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‐〖文芸部etc〗‐

 檜佐木と美吉の対面には、長机を均等に分けて四人の生徒が座っている。

「オレが、文芸部部長の久石卓だ」

「ボクは副会長の咲正太郎。それでこっちの二人は2年の加賀慎吾くんと夏目久美さん。一応次の部長、副部長候補です」

「うす」「よろしくお願いします」

 扉側から順に自己紹介が行われ、続けて生徒会の二人も頭を下げる。仏頂面な部長に対して副部長は温和そうであり、2年の男女も緊張した様子と泰然とした姿勢で、両組共に対照的な印象であった。

 今回の調査対象は文芸部。

 部員は一四名。部として立ち上がったのは合併以前であり、生徒会の歴史よりも長いと言える。本来ならば新興部問題で取り上げられる事はないはずなのだが。

 前置きの説明を終えた檜佐木は、早速本題へと入る。

「文芸部の皆さんは、文芸部以外にも部活動に所属しておられますね?」

「………」

 黙り込む部長を置いて、机の上に十三枚の紙が並べられた。それらは部活動立ち上げの届け出であり、それぞれ別の部名が記されている。


『文化部』『文集部』『作文部』『ペンクラブ部』『栞部』『本の虫部』『本棚部』『活字愛好部』『本に埋もれてたい部』『ページめくりめくり部』『懊悩と才能部』『Book Reader部』


 一部奇天烈な名付けながらもどことなく共通点を感じられる。そして何よりもそれらの部員は全て、文芸部の中から選ばれていた。

「なにこれ? 同じ人がいくつもの部に入って……なんの意味があるの?」

「承認したのなら把握しておいて欲しいのですが、まあ一応、理由については聞いておきましょう」

 相変わらず事前情報を入れていない生徒会長に呆れつつ、副会長は視線を対面へと向ける。対する文芸部員は、一人を除いてきつく唇を結んでいた。

「「「……」」」

「あはは、筆跡も同じですしバレますよね」

 困ったように笑ったのは副部長の咲正太郎。他の面々の態度を見るに、きっと彼がこの工作の主導者なのだろう。

 兼部について、校則では特に規制されていない。ただし部長を務められるのは一人の生徒につき一つの部活動のみ。そんな決まりを把握した上で、部員それぞれが漏れなく部長に割り当てられている。

 文芸部が得られる最大数の部活動。彼らが何を欲しているかは、考えるまでもない。

「部活動それぞれに与えられる部室と部費目当て、ですね」

「あ、そういうことか! 小癪なこと思いつくねっ!」

 檜佐木の開示によって美吉もようやく気付く。その批判にも取れる発言には、文芸部部長の仏頂面が更に極まった。

「オレ達はただ、移り変わる時流に合わせて対策を打っただけだ。不当に減らされる部費を少しでも回収するために動いたにすぎん」

「そうだ! 部長の言う通りだ!」

 長の弁論に便乗して加賀慎吾が拳を突き上げる。明らかな反抗意思を見せられ、生徒会長はこれまで以上に困惑を浮かべていた。

「?? 部費が減らされるって、どういうこと?」

「今までの部費は、毎年学校から与えられる予算を部活動の総数で割り、それぞれ均等に与えていました。ですが現状と同じように行えば、一つの部活動が得られる額は雀の涙になってしまうでしょう」

「はーなるほどねぇ」

「せめて公約を掲げる前には知っておいて欲しかったですね」

 そもそも苦情にも書かれていたはずだが、やはり彼女は詳細を頭に入れていなかったのだろう。相変わらずの仕事ぶりだ。

「ってそれ、あたしだいぶ悪い感じにならない?」

「まあ、こちら側の不手際になりますかね。向こうの言い分も最もです」

「う……っ」

 今更過ぎる理解で、さすがの美吉も申し訳なさそうに縮こまった。二人の会話が途切れたのを見てか、副部長が問いかけてくる。

「ちなみに、今後の部費の割り振りはどうなるんですか?」

「検討中です」

 檜佐木が即答すると、それに加賀が立ち上がる。

「検討中ってなんだ! 今すぐ答え出せ!」

「……落ち着きなさいよみっともない」

 室内に響く大声を迷惑そうにする夏目久美だが、その視線は鋭く刺すよう生徒会に向けられていた。自分達を納得させてみろ、と文芸部が一丸となって目で訴えてくる。

 こうまで求められれば、生徒会も応えなければいけないだろう。とは言えあくまでも檜佐木は副会長だ。

「さて、どうしますか?」

「え、ええ? あたしに聞くの? で、でもどうすれば?」

「……では、私が勝手に決めてしまいますね」

 上長はやはり頼りなく、檜佐木は一応と許可だけを取得する。そうして改めて追及の眼差しへと対峙した。

「部費の分配について、この場で決定させて頂きます」

 彼らの懸念を解消するため宣言する。それを待っていたと文芸部一同は息を呑み、一任した会長も口を挟まないでいた。

「まず、新興部のほとんどは、顧問を現生徒会長が担っています。これらは来年になり現在の生徒会が解散となれば顧問不在として自動的に廃部になりますので、書類上、暫定的な部活として部費は与えないものとします」

