第1章:メタリタウンの鍛冶師
北への道は、思ったより整備されていた。
石畳の道が続き、一時間ごとに休憩所がある。商人や旅人とすれ違うこともあった。
「この道は、交易路なんですよ」
ナトリが説明した。
「北の国境と南の都市を結ぶ、重要な道なんです」
歩きながら、秀城は周囲を観察していた。平原には、時折魔物の姿も見える。だが、道からは離れているようだ。
「道の近くには、結界が張られてるの」
オクシアが教えてくれた。
「魔法使いたちが定期的に維持してる。だから、道を外れなければ安全よ」
「なるほど...」
それでも、油断はできない。秀城は常に周囲を警戒していた。
昼過ぎ、休憩所で昼食を取った。
持参したパンとチーズ、それから水筒の水。
「北に行くほど、気温が下がるんですよね?」
「ええ。フロンティアは、冬は雪が降るわ」
「防寒具、買っておいた方がいいかな」
「メタリタウンで買えるわよ。あそこは金属加工が盛んだから、防具も充実してるの」
休憩を終えて、再び歩き出した。
夕方、前方に街が見えてきた。
メタリタウン。
城壁は鉄製で、黒く光っている。煙突から煙が立ち上り、遠くからでも金属を叩く音が聞こえてくる。
「着きましたね!」
三人は街に入った。
メタリタウンは、活気に溢れていた。
通りには鍛冶屋、武器屋、防具屋がずらりと並んでいる。店先では、職人たちが金属を叩き、火花を散らしている。
「すごい...」
秀城は圧倒された。
「金属の街だけあって、金属元素使いが多いのよ」
オクシアが説明した。
「鉄、銅、銀、金...色んな金属使いがいるわ」
「じゃあ、ここで金属元素を習得できるかも」
「そうね。まず、ギルドに行きましょう」
メタリタウンのギルドは、鉄製の建物だった。重厚感があり、入口には大きな鉄の扉がある。
中に入ると、屈強な冒険者たちが集まっていた。皆、鉄の鎧や武器で武装している。
「いらっしゃい」
カウンターから、筋骨隆々とした男性が声をかけてきた。
「エレメンタから来た冒険者です。推薦状を」
秀城は推薦状を渡した。
男性はそれを確認すると、頷いた。
「なるほど。エレメンタのギルドからか。歓迎するぜ」
「ありがとうございます。それと、金属元素使いの方を紹介していただけませんか?」
「金属元素?ああ、習得したいのか」
男性は台帳を開いた。
「鉄使いなら、うちのギルドマスターがそうだ。フェルム・スティーラ。今、鍛冶場にいるはずだ」
「鍛冶場?」
「ギルドの裏にある。案内するぜ」
ギルドの裏手には、大きな鍛冶場があった。
炉が燃え、金床が置かれ、無数の工具が壁に掛けられている。
そして、中央で一人の男性が作業をしていた。
年齢は四十代くらいか。筋肉質な体つきで、黒い髪に白いものが混じっている。鉄色の瞳をしていて、顔には火傷の跡がある。
彼は大きなハンマーで、真っ赤に熱した鉄を叩いていた。
ガンッ、ガンッ、ガンッ。
規則正しいリズム。火花が散る。
「ギルドマスター、客だ」
案内してくれた男性が声をかけた。
フェルムは手を止め、振り向いた。
「客?」
「エレメンタから来た冒険者だ。あんたに会いたいって」
フェルムは秀城たちを見た。鋭い目つき。
「何の用だ?」
「初めまして。メンデレ・秀城と申します。実は、転移者で...」
「転移者?」
フェルムは眉を上げた。
「ああ、噂は聞いてる。全元素習得能力を持ってるってやつだろ」
「はい。それで、鉄の元素を教えていただきたいんです」
フェルムはハンマーを置いた。
「鉄を、か...」
彼は秀城をじっと見つめた。
「なぜ鉄が欲しい?」
「金属元素を習得したいんです。武器や防具を強化できるようになりたくて」
「武器や防具の強化...」
フェルムは少し考えてから、頷いた。
「いいだろう。教えてやる」
「本当ですか!?」
「ただし、条件がある」
「やっぱり...」
秀城は苦笑した。
「俺の弟子として、三日間修行しろ。鍛冶の基礎を学べ」
「鍛冶の修行?」
「鉄を理解するには、鉄を叩け。それが一番だ」
フェルムは真剣な顔で言った。
「鉄は、叩けば叩くほど強くなる。それが鉄の本質だ。それを体で学べ」
「分かりました」
秀城は決意した。
「三日間、よろしくお願いします」
「よし。じゃあ、今日から始めるぞ」
フェルムは秀城に革製のエプロンと手袋を渡した。
「まず、火の扱いから教える」
鍛冶炉を指差す。中では炭が真っ赤に燃えている。
「鍛冶において、火は命だ。温度が低すぎれば鉄は固く、高すぎれば燃えてしまう」
フェルムは鉄の棒を炉に入れた。
「鉄を赤く、だがオレンジにならないように。それが適温だ」
しばらくして、鉄が真っ赤になった。
「よし、取り出せ」
秀城は火箸で鉄を掴み、金床に置いた。
「次に、叩く。ハンマーの重さを感じろ。そして、全身の力を込めて」
フェルムがハンマーを振り下ろした。
ガンッ!
