第3章:窒素の国境
レベル10、元素錬金術師となった秀城たちは、フロンティアへの道を進んでいた。
クリスタルシティから北へ二日間の旅。徐々に気温が下がり、景色も変わってきた。
平原は減り、針葉樹の森が増えてきた。そして、遠くには雪を被った山々が見える。
「寒くなってきましたね」
ナトリが防寒具を羽織った。
「フロンティアは、もう冬なのよ」
オクシアも厚手のコートを着ている。
秀城も、メタリタウンで買った毛皮のマントを着た。
「あと半日くらいで着くはずだ」
道中、魔物との戦闘は何度もあった。
雪狼、氷の精霊、凍土の魔物たち。
だが、レベル10となった秀城たちには、それほど脅威ではなかった。
特に、秀城の融合魔法は威力が40%も増加していて、中級魔物なら一撃で倒せるようになっていた。
「【多重融合】も試してみたいな」
「三つ以上の元素を同時に使う魔法...どんなのができるんでしょう?」
「例えば...水素、酸素、ナトリウム、塩素を組み合わせたら...」
秀城は頭の中で化学式を組み立てた。
「H₂O + NaCl...塩水?いや、もっと複雑な反応を...」
夕方、ついに前方に街が見えてきた。
フロンティア。
城壁は石造りで、高さは十五メートルほど。屋根には雪が積もり、煙突から煙が立ち上っている。
門には、重装備の衛兵が立っていた。鉄の鎧に、厚手のマント。槍と盾で武装している。
「止まれ。身分証明を」
「冒険者です。推薦状を」
秀城は推薦状を渡した。
衛兵はそれを確認すると、表情を和らげた。
「エレメンタのギルドから。歓迎する。この寒い中、ご苦労様だ」
「ありがとうございます」
「フロンティアは国境の街だ。北には魔物の森が広がっている。気をつけてくれ」
「分かりました」
三人は街に入った。
フロンティアは、軍事都市の雰囲気があった。
通りには兵士が多く、武器屋や防具屋が目立つ。宿屋や酒場も、冒険者や兵士で賑わっている。
「まず、ギルドに行きましょう」
フロンティアのギルドは、要塞のような建物だった。
厚い石壁、小さな窓、そして屋上には見張り台がある。
中に入ると、大勢の冒険者が集まっていた。皆、高レベルらしく、装備も立派だ。
「いらっしゃい」
カウンターから、筋肉質な女性が声をかけてきた。年齢は四十代くらい。短い黒髪に、傷だらけの顔。
「エレメンタから来た冒険者です」
「推薦状を見せて」
秀城は推薦状を渡した。
女性はそれを確認すると、鋭い目で三人を見た。
「転移者か。噂は聞いてる」
「ありがとうございます。窒素使いのニトロ・アゾートさんを探しているんですが」
「ニトロ?あいつなら、今、北の森で任務中だ」
「任務?」
「魔物の群れの討伐。レベル10以上の魔物が大量に出現してる」
女性は地図を広げた。
「ここ、『凍てつく森』。ニトロは三日前にそこに向かった」
「三日前...戻ってないんですか?」
「通信魔法で連絡は取れてる。だが、魔物が予想以上に多くて、苦戦してるらしい」
女性は秀城を見た。
「お前たち、レベルは?」
「俺は10、仲間は9と10です」
「なら、援軍に行けるな」
「援軍...ですか?」
「そうだ。ニトロを助けてやってくれ。報酬は弾むぞ」
秀城は二人を見た。二人とも頷いた。
「分かりました。行きます」
「よし。じゃあ、詳細を説明する」
凍てつく森は、街から北へ三時間の場所にあった。
その森には、氷属性の魔物が大量に生息している。そして最近、異常に個体数が増えているという。
「原因は不明だが、何か魔物を引き寄せるものがあるはずだ」
ギルドマスターの女性、グレタが説明した。
「ニトロは、その原因を調査しながら、魔物を減らしている。だが、一人では限界がある」
「了解です」
「それと、これを持っていけ」
グレタは赤い宝石を渡した。
「緊急通信石だ。危険を感じたら、これを割れ。すぐに援軍を送る」
「ありがとうございます」
三人は準備を整え、北への道を進んだ。
凍てつく森は、その名の通り、凍てついていた。
木々は氷に覆われ、地面は雪と氷で埋まっている。気温は氷点下。息が白い。
「寒い...」
ナトリが震えている。
「【炎の手】で暖まりましょう」
ナトリは小さな炎を手のひらに灯した。
「魔物に気づかれるわよ」
オクシアが警告した。
「でも、凍死するよりはマシです...」
森に入って十分ほど進むと、魔物が現れた。
氷で覆われた狼。目は青く光り、口からは冷気が漏れている。
╔═══════════════════════════╗
║ フロストウルフ ║
╠═══════════════════════════╣
║ レベル:10 ║
║ HP:250/250 ║
║ 攻撃力:50 ║
║ 防御力:40 ║
║ 素早さ:60 ║
╠═══════════════════════════╣
║ 弱点:火属性 ║
║ 耐性:氷属性、水属性 ║
╚═══════════════════════════╝
「レベル10...!」
「【炎の矢】!」
ナトリが魔法を放った。炎の矢が狼に命中した。
弱点を突いた!
