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檀々高校生徒会による部活動調査  作者: 落光ふたつ
【今から匙をぶん投げる部】
13/14

‐〖理由〗‐

 出だしはドラムから。続いてギターがかき鳴らされ、ベースとキーボードが旋律を整える。ただしそれは、四重奏と呼ぶにはまだ一体感が足りなかった。

 リズムは走りメロディは不安定。輪唱でもないのに一部、音が追いかけている。比較対象のないオリジナル楽曲であっても、その未熟さは明瞭だった。

 しかし、歌声だけは惹きつける。

『————♪』

 檜佐木は、自室のパソコンでミュージシャンの卵を漁っていた。

 世界的な動画投稿サイト。素人でも手軽に作品を拡散出来る場とあって原石はいくつでも埋もれている。サイト閲覧者には発掘家が多いようで、再生数は少なくとも一定の感想が書き込まれていた。

 ほとんどが演奏への非難だったが、中には歌声を称賛する文もある。動画自体が歌詞を表示するだけの簡素な出来で、そこをつつく者もいた。

 檜佐木は感想に左右されず、曲が終わると投稿主の別動画へとカーソルを映す。

 とその時、

 ——テンテロテンテン♪

 スマホから着信音が鳴った。画面を見れば『美吉梓沙』の文字が表示されており、檜佐木が高校で所属する生徒会の長から、ビデオ通話の要求が送られているようだった。

 会話の邪魔にならないようパソコンにイヤホンを繋ぎ、左耳で曲を聞きつつ通話に応じる。

「はい、檜佐木です」

『もしもーし、今大丈夫だった?』

 画面一杯に映った美吉が、にこやかに手を振ってくる。スマホと正面に向かい合う檜佐木は軽い会釈で返した。

「こんにちは。今は自室で暇しているところでしたので大丈夫ですよ」

『いやーごめんねー。別に用があってかけたわけじゃないんだけど』

 申し訳なさそうな笑みを見せた後、カメラが動く。披露されたのは四畳ほどの薄暗い空間で、ソファと机、そして壁には大きなモニターが設置されていた。

 机上の特徴的な端末とマイクから、通話相手の所在地に察しがついていると、答えはすぐに明かされる。

『今、カラオケ来てるんだー。なんと庶務ちゃんも一緒ですっ』

 と言ったのと同時、カラオケルームの扉が外側から開かれ、見知った顔が現れた。花寄史——檀々高校生徒会の庶務であり、一学年下の後輩女子だ。

 彼女はドリンクバーで飲み物を調達してきたところだったらしく、その両手には水と緑茶の入ったコップを持っていた。美吉が通話していると知ると、ビクッと肩を震わせる。

『うえっ、副会長ですかっ?』

『そうそー。休憩がてらねー』

『はあ。あ、お茶です。これも舐めておいてください』

 緑に満たされたコップを手渡し、ついでに個包装されたのど飴も差し出す。『ありがとー』と告げた美吉は早速のど飴を開封しようとして、一旦スマホを花寄に押し付けた。

 突然のバトンパスに戸惑いながらも、その後輩はカメラに向けて頭を下げる。

『えと、お疲れさまです。副会長』

「お疲れ様です、花寄さん。美吉さんの歌はどうですか?」

『結構お上手ですよ』

「そうですか。それはぜひ聞いてみたいですね」

 檜佐木の零した好奇心はスピーカーで美吉まで届けられていて、『今は無理ー』と画面外から断りが飛んできた。

 それから持ち主へと返されたスマホは、飴を口内で転がす美吉を映す。

『副会長くんはカラオケとか来るの?』

「時々ですが利用しますよ」

『うわー、歌ってるところ想像できなぁ。ねー?』

『そうですね。どんな曲歌うんですか?』

「欠かせないのは情熱大陸ですかね」

『えっ、どこを歌うの……?』

『あ、インスト曲も結構入ってるんですねー』

 そんな風になんて事ないやり取りを交わす中、カラオケルームの二人はフードメニューを調べていた。どうやらその場で腹ごしらえするつもりのようで、割高な商品を躊躇いなく端末へと打ち込んでいっている。