大きな音と共に、鉄が変形した。
「お前もやってみろ」
秀城はハンマーを受け取った。重い。三キロはあるだろう。
「はっ!」
振り下ろした。
ガンッ!
だが、フェルムのような力強さはない。鉄はほとんど変形していない。
「力が足りない。だが、問題ない。回数を重ねれば、筋肉がつく」
「はい...」
「もう一度」
秀城は何度も何度も叩いた。
ガンッ、ガンッ、ガンッ。
腕が痛い。肩が痛い。汗が滲む。
だが、不思議と嫌ではなかった。
鉄を叩く感触。金属が形を変えていく感覚。
それは、何か創造的な行為だった。
一時間ほど叩き続けて、秀城は腕の限界を感じた。
「今日はここまでだ」
フェルムが言った。
「明日も朝から来い。三日間、みっちり鍛えてやる」
「はい!」
その夜、宿で秀城は腕の筋肉痛に悶えていた。
「痛い...」
「大丈夫ですか?」
ナトリが心配そうに見ている。
「ああ、ちょっと使いすぎただけだ」
「【癒しの息吹】」
オクシアが回復魔法をかけてくれた。痛みが少し和らいだ。
「ありがとう」
「鍛冶の修行、大変そうね」
「でも、いい経験だ。鉄のことを、体で学んでる気がする」
秀城は自分の手を見た。マメができている。
「鉄は、叩けば叩くほど強くなる...か」
それは、人間も同じかもしれない。
試練を乗り越えるたびに、強くなっていく。
「明日も頑張ろう」
翌日から、秀城の過酷な修行が始まった。
朝から晩まで、ひたすら鉄を叩く。
最初は釘を作り、次に刃物を作り、そして剣を作った。
フェルムの指導は厳しかったが、的確だった。
「鉄の声を聞け」
「温度を見極めろ」
「力任せに叩くな。鉄と対話しろ」
二日目の夜、秀城は宿で倒れ込んだ。
全身が筋肉痛で、手は水ぶくれだらけ。
だが、心地よい疲労感があった。
「鉄と対話...」
金属も、元素の一つ。
ナトリウムや塩素と同じように、固有の性質を持っている。
「鉄は強い。でも、錆びやすい」
「炭素を加えれば、もっと強くなる。鋼になる」
秀城は頭の中で化学式を思い浮かべた。
鉄。Fe。原子番号26。遷移金属。
「明日が最後の日だ。頑張ろう」
三日目、秀城は自分の剣を作った。
鉄を熱し、叩き、形を整え、焼き入れをし、研ぐ。
すべての工程を、自分の手で。
夕方、剣が完成した。
刃渡り七十センチ。やや重いが、バランスは良い。刃は鋭く、光を反射して輝いている。
「よくやった」
フェルムが頷いた。
「三日間で、ここまで作れるとは。才能があるな」
「ありがとうございます」
「この剣は、お前にやる。自分で作った武器は、最高の相棒になる」
秀城は剣を受け取った。重さが、心地よい。
╔═══════════════════════════╗
║ アイテム入手! ║
╠═══════════════════════════╣
║ 鉄剣(自作) ║
║ 攻撃力:+18 ║
║ 耐久度:高 ║
║ 特殊効果:使い込むほど強化 ║
╠═══════════════════════════╣
║ 装備変更! ║
║ 武器:ダガー→鉄剣 ║
║ 攻撃力:58→76(+18) ║
╚═══════════════════════════╝
「さて、約束通り、鉄の元素を教えてやろう」
フェルムは炉の火を消した。
「鉄の元素は...強さと、犠牲だ」
「犠牲?」
「鉄は強い。だが、そのためには犠牲が必要だ。熱に耐え、叩かれ、削られる」
フェルムは秀城を見た。
「お前も、この三日間で痛みに耐えただろう。それが犠牲だ」
秀城は頷いた。確かに、苦しかった。
「だが、その犠牲の先に、成長がある。強さがある」
「...はい」
「鉄の声を聞け」
秀城は目を閉じた。
鉄。強靭な金属。武器や道具の材料。
「鉄は錆びる。でも、それでも使われ続ける。なぜなら、鉄は必要とされるから」
必要とされる。
秀城も、誰かに必要とされたい。
「鉄は孤独じゃない。炭素と結びつき、鋼になる。他の元素と協力する」
協力。仲間。
秀城にも、今は仲間がいる。
「鉄の声を...」
意識を集中する。
すると、感覚が生まれた。硬さ、重さ、そして...温もり。
「聞こえる...」
強くなりたい、役に立ちたい、守りたい。
それは、秀城自身の願いだった。
この世界で、仲間を守りたい。誰かの役に立ちたい。
「俺は...強くなる」
その瞬間、秀城の体が銀色の光に包まれた。
╔═══════════════════════════════════╗
║ 重要!元素習得! ║
╠═══════════════════════════════════╣
