‐〖すみかま部〗‐
「失礼しまーす」
ノックの後に入室したのは、キャラクターもののヘアピンが目立つ女子生徒だった。今日の予定を確認した檜佐木は、机に並べていた書類の一枚と見比べて問いかける。
「すみかま部の部長——相良叶さんでよろしいですか?」
「あ、そんな名前だっけ。はい叶でーす」
彼女のフランクな返事に、閉まりかける扉の隙間から笑い声が聞こえた。室内からその姿は見えなかったが、連れ添いが来ているらしい。
生徒会室は狭いため、面談は代表者だけと行う。生徒会側も会計が帰宅していて書記と庶務は別作業で席を外しており、会長と副会長のみだ。
二人が並んで座る対面に、今回の調査対象は腰かけた。
「えっとそれで、なんですか?」
「現在、生徒会では部活動の調査をしています。ご協力して頂けますか?」
「いいですけど……」
「だから怖い感じはダメだよー」
相良叶の顔が若干引きつっているのを見てか、美吉が窘めるように口を挟む。その忠告には特に何も返さず、檜佐木は眼鏡の位置を直した。
相変わらず美吉は仕事もせずに両手を頬杖に使っている。それを指摘するのは他者の目があるからと後回しにしつつ、改めて届け出の内容に目を通した。
『部名』…「すみかま」部
『代表者』…「1年4組‐相良叶」
『部員』…「1年4組‐綾瀬鈴」「1年4組‐田辺美佳」「1年4組‐長谷川真美子」
『活動目的』…「仲良くする。」
『部室』…「新校舎5F④」『顧問』…「第16期生徒会会長」
部員は四名。全員同じクラスの生徒。恐らく連れ添いと同じ顔ぶれなのだろう。その場で付けたような部名に、文字を大きくして埋めただけの活動目的。代表者自身、部員である自覚は薄いようだった。
面談者の印象を軽くメモしつつ、生徒会副会長は早速問答を始める。
「それではまず、活動目的に『仲良くする。』と記載されてありますが、具体的な内容を教えて頂けますか?」
「え? よく分かんない」
丁寧な問いに雑な疑問符が返ってくる。予想範囲内の反応に、副会長は掘り下げる事もなく次の質問へと移った。
「では実際にどんな活動を行っているのでしょうか?」
「えっと、特には? 教室で喋ったりはしてるけど」
「部室は使われていないのですね」
「そうですねー」
「でしたら廃部です」
「いや判断早い早いっ!」
最低限の確認を終えて早々に結論付けると、待ったと手が伸びる。
懸念していた理不尽を察知し美吉は横槍を入れたらしいが、それは誰の味方となる事もなく置いていかれた。
「分かりましたー。みんなにも伝えときまーす」
「よろしくお願いします。こちらからの要件はこれで以上になります」
「はーい。失礼しましたー」
「も、文句とかないのー……?」
置いてけぼりの疑問に答える声はない。既に副会長は届け出を廃棄し、相良叶もそそくさと生徒会室を後にしていく。
扉の向こうで女子の集団が遠ざかるのを感じる中、困惑が収まらない美吉は机に突っ伏した。
「……自分で作った部活なら普通、もっと愛着湧かないかなぁ……」
面談を振り返ってそう呟くと、眼鏡が反射する。
「公約のせいでしょうね」
「?」
要約した言葉では意図が伝わらなかったようで、檜佐木は作業の片手間で補足する。
「部活を立ち上げたら漏れなく部室と部費を与える、と宣伝していましたよね? 手続きの方も書類を一枚書いて生徒会に提出するだけととても手軽です」
「うん、そうだよ。より多くの生徒に機会を与えたかったんだから」
元々の校則として、部活動を立ち上げるには三名以上の部員と顧問を集め、生徒会に活動内容を認められなければならない。今までなら顧問決めと活動内容で躓くところだが、今期の会長は生徒会役員も顧問に選出可能として手続きを簡略化させたのだ。
彼女にとってはこれ以上ない策と考えていたらしいが、結果は思惑から少しズレてしまっている。
「けれど美吉さんの想定以上の生徒が動いてしまいましたね。数に加えて、考えという面においてです」
「というと?」
「なんとなくや周りに流されて、あるいは上手くいけば儲けもの程度に思って部活を立ち上げた生徒がいた訳です。それほどの熱意もないため、釣られた餌を手放すのにも抵抗がなかったのでしょう。大人数を集めれば、そう言った何も考えていない層がどうしても存在するのですよ」
とはいえ調査初日に美吉との価値観が違う生徒ばかりが訪れているのは副会長の業務方針に依る所が大きい。
届け出だけでも熱意程度なら把握出来る。そう言った文面を他と区別して、ここ数日にまとめて招集してあったのだ。面談をすぐに終えられれば次に取り掛かれるため効率化に繋がると考えて。
そんな部下の手腕を理解している様子もなく、美吉は変わらず首を傾けていた。
「え、えっとつまり、なんか経済的な話?」
「……いえ、説教です」
説明を諦め、もう体裁を気にする必要もないかと、溜めていた小言を伝えていく。淡々とした言葉攻めに、美吉は耳を塞いで悲鳴を上げていた。
そんな様子は、次のノックまで続けられるのだった。




