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水の匣  作者: 石田ヨネ
■■ 2 ■■ 振り返り、水の匣事件について
4/5




 ――ギ、ギ、ギィ……!


 と、部屋のドアが開くとともに、

 ――シュ、シュ、シュ、シュ……!!

 と、今度はムカデ人間状に連なった、“ヒトだったと思しきモノ”が列車状に連なったモノが、まるで遊園地のようにして入って来た。

 なお、その衣装などから、おそらくはこのⅩパラダイスに招待された人間だと分かる。

「ひ、ひぃぃッ!?」

 ドン・ヨンファは、ますます恐怖し、声を上げる。

 またそのとき、タイミングを同じとして、

「……ん、……あん?」 

 と、パク・ソユンが、むっくりと起き上がった。

 その目は、昔の日本のテレビ番組の某黄緑色の輩やからのように、半分開いた寝坊助ねぼすけアイであったが。

 続けざま、


「う、うわぁ”ぁ”ん!!!!! そ、そ、そッ、ソユンーーッ!!!!!」


 と、顎が外れかねない勢いで、恐怖に叫ぶドン・ヨンファが、ガバァッ! とパク・ソユンに抱きついてきた。

 また同時に、

 ――ジョビ、ジョバー!!

 っと、ドン・ヨンファの下半身のほうから、液体がドバーッ! と流れだした。

「ん? アンタ? 漏らした? ちょっと、離れてくれない?」

「いッ、いやいやいや!? それどころじゃないって!!! ソユン!!!」

「は? 大きい方、漏らしたわけ? ウンコを?」

「ち、ちち、違うって!! いや、あっちを見なよ!!」



※※『トランス島奇譚』より





 と、のほほんとして汚いものを見る顔で話すパク・ソユンに、ドン・ヨンファが必死で訴え、指をさす。




 夏に入るころの、早朝――

 同じ中国は、水の都市、東洋のベニスと言われる蘇州にて――

 

 この蘇州は、上海からも近く、フラッと遊びに来れる。

 古くからの水路が張り巡らされ、古い建築に、枝垂れる樹々と相まって、非日常感のある街並みを愉しめる。

 そんな蘇州の水路のそば、近代的なガラスとコンクリートを融合しながらも、ほぼガラス張りの、ソリッド形の、独特なデザインのホテルがあった。


 その宿を、若い男女――、中国国内で、旅行系インフルエンサーとして有名なカップルが訪れる。

「あっ、アレかしら?」

 指さした、普通に美人の女に、

「うん、こ、こ」

 と、たぶんカツラを被っている、白いTシャツの男も、指さして答える。

 段々と、建物に近づく。

 朝の日の中、古い中華建築の反った屋根に、しだれ柳と丸い橋のシルエットに浮かぶ、立方体キューブが、少し異質に感じる。


 ただ、近づいていくに、

「へぇ……、まあ、僕は、古びた民家風の宿に泊まりたかったんだけど、思ったより、悪くないかな」

 と、建物のディテールを見るに、ただ奇抜なだけではないのが分かる。

 ふたりは、カメラを回しており、

「ねぇ、近づいてみよー♪」

 と、女が楽しそうにしながら、建物のほうへ近づいていき、

「ああ」

 と、男が続けて、

「う~ん、これは……、ガラスの立方体のふちには、田舎の中華風の、素朴な装飾。そして、中に設けられた壁には、古い煉瓦壁や漆喰壁をリスペクトしたデザインでしょうか……。まあ、いうなれば、伝統と近代の融合した、素晴らしい宿といったところかな」

 と、品評するように言った。


 そして、さらに近づく。

 まだ早朝。

 チェック・イン時間まで、だいぶ空いており、

「とりあえず、荷物だけ置かせてもらって、この辺を、ゆっくり回ってみようよ」

「ああ。観てみたい庭園が、あるからね。まだ、開いてないから、カフェで時間でも潰そう」

「ええ」

 と、ふたりは喋りながら、エントランスのガラス戸へと足を踏み入れようとした。

 ゼロ距離にならんとした、その時、


「う、ん――?」


 と、まず女のほうが、ガラスの、匣の中の様子が、少しおかしいことに気がついた。

「――へ? どうしたん、だい?」

 男が遅れながら、反応した。

 そうして、ふたりが、まじまじと匣の中を見た。

 次の瞬間、

「あっ、あいやー!!!」

「うっ!? うわぁぁん――!!!」

 女と男が、同時に叫び声を上げた。


 すなわち、ガラスのキューブのホテルが、水で満杯に満たされていたのだ!!

 くっきりと見える清涼な、水の匣――

 なお、その中では、ホテルのクラークだったり客人たちが、作品に付随するがごとく――、美しくも溺死体となり、浮いて漂っていた。

「な、何だ、これは……」

 男が、後ずさりしながら、たまげて指を刺す。

 そこへ、

「ね、ねぇ……? こ、これって、」

 と、女が、恐る恐ると思い出すと、

「これって、最近、この蘇州や、上海、杭州で起きている、“アレ”じゃない? その、『水の匣』の、」

「水の匣――? ああっ……!」

 男も思い出して、合点がいった。


 そう、である――

 このカップルたちの記憶に新しいように、彼ら上げた上海、蘇州近辺において、『水の匣』事件というのが続いていた。

 今回のガラスキューブのホテルのように、主にはガラス張りの、立方体・直方体だったり、あるときはピラミッド型の構造物だったりの中。

 いったい、どうやってやったのか――?

 それらの中が、清浄にして清涼な水で、なみなみと満たされるといった事件が起きていたのだ。

 もちろん、中にいた人間、もしくは中に入れられた人間を溺死させられて、という――


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