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召喚された先の美形王子が帰らないでと縋ってきますが、いえ結構、帰りますね

作者: 佐伯帆由
掲載日:2026/08/09

下品ですみません。お食事中の閲覧はやめた方がいいと思います(平伏)

「あなたは今、生死を彷徨っています」


 白い部屋で、突然私は告げられた。


「残念ながらあなたが生き延びる確率は高くないと言わざるを得ないでしょう。でもわたくしは、あなたを救うことができる」


 私、まだ十六歳。突然天に召されるには早すぎないか?呆気に取られて口を開けたまま身動きすらできない私に、女神様(だろう、多分)は続けた。


「何があったか覚えていますか?」


 女神様の問いに、私はノロノロと頷いた。あまり口にはしたくない。


「わたくしの願いを聞いてくれるなら、あなたは生還できるでしょう。そして無事に生還した際、何か一つ恩恵を与えると約束します。どうしますか?」


 どうしますかと言われても。

 

「それは、あなた……様の願いは何なのかってことと、いつ帰れるのかによりますね。それと、なぜ私なのですか?」


 なぜ私なのかというと、聖女たる条件を揃えている上に、私の置かれた状況から胆力がありそうだと踏んだんだって。もちろん、今この瞬間に生死を彷徨っているからが大きいんだそうだけど。

 詳しく話を聞いて、私は女神様の願いを引き受けることにした。


 私が不思議な世界にやってくると、ものすごく歓迎された。そして豪華な部屋に連れてこられた。

 私がさせられたのは、自分の髪で布を織ること。しかも、機織り機には「歴代聖女様」が織った布、つまりは髪が残っていて、この続きを織らなければならないらしい。

 この「布」、瘴気を払う力があるらしいんだけど、時間の経過でどんどん薄くなって、ついには消えてしまうんだそう。だから次々と新しく織っていかなければならず、定期的に聖女が必要となる、ということらしかった。

 私に課せられたのは、「小指の長さまで新しく布を織ること」だ。なーんだと思うなかれ。結構な作業ですよ、これ。細い布とはいえ、まず作業を覚えなきゃならないし、髪を糸に縒らないといけないし、髪がいっぱいいる。長い髪でよかった。

 そして「お約束を果たしました、帰ります」と声に出せば帰れるという仕組みになっている。きちんと小指の長さまで織れていれば、恩恵をもらえるのだ。そうでなかったとしても帰れることは帰れる。だから私は粛々と作業を進めた。

 だが、とても辛い滞在となったのは、この作業のせいではなかった。


 私がこの不思議な世界に長くいて、布を織れば織るほどこの世界の安泰が長く続くわけで、見目のいい、煌びやかな格好の王様やら王子様やらが私を歓待する。「小指の長さまで織り終わってもそばにいて」だの「帰らないでほしい」だのと言ってくる。

 いや、帰ります。だってここ、不便すぎるんだもの。

 夜なんか真っ暗。昼でもだいぶ薄暗い。窓が小さい上にガラスが、なんていうか、透明じゃないんだ。どうしても暗くなる。

 なんといっても不潔。手を洗う習慣も、お風呂に入る習慣もない。だから誰もが常に臭い。相当キツイ。人が集まったりすると、卒倒しそうになる。

 町になんか絶対行きたくない。王子様とお忍び視察デート?イヤです。だって、町にはトイレがなく、そこら辺でするしかないし、そこら辺に捨てるしかなく、道には排泄物が溢れてるんだって。それを狙った虫だの小動物だのが運動会してるらしいじゃないですか。無理です。城にだってトイレはないけど、「トイレ区画」があってその中の茂みなんかで用を足すそう。トイレ区画以外のところはマシなので、布を織りに行くのは我慢できるけど、長居はお断り。そこの「トイレ」を使いたくないもの。私は離宮をもらって私以外は絶対に立ち入れないエリアを作ってそこに住んでます。え?私のは穴掘って埋めて、体をいちいち洗ってます。大変なのよ。