フロストウルフに95のダメージ!
HP:250→155
「効いてる!でも、まだ倒せない!」
狼が反撃してきた。素早く秀城に飛びかかる。
「【鉄壁】!」
秀城は防御壁を展開した。狼の爪が壁に当たり、火花を散らした。
ダメージ軽減!
HP:400→380
「【水蒸気爆発】!」
秀城は反撃魔法を放った。融合魔法威力+40%の効果で、通常より遥かに強力だ。
融合魔法!錬金術師ボーナス!
フロストウルフに168のダメージ!
フロストウルフを倒した!
「一撃!」
「融合魔法、すごい威力になってますね!」
その後も、何匹もの魔物と戦闘を繰り返した。
フロストウルフ、アイスゴーレム、スノーエレメンタル...
どれもレベル10前後の強敵だったが、三人の連携で乗り越えていった。
そして、森の奥へ進んで一時間ほど経った頃——
前方から、爆発音が聞こえてきた。
「戦闘音!?」
「ニトロさんかもしれない!急ぎましょう!」
三人は音の方向へ走った。
広場のような場所に出ると、一人の男性が魔物の群れと戦っていた。
年齢は三十歳くらい。青白い髪に、同じく青白い瞳。黒いローブを着ていて、手には杖を持っている。
そして、彼の周囲には、魔物の死骸が散乱していた。
「【窒素爆発】!」
男性が杖を振ると、無色透明の爆発が起きた。三匹の魔物が吹き飛ばされた。
「窒素魔法...!あれがニトロさんか!」
だが、ニトロは疲労している様子だった。息が荒く、動きも鈍い。
そして、まだ五匹の魔物が残っている。
「援軍だ!【炎の矢】連射!」
ナトリが魔法を放った。三本の矢が魔物に命中した。
「誰だ!?」
ニトロが振り向いた。
「援軍です!ギルドから派遣されました!」
「助かる!」
ニトロは一瞬で状況を理解し、再び魔物に向き直った。
「左の二匹を頼む!右は俺が!」
「了解!」
秀城は左の魔物に向かった。
巨大な氷の熊。アイスベアだ。
╔═══════════════════════════╗
║ グレイシャーベア ║
╠═══════════════════════════╣
║ レベル:11 ║
║ HP:400/400 ║
║ 攻撃力:65 ║
║ 防御力:55 ║
╠═══════════════════════════╣
║ 弱点:火属性、酸属性 ║
║ 耐性:物理、氷属性 ║
╚═══════════════════════════╝
「レベル11!強い!」
「でも、弱点は酸!【硫酸】!」
秀城は硫酸魔法を放った。強力な酸がベアの体にかかった。
弱点を突いた!防御力無視!錬金術師ボーナス!
グレイシャーベアに312のダメージ!
HP:400→88
継続ダメージ!
