」


 クレアもケインも、呆れた視線をカイルに送った。

 二人と別れてから、それほど時間も経っていないというのに、もう女と知り合ったというのか。


(女の子を守ろうという心がけは立派だが、ことの始まりが始まりだから、同情出来ない。こんなヤツにマスターソードを貸したりしたら、女の身の保証と引き換えに、悪党どもに、簡単に売り渡さないとも限らない……)


 しばらく考えてから、ケインは、にこっと笑いかけた。


「カイル、武器屋に行って、お前の剣を見てみよう」

「わーっ! やっぱり、お前、俺を信用してないな!?」

「当たり前だ」


 二人のやり取りを、クレアは、しょうもなさそうに見ていた。


 クレアが、このことをヴァルドリューズに報告するついでに、勉強もするというので、二人は、図書館まで送っていった。

 クレアの初めての祭り見物は、呆気なく終了してしまったのが、ケインには可哀相に思えてならなかったのだが。


 それから、ケイン、カイルの二人は、武器屋に向かった。

 すれ違う町娘たちが、振り返る。


「傭兵の人たちだわ。外国人みたいね」

「格好良いわね」


 などという声がちらほらする。


(ふ~ん、カイルって、女から見ると、そんなにカッコいいのか。まあ、イケメンではあるけどな)


 と思いながら、ケインが隣を見ると、カイルは、すれ違い様、女たちに、ふっと微笑み、流し目を送っていたのだった。


「お前ー、そーゆーことして、女を(おび)き寄せてたのか!?」


 そこへ、二、三人の町娘たちが集まってきた。


「ねえねえ、傭兵さんたち、どこからいらしたの?」

「あそこの焼き菓子、とっても美味しいのよ」

「一緒に食べない?」

「じゃあ、お言葉に甘えて、お茶にでもしようかなー」


 はしゃいでいる娘たちに、カイルも、にっこりと、さわやかな笑みを送る。


(ホント、()りないヤツ)


 呆れているケインに、町娘の一人が話しかけてきた。


「そっちの傭兵さんも、いかが?」


 気が付くと、娘はケインに、誘うような、()びた目を向けていた。


「いらない。食べたくない」


 ケインは、無愛想に、つっぱねた。

 その反応にしらけたように、町娘たちは去っていった。


「お前さあ、彼女たちに失礼だろ? せっかくの好意をそんな簡単に無にするもんじゃないぞ」

「武器屋に急ぐぞ」


 ケインは、ぶーぶー言うカイルには取り合わずに、進んだ。

 祭りのせいで、町全体が開放的になっているようだった。

 先ほどとは違う娘たちが、こちらを見て、黄色い声を上げていたかと思うと、またしても彼らは囲まれていた。


「あのう、どちらから、いらしたんですか?」

「話すほどのところでもない」


 やはり、無愛想に振る舞うケインだった。


「旅の傭兵さんなんでしょう? いろいろお話聞きたいわ」


 カイルが何か答えかけていたが、ケインは、彼の首根っこを抱え込んだ。


「俺たちは、恋人同士だから、放っておいてくれ」


 町娘たちは、さーっと、いなくなってしまった。


「あーっ! お前、何てこと言うんだよー! 皆いなくなっちゃったじゃないか!」


 カイルが、ギャーギャー言っても、ケインは無視した。


「あのなあ、町娘の中には、同じ町の男なんかよりも、外の国で戦ってきた強い男との恋を、夢見てる娘だっているんだぞ。平凡な生活の中にいるからこそ、よその国から来た、旅のたくましい男と、燃えるようなひとときを過ごしたい。


 そういう女心が、お前には、わからないのか!? それを、お前は、むざむざと、よりによって、俺たちが恋人同士だなんて、ふざけた言い訳しやがって、あの娘たちの純粋な気持ちを踏みにじったんだぞ!」


(よくもまあ、そこまで自分に都合よく考えられるもんだ。早い話が、それにあやかって、自分がオイシイ思いをしたいだけだろ?)


 ケインが取り合うのもバカバカしく、黙っているのをいいことに、彼は喋り続けた。


「お前さあ、女嫌いなの? それとも、女が怖いとか? もしかして、ホントに男が好きとか?」


 ケインは無視して、勝手に言わせていた。


「あ、わかった! 実は、好きなヤツがいるんだろー? 誰だよ、白状しちゃえよ、黙っててやるからさ。郷里(くに)に置いてきてるとか? 仲間内か? クレアか? マリスか? それとも……ヴァルドリューズか!?」


 ばたっ!