 ご飯もマズい。たいていは、なんの肉だかよくわからないものが、なんの汁だかよくわからないもので煮てある。おいしくない上に脂まみれの食事に辟易して改善を要求したら、この肉が口に入るのは王侯貴族の特権だというのに、なんと贅沢好みの聖女様なのかと言われた。それじゃなくても私は大量の水を使うので、相当な負担になっているんだとか。私としてはギリギリまで節水に心がけているつもりだけどなあ。なんだかなあ。

 ああ、お風呂に入りたい。シャワーを流しっぱなしにして髪を洗いたい。ゆっくり肩まであったかいお湯に浸かりたい。

 アイス食べたい。帰ったら、あの一月分あるアイスクリーム店で、全種類食べまくってやる。甘いもの食べるたびに虫歯の心配もしなくていいしね。こっちじゃ虫歯の治療法なんてないから、痛みに耐えるだけ、痛み止めもないし。そしてひどくなったら抜くんだって。ゴリって。もちろん麻酔なんかない。怖すぎる。歯磨き粉万歳。


 それでもこの世界の人々は、なんとか私が帰らないように、いろんな方法で繋ぎ止めようとしてくる。ある日なんか、王子様が求婚してきた。


「君を大切にして愛し続けると誓うよ」


 いや現時点で嘘じゃん。あなた奥さんいるでしょうが。複数人。そう言って断ったら、あいつらはただの愛人で妻じゃない、妻は君一人だとぬかしやがった。論外です。


 そもそも、こんなところで結婚したり出産したりなんか、できるもんか。衛生状態も栄養状態も悪すぎて。そう思うでしょう?女神様には私は胆力がありそうと言われたけど、頼まれた約束を果たしたら、もう速攻で帰ります。


「なんでこんなに金銭を費やして歓待しているのに、誰も長続きしないんだ!みんなすぐに帰りたがる!」


 王様が喚いてた。王侯貴族としての名誉も贅沢な暮らしもできるのに、だって。そもそも召喚には長い年月と労力が必要な上に、せっかく召喚に成功してもみんな布が織り上がるとすぐ帰ってしまうらしい。布織りを拒否する人も多く、半日で帰った人もいるんだって。いや当然だと思う。

 私も、女神様との交換条件を了承した手前、一応約束は果たします。だけど、その後にまでこちらに残って尽力しなきゃならない義理はありません。一秒でも早く帰らせていただきます。


 女神様もそろそろ、こんなやり方やめればいいのにと思う。でも聖女の召喚はこの世界への恩恵で、召喚された者の希望を叶えることが私たちの世界への恩恵なんだって。どちらも、約束を果たす限りは恩恵を与え続けるそうな。

 もう少し文化が近いところから召喚すればいいのに、とも考えたが、聖女の条件が、毎日髪を洗う習慣がなければならないらしい。酷い話だ。こんな女神様が支配する世界に生まれなくて良かった。恩恵は貰うけどね。この苦行への正当な報酬です。


 で。私への恩恵なんだけど。

 女神様が与えられるのは「能力」なんだって。物とか私以外の人への干渉とかはできないらしい。だから私への恩恵はどうしても「何かが上手くなる」とか「何かができるようになる」とからしい。

 その上、ぼんやりと「絵が上手くなりたいなぁ」とかではダメで、もっと具体的に「色彩感覚が鋭くなる」とか「立体把握能力が高くなる」とかを叶えてくれるんだって。

 私、「頭が良くなったらいいなぁ」と思っていたんだけど、そういうのはダメだったので「言語化能力の向上」を願いました。昔から、自分の気持ちとか行動とか、上手く説明するのが下手すぎて嫌だったんだよね。両親にされてきたことを上手く説明できなくてさ。でもこれで、然るべきところで説明できる。

 どこまで能力が向上するかは元々持っている地力によって差があるらしいから、私の場合多分大したことはないんだろうけど、それでも随分助かるよ。

 帰ったらこの言語化能力を使って物語とか書いちゃおうかな、自分の体験談を元に。ここでの出来事とか、両親にされたこととか。ふふ、楽しみ!そしたらみなさん、読んでください。お願いします。


という物語を書いているということは、無事に戻ってこれたんですね。良かった良かった。応援してやってください(便乗宣伝)。

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