「一撃で大ダメージ!」
「トドメ!【炎の玉】!」
ナトリの魔法が命中。ベアは倒れた。
もう一匹のベアも、同様の手順で倒した。
一方、ニトロも残りの三匹を倒していた。
すべての魔物が倒され、静寂が戻った。
「ふう...助かった」
ニトロは地面に座り込んだ。
「ありがとう。あと少しで、やられるところだった」
「大丈夫ですか?」
秀城が近づいた。
「ああ、疲れてるだけだ。回復ポーションを...」
オクシアが回復ポーションを渡した。ニトロはそれを一気に飲んだ。
「はあ...生き返る...」
しばらく休憩してから、ニトロは立ち上がった。
「改めて、ありがとう。君たちがいなかったら、危なかった」
「いえ。ギルドから援軍として派遣されました」
「そうか...で、君たちは?」
「メンデレ・秀城です。こちらは仲間のナトリとオクシア」
「メンデレ...ああ、転移者の!」
ニトロは目を輝かせた。
「噂は聞いてる。全元素習得能力を持ってるって」
「はい」
「それで、俺を探してたのか?窒素を習得したくて?」
「そうです。でも、今は任務が先ですね」
秀城は周囲を警戒した。
「この森の魔物、異常に多いですよね」
「そうなんだ。三日間ずっと戦ってるが、減る気配がない」
ニトロは森の奥を指差した。
「原因は、あそこにある」
「あそこ?」
「森の最深部に、氷の洞窟がある。そこから、魔物が湧いてきてるんだ」
「洞窟に何が?」
「分からない。だが、強力な魔力を感じる。おそらく、ボスクラスの魔物がいる」
ニトロは真剣な顔で言った。
「レベル12、いや、もっと上かもしれない」
「レベル12...」
秀城はまだレベル10だ。二つ上の敵は厳しい。
「一人じゃ無理だ。だが、君たちがいれば...」
ニトロは秀城を見た。
「協力してくれるか?」
秀城は二人を見た。二人とも頷いた。
「やりましょう」
「ありがとう。じゃあ、少し休憩してから向かおう」
三十分ほど休憩を取ってから、四人は氷の洞窟へと向かった。
洞窟の入口は、巨大な氷柱で覆われていた。中からは、冷気が流れ出ている。
「気温が、さらに下がってる...」
「氷の魔力が濃いんだ。防寒魔法をかけよう」
ニトロが魔法を唱えた。四人の体が淡い青い光に包まれた。
「これで、多少は寒さが和らぐ」
洞窟に入った。
中は薄暗く、壁も天井も氷でできている。足元は滑りやすい。
「気をつけて。魔物がいつ襲ってくるか分からない」
慎重に進んでいく。
十分ほど進むと、広い空間に出た。
そこは、氷の神殿のような場所だった。天井は高く、氷の柱が立ち並んでいる。
そして、中央に——
巨大な氷の竜がいた。
体長は十メートル。全身が氷の鱗で覆われ、背中には氷の翼がある。目は青く光り、口からは冷気が漏れている。
╔═══════════════════════════╗
║ 氷竜フロストドレイク ║
╠═══════════════════════════╣
║ レベル:13 ║
║ HP:800/800 ║
║ MP:300/300 ║
║ 攻撃力:75 ║
║ 防御力:65 ║
║ 魔力:80 ║
║ 素早さ:50 ║
╠═══════════════════════════╣
║ 弱点:火属性 ║
║ 耐性:氷属性、水属性、物理 ║
║ 無効:毒 ║
╠═══════════════════════════╣
║ スキル: ║
║ ・氷のブレス ║
║ ・絶対零度 ║
║ ・氷結の咆哮 ║
║ ・竜の威圧 ║
║ ・再生(氷) ║
╚═══════════════════════════╝
「HP800...!今まで戦った中で最強だ!」
「竜種だからな。覚悟しろ」
ニトロが杖を構えた。
「作戦を立てる時間はない。火属性で攻めろ!俺が窒素で支援する!」
「了解!」
氷竜が咆哮した。
「ゴオオオオオッ!」
洞窟全体が震えた。
【竜の威圧】発動!
全員の攻撃力-10%!
全員の素早さ-10%!
