‐〖部活動〗‐
定例会議を終えた生徒会室。五人はそれぞれの仕事で未だ居残っていた。
「副会長ってさ、休日何してんの?」
録音データをイヤホンで聞きながらノートに書き起こしていた書記が、ふと話題を投げる。同学年からの気軽な問いかけにも、副会長は変わらず丁寧な口調だった。
「街の散策やネットサーフィンが多いですかね。知らない場所や物事に触れて、見識を広めています」
「じゃ、街中で見かけたって話よく聞くけどホントなんだ」
「そうだと思いますよ。実際に生徒とバッタリ出くわす事も何度かありましたしね」
「ふーん」
と区切りがつくと、質問の最中に作業を止めていた書記はイヤホンを外してノートを閉じる。それから「んじゃ俺そろそろ」と席を立った。どうやら雑談は、退勤を切り出すきっかけだったらしい。
その書記から議事録を受け取った会長は、ついでにと話題も引き継ぐ。
「檜佐木くんって結構アクティブなんだねー。あたしは休みの日、寝てばっかいるよ」
「休日ですから、好きなように過ごすのが正解だと思いますよ」
そう多様性を認めながらも、出来上がりをろくに確認もせず承認を行おうとすればすかさず咎めを飛ばしてくる。話の途中であっても見過ごされる事はなかった。
すると今度は庶務が話を膨らませる。
「そういえば副会長、明日は部活動調査があるんですよね?」
「え、休みに?」
「ええ。土曜日も学校に来ている予定です。活動しているところを実際に見て判断してくれと言われましてね」
休日返上に文句もなく仕事熱心なその姿勢に、丁度帰宅準備を終えた仕事嫌いが眉をひそめていた。
「うへ、大変だねー」
心のこもっていない同情を送りつつ、「それじゃお先にー」と書記は生徒会室を去っていく。それに、業務で余裕のない会計以外の三人は、挨拶を投げ返して見送った。
扉から視線を戻した会長は、その手を止めつつ話を再開させる。
「それで、どこの部の調査なの?」
「都市伝説解明部です。活動自体は放課後でも行っているようなのですが、どうしても休日にお願いしたいと言われましてね」
「また変な部活だねぇ。にしてもわざわざ休みの日になんて、なんかきな臭いぞ……」
「いえ、大した理由ではないと思いますよ。それより早く目を通して下さい」
またしても仕事から逃避しようとする上長に、副会長は腰を持ち上げその傍に立った。彼女が閉じたノートを開き、改めて初めの文章から誤りがないか確認させる。
それと同期したように庶務も、手こずりすぎている会計に計算を教えていた。二組の付きっきりのサポートは、生徒会室ではよく見る光景である。
「ところでその休みの調査って、あたしもついていっていい?」
監視されている状況に不服そうな会長は、仕方なく仕事を行いつつ問いかける。作業の進捗を認めた副会長は、自分の仕事に戻りながら応えた。
「そう仰られる可能性も考慮して、都市伝説解明部には調査人員が増えるかもしれないとは伝えてあります」
「えっ、あたしの心読んだの!? やめてよねもうっ」
冗談交じりに過剰な反応で胸を隠す会長。対して返されるのはいつもの単調な声音だ。
「想定の一つが当たっただけですよ。午前10時頃集合ですが、どうされますか?」
「え、あ、うん、行くよ! 勝手に廃部にされても困るしね!」
当日の予定も確認せず反射的に頷く。その頬はちょっとだけ紅潮していて、まるで言い訳するような美吉梓沙だった。
*
空気もすっかり縮こまり、吐く息は時折白くなる。
日が高くなってから眺める校舎は少し違った風景に見えた。影の形に静かな環境音。バス通学とは異なった視点の高さもあって、余計に非日常感が漂う。
長い坂道を登ってきた檜佐木和賢は、校門前に一人で佇む女子を見つけた。
「あ、檜佐木くんっ?」
確かめるように顔を覗き込んでくる彼女は見慣れた制服を着ていて、だがその綻ぶ表情はいつもより明るく見えた。
集合場所よりも随分と手前で待っていた美吉梓沙に、檜佐木は会釈する。
「おはようございます、美吉さん」
「おはよー。てか私服派手だね!?」
