第6話 目が覚める。
アルバンは4日目の朝に目を覚ました。
体は動かしにくいらしいが、お医者様が言うには、じきに普通の生活に戻れるだろうということだった。良かった。本当に良かった。
セリーヌはようやくほっとした。連絡を貰って駆けつけた時の横たわる真っ白なアルバンの顔を見てから…ついさっきまで…ずっと泣きそうだった。泣いてしまったけど。
私は行儀見習いを繰り上げてもらって、アルバンが少しずつ歩く練習をするのに肩を貸したり、身の回りのことをさせてもらうことにした。アルバンが嫌がるようなら…元気な姿を見れるだけで良しとしようと思っていた。
「…セリーヌ、ありがとう」
「…いえ…」
目覚めてからのアルバンが…別人になっている?
いやいや、体調がよくないから、心細いのかしら?
お水を運んでも、例えば本棚から頼まれた本を取っても…にこにこして…
「ありがとう、セリーヌ」
「今日のワンピースも可愛いね」
「天気がいいようだね。中庭の散歩に一緒に行ってくれる?」
…どうしましたか?アルバン?
転んだ時に、頭を打ったとか??
だって、だって…今までのアルバンなら、めんどくさそうな顔するだけだったし。
…ありがとう?
…かわいい??
…一緒に???
しかも…その少し恥ずかしそうな笑顔…反則です!
ちょっと…心臓に悪い。
アルバンを毎朝起こしに行く。少し寝癖のついたアルバンの癖のある金髪。朝日を眩しそうに眺める綺麗な青い瞳…うっかり見とれてしまいそうになって、セリーヌは視線を逸らす。
…そう…セリーヌは実は、10年も前、初めてアルバンに会った時にひとめぼれしていた。会うたびに、こんな素敵な人が私と結婚するのかと思うと緊張した。ゆえに…照れ隠しのように言葉数が多くなったことは否めない。たまにしか会わないアルバンに、自分のことを知ってもらおうと意気込んだこともあるかもしれない。まあ、もともとおしゃべりではあったが…うちの実家では皆おしゃべりだし。
ようやく歩けるようになったアルバンと並んで、初秋の中庭を歩く。
肩は貸さなくても歩けるようになったアルバンに手をつながれているので、セリーヌは異様に緊張している。自分でも…どうやって歩くんだっけ?と、歩き方が我ながら変だと思う。もちろん、10年婚約者だが…手をつないでの散歩など、初めてのことだ。
「もう秋になるんだね、セリーヌ。見て、楓が黄色くなってきたね」
二人で楓を見上げる。楓の葉の向こうに空が高くなってきて、その青がアルバンの瞳の色に似ているなあ、とセリーヌは思って…胸がいっぱいになって言葉が出てこない。手はまだつながれている。
ど…どうしたんだろう?
気が付くとアルバンが私を見つめている。
「きれいだね」
アルバンが私を見て笑う。
「……」
ぷしゅううううう…何かが抜けていく音がする。
「じゃあ、行ってくるね」
そう言って…学院に行くアルバンに引き寄せられて、おでこにキスが落ちる。
ひっ、と思わず変な声が出る。
アルバンは寮を引き払い、自宅通学になった。
事情は詳しく知らされていないが、アルバンが倒れたことと関係があるのかしら?
あんなことがあったら、心配ですものね。
朝早起きして、お昼のお弁当を作っておいたのを…もしよかったら、と手渡したら、
「ありがとう。セリーヌ。嬉しい」
そう言って満面の笑みで受け取ってくれた。
今までだって…月に一度のお茶会のときだって、自分で焼いてきたお菓子やクッキーを手渡そうとしてきた。
その度に…ふーん、って顔をするから…いつもおばさまがささっとテーブルに並べて
「まあまあ!セリーヌちゃんの手作りなのね?みんなで頂きましょう!」
と気を使ってくださった。まあ…クッキー一枚ぐらいは食べてくれていたけど。おばさまに言われて、しぶしぶ。
感想も特になかったし。お世辞すらなかったわ。美味しくできたと思っていたけど。
…この人…誰?