「威圧スキル...!」
「怯むな!【炎の矢】!」
ナトリが魔法を放った。炎の矢が竜に向かって飛んだ。
だが、竜は翼で防いだ。矢は氷の翼に当たり、消えた。
「防御が硬い!」
「【氷のブレス(アイスブレス)】!」
竜が口から冷気を吐いた。青白い冷気が四人を襲う。
「まずい!【鉄壁】!」
秀城は防御壁を展開したが、冷気は壁を凍らせ、突破してきた。
ダメージ!
秀城HP:380→320
ナトリHP:270→220
オクシアHP:310→260
ニトロHP:280→230
「全員にダメージ...!」
「【窒素障壁】!」
ニトロが防御魔法を展開した。無色透明の壁が四人を覆った。
「窒素は不活性ガスだ。熱も冷気も遮断する!」
「助かります!」
「今のうちに攻撃を!」
「【水蒸気爆発】!」
秀城は融合魔法を放った。高温の水蒸気が竜を包み込んだ。
弱点を突いた!錬金術師ボーナス!
氷竜フロストドレイクに210のダメージ!
HP:800→590
「効いてる!でも、まだまだだ!」
竜は怒り狂ったように咆哮した。
「【氷結の咆哮】!」
竜の周囲に、氷の嵐が発生した。無数の氷の刃が四人に襲いかかる。
「全方位攻撃!?」
「【銀の壁】!【金の壁】!」
秀城は二重の防御壁を展開した。だが、氷の刃は壁を突き破ってきた。
ダメージ!
秀城HP:320→260
ナトリHP:220→170
オクシアHP:260→210
ニトロHP:230→180
「みんな、傷ついてる...!」
「【癒しの息吹】!」
オクシアが回復魔法を全員にかけた。傷が癒えていく。
HP回復!
全員HP+50
「ありがとう、オクシア!」
「でも、MP が厳しい...」
秀城のMPも、既に半分以下になっていた。
MP:400→220
「長期戦は不利だ!一気に畳みかけるぞ!」
ニトロが叫んだ。
「メンデレ、お前の最強の融合魔法を使え!俺が窒素で強化する!」
「最強の融合魔法...」
秀城は考えた。
今、使える最強の魔法は...
「【多重融合】を使う!」
「多重融合?」
「三つ以上の元素を同時に使う!」
秀城は両手を前に出した。
「水素、酸素、ナトリウム、リン...」
四つの元素を集中させる。
「水と炎と光とエネルギー...すべてを融合させる!」
秀城の手が激しく光った。
「【プラズマバースト】!」
新しい融合魔法が生まれた。
超高温のプラズマが、竜に向かって放たれた。
╔═══════════════════════════════════╗
║ 新融合魔法創造! ║
╠═══════════════════════════════════╣
║ 【プラズマバースト】 ║
║ H₂+O+Na+P ║
║ (水素x2+酸素+ナトリウム+リン) ║
║ コスト:80MP ║
║ 威力:極大 ║
║ 効果:超高温プラズマ攻撃 ║
╠═══════════════════════════════════╣
║ 【窒素強化】発動! ║
║ ニトロのスキルにより威力+50%! ║
╚═══════════════════════════════════╝
白い光が洞窟を満たした。
プラズマが竜を直撃した。
「ゴオオオオッ!」
竜が苦しみの声を上げた。氷の体が溶けていく。
クリティカルヒット!弱点!錬金術師ボーナス!窒素強化!
氷竜フロストドレイクに645のダメージ!
HP:590→-55
氷竜フロストドレイクを倒した!