初めて見る休日の姿に、美吉は改めて驚愕を声にした。
ピンクのダウンジャケットの下に白いTシャツ。足を覆うのは黒のジーパンで、ダメージのように入った亀裂から内側の黄色い生地が覗いている。スニーカーのベースは灰色ながらピンクのラインが入り黄色い紐で結ばれていて、鮮やかな差し色が目立っていた。
更にトレードマークとも言える眼鏡もいつもの銀縁とは変わって、太い黒縁にツルはまたまたピンク。首元に提げられる紐状の飾りは赤青黄が交わりこれまた目を引いた。
校内での姿を見慣れている分、美吉は一目見た時本人かを疑ったようだったが、檜佐木にとっては特別な格好でもない。
「服の組み合わせは強めの色を入れる方が好きでして」
「ほへーギャップだねぇ。でもうん、センスは良さげ!」
「褒めて頂けて光栄です。美吉さんも、メイクをしてらっしゃるのですね。とても良さげです」
「あ、気づいた? へへーやってみたー」
挨拶の延長に区切りをつけると、二人は並んで歩き始める。校門を通り抜け、本来の目的地へと目指した。
休日とあっても学校敷地内には部活動のためかチラホラと人を見かける。通りがかった生徒は漏れなく檜佐木のピンクに視線を誘導され、それが堅物で有名な生徒会の副会長と知ると二度見を披露した。
美吉も歩きながら隣を見やっていて、目が合うと誤魔化すように問いを投げてくる。
「部室ってどこなんだっけ?」
「旧校舎の3階です。教室に使われていた場所なので、広くて寒いかもしれませんね」
と言って檜佐木は使い捨てのカイロをポケットから取り出した。手の上で擦れ少し温まってきたそれを、上着も着ずに寒そうな女子へと手渡す。
「どうぞ、ぜひ使って下さい」
「え? あ、ありがと……」
突然の気遣いに返した礼は消え入りそうな声で。しかし言い直す事も出来ず、彼女は相変わらずの横顔を見つめながらギュッと熱を握った。
新校舎を通り過ぎ、体育館も超えた先に階段が現れる。雑草茂る斜面の中に埋もれたように上っていく石段。一段高いその平地が、元々の檀々高校の敷地だった。
今でも使われている施設はあるものの、全体的に手入れが行き届いていない印象を受ける。階段を上がり一番最初にそびえる旧校舎は、新校舎に比べて高さも面積も劣っていて、木造建築の外観が余計古びた雰囲気を醸し出させていた。
「旧校舎、久しぶりに来たなぁ」
「私は図書室を利用しに時々来ますね」
「図書室だけこっちってちょっと不便だよねー。まあこっちじゃなくても使ってないだろうけど」
旧校舎の玄関は、形だけなら新校舎とほとんど同じだ。大きく開く入り口の扉に、等間隔で並ぶ下駄箱の島。当然今はその収納スペースに名前は割り振られておらず、用のある者は自由に靴を入れ、上がった先で箱にまとめてある来客用スリッパに履き替える。
足音を変えて二人は廊下を歩き階段を上って、そうして目的地へと辿り着いた。
15年ほど前まで3年3組として使われていた教室。戸の向こうからは話し声が聞こえ、檜佐木がノックしようとした所で勝手に開かれる。
「待ったっすよー!」
出迎えたのは羽原兎だ。セミロングのピンク髪を耳上から後頭部にかけて編み込んでいる1年の女子生徒。彼女も服装は制服だった。
休日である今日ここに呼び出した張本人へと、檜佐木は丁寧に頭を下げる。
「おはようございます、羽原さん」
「おはよーっす。あ、生徒会長も一緒なんすね。どうぞどうぞっす」
「あ、ども」
入室を促され、初対面の美吉はぎこちなく檜佐木に続いた。
足を踏み入れた教室は、机や椅子のほとんどが撤去されていて無駄に広く感じられる。カーテンもないため鋭い日光が窓から差し込んでいた。
残されていたのか予備を運んできたのか、空間の中央には四組の机と椅子がポツンと置いてあり、そこに対面で座っていた二人も部外者に気付いて顔を上げる。
「あ、生徒会……」
僅かに表情を強張らせる痩せ型の3年生男子——田中努夢。以前檜佐木が面談したこの部の部長である。
「生徒会っ!?」
勢い良く振り向いた小太りな部員は、努夢と同級生の如月葉太郎であり、彼は躓きながらも立ち上がると大仰に両腕を広げた。