 すでにもう四時間近くその部屋にいると言うが、食事をするのだから更に数時間はこもる予定なのだろう。

 それなら息抜きの手伝いぐらいはしようと、檜佐木から話題を投げる。

「ところでですが、美吉さんはどうして学校中の生徒に部活動を作らせようとしたのですか?」

 生徒会の面々と知り合ってまだ二ヶ月も経っていない。発足時に檜佐木は海外に滞在しており、帰国してからは仕事内容の把握や溢れかえる問題対処に追われ、親交を深める機会を設けられなかった。

 だから改めて、生徒会長がどういう人間なのか知っておこうと踏み込んでみる。と言っても単なる興味の方が大きい。

 質問を受けた美吉は、飴を右頬に避難させてから口を開いた。

『んー、まあ、好きにやってほしかったからかな』

「好きに、ですか」

 曖昧な表現に、檜佐木は噛み砕こうと言葉を繰り返す。すると当人も言葉足らずと察したのか、探り探りに補足が加えられた。

『えっとさ、なんていうか、部活に入ってればどんな生徒でも居場所を作れるのかなって。それに、突拍子ないことも勢いばかりのことも、試しにやってみたら案外かけがえのないものになるかもしれないでしょ? そしたら学校生活も楽しくなるはずだし、悩みがあったら忘れられるんじゃないかなー、って思ったんだけど……どうかな? うまくいってるかな?』

 彼女自身も自分の行った施策に自信はないようで、最後には不安が顔を出す。それに対して檜佐木は、実際に感じた事をそのまま言葉にした。

「どうでしょうか。体感では悪用している生徒の方が多いように感じますが、」

『うっ……』

 彼がこれまでにいくつもの部を取り締まってきた実績は会長も知るところであり、芳しくない評価にばつが悪そうな表情を見せる。

「とはいえ結果がすぐに出るものでもないでしょう。私としても、いつかはあるいはもう既に、誰かの救いになっているような気がしますよ」

『……うん。うん、そうだよね。じゃあこれからもお願いねっ』

「まあ、生徒のためと言うのなら仕方ありませんね」

 美吉には不安が残っていたようだったが、それを飲み込んで強がるように託される。生徒会室ではないからと檜佐木も厳しさはしまっておいた。

 それからしばらくの間、雑談を繰り広げた。他愛がなく、ためにならない知識だったりオチのない経験談だったり、業務中には行わなかった話題を二転三転させた。

 通話を切り上げられたのは美吉と花寄が食事を終えた後で、結局檜佐木が歌を聞かせてもらう事は叶わなかった。

「……」

 沈黙したスマホの画面をしばらく眺めた後、檜佐木はまたパソコンへと興味を戻す。通話前に見つけた投稿主の楽曲は、一巡を終えたところだった。

 次を求めてマウスを動かした時、コンコンとノックが飛び込んで来る。

「はい、どうぞ」

 椅子を回転させ振り返ると、扉が半端に開いてそこから三十代後半ほどの女性が顔を覗かせた。

「和賢君、これからお父様を迎えに行ってきますね。途中寄るとこもないし、大体三十分くらいで戻ってくると思うから」

「分かりました。父をよろしくお願いします」

「はーい。それじゃー」

 丁寧ながらも気さくに手を振り去っていく。生まれてからずっと家の手伝いをしてくれている家政婦を見送り、檜佐木はまたパソコンに向き直った。

 生徒会に入ってからは休日でも寮で暮らす事が多かったが、連休という事もあって今週はしばらくぶりに実家に帰ってこられている。そのためか今日の夕飯は少し豪勢で、いつもは忙しい父も同席する予定だった。

 父との会話内容を考えながら、パソコンで再び曲を再生させる。今度はメジャーデビューしている有名バンドだ。

『————♪』

 完成された楽曲はやはり耳に残る。知名度が高ければ聞く側も盛り上がりやすいだろう。

 とはいえそんな前提は、分かりきっている事だった。


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