竜は崩れ落ち、光の粒子となって消えた。
╔═══════════════════════════════════╗
║ ボス討伐成功! ║
╠═══════════════════════════════════╣
║ 氷竜フロストドレイクを倒した! ║
╠═══════════════════════════════════╣
║ 経験値:500を獲得! ║
║ お金:500リアを獲得! ║
║ アイテム入手! ║
║ ・氷竜の鱗 x5 ║
║ ・氷竜の牙 x2 ║
║ ・氷の魔石(特大) x1 ║
║ ・竜の心臓 x1 ║
╠═══════════════════════════════════╣
║ 経験値:10→510/1200 ║
║ 所持金:1594→2094リア ║
╠═══════════════════════════════════╣
║ 称号獲得! ║
║ 【竜殺し】 ║
║ 効果:竜系の敵に+30%ダメージ ║
╠═══════════════════════════════════╣
║ 特別ボーナス! ║
║ レベル差3以上の敵を撃破! ║
║ 経験値+300! ║
╠═══════════════════════════════════╣
║ 経験値:510→810/1200 ║
╚═══════════════════════════════════╝
「やった...やったぞ!」
秀城は膝をついた。全身の力が抜けた。
「すごい...一撃で...」
ニトロが呆然としている。
「あの威力...本当に転移者だな」
「でも、MP をほとんど使い果たした...」
秀城のMP は残り僅かだった。
MP:220→140(プラズマバースト-80)
「休憩しよう。それから、街に戻る」
洞窟を出ると、既に日が暮れていた。
四人は疲れ果てていたが、達成感があった。
「ありがとう、みんな」
ニトロが言った。
「君たちのおかげで、任務を完遂できた」
「こちらこそ、いい経験になりました」
街に戻ると、ギルドでグレタが待っていた。
「おお、無事か!」
「はい。氷竜を倒しました」
「氷竜を!?まさか、あそこにいたのは竜種だったのか!」
グレタは驚いた様子だった。
「よくやった!これで、魔物の異常発生も収まるだろう」
「報酬は...」
「ああ、一人二百リアだ。それと、氷竜の素材は好きに使っていい」
╔═══════════════════════════╗
║ クエスト報酬! ║
║ 200リア x3 = 600リア ║
║ 所持金:2094→2694リア ║
╚═══════════════════════════╝
その夜、宿で四人は祝杯を上げた。
「今日は本当にありがとう」
ニトロが杯を掲げた。
「君たちがいなかったら、俺は死んでいた」
「いえ、こちらこそ。ニトロさんの窒素魔法、すごかったです」
「窒素は地味な元素だけどな。でも、使いようによっては強力だ」
ニトロは笑った。
「明日、窒素を教えてやる。ゆっくり休んでくれ」
翌朝、秀城はニトロと二人で訓練場にいた。
「窒素の元素は...不活性と、爆発性だ」
ニトロが説明した。
「矛盾してるように聞こえるだろ?」
「ええ」
「窒素ガスは、非常に安定していて反応しにくい。だから、不活性ガスとして使われる」
「でも、窒素化合物は爆発性が高い。ニトログリセリン、TNT...」
秀城は頷いた。化学の知識がある。
「窒素は、生命の根幹でもある。DNA、タンパク質、すべてに窒素が含まれる」
ニトロは真剣な顔で言った。
「窒素は、生と死、安定と破壊、すべてを内包している」
「複雑な元素ですね」
「そう。だからこそ、理解するのが難しい」
ニトロは秀城を見た。
「君は、生命をどう捉えている?」
「生命...」
秀城は考えた。
「生命は、変化し続けるものだと思います。成長し、進化し、そして終わる」
「いい答えだ」
ニトロは頷いた。
「窒素の声を聞いてみろ」
秀城は目を閉じた。
窒素。無色無臭のガス。空気の78%を占める元素。
「窒素は静かだ。でも、その静けさの中に、秘められた力がある」
静けさ。
秀城も、静かに生きてきた。目立たず、主張せず。
「でも、条件が揃えば、窒素は爆発する。眠っていた力が解放される」
爆発。
秀城も、この世界で変わった。眠っていた力が、目覚めた。
「窒素の声を...」
意識を集中する。
すると、静かな、しかし強い存在感を感じた。
「聞こえる...」
静かでありたい、でも力を秘めている。必要な時に、その力を解放する。
それは、秀城自身の在り方だった。
普段は控えめだが、いざという時には力を発揮する。
「窒素は生命の一部だ。すべての生き物の中に、窒素がある」
生命。
秀城も、この世界で生きている。仲間と共に、成長しながら。
「俺は...生命と共にある」
その瞬間、秀城の体が青白い光に包まれた。
╔═══════════════════════════════════╗
║ 重要!元素習得! ║
╠═══════════════════════════════════╣
║ 【窒素(N)を習得しました!】 ║
╠═══════════════════════════════════╣
║ 原子番号:7 ║
║ 元素記号:N ║