「よ、ようこそっ! ここは楽しい都市伝説解明部ですぞっ!」
「あははー、かますっすねー」
「「……」」
突然に行われた過剰なアピールに、ただでさえ寒い室内は凍り付く。
兎は笑い、生徒会の二人は何を発すべきか逡巡していると、この空気を作り出した当人が顔を青ざめさせ、果てには親友へと泣きついた。
「や、やらかしたよー!? これで廃部になっちゃう!? ごめんよドムーっ!?」
「いやいやまあ、そんなに悪くなかったって。良い感じに威嚇出来てたぞっ」
「ほ、ほんちょぉ?」
最上級生二人が仲睦まじく慰め慰められていると、檜佐木が一歩前に出て改めて挨拶を告げる。
「おはようございます、田中先輩、如月先輩。本日は生徒会による部活動調査として参りましたが、休日という事もありますので、私共も今日一日は都市伝説解明部の一員として扱って頂けると幸いです。よろしくお願い致します」
「よ、よろしくお願いしますっ」
生徒会としての一礼に、慌てて美吉も真似て腰を曲げる。
その畏まった態度に部長は困ったように顔を引きつらせていた。
「あーえっと、よ、よろしく……」
「ぷふっ、ドムっちあんま警戒しなくていいっすよ。檜佐木先輩、普段はお堅いっすけど、プライベートだと冗談好きっすからね」
「へ、へぇそうなんだ」
兎から助言されるが努夢はいまいち信用出来ないようだった。それに対して証拠を見せるかのように檜佐木が口を開く。
「それにしてもこの部屋は暖房がないのですか? せっかくの来客をもてなそうという気概が一切見えませんね。廃部ポイント+3です」
「廃部ポイント!?」「す、すぐにもてなすよぉ!」
脈絡ない宣告に慌てる部員二名。それを堪能した冗談好きはすぐに撤回した。
「冗談です」
「ほらねっす」
「あ、あはは……」「遊ばれてるよぉ……」
ピクリとも表情筋が動かない鉄仮面に、努夢は疲れたように苦笑を浮かべ、葉太郎は完全に怯えてしまう。一連のやり取りに若干蚊帳の外だった美吉は、必死に噴き出すのを堪えていた。
雰囲気が緩んだのを悟って、兎が仕切り直すように言う。
「えっと、自己紹介は必要っすか? 生徒会長はウチらと話すの初めてっすよね?」
「あ、うんたぶん。でも一応名前は聞いてるよ。あなたが羽原さんで、そちらが田中先輩に如月先輩ですよね?」
「そうっす正解っす。記憶力良いっすねー」
「いやぁ、まあねぇー」
あからさまな煽てられに、美吉は満更でもなさそうに後頭部をさすった。生徒会側は当然に顔を知られているから自己紹介は省略される。
「にしても檜佐木先輩、派手っすねー。ピンクなのはウチと揃えてくれた感じっすか?」
ずっと指摘したかったのだろう、ニマニマとしながら兎は檜佐木へと歩み寄った。挑発的な距離感にも鉄仮面は揺らがない。
「そう言ったつもりはありませんでしたが、もしかしたら無意識に左右されていたのかもしれませんね」
「お、心の隅に兎ちゃんが住んじゃったっすか。とはいえとはいえ、プライベートとして来てくれたのは間違いないようっすね」
「そう言われましたので」
堅い返答ながらも後輩は嬉しそうに薄い肩をわざとらしくぶつける。まるで気心の知れた仲を確かめるようであり、それを他三人は遠巻きに眺めていた。
「ラビちゃんとあんな距離で……!」
「……仲良いんだ」
「……」
羨ましそうに歯噛みする葉太郎に、思わず零す美吉。弱々しくも思えた生徒会長の呟きに、努夢はつい憶測を浮かべ視線を向けていた。
それらは聞こえていたのだろう、兎は更に誤解を招くよう情報を追加する。
「仲良いっすよー。なんて言ったって、檜佐木先輩とは月一でご奉仕する仲っすからねー」
「「「ご、ごごごご奉仕!?」」」
その衝撃的な単語に三人の息は自然と揃った。それに慌てた素振りもなく、檜佐木は事実を淡々と伝える。
「以前、彼女が働いているお店で出くわしましてね。月に一度は来て欲しいと頼まれたので、時間が空けば行くようにしています」
「あ、なんだバイトか……」
