第1話 おしゃべりな婚約者。
「それでね、マリーズったら仕方なくそのお茶を急いで自分で飲んでしまって、お父様が驚いてしまって…」
「まあ!叱られたでしょう?」
「ええ?呆れられていました」
「あははははっ」
メイドの失敗話?どうでもいい話で母と僕の婚約者が盛り上がっている。正直…うるさい。こんなお茶会に出ている暇があったら、読みかけの本を静かに読みたい。
仕方なく席には着いているが、うわのそらの僕に少しは気を使え。アルバンはそう思いながらしぶしぶお茶を飲む。
何時もの定例のお茶会だ。月に一度、小さいころから開催されている僕の婚約者のセリーヌとのお茶会を母はことのほか楽しみにしている。
そわそわしながら、お菓子を揃え、季節に合ったお茶を選んでいる。
「セリーヌは生クリームのケーキのほうが好きよネ?」
「テーブルクロスは黄色の方が華やいでいいかしら?」
お茶会が近くなると、侍女と盛り上がっている。普段は…寡黙で上品な貴婦人然としている人だが。
「アルバン!あなたもプレゼントとか用意したらどうなの?」
黙って見ていたら、とばっちり?
「…誕生日でもあるまいし…」
「んまあ!」
セリーヌがやって来ると、屋敷中騒がしくなる。昔からそうだ。
なんでもかんでも話すから…僕はセリーヌが今読んでいる本も今朝何を食べたかも、セリーヌの屋敷のメイドの飼っている猫の名前まで知っている。
はあっ。
僕はもっとつつましくて静かなおとなしい女性と結婚したい。
休みの日には書斎で静かに本を読んで、いつのまにか紅茶が運ばれているような…そんなことを考えても、二人の笑い声に夢想も吹っ飛んでしまう。
「ねえねえ、セリーヌちゃん、聞いた?ヤニック男爵家のお嫁さんの話!」
「ええ、聞きましたわ!6人目のお嫁さんが家を出されたけど、凄い怪我だったって…誰も何も言えないようだけど、やっぱり旦那さんの暴力?なんですか?」
「そうみたいよ。怖いわね。うちは大丈夫よ?アルバンが貴方に手を上げたりしたら、私が黙っていないから!」
「え?だっておばさま、アルバンはそんな方ではありませんわ!」
「まあね」
「うふふふふっ」
…今度はゴシップネタかよ?よくもまあ、次から次に話題があるもんだな。
…女性に手を上げる男もどうかと思うね。
父が…女性は年相応になるとつつましやかになるから、って言っていたが…僕たちはもうすぐ16歳になる。セリーヌはおとなしい貴婦人になりそうにないな。
はちみつ色の髪に、春先の木の芽?新緑のような瞳。黙っていたらそれなりに可愛いけれど…僕はあの子の笑った顔しか見たことがない。
…いや…悪いことじゃないとは思うよ?でも…
はあっ。うるさい。
僕はまた一つため息をつく。




