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檀々高校生徒会による部活動調査  作者: 落光ふたつ
【今から匙をぶん投げる部】
14/15

‐〖賽〗‐

「——加えて、文化祭に向けて問い合わせが増えると想定されますので、何かあればすぐに共有して下さい。私からは以上です」

「はーい。じゃあとりあえず今月の定例会はこれで締めということでっ」

 副会長の報告が終わると、会長がパンと柏手を打った。それに合わせて書記が録音を止めようとしたが、待ったをかけるように手が挙がる。

「あの、ちょっといいですか……?」

「ん? 庶務ちゃん、なんかあった?」

 会議を引き延ばす罪悪感で肩身を狭そうにしながらも、庶務は一枚の紙を取り出し議題を追加した。

「えっとその、一件、苦情を預かってまして……」

「えっ、また誰かなにかやらかしたのっ?」

「やらかしたというよりは、お願いみたいな……」

 先走った想像を否定しようと歯切れ悪く答え、とにかくと読み上げる。

「えっと、『部活動が一気に増えましたが、音楽活動系の部がいくつもあるみたいなので減らすべきではないでしょうか』……ということです」

「なるほど、また部活関連ですか」

 自分の担当と分かると、副会長は詳しい内容を要求する。それに対して庶務は、追加の資料も添えて手渡した。

「音楽活動系の部は……四つですか」

「はい。それぞれ活動内容に重複が見られるので、自分も合併してしまっていいのではないかと思っています」

「……そうですか」

 受け取った書類には、対象となる部の詳細に実際の活動内容と、確認しておきたかった事項が先回りで記入されていた。それに目を通し思案する副会長を、庶務はどこか緊張した面持ちで見つめている。

 そんな風に真面目に仕事をされては、長は頬杖を突くしかない。

「ぷーん。あたしはまた何も出来ることがないのだっ」

「黙ってもらっていーすか。声被ると聞き取りづらくなるんで」

「喋ることすら出来ない……」

 挙句注意されて情けなく涙を浮かべる。不貞腐れて机に突っ伏していると、その様子に気付いた会計が「どうしました!? 体調不良ですか!?」と真っ直ぐな心配を向けてきた。誤解を解こうとあーだこーだ言い合っていれば、また書記から叱責を受ける。

 副会長と庶務のやり取りは騒がしさの向こう。二人の会話は残されず、結論だけが録音された。

「それでは、後日代表者を集めて話し合いの場を設けましょうか」

「ありがとうございますっ。えと、自分が声かけておきますのでっ」

 感謝を伝える彼女は、担当外ながらやたらと張り切った。

 そして今度こそ定例会が終了すると、庶務は早速校内を駆け回り日程調整を終え、明日、生徒会室を使用したいと申請するのだった。



 八人も入ると、生徒会室はかなり窮屈な印象になった。

「軽音部ってまだあったのね。何か活動してるの?」

 吹奏楽部部長——城崎佳奈。ポニーテールを揺らす平均的な体系の3年生女子は、隣席の同学年男子に嫌味たらしく語り掛ける。

「吹奏楽部に比べたら小規模だけどね。というか、部長なのにコンクールで演奏しなかったってホント?」

 軽音部部長——山本雄大。高身長で整った容姿の彼は、穏やかな表情を保ちながらも切り返し、険悪な世間話を続けた。

「ふあぁっ、あーだるぅ」

 バンド部部長——大谷拓海。茶色く染まった長髪は整髪料で毛束を作って尖らせてあり、制服を着崩し欠伸も隠さない、いかにもな2年生男子。

 部屋のほとんどを占める長机の長辺側に三人が並んで座る中、残りの一組は短辺の方で固まっていた。

「……デデデデ、シャンシャーン」

「ちょ、肩でドラムすんなっ」

「これって一体なんの集まりなのかしら?」

「分かんないけど、何があってもボクが守ってみせるからっ」

 今から匙をぶん投げる部——部員四名。

 高身長ながら猫背の遥優明は、椅子に座る一際小柄な楠木形の肩を両の人差し指で叩いている。更にその後ろで並んで立つのは、ウェーブのかかった髪を手で払いながら上品な言葉遣いを心がける明日葉みぞれと、長い足を包むスラックスと短髪で一見男子に見間違えさせる柳瀬京香だ。

