‐〖第16期生徒会〗‐
県立檀々高等学校。
その敷地は街から離れた山間に位置する。元々は小規模な進学校だったが、15年前の合併に合わせて校舎を新設し、今では千人もの生徒が学ぶようになっていた。
母数が増え、格差の生まれた学力を調節するため進学科と普通科を設けてある。過去の名残を受け継ぐ一割は、全国でも有数の学徒達だ。
自然に囲まれた閉鎖的な立地のせいか、校内の雰囲気は少し変わっている。
近隣住民からの監視を心配しないでいい教師達には活気がなく、普通科を中心とした生徒の多くは空気に流されやすい。極めつけに進学科の一部から、強烈なカリスマ性を発揮する者が例年出てしまう。
それらを取り持たなければならないのが、生徒会だった。
普通科から立候補した会長、書記、会計。
進学科の最上位成績者から任命された副会長、庶務。
決して彼らが権力者に成り代わらないよう、その五名は常に未経験者から集められる。翌年、続けて在籍する事も許されない。
故に檀々高校は、毎年違う校風を見せるのだった。
生徒会室は一般的な教室の半分ほどの広さだ。新校舎の3階角に陣取り、その窓からはグラウンドや体育館が見下ろせる。
狭い空間の大部分を占有する二つ合わせた長机の短辺で、一人の女子生徒が崩れそうなほどに重なる書類を眺めて顎をさすった。
「こりゃ困った。問題が山積みだね」
「全てあなたが原因です」
「え?」
間髪入れない注釈に、生徒会会長——美吉梓沙はとぼけた顔を見せる。
椅子から伸びる足は長く、他とそう変わらないはずのスカートが短く映る。黒髪は臀部にまでかかり体は引き締まっていて、ハッキリとした目元とシュッと通った鼻筋が、本質以上に凛とさせていた。
外面は良いが、後先を顧みない言動がしばしば。
そんな評価を受ける長を補佐するのは、副会長である檜佐木和賢の役目であった。
「まず、文面に目を通して下さい」
座る姿勢はピンと伸び、皺一つない制服。前髪が触れる眼鏡の位置を直し、ため息の代わりにしている。
そんな彼の隣席では、庶務の花寄史が苦笑を浮かべていた。
「あはは……」
ショートヘアを後ろで一つくくりにする小柄な女子生徒だ、今更書類を確認する会長を見やりながらも、自前のノートPCで作業を続けている。
残りのメンバーは、対面の机に並んで座る二人の男子生徒。
「ふあぁっ」
荒立修。書記である彼は全体的にだらしなく、シャツのボタンを二つ外し、前髪をカチューシャで上げている。記録作業をスマホアプリに任せて、退屈そうに欠伸までしていた。
「……くっ、むむっ」
会計である四島魁人は、未だ終わらない仕事に呻き声を漏らしている。体格がよく刈り上げた髪。姿勢は悪く至近距離で手元を見つめていて、そのせいだろう、視力は黒縁に囲われたレンズによって矯正されている。
月に一度行われる生徒会の定例会議。全メンバーを集めて持ち上がった議題は、生徒会長の前に積まれている山のような苦情だ。
それを一つ一つ、長が読み上げる。
「えー、『部室が他の部に占領されているのでどうにかしてほしい』『隣の部室が騒がしいので息の根を止めてほしい』『部費が貰えなくなると聞いた。死ね』……ふむふむ、活気で溢れているねぇ」
「と言うより殺気立っています」
暢気な発言を副会長が訂正する。事態の重さを理解していない長に、改めて事の発端から説明を始めた。
「生徒会長が掲げた公約とむやみやたらな承認によって、現在校内では新興の部活動が急増しており、その数は百を超えました。そしてそれらは様々な問題を起こし、早急な解決が求められています」
「狙い通り、革命を起こせたわけだ」
悪びれた様子がないのは今更。副会長は淀みなく続ける。
「いくつかの新興部の届け出を確認してみた所、出鱈目に思える活動目的が散見されました。と言う訳でこれらを一旦、全て取り下げたいと考えております」
現状の問題に対して最善の策を提案するが、元凶はそれを許さない。
「ダメだよー。問答無用は~」
「……。生徒会長は、承認の際に問答しましたか?」
「した!」
「し、してませんでした……」
堂々とした嘘は、当時同席していた庶務からの告げ口で無効化される。その適当を責めるかの如く副会長は眼鏡を光らせるも、意見は曲げられなかった。
「とにかくっ! 文面だけでの判断はノーっ! 廃部にするならせめてっ、それぞれの事情を調査しないといけませんっ!」
「……それは誰が行うのですか?」
そう尋ねられた生徒会長は「んー」と声を漏らしながらメンバーを順に見回す。一巡した視線は想定通り質問者で止まった。
「副会長くんが適任だね♪」
「やはりこうなりますか……」
呆れたように眼鏡の位置を直すと、隣で同僚の仕事を手伝っていた庶務も同情でまた苦笑を浮かべた。
会長は好き勝手な政治を試みて、書記は我関せずとスマホを弄り、会計は一日中一つの計算と戦っている。
志高く立候補するのは良いが、生徒会で苦労するのは進学科の二人だ。
だからこそ、結成してまだ一ヶ月ながら、事前の対応策を取るくらいには用心されている。
「まあこうなる事は予想出来ていましたので、これからいくつかの部活動代表の方々に来てもらうよう伝えてあります」
「仕事はや! それむしろやりたがってるじゃん!」
「リスクヘッジです。一つ一つの部への調査が必要となれば、今年中の解決は難しい量でしたので」
淡々とした説明の片手間に、別の事務作業も片付けていく。教師の怠慢もあって他校より圧倒的に業務量の多いこの生徒会に在籍していながら、彼らは未だ成績最上位を保ち続けていた。
相変わらずの補佐役に、会長はやれやれと言わんばかりに体を机へともたれかからせる。
「全く、副会長くんはお堅いなぁ。少しは手を抜いたらいいのに」
「それでは業務が回らなくなります」
「へへ、毎日助かってます」
はにかみ本音を浮かべて、彼女はしばらく部下達の仕事ぶりを眺めた。次々と積まれていく承認待ちの書類は無視をして。
それから少し後、生徒会室にノックの音が飛び込んで来る。