║ 【鉄(Fe)を習得しました!】 ║
╠═══════════════════════════════════╣
║ 原子番号:26 ║
║ 元素記号:Fe ║
║ 分類:遷移金属 ║
║ 特性:強靭性、磁性、酸化性 ║
╠═══════════════════════════════════╣
║ 習得可能魔法: ║
║ ・鉄壁(コスト:15MP) ║
║ ・鉄刃(コスト:12MP) ║
║ ・磁力操作(コスト:20MP) ║
║ ・鉄鎖(コスト:18MP) ║
╠═══════════════════════════════════╣
║ ステータス上昇! ║
║ 攻撃力:76→80(+4) ║
║ 防御力:65→72(+7) ║
║ HP:330→350(+20) ║
╠═══════════════════════════════════╣
║ 重要!融合魔法解放! ║
╠═══════════════════════════════════╣
║ 【鋼】 ║
║ Fe+C (鉄+炭素) ║
║ コスト:25MP ║
║ 効果:武器・防具の強度を大幅強化 ║
╠═══════════════════════════════════╣
║ 【酸化鉄】 ║
║ Fe₂+O₃ (鉄x2+酸素x3) ║
║ コスト:22MP ║
║ 効果:赤熱の刃、磁力強化 ║
╠═══════════════════════════════════╣
║ 【硫化鉄】 ║
║ Fe+S (鉄+硫黄) ║
║ コスト:20MP ║
║ 効果:火花発生、着火剤 ║
╠═══════════════════════════════════╣
║ 【リン酸鉄】║
║ Fe+P+O₄ (鉄+リン+酸素x4) ║
║ コスト:28MP ║
║ 効果:エネルギー貯蔵、持続強化 ║
╠═══════════════════════════════════╣
║ 特別ボーナス! ║
║ 修行による習得! ║
║ 経験値+150! ║
╠═══════════════════════════════════╣
║ 経験値:30→180/900 ║
╚═══════════════════════════════════╝
「やった!鉄を習得した!」
ナトリが歓声を上げた。彼女たちも見守っていたのだ。
「それに、融合魔法が四つも!」
「よくやった、メンデレ」
フェルムは満足そうに頷いた。
「お前は、鉄の本質を理解した。これからも、鍛錬を怠るな」
「はい!ありがとうございました!」
秀城は深く頭を下げた。
「じゃあ、行くといい。お前の旅は、まだ続くんだろ?」
「はい。次は、クリスタルシティへ」
「そうか。クリスタルシティなら、銀使いや金使いもいるだろう。頑張れよ」
フェルムは手を振った。
「ありがとうございました!」
三人は鍛冶場を後にした。
その夜、宿で秀城はステータスを確認した。
╔═══════════════════════════╗
║ ステータス ║
╠═══════════════════════════╣
║ 名前:メンデレ・秀城 ║
║ レベル:9 ║
║ 職業:元素使い ║
╠═══════════════════════════╣
║ HP:350/350 ║
║ MP:270/270 ║
║ 攻撃力:80 ║
║ 防御力:72 ║
║ 魔力:100 ║
║ 素早さ:53 ║
║ 賢さ:77 ║
║ 運:21 ║
╠═══════════════════════════╣
║ 習得元素:8/118 ║
║ ・ナトリウム(Na) ║
║ ・塩素(Cl) ║
║ ・酸素(O) ║
║ ・水素(H) ║
║ ・炭素(C) ║
║ ・リン(P) ║
║ ・硫黄(S) ║
║ ・鉄(Fe) ║
╠═══════════════════════════╣
║ 習得融合魔法:19 ║
║ (既存15+新規4) ║
╠═══════════════════════════╣
║ 所持金:444リア ║
║ 経験値:180/900 ║
╚═══════════════════════════╝
「八つ目の元素。まだまだ先は長いけど...」
秀城は窓の外を見た。明日は、クリスタルシティへ。
そこで、どんな出会いが待っているのだろう。
「楽しみだな」
秀城は笑って、ベッドに横になった。
感想等お待ちしています。
次回予告10/28(火)