 人数分の席は用意されていたが、座っているのは楠木形の一人だけ。椅子は対角の辺に二脚ずつ置かれているため、分断されるのを嫌がって近くで集まっているのだろう。

 そんな、音楽活動を行う部の代表者達と向かい合うのは、生徒会副会長の檜佐木。そこに遅れてもう一人やってくる。

「あ、ごめんねー。ちょっと通してー」

「……」「ほらユメよけなってっ」「あらごめんなさい」「ひっすいませんっ」

 1年女子の間を通り抜けてきた、生徒会会長の美吉。部屋の収容人数が九人に増え、更に密度が高まった。

「間に合った?」

「少し待たせていますよ」

「じゃあギリセーフだねっ」

 美吉は特に反省もなく隣に座る。相変わらず時間にルーズな上長への小言は後回しにして、副会長は一同に告げた。

「それでは揃いましたので、始めたいと思います」

 口を閉じ、視線を集める七人の生徒。似た活動内容の部が集められているのは察しているようで、既に身構えている様子も見えた。

「皆さんをお呼びしましたのは、各部の活動内容について重なりが確認されましたので、合併あるいは廃部の提案をさせてもらいたいと思っての事です」

 簡潔に伝えられた内容に、真っ先に反応したのは1年生四人組。

「……廃部」「えっ廃部?」「ふーん……」「えぇえええっ?」

 ボソリと呟き、キョトンと驚き、素気のない反応に、震えた動揺。けれど反論までには繋がらないでいると、他からも声が上がる。

「急に合併とか廃部って、なーんか勝手じゃね? バンドなんて音楽性違ったらやってけねーんだし、くっつける必要ないべ」

 後頭部で手を組みながら砕けた口調で意見を述べるバンド部部長。それを横目で見ていたもう一人の男子が続いて確認を投げてくる。

「……俺は構わないけど、そうなったらうちがそっちの二組を吸収するような形になるのかな? こっちは元々部内に複数のバンドあるし。それとも吹奏楽部もいるから分け合う感じ?」

