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第4話 僕の理想的な妻。

僕は結局、セリーヌとの婚約を解消し、ルイーズと結婚した。


結婚してからも、ルイーズは自分のことは何一つ話さなかった。

「旦那様の良いように」

「旦那様のお好みで」

「旦那様に従いますわ」


何を聞いても…何が好きで、何が苦手で…僕のことをどう思っているのか…何一つ僕にはわからなかった。それでも、おとなしく、静かな妻を得た僕は満足だった。


仕事も、本を読むのも、僕の周りはいつも静かだった。

あれから母も話しかけてこない。侍女も仕事だけしている。

静まり返った屋敷で、僕の妻はいつもどこで何をしているのかさえ知らなかったが。


僕の…理想の生活だ。物音一つしない静かな屋敷。

そう思った。

…そう思っていた。


「ドレスをつくろうか?」

「もう作りましたわ」


「宝石でも見に行こうか?」

「先日商人に屋敷に来てもらって、もう選びましたわ。お気遣いなく」

「……」


舞踏会に自慢の美しい妻を連れ歩くのは楽しかった。

見たことのないドレスと見たことのない宝石で着飾って、半歩下がって僕についてくる妻はおとなしく、皆が羨ましがった。


…でも僕は…妻の顔がよくわからない。



「よお、アルバン。まさか君が婚約破棄までするほど情熱家だとは思わなかったなあ。結婚おめでとう!」

学院を卒業して久しく会わなかったシモン君に声を掛けられた。


「君の元婚約者は、男爵家に嫁いだらしいね。まあ、婚約破棄された娘が、貰い手が決まっただけよかったよなあ」


そんなことを飲みながら話していた。

…そうか、セリーヌも結婚したのか。さぞやにぎやかに暮らしているに違いない。

いつも笑い声が聞こえるような…。

そんな風に…セリーヌを忘れて暮らしていた薄情な自分に、シモン君に言われて気が付いた。妙にソワソワする自分に戸惑う。


「ヤニック男爵の7番目の妻だろう?お前がうるさい子だって言ってたけど、見てみろよ、ほら。しおらしくなってるぜ?躾がいいんだろうな?」


躾?


にやにやしながらシモン君が指さした方に視線を向けると…背の低い中年のおやじの後ろに半歩下がってうつむいたセレーヌが見えた。似合わないけばけばしいドレスに、濃い化粧。前髪で顔を隠しているようだ。打たれた跡?頬が左側だけ赤い。


「あんたが言ってたみたいに、よほど生意気な娘だったんだろうなあ…まあ、あんたみたいな若造じゃ手なずけられなかったってことかなあ。あははははっ」


楽しそうにシモン君が笑っている。


手なずける?…セリーヌ?


「おっと、声は掛けない方がいいよ。あの男は独占欲の塊だからね…。前の奥さんも舞踏会で昔の知り合いと話したのが気に入らなくて半殺しだよ?ひでえよねえ。あははははっ」


面白そうにそう教えてくれるシモン君越しに…笑う僕の妻の顔が見えた。

…にんまりと笑う口元…僕の妻は…シモン君と乾杯をして…。まあ二人はもともとの知り合いだしね。


…なぜ二人は笑っているんだろう?


…なぜだろう?楽しいかい?あのおしゃべりなセリーヌがおとなしくなっているからかい?


「ひどいもんだね。家畜並みの扱いだ!」

ゲラゲラとシモン君が笑う。


…ひどい?ひどいのは…僕だ。


セリーヌ?君はなんにも悪くなかったのに…。笑っていてくれてよかったのに…。

こんなことを望んだわけじゃないのに!


「セリーヌ!」


腫れたままの頬で、セリーヌがうつろな目で僕を見た…気がした。



僕はとんでもないことをしてしまったのではないかと…その時初めて思った。


セリーヌ!


手を伸ばそうとして…










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