付け足された説明に、美吉は安堵の息を吐いた。しかしそれも束の間、兎はまたも油を注ごうとする。
「ちなみにメイド喫茶っす」
「へーメイド喫茶……って檜佐木くんが!?」
「ぼ、ボクたちもまだ行っていないのに……!」
「副会長って、そういうとこ行くんだ」
部内では兎のアルバイト事情は知られているようで、姫と部外者の仲を訝しむ気配は薄れつつあった。ただし何も知らなかった美吉だけは困惑が解消されないまま。檜佐木から言い訳が来る訳でもなく、まるで祈るように貰ったカイロを握っていた。
思い通りの反応を見る事が出来て、兎はくっくっと笑いを噛みしめる。
「やっぱ、檜佐木先輩がメイド喫茶に通ってるってウケるっすよねー」
「店内では馴染んでいるつもりなのですが」
「え、馴染んでるの?」
「どんな感じどんな感じ? やってみそ」
メイド好きと言う趣味にか、気を許し始めた努夢と葉太郎からの要望に、一日部員の檜佐木は間髪入れず期待に応える。
「兎たそ萌え萌えー、今日もラブリーな魔法でご主人様の心を掃除して欲しいぞぉい」
「「本物だ……っ!」」
「マジで羞恥心無いんすねこの人!?」
「ひ、檜佐木くんのイメージがぁ……っ」
一切の躊躇のなさに、上級生二人はすっかり尊敬した眼差しを向け、優位を取れなかった兎は愕然とし、美吉は頼れる存在の印象崩壊に頭を抱えていた。
教室に暖房はなくかなり冷え込んでいたが、五人はもう温度を気にする様子もない。
立ち話もようやく切り上げられ、一同は用意されていた席へと座る。四つの机を固めて周囲を一周するように椅子が置かれてあり、美吉が来る事は想定していなかったらしく、足りなかった椅子は部長が大慌てで取りに行った。
座った順は右回りに檜佐木、美吉、兎、葉太郎、努夢。3年生の二人が、四辺の内で同じ辺に並んでいた。
そうして全員が腰を落ち着けると、兎が改めて宣言する。
「それじゃあ、部活動するっす!」
今日の目的は、生徒会に都市伝説解明部の部活としての意義を知ってもらう事だ。しかし意気揚々と発せられた言葉には、部員の方もピンと来ていない様子。
気まずそうに美吉が視線を巡らせていると、しばらくしてから努夢がなんとなく察する。
「あーえーっと、いつもの感じで遊ぶってことでいいんだよね?」
「えっ、それ以外にあるっすか?」
「いやぁ……」
努夢はチラリと檜佐木を窺う。今までのように遊んでいては廃部にされてしまうのではと思うが、その異論はついぞ出てこない。
「けどけど、五人で出来るのってあるっけ?」
「あるっすよっ!」
能天気な葉太郎が先を促して、兎が机の下の段ボールから何やら取り出した。A4用紙を二枚繋ぎ合わせた物のようで、広がったその白面には手書きで、いくつもの丸をそれぞれ線で結んだ、いわゆる路線図に似たものが描かれていた。
とても既製品には見えない代物に、美吉が首を傾げる。
「これって、手作りの双六?」
「まー見た目は勘違いしちゃいそうっすけど、ゲーム性はかなーり違うっすよ」
誇らしげに胸を張るが、素人目から見てもあまりにチープな出来上がりだ。とはいえ部員達は慣れている様子で、早速兎の口からルールを聞き出していた。
「どんなルール?」
「三から六人用で、一人が怪盗として他は警察として、この市内で逃走、逮捕するのが目的のゲームっす。まず駒とチケットの説明するっすけど……」
つらつらと、何を見る事もなく兎はルール説明を開始する。ボードゲームに詳しくない美吉は当然初めて知る内容ではあったが、聞くだけでもこれがオリジナルではなさそうだと言うのはなんとなく分かった。
兎の語り口はまるで、説明書を読みながらのようだったのだ。ただその説明書は見当たらない。
檜佐木も口を挟む事なく聞き入っていて、一人ソワソワしていた美吉はルール説明に区切りがついたところで思い切って疑問を割り込ませる。
「と言うかなんで、手作りなのこれ?」
「あー節約っす。それにちゃんとしたやつって結構かさばるんで、だからその場で……こう、作った方が色々と楽っすから」
応えながらに兎は紙の切れ端で駒を作って見せた。こっそり足下の段ボールを覗けば、似たような物が雑多に入れられているのが見て取れる。