║ 分類:非金属 ║
║ 特性:不活性、爆発性、生命必須 ║
╠═══════════════════════════════════╣
║ 習得可能魔法: ║
║ ・窒素障壁(コスト:18MP) ║
║ ・窒素爆発(コスト:35MP) ║
║ ・窒素固定(コスト:25MP) ║
║ ・液体窒素(コスト:30MP) ║
╠═══════════════════════════════════╣
║ ステータス上昇! ║
║ 防御力:97→105(+8) ║
║ 賢さ:110→120(+10) ║
║ HP:400→420(+20) ║
╠═══════════════════════════════════╣
║ 重要!融合魔法解放! ║
╠═══════════════════════════════════╣
║ 【アンモニア(アモニア)】 ║
║ N+H₃ (窒素+水素x3) ║
║ コスト:20MP ║
║ 効果:刺激性ガス、肥料 ║
╠═══════════════════════════════════╣
║ 【硝酸】 ║
║ H+N+O₃ (水素+窒素+酸素x3) ║
║ コスト:28MP ║
║ 効果:強酸、酸化剤 ║
╠═══════════════════════════════════╣
║ 【一酸化窒素】║
║ N+O (窒素+酸素) ║
║ コスト:15MP ║
║ 効果:血管拡張、シグナル伝達 ║
╠═══════════════════════════════════╣
║ 【TNT】 ║
║ C₇+H₅+N₃+O₆ ║
║ (炭素x7+水素x5+窒素x3+酸素x6)║
║ コスト:60MP ║
║ 効果:強力な爆発物 ║
╠═══════════════════════════════════╣
║ 【王水】解放済み! ║
║ HCl+HNO₃ (塩酸+硝酸) ║
║ コスト:50MP ║
║ 効果:金すら溶かす最強の酸 ║
╠═══════════════════════════════════╣
║ 【硝酸銀】解放済み! ║
║ Ag+N+O₃ (銀+窒素+酸素x3) ║
║ コスト:25MP ║
║ 効果:感光性、写真の原理 ║
╠═══════════════════════════════════╣
║ 達成!CNOPS完全習得! ║
║ 特別ボーナス! ║
║ 称号【生命の探求者】獲得! ║
║ 効果:回復魔法効果+20% ║
║ 経験値+200! ║
╠═══════════════════════════════════╣
║ 経験値:810→1010/1200 ║
╚═══════════════════════════════════╝
「十二個目!そして、CNOPSが全部揃った!」
ナトリが喜んだ。彼女たちも見守っていたのだ。
「炭素、窒素、酸素、リン、硫黄...生命の基本元素だね」
ニトロが満足そうに頷いた。
「これで、君は生命の化学を理解した。おめでとう」
「ありがとうございました!」
秀城は深く頭を下げた。
「さて、これからどうする?」
「次は...金属元素をもっと習得したいです。鉄、銅、銀、金は手に入れましたが、まだまだあります」
「アルミニウム、チタン、クロム、マンガン、ニッケル、亜鉛...」
秀城は頭の中で周期表を思い浮かべた。
「それらを習得するには、色んな場所に行かないといけないな」
ニトロが地図を広げた。
「アルミニウム使いは、西の鉱山都市にいる。チタン使いは、東の工業都市。クロム使いは...」
「たくさんありますね」
「ああ。でも、急ぐ必要はない。一つずつ、確実に」
その日の午後、秀城は一人で街を歩いていた。
ナトリとオクシアは、装備の修理に行っている。
「元素が十二個か...」
まだ106個残っている。道のりは長い。
だが、諦める気はなかった。確実に進んでいる。
街の外れに、小さな教会があった。
秀城は何となく、中に入ってみた。
教会の中は静かだった。木製のベンチが並び、前方には祭壇がある。
そして、祭壇の前に、一人の老人が祈りを捧げていた。
「...」
秀城は静かに後ろのベンチに座った。
しばらくして、老人が振り向いた。
「やあ、珍しいな。この街で祈りを捧げる若者は」
「あ、すみません。邪魔でしたか?」
「いいや。神は誰でも歓迎する」
老人は秀城の隣に座った。
「君は、旅人だね」
「はい。転移者です」
「転移者...ああ、噂の」
老人は優しく微笑んだ。
「異世界から来たのか。大変だったろう」
「ええ。最初は、何も分からなくて...」
「だが、今は違う。仲間もいて、目標もある」
「...よく分かりましたね」
「長く生きていればな。人の表情を見れば、大体分かる」
老人は祭壇を見た。
「君は、何を求めている?」
「元の世界に戻る方法です。そのために、全ての元素を習得しようと」
「全ての元素...壮大な目標だ」
老人は感心した様子だった。
「だが、教えておこう。目標は大切だが、道中も大切だ」
「道中?」
「そう。目的地に着くことだけが、旅の意味ではない。道中で出会う人、見る景色、経験すること。それら全てが、旅の価値だ」
老人は秀城を見た。
「君は、この世界での日々を、楽しんでいるか?」
秀城は考えた。
楽しんでいるか?