「えっとそれじゃあ、部費も今まで通りの金額で貰えるということですか?」

「いえ、正式に教師を顧問に任命した新興部もありますので、多少は減るかと思います」

「それじゃあオレ達が不利になるじゃねぇか」

「元から部活動が増えれば割り振る部費は減っていましたので、文芸部だけが不利という事はありません。もし、どうしてもその決定が許せないと言うのでしたら、今後は実績を加味した上での分配を行いますが」

 反論に対して丁寧に返すも、部長はまだ不服だったらしい。しかしこれ以上の優位は得られないと判断してか、副部長が肯定を挟み込む。

「いやっ、最初の案で問題ないですっ。でも出来れば、部費を貰える前に状況などは教えて貰えると助かります」

「了解致しました」

 合意を得て、区切りが付く。それから檜佐木は机の上に並べていた部活動の届け出を回収しつつ、もう一つの決定事項についても告げた。

「それと、活動目的が重複しているので、この十三の部活動は廃部にします」

「……それはしなくてもいいだろ」

 淡々とした言葉に、背もたれへと体重を預けたままの部長がぶっきらぼうな意見を飛ばす。すると美吉が、今度はすぐに気付けたとばかりに人差し指で差した。

「あーっ、部室狙いだーっ!」

「そうですね。生徒会長が承認したために九つも部室を与えてしまっています。加えて考えずに割り振ったため、所有権が重なる部とは揉め事が起きているようです、他にも——」

「あ、はい。あたしが悪かったです……」

 怒涛に押し寄せる戒めに、美吉は堪らず机に突っ伏した。ようやく自責の念に駆られてくれたらしい。

 檜佐木は文芸部員に今一度伝える。

「では、届け出の方は取り下げさせて頂きますね。部室に私物を置いている場合は速やかに運び出しておいて下さい」

「いやだからっ、そっちが悪いなら誠意というものをなっ」

 まだ歯向かおうとする文芸部部長だったが、生徒会副会長も頑なだ。

「こちらに不備はありましたが、誠意を見せる必要性は感じられません。生徒会が行うのは生徒を喜ばせる事ではなく、あくまでも校内活動を潤滑にする事です」

 そもそも生徒会は半分慈善活動だ。それも一年限り。今後の関係性を築いた所で意味はないのだし、だからこそ強引な施策にも取り組める。

 しかし当然、そんな事情を聞いてクレーマーが引き下がる訳もない。

「そんなの理不尽だろうがッ!」

「……明後日の放課後までに運び出されなかった荷物は没収させて頂きますが」

「はあ!? おい勝手言ってんじゃねぇぞ!」

「まあまあ、落ち着いて……」

 副部長は生徒会が折れる事はないと分かっているようで場を収めようと部長を宥める。けれどその火は広がる一方だった。

「いやっ、部長の言う通りっすよ! こんなのフザけてる! 自分達が偉いからって好き勝手してるっすよ!」

「アタシもそう思います」

 意気揚々と立ち上がる加賀と、挙手で同意を示す夏目。部長を含めた文芸部の三人は、収まりきらない怒りを生徒会に向ける。

 長のはずの美吉は、事態が激化したのを察し頭を抱えて存在感を消そうとしていた。その様子に檜佐木は今更何かを言う事もなく、正面をただ見つめる。

「どう思われても構いませんが、決定に変更はありません」

 事務的に。情など一切挟まず。

 すると久石卓の拳が振り上げられた。


 ——ダン!


「……」

 強く叩きつけられた机。その振動を肌で感じながらも鉄仮面が揺らぐ事はない。

 拳を更に握り込む文芸部部長は、しばらくしてその身を翻した。

「……帰るぞ」

 ボソリとそれだけ言って、生徒会室を去っていく。2年の二人もそれに続き、最後に副部長がチラリと檜佐木を一瞥だけして席を立った。

「……失礼しました」

 一人分の挨拶だけを残し、扉が閉まる。僅かな静寂の後に、ゆっくりと美吉は頭を持ち上げた。

「……ごめんねぇ」

 酷く申し訳なさそうな謝罪。傲慢を貫けないその長に、副会長は積み上がっていた仕事を消化しながら、自分には成せない頼み事をした。

「後日、彼らに菓子折りでも持って行って下さい。多少は心象も良くなるでしょう。私は同行しませんが」

「おおっ、名案! ちなみにそれって経費で、」

「落ちません」


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