 転んだケインは、ゆっくりと立ち上がった。


「俺は、進んで恋人作るようなマネはしない。旅は続けるし、戦いの中でいつ命を落とすかわからない身だろ? 残された女の方はどうなる? ずっと俺を引きずって生きていけってのか? そういう思いはさせたくないし、別れが辛くなるようなことは、わざわざしたくないんだよ」


 言っていて、彼の中のどこかが(うず)いたような気がした。だが、それは、以前ほどではないと思った。


「俺だって、そんな殺生なことはしたくねーよ。だからさあ、その時だけでいいっていう娘を見付けるんだよ。お互いがそういう気持ちなら、後腐れだってないんだからさあ」


 キッと、ケインがカイルをにらむ。


「俺は、そういう考えは持ち合わせてない」

「ふ~ん、あっそ」


 カイルは、面白くなさそうな声を出した。




生憎(あいにく)、さっきちょっとパレードを見に行ってる間に、いい武器は盗まれちまったみたいでね。今は、これくらいしか残ってないんだよ」


 武器屋の主人の話に、二人は唖然となった。


「おい、頼むよ、おじさん。パレードが見たかったら、ちゃんと店番置いとけよ」


 カイルが文句を言った。


「いやあ、町の警備隊も、パレードの護衛で手一杯でさ、頼めるのがカミさんくらいしかいなくてさ。そしたら、いきなり五人くらいの男が押し入っていて、いい剣をみんな持っていっちまったんだそうなんだよ」


 ケインとカイルは、顔を見合わせた。さっきの五人組だろうか?


「その五人て、賊か?」


「いいや、盗賊とは違うらしい。ちゃんとした、そこら辺の町人の服を着ていたようだし、カミさんのことを脅して、武器を盗っていっただけだったしなあ」


「パレードの時間ていったら、お前が襲われてた頃だぞ」

「奴等の一味かな」


 ケインとカイルは、ひそひそ話し合った。


「おじさん、宿屋の近くに鍛冶屋があるだろ? あそこで剣を作ってもらったら、どのくらいで出来上がるかな?」


 ケインが尋ねる。


「そうだねえ、今日は祝日で、皆浮かれてるからねえ、まあ、明日中には、作り始めてくれたにしても、二、三日はかかるだろうなぁ」


「冗談じゃねーや。剣が出来上がるまで、ケインかヴァルが護衛でずっと一緒か。それじゃあ、女の子たちと、茶も飲めやしねぇ」


 カイルの(つぶや)きが、ケインにも聞こえる。


「しょうがないなー。じゃあ、ここにある剣の中から、カイル、好きなの選べよ」


 剣が出来るまで、彼のお喋りに付き合える自信は、ケインにはなかった。


 今思うと、湖の鍛冶屋は、甲冑と剣を半日で作れたというのは、腕が良かった、または、不思議な力でも使えたのかも知れないな、などと、ケインはうっすら思った。


 その間に、カイルは、柄のところに、ちょっとした細工のある普通のロング・ソードを選んだ。


「ありがとさん。じゃあ、ちょっとおまけして、二〇リブルでいいよ」


 店の主人が、愛想笑いで言った。


「ーーだってさ、ケイン」


 と、カイルは、ケインの肩に、ぽんと手を乗せる。


「は? カイル、お前、マリスからもらった金は?」

「どっかで落としてきたらしい。てへっ♥」


 彼は、頭を掻きながら、笑っている。


「ホントだ。男がやっても、かわいくないっ!」


 恨めし気に見るケインに、カイルは、一層ヘラヘラしてみせた。


「『色男、金も力もなかりけり』って、言うじゃないか。はははは」

「そんなこと、言わないぞー」


 ケインは、仕方なく、カイルにまでプレゼントをあげる羽目になってしまった。


「さんきゅー、ケイン! だか、これは、これとしてだな、俺の魔法剣は、お前がちゃんと取り戻すんだぞ。お前は、俺の剣を目の前にしていながら、みすみす奴等に引き渡してしまったんだからな。その責任は大きいぞ!」