元の世界では、毎日が苦痛だった。意味を感じられなかった。
でも、この世界では...
「...楽しんでいると思います」
「なら、良い」
老人は立ち上がった。
「元の世界に戻れるかどうかは、私には分からない。だが、この世界での日々を大切にしなさい。それが、君の財産になる」
「...はい」
老人は秀城の肩を叩いて、教会を出て行った。
秀城は一人、しばらく座っていた。
老人の言葉が、心に響いた。
「道中を大切に、か...」
確かに、この一ヶ月、色んなことがあった。
出会い、戦い、成長。そのすべてが、貴重な経験だった。
「元の世界に戻るのが目標だけど...」
秀城は窓の外を見た。
「今、ここにいることも、意味があるのかもしれない」
夕方、三人は宿で夕食を取っていた。
「明日、出発しましょうか」
オクシアが言った。
「次はどこに行きますか?」
「西の鉱山都市、アルミナルに行こうと思う。アルミニウムを習得したい」
「アルミナル...ここから一週間くらいかかりますね」
「ああ。長旅になる」
「途中で、色んな街に寄りましょう!きっと、他の元素使いにも会えますよ!」
ナトリが元気よく言った。
「そうだな」
秀城は笑った。
「じゃあ、明日から、また旅を始めよう」
三人は杯を掲げた。
「乾杯!」
翌朝、三人はフロンティアを出発した。
ニトロとグレタが見送りに来てくれた。
「気をつけてな」
「はい。お世話になりました」
「また会おう。その時は、もっと強くなっているといい」
ニトロが笑った。
「もちろんです!」
三人は西への道を歩き始めた。
「さあ、次の冒険の始まりです!」
ナトリが元気よく先を歩く。
秀城とオクシアもその後に続いた。
西への道は、また新しい景色が広がっていた。
森を抜け、平原を越え、川を渡る。
そして、その道中で、新しい出会いが待っているのだろう。
秀城は、自分のステータスを確認した。
╔═══════════════════════════╗
║ ステータス ║
╠═══════════════════════════╣
║ 名前:メンデレ・秀城 ║
║ レベル:10 ║
║ 職業:元素錬金術師 ║
╠═══════════════════════════╣
║ HP:420/420 ║
║ MP:400/400 ║
║ 攻撃力:90 ║
║ 防御力:105 ║
║ 魔力:155 ║
║ 素早さ:68 ║
║ 賢さ:120 ║
║ 運:32 ║
╠═══════════════════════════╣
║ 習得元素:12/118 ║
║ CNOPS:完全習得 ║
║ 貴金属:Cu,Ag,Au ║
║ 遷移金属:Fe ║
║ アルカリ金属:Na ║
║ ハロゲン:Cl ║
╠═══════════════════════════╣
║ 習得融合魔法:40 ║
╠═══════════════════════════╣
║ 称号: ║
║ ・初級ダンジョン制覇者 ║
║ ・悪魔殺し ║
║ ・元素収集家 ║
║ ・竜殺し ║
║ ・生命の探求者 ║
╠═══════════════════════════╣
║ 所持金:2694リア ║
║ 経験値:1010/1200 ║
╚═══════════════════════════╝
「十二個。十分の一を超えた」
まだ道のりは長い。でも、確実に進んでいる。
「全元素習得...必ずやり遂げる」
秀城は決意を新たにした。
そして、三人の旅は続く。
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