‐〖3年生の冬〗‐
——キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴り響くも、反応する生徒はいない。今日もまた、校内全体を非日常感が包み込んでいた。
巨大な段ボールを塗装していたり、高らかな声を順に上げていたり。廊下を歩いていれば教室ごとに全く違う様子を観察出来た。
檜佐木は校則違反者がいないかだけを横目で確認しつつ、校舎を出る。外でもハレの日へ向けた準備は盛んに行われていて、到来し始めた寒さをすっかり忘れていた。
彼は今日も生徒会の仕事だ。校舎の裏手へと回り、ゴミ置き場近くにやって来る。そしてメジャーを取り出すと、書類に記載された数値と比べるため計測を始めた。
現在校内では至る所で廃棄物が出てくるせいで、ゴミ置き場には頻繁に生徒が訪れる。檜佐木の作業中も同様に、二人の男子生徒がゴミ袋を抱えてやって来た。
「これってさぁ、分別しないといけないのー?」
「捨てる場所分けられてるし、した方が良いんじゃない?」
「ぐえー、めんどー」
その声に聞き覚えがあり、檜佐木はチラリと視線を向けてしまう。やはり知った顔だ。
田中努夢と如月葉太郎。以前面談をした都市伝説解明部の部員だった。
彼らはしゃがんで作業している生徒会副会長には気付いていないようで、律儀にゴミを分別しながら会話をしていた。
「やっぱさー、3年になるとみんな手抜いてるよねー」
「まあ仕方ないでしょ。就職活動とか受験勉強しないとだし。てか葉っぱはホントに大丈夫なん?」
「うひー働きたくないよー。……でも、うーん、やっぱ決めないとだよねぇ」
檜佐木は全ての数値を確認するまでその場を離れる訳にはいかず、期せずして上級生の悩み事を耳に入れてしまう。それでも記憶はしないようにと手元に集中した。
「ドムはさっさと決めて偉いよなぁ。もう内定貰ったんでしょ?」
「貰ったけど、別に偉くはないよ。親に言われるがままだったし」
葉太郎がゴミ袋からペットボトルを取り出し、それを受け取った努夢がキャップとラベルを外してゴミ箱へと投函する。葉太郎の方が単純な工程で、袋から出されたペットボトルはどんどんと地面に並べられていった。
「それにさ、別に特別な仕事でもないから。数年後には機械に奪われてるかもだし」
「特別かぁ……」
悲観的な苦笑に、ぼんやりと何かを思い浮かべる。それが手持ち無沙汰なだけだとすぐに察した努夢は、手伝うように葉太郎を窘めた。
「うわぁ、残ってるやつ手に付いた……」
「はは、どんまい」
要領の悪い友人を慰めつつ、最後のキャップをゴミ箱へ入れる。それから他の分別へと移った努夢は、ふと零した。
「……部活も、このまま続けてもだよな」
「え?」
雑草で手を吹いていた葉太郎が聞き返し、それに努夢はどこか気まずそうにしながらも本音を打ち明ける。
「ほら、3月にはもう卒業だし、なによりおれは免許取らないとだから、1月には忙しくなって時間なんてないんだよ」
「い、1月ってもうすぐじゃんっ」
「そうだよ。おれらはもう3年生なんだから、」
残された猶予の短さに、葉太郎は今更な驚愕を表した。その暢気な様子に努夢はやっぱり苦笑を浮かべ、けれど突き放そうとする言葉はどうにか飲み込む。
少しだけ言葉に迷いつつ、結局同じ問答を繰り返した。
「葉っぱは、マジでどうすんの?」
「えーでも、部活楽しいし、てか、ボクらが女子とお近付きになれる機会なんてもう今後絶対ないよ! しかも可愛くて年下! メイドだってやってるんだよ!?」
「まあ、ないだろうけど。でも、進路は決めないと」
「えー。うーん……」
それだけ言ってもやはり答えは出てこない。だから結局、努夢の表情は穏やかなものへと戻ってしまう。
「ま、バイトでも生きてはいけるよ。けど金ないとつまんないぜー。おれはとにかく給料貯めたらパソコン組むんだ」
「おおっ、ゲーミングっ? いいなー!」
目を輝かせる葉太郎に、努夢は自慢げにかじったばかりの情報を羅列する。専門用語の解説を少し間違えていても、聞き手が詳しくないのだから指摘される事はない。
それから少しして計測を終えた檜佐木が立ち上がると、その姿にようやく二人は気付く。
「あ、副会長だっ」
「え? あ、ホントだ。ども……」
葉太郎の言葉に努夢も視線を向け、会釈された副会長は丁寧に頭を下げ返した。
「こんにちは」
それに二人は思わず二度目の会釈をして、けれどそれ以上は返せず沈黙が流れる。
檜佐木の方も話しかける用事はなかったため、メジャーをしまうとその場を離れていった。その背中を、二人はジッと見つめている。
「なんか、アピールしといた方が良かったかなぁ?」
「おれたちゴミ捨て上手です、って? なんになるんだよ」
「ボクたちの部は環境に配慮してますっ、とか?」