 仁王立ちになっているカイルに、ケインは絶句していた。


 武器屋では、ついでに、警備の仕事のことも聞いてみるが、もう募集は終わったということであった。

 今日のところは、よろず屋としての仕事も見付かりそうもない。


 武器屋を出ると、もうパレードは終わっていて、大通りは閑散としていた。


「何してたのー? パレード終わっちゃったよー」


 ミュミュが、二人の目の前に現れた。


「面白かったか?」

「うん!」


 ふと、カイルが、ミュミュの足元に目をやる。


「あれ? ミュミュ、どうしたんだ? 足枷(あしかせ)なんかはめて」


 ミュミュが、みるみる膨れっ面になる。


「違うもん! あしかせなんかじゃないもん! これは、アンクレットだよー! オトナの女の必需品だよー! ケインがミュミュにプレゼントしてくれたんだ~」


「ほー、ケインがねぇ……」


 カイルが、ケインを横目で見る。


「……お前、不毛だなー」

「なっ、何を言い出すんだ、何を……!」

「どうりで、普通の女に興味が持てないわけだ」


 カイルは、うんうん頷いて、一人で納得していた。

 それには構わず、ミュミュが切り出す。


「今晩、アストーレ城では、姫様の誕生パーティーが開かれるんだって。各国の特使やら、王子様やらが来て、一緒にお祝いするんだよ~。ステキだね~!」


 ミュミュは、浮かれまくっていた。


「ねーねー、ちょっとだけ、見てみようよ~!」


「無理だよ。お城じゃあ、警備も充実してるし、ミュミュだけで見に行ってきなよ」と、ケイン。


「ふ~ん、わかった」


 ミュミュは、つまらなそうに、ぱたぱた飛んでいった。


「腹減ったなー」


 カイルが腹をおさえた。


「何か食うか?」

「そうだな」


 カイルとケインは、早めの夕飯を食べに、酒場へ行くことにした。


 一行は、いつも酒場で落ち合っていた。行けば、もしかしたら、マリスに会えるかも知れないと、ケインは思った。


「カーッ! うめえ! 一汗かいた後は、やっぱり木の実酒に限るぜー!」


 カイルが、酒の入ったツボを、どんとテーブルに置いた。


(こ、こいつ……何もしてないくせに)


 ケインは、トリの(かまど)焼きに手を伸ばしながら、カイルをたしなめる。


「おい、あんまり飲むなよ。カネがないんだから。まったく、どっちが年上なんだか……。だいたい、お前の長剣が、無駄な上に一番高かったんだぞ」


「わかった、わかったっつーの」


 そのうち、クレアとヴァルドリューズも現れ、同じテーブルを囲んだ。

 ケインは、クレアからヴァルドリューズも聞いているであろう、北の森の話をし、後で見に行こうと持ちかけた。


「で、そっちは何か収穫はあったか?」


 カイルが、むしゃむしゃミシアの実をかじりながら、ヴァルドリューズを見る。


「先ほどから、たまにだが、魔力の波動を感じる」


 ヴァルドリューズが、無表情に語る。


「それは、やっぱり、アストーレ城の宮廷魔道士のものなんだろうか?」


 ケインの質問に、彼は首を横に振った。


「ひとつだけではない。違う波動がいくつかあるのだ」

「いくつか……?」


 皆、顔を見合わせた。


「もしかして、ミュミュの言う、王女の誕生パーティーに出席するために来た、外国特使たちの中に、魔道士がいるんじゃ?」


 ケインに向かって、ヴァルドリューズは、ゆっくりと頷いた。


「この国には、あまり魔道が伝わってきたという記録はなかった。だからこそ、参謀になったという宮廷魔道士が現れた時は、相当珍しかったに違いない」


「今のところ、この国の魔道士は、彼だけみたいよ」


 ヴァルドリューズに次いで、クレアが静かに言った。


「てことは、俺の魔法剣を持ってった奴らは、外国の奴かもしれないのか」


 カイルが、面白くもなさそうに、木の実酒をがぶっと飲んだ。


「武器屋から、良い剣だけを盗っていったのも、その仲間だとすると、奴ら、武器ばかり集めて、何を始める気なんだろう?」


 ケインが、皆の顔を見回し、問いかける。


「ま、外国の奴等の仕業(しわざ)だとすると、王女のパーティーとやらで、しばらくはこの国に滞在するんだろうな。その間に、俺の剣を取り返せばいいってことか。けっ、長期のご滞在を祈るぜ」


 カイルが投げやりに、酒のツボを置いた。


「だから、パーティー見に行こうってばーっ!」


 またしても、突然ミュミュが出現した。


「カイルの剣も、きっとあるよ」ミュミュは、にっこり笑った。


「適当言うなー!」カイルが泣き叫んだ。


「何にしろ、一見の価値はあるかも知れんな」


 ヴァルドリューズが、静かに言った。


「北の森を調べるのは、魔法剣を取り戻してからでも、遅くはないだろう」


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