得意げな後輩に、部長だけは少し罪悪感を表情に浮かべていた。
「買わずにやってるからあんまり良くないことかもだけどね……」
「けどラビちゃんのおかげで遊ぶのには困らないよねー」
感謝感謝と言いながら、葉太郎は再び兎にルールの確認をした。それに対応する文言は一度目の説明と一言一句違わない。
それらの情報から、美吉は遅れて気付いた。
「もしかして、羽原さんってめちゃくちゃ記憶力良い?」
「そのようです。一度見たものは忘れないらしいですよ」
檜佐木からの肯定も受け、結論を得た美吉は改めて手製の盤面を眺める。
約二〇〇個の丸の中にはそれぞれ番号が振ってあり、結ぶ線は一本だったり二本だったりと複雑だ。それらが元の製品と全く同じだと言うのなら、やはり恐ろしさのような興奮のような感覚を覚えてしまう。
そうして呆ける美吉を現実へと引き戻すよう、檜佐木は彼女の目の前に駒を置いて告げた。
「まあ、遊びましょうか」
「はい葉っぱ捕まえたー!」
「くっそう! てか副会長の手柄じゃんかこれぇ! ドムは金魚の糞っ!」
「えーいいのかなぁ? おれに楯突いたら獄中生活大変だぞー?」
「ぎゃー! 三食昼寝付きの牢屋にしてーっ!?」
三度目のゲームセットを迎えた頃にはすっかり、努夢と葉太郎は部外者に対する警戒を消し去っていた。
そんな日常的な二人を眺める兎は、とても嬉しそうに微笑んでいる。
檜佐木と感想を伝え合っていた美吉が、ふとその下級生に問いかけた。
「ところで三人って、どういう繋がりなの? お二人は分かるんだけど、羽原さんって進学科で学年も違うのに、どこで知り合う機会があったの?」
努夢と葉太郎はクラスメイトらしいし、見るからにその中は数か月では至れない親密ぶりだ。だからこそ余計、ピンク髪の後輩女子の存在が違和感を放っている。
次のゲームの準備を始めている兎は、つい昨日の事を思い出すように語った。
「二人が、部活作ろうか悩んでるところにウチが声かけたんすよ。『三人必要なのに友達いないじゃん』って嘆いてるのが聞こえて、それじゃあウチとどうっすかって」
「いやーあの時のラビちゃんはホントに救世主だったよね。そのおかげで毎日楽しいし、彼女も出来て仕事も順調だよっ!」
「彼女いないし、お前就職活動すらしてないだろー」
調子に乗った発言に努夢は釘を刺しつつも、一部分には肯定であると続ける。
「正直、部活作ろうってのはその場の冗談のつもりだったんだけど、実際部活を作っておれも良かったとは思ってるよ」
その言葉を聞けた生徒会長は、胸に高揚感を抱いていた。自身が行った政策で、直に喜んだ声を聞けて報われたような気分になる。
とは言え、最初の疑問はいまいち解消しきれていなかった。聞く限り、部活を立ち上げるまで関わりがないようなのに兎はどうして二人に声をかけたのだろうか。
それこそ、部活動を立ち上げようとしていた生徒なら他にもいただろうに。これも単に価値観の違いなのだろうか。
「なんというか、羽原さんは行動力があるんだね」
結局、美吉は自分を納得させるようにそう解釈する。それに対して兎はにへと後輩らしい笑みを浮かべた。
「ウチには、居場所が欲しかったっすから」
「居場所……」
その言葉に何かが込められているのだろうとは、美吉でも分かった。だからこそ、それ以上深く踏み込む事を躊躇ってしまう。
そんな葛藤は置いて、兎の視線は檜佐木に向いた。
「だから檜佐木先輩っ、廃部にしないでくださいっす!」
「ぼ、ボクも激しく同意! 副会長ももう部員みたいなもんなんだし見逃してよっ!」
葉太郎もその勢いに便乗して懇願を重ねてくる。しかし檜佐木の姿勢はいつまでも変わらなかった。
「部活動に意義があれば、廃部にはなりませんよ」
あくまでもそちらの問題だと告げるように、その時ばかりは生徒会の顔を思い出させる。
ならばもっと楽しませなければと、兎と葉太郎は気合いを入れる。
「……」
ただ一人、努夢だけはどこか気まずそうに視線を逸らしていた。




