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――ギ、ギ、ギィ……!
と、部屋のドアが開くとともに、
――シュ、シュ、シュ、シュ……!!
と、今度はムカデ人間状に連なった、“ヒトだったと思しきモノ”が列車状に連なったモノが、まるで遊園地のようにして入って来た。
なお、その衣装などから、おそらくはこのⅩパラダイスに招待された人間だと分かる。
「ひ、ひぃぃッ!?」
ドン・ヨンファは、ますます恐怖し、声を上げる。
またそのとき、タイミングを同じとして、
「……ん、……あん?」
と、パク・ソユンが、むっくりと起き上がった。
その目は、昔の日本のテレビ番組の某黄緑色の輩やからのように、半分開いた寝坊助ねぼすけアイであったが。
続けざま、
「う、うわぁ”ぁ”ん!!!!! そ、そ、そッ、ソユンーーッ!!!!!」
と、顎が外れかねない勢いで、恐怖に叫ぶドン・ヨンファが、ガバァッ! とパク・ソユンに抱きついてきた。
また同時に、
――ジョビ、ジョバー!!
っと、ドン・ヨンファの下半身のほうから、液体がドバーッ! と流れだした。
「ん? アンタ? 漏らした? ちょっと、離れてくれない?」
「いッ、いやいやいや!? それどころじゃないって!!! ソユン!!!」
「は? 大きい方、漏らしたわけ? ウンコを?」
「ち、ちち、違うって!! いや、あっちを見なよ!!」
※※『トランス島奇譚』より
と、のほほんとして汚いものを見る顔で話すパク・ソユンに、ドン・ヨンファが必死で訴え、指をさす。
夏に入るころの、早朝――
同じ中国は、水の都市、東洋のベニスと言われる蘇州にて――
この蘇州は、上海からも近く、フラッと遊びに来れる。
古くからの水路が張り巡らされ、古い建築に、枝垂れる樹々と相まって、非日常感のある街並みを愉しめる。
そんな蘇州の水路のそば、近代的なガラスとコンクリートを融合しながらも、ほぼガラス張りの、ソリッド形の、独特なデザインのホテルがあった。
その宿を、若い男女――、中国国内で、旅行系インフルエンサーとして有名なカップルが訪れる。
「あっ、アレかしら?」
指さした、普通に美人の女に、
「うん、こ、こ」
と、たぶんカツラを被っている、白いTシャツの男も、指さして答える。
段々と、建物に近づく。
朝の日の中、古い中華建築の反った屋根に、しだれ柳と丸い橋のシルエットに浮かぶ、立方体キューブが、少し異質に感じる。
ただ、近づいていくに、
「へぇ……、まあ、僕は、古びた民家風の宿に泊まりたかったんだけど、思ったより、悪くないかな」
と、建物のディテールを見るに、ただ奇抜なだけではないのが分かる。
ふたりは、カメラを回しており、
「ねぇ、近づいてみよー♪」
と、女が楽しそうにしながら、建物のほうへ近づいていき、
「ああ」
と、男が続けて、
「う~ん、これは……、ガラスの立方体の縁には、田舎の中華風の、素朴な装飾。そして、中に設けられた壁には、古い煉瓦壁や漆喰壁をリスペクトしたデザインでしょうか……。まあ、いうなれば、伝統と近代の融合した、素晴らしい宿といったところかな」
と、品評するように言った。
そして、さらに近づく。
まだ早朝。
チェック・イン時間まで、だいぶ空いており、
「とりあえず、荷物だけ置かせてもらって、この辺を、ゆっくり回ってみようよ」
「ああ。観てみたい庭園が、あるからね。まだ、開いてないから、カフェで時間でも潰そう」
「ええ」
と、ふたりは喋りながら、エントランスのガラス戸へと足を踏み入れようとした。
ゼロ距離にならんとした、その時、
「う、ん――?」
と、まず女のほうが、ガラスの、匣の中の様子が、少しおかしいことに気がついた。
「――へ? どうしたん、だい?」
男が遅れながら、反応した。
そうして、ふたりが、まじまじと匣の中を見た。
次の瞬間、
「あっ、あいやー!!!」
「うっ!? うわぁぁん――!!!」
女と男が、同時に叫び声を上げた。
すなわち、ガラスのキューブのホテルが、水で満杯に満たされていたのだ!!
くっきりと見える清涼な、水の匣――
なお、その中では、ホテルのクラークだったり客人たちが、作品に付随するがごとく――、美しくも溺死体となり、浮いて漂っていた。
「な、何だ、これは……」
男が、後ずさりしながら、たまげて指を刺す。
そこへ、
「ね、ねぇ……? こ、これって、」
と、女が、恐る恐ると思い出すと、
「これって、最近、この蘇州や、上海、杭州で起きている、“アレ”じゃない? その、『水の匣』の、」
「水の匣――? ああっ……!」
男も思い出して、合点がいった。
そう、である――
このカップルたちの記憶に新しいように、彼ら上げた上海、蘇州近辺において、『水の匣』事件というのが続いていた。
今回のガラスキューブのホテルのように、主にはガラス張りの、立方体・直方体だったり、あるときはピラミッド型の構造物だったりの中。
いったい、どうやってやったのか――?
それらの中が、清浄にして清涼な水で、なみなみと満たされるといった事件が起きていたのだ。
もちろん、中にいた人間、もしくは中に入れられた人間を溺死させられて、という――