「いや、まともに楽器使えない子とかいらないんだけど。吹奏楽部は成果も出してるんだし、他を廃部でいいんじゃないの?」

 部員数で言えば吹奏楽部に次いで軽音部が多く、今更数が増えてもそう体制は変わらない。対して他二組は、部そのものが一つのバンドと少人数だ。

 立て続けの疑問に順を追って答えようとした檜佐木だったが、それを追い越して見下しへの反発が割って入る。

「楽器使えないって誰がぁ? つーか吹奏楽部なんてリコーダーとかカスタネットっしょ? 誰でも出来んじゃんそんなん」

「それ、音楽の授業のイメージでしょ……」

「ちなオレ、コンガ叩いたことあるべ」

「なんの自慢よ」

「俺はギロが好きだったなー」

「それもやったことあんぜ!」

 演奏歴を誇示する大谷に、城崎はこれ見よがしにため息を吐き、面白がった山本がわざと会話を繋ぎとめる。

 議題を提示したばかりだというのに逸れていく話し合い。けれどあえて、檜佐木は口を挟む事なく少しの間彼らを観察していた。

 副会長自身も、どの部をどうやって間引くかは決めていない。この場でそれぞれの意見を聞きながら方針を定めていく腹積もりだった。

 とは言えなんとなくの予感があり、待っている。きっと、もう一人が舵を切ってくれるだろうと。

 するとすぐ隣で、ダンッと机が叩きつけられた。


「生徒会長のあたしから、提案がありますっ!」


 立ち上がり宣言した美吉に、一同は言葉を止めて注目する。集まる視線に若干の緊張を見せながらも、生徒会長は用意していたシナリオを語った。

「えー、皆さんには三週間後の文化祭でそれぞれ演奏してもらい、そこで投票の結果、1位となった部のみ、存続を認めようと思いますっ!」

 勢いで言い切ると、僅かな静寂が訪れる。一気に不安を表情に浮かべる美吉だったが、それが口に出る直前で軽音部部長が口を開いた。

「それって、2位以下は合併とかもなしに容赦なく廃部ってこと?」

「そう、です」

 細められた眼光に一瞬怯みながらも頷く。すると次はバンド部部長が声を荒げた。

「ちょいちょい、勝手すぎんだろ! そもそもっ、新しい部を立ち上げろって言ったのは生徒会じゃねーかよ!」

 今回集まった少人数の部二組は、生徒会長が掲げた公約に釣られて出来上がった新興部だ。それなのにこうも問答無用な宣言をされては怒りが湧くのも当然だろう。

 それでも美吉は意見を変えず、悪評を受け入れる。

「……でも、1位を取れば問題はありません。そのくらい熱意がある部でないと、我が校には相応しくないと判断しました」

「熱意って、成果出してる部活なんてほとんどないじゃん」

 発言に矛盾を感じた軽音部部長は呆れたように零す。実際、檀々高校においてなんらかの賞を取るなどの実績を残している部は、ただ一つだけだった。

 そしてその唯一の部の代表は、毅然として言葉を返す。

「吹奏楽部は構わないわ」

 先月に行われた全国コンクールでは優秀賞。れっきとした実力を備えるその部は、横暴な挑戦状にも動じず受けて立つ。

 その姿勢が、以前から対立する部としては気に食わなかった。

「へえ? 学生受けする曲なんか弾けるの? 吹奏楽でしょ?」

「ジャンルぐらい合わせられるわよ。オーケストラも出来るし、今なら合唱もまあ、間に合わせられるでしょうね。それにバンドなら元からやってる子がいるしね」

 賛成を曲げる気はないと分かると、軽音部部長は背もたれに体重を預け腕を組んだ。

「ふぅん。あ、俺もいいよ。元から文化祭では何かやるつもりだったし、廃部になるって言うならうちのやつらも火付くだろうしね」

 吹奏楽部の強気に感化され、軽音部も列に並ぶ。となればバンド部も引き下がる訳にはいかないと、わざとらしい欠伸の後に続いた。

「まーあ、こん中で一番決めるってならオレもオッケーだわ。ロックで負ける気しねーべ」

 大口を叩く2年生に、3年生二人は先ほどのような軽口は挟まない。視界にすら入れず、まるで敵視していなかった。

 そして残った一組。1年生女子四人組は、皆揃って俯いている。

「「「「……」」」」

 誰からも賛成の声は出ない。しかし過半数が了承している状態で、反発しても覆らないのは分かっていた事だろう。

 その様子を気にかけながらも、美吉は心を鬼にして話を進める。

「えっと、スケジュールは調整中なんだけど、まあたぶん一日目の終わりらへんかな。今のところは各部に一〇分ずつ与えられる予定なので、その時間内での演奏をするつもりでお願いします」

「問題ないわ」

「軽音部も。ところで順番はどうなるのかな? ここで決める? 当日でもいいけど」

「えっ? あー、と……」

 その質問の答えまでは用意していなかったのだろう、美吉は言葉を詰まらせて宙を見つめる。そうなってしまうとしばらく何も出てこないと知っている檜佐木は、傍観者を中断して手を差し伸べた。

「ステージのセッティングが手早い順で行いたいと思います。皆さんの必要機材等に合わせて、当日スムーズに動けるような組み合わせになるかと」

「まーじゃあ吹奏楽部がトリか。人数多いし」

「別に揃えてもいいわよ?」

「部長って決める権利あるんだっけ?」

「彼ならどんな編成でも関係ないわ」

 因縁の間柄はまたもや言い合いを始めてしまう。バンド部部長に関してはもう興味も失っていて、鞄を抱えて解散の合図を待っていた。

 そこで、ずっと黙っていた部の一人が、恐る恐ると手を挙げる。

「あの……1位にならなければ、部は、残せないんですよね?」

 一際小柄な体格が、更に縮こまっている。分かりきっているのに希望を捨てきれない問いかけに、美吉は顔を引き締めて告げた。

「うん。残るのは一つだけ。廃部にならないよう、頑張って」

 その激励には、やはり誰も応えなかった。

 黙り込む1年生女子四人。そんな様子には同情も生まれる。

「1年生なのにこんなの酷だよね。軽音部なら元から複数のバンドあるし、入ってくれても問題ないよ?」

「あ、いや……」

「どうせ廃部になるのに勧誘するんだ?」

 下級生への嘘臭い笑顔が気に障ったのか鼻で笑われる。するとやはり彼は、余裕を崩さないながらも反論した。

「ははっ。まあ自信があるのは分かるけどさぁ、後輩の面倒ぐらいは見てやろうって気になれないのは大人げないよ?」

「あんたのは無駄なプライドよね。現実見えてないのにどこが大人なの?」

「そりゃあ自分に自信ないとなんでも上達出来ないでしょ。そっちこそ——」

「あー、もー話終わったよね? 帰っていいっしょ?」

 ヒートアップし始めた険悪な仲を遮って、右足を揺するバンド部部長。それに生徒会の二人は一度視線を合わせてから、詳しい事は後日連絡すると最後に伝えて解散させた。

 去っていく一同。廊下に出た途端、また犬猿の罵り合いが聞こえてくる。遅れて四人も頭を下げていった。

「……」「……失礼しました」「失礼しましたわ」「失礼しましたっ」

 来訪時には賑やかだったやり取りもなく、ゆっくりと影を踏んで歩いていく。

 生徒会室の扉が閉められ、美吉は堪えていた息を吐き出し机に突っ伏した。

「……一つの部以外廃部って、やっぱりやりすぎだよね? せめて二つか三つ、いややっぱ全部残しても、良かったんじゃないのかな……」

「あなたが言った事ですよ」

「そうなんだけどそうじゃないって言うか……」

 檜佐木の指摘に何かを隠すように誤魔化す美吉。その事には言及しないでいると、生徒会室の扉がまた開かれた。

 現れたのは、先ほどの会談の場を作った張本人だ。

「あ、お疲れさまです……」

 庶務の花寄は申し訳なさそうにペコリと頭を下げる。そんな彼女に、美吉は若干引きつりながらも微笑みを返した。


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