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【水の匣】  作者: 石田ヨネ
第五章 蘇州、調査

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39 もう、お前の【ぽよ】はいいってんだよ!




          (3)




 AQ社――、アクア・キューブインダストリアル社での調査・捜査は、続いていた。

「まあ、お前たちのいうように、その、ポリウォータに対してのエネルギー収支だったか計算が合わないと仮定して、だ――」

 と、ベテラン刑事が言って、

「ええ……問題は、エネルギー収支の前に、ポリウォータがアナタたちを襲った際のエネルギーというのを……、どうやって? 計算したのですか?」

 と、女刑事が、ふたりに問う。

「いや、そ、それは」

「ぽよ」

 と、すぐに言葉が浮かばないドン・ヨンファの横、パク・ソユンが“ぽよ”る。

「(ぐっ……、)」

 ドン・ヨンファが、顔を歪ませる。

 歪ませながらも、「もう、お前の【ぽよ】はいいってんだよ! てか、いつまで、このぽよの高設定は続くんだよ!」と叫びたかったものの、周りもいる手前、自重しておく。

 気を取り直して、

「あ、ああ……、それは、ですね……」

 と、ドン・ヨンファは、“そのこと”を話そうかどうか迷う。

 妖狐のこと、である。

 まあ、先ほど、もう妖具の話をしており、刑事たちも妖狐について“まあそんなもん”程度には思ってくれそうなので、

「そ、それは、ですね……、キツ――、タヌキさんに、やってもらいまして、ね」

「はぁ? タヌキ、だと」

 ベテラン刑事が、顔をしかめ、

「キツネじゃ、なかったでしたっけ?」

 と、女刑事が聞きなおした。

「あっ――?」

 ドン・ヨンファは、またしても、キツネからタヌキへと、逆訂正したことに気づく。

 いや、もう、絶対にわざとだろう。

「あぁ”、ん? また、妖狐ってヤツかよ」

「胡散くせぇな」

 ベテラン刑事たちが、また顔をしかめて言う。

「まあ、胡散くさいってのは、分かるぽよ」

 と、パク・ソユン。

 それに対して、

「「「……」」」

 と、ドン・ヨンファと刑事たちが併せて思うには、

(((まあ、お前の【ぽよ】も、大概なんだけどな……)))

 と、いうところであるが。


 そうして、

「とりあえず、これを見てください」

 ドン・ヨンファが、

 ――スッ――

 と、緑色の三角の葉っぱと金糸が特徴的な、【葛葉】のツル葉を出してみせる。

 そこから、

 ――ボワンッ……

 と、軽く煙幕のようなものが生じて、ホログラフィーが具現化される。

「う、ぉっ……」

「な、何だこりゃ?」

 刑事たちが、驚く。

 その間にも、【葛葉】はアクアボンバの事件現場のCGとともに、そのエネルギー計算、シミュレーションを表示してみせる。

「はぁ、」

 ベテラン刑事が、ポカンとし、

「よく、できてますね」

 と、女刑事が感心するも、

「おいおい、まったく? こんなもんで、おいそれと信用できるのか?」

 と、ベテラン刑事が、疑ってみせる。

「まあ、警部、」

 と、女刑事が間に入って、

「そうしましたら? 試しに、こちらでも――、我々のほうも、計算してみてはどうでしょうか?」

「あ、ああ……」

「ちっ、仕方ないな、」

 と、ベテラン刑事らに提案した。

 そのまま、女刑事は科学調査チームに、

「すみません、いまここで、彼らのいうエネルギー収支というのは、計算はできないですよね?」

「え、ええ……。それなりに、性能あるコンピュータが必要でして、」

「本部に、頼んでみます」

 と、その本部とやらに電話をかけつつ、パソコンの操作を始める。

 ノートパソコンをカタカタしながら、彼らは事情を説明している。

 しばらく、警察側の、スパコンで計算してもらうわけである。

 そうして、数分すると、

「結果が出ました」

 と、科学調査チームの男が報告し、ノートパソコンの画面を見せてきた、

「うむ」

「ありがとうございます」

 と、刑事たちと、

「ぽよ」

「お、お……」

 と、パク・ソユンとドン・ヨンファのふたりも、横からのぞきこむ。

 警察が行った、可能な限り現場で分かっている情報から、行ったシミュレーション結果の画面。 

 それを確認するに、

「確かに、今回の事件を起こすには……、会場のワイヤレス送電のみでは、不足しているようですね。それも、桁が違うくらいに……」

 と、女刑事の言葉に、

「ほ、本当かよ……」

 と、ベテラン刑事が、「信じられない」との顔をした。

 また、女刑事がふたりのほうを向いて、

「それで? “このこと”を以って、貴方たちは、ス・ミンジュン氏やAQ社は、今回の件に関与していない――、そう、主張されるということですか?」

「ぽよ」

「いや、【ぽよ】じゃなくて」

 と、パク・ソユンの気の抜けた返事に、若干イラっとしつつ、

「ま、まあ、そこまで主張しきれるかは、分かりませんが……」

 と、ドン・ヨンファと、

「とりあえず、さ? いったん、待ってもいいんじゃないかしら――? ってこと、ぽよ」

 と、彼女のイライラの元凶こと、パク・ソユンがそう答えた。

「すると? 何だ? この、謎のエネルギーの差を埋めるのに、何か、別の犯人がいるってことか?」

 ベテラン刑事が、聞いた。

「え、ええ……」

「その可能性も、ある、ぽよ」

 と、ふたりは答える。

「エネルギー差を、埋める“ナニカ”、か……」

「その、目星はついているのですか?」

 女刑事が聞くも、

「い、いえ、」

「何だ? 目星は、ついてないのかよ?」

「そ、そういうわけでは、ないんですけど、」

 と、ドン・ヨンファが、またしても言葉をつまらせる。

「じゃあ? 何者なんだ? その、お前たちがいうのは?」

 ベテラン刑事が、改めて聞く。

「そ、そうですね、」

「まあ、アレよ? アレ、ぽよ」

「いや、アレじゃなくて」

「アレとか、ぽよとか、まったく……、いい加減、気の抜けたこと言いやがって」

 と、呆れる刑事たちに、

「ぽよ」

 と、ひたすら”ぽよ”るパク・ソユンに

「「「……」」」

 と、刑事たちは、顔をチーン……とさせながら、

(((こ、こいつは……)))

 と、何かつっこみたい衝動を覚える。

 そこへ、そのパク・ソユンが、

「まあ、アレよ? マンガとかアニメとか、あるじゃん? ぽよ?」

「何? その、マンガやアニメみたいに、異能力だったり、人外の者だったり……、いわゆる、“いまのところの人智を超えた何者か”が、事件に関与している可能性がある――。そう、言いたいのですか?」

「ぽよ」

「だから、どっち? その、【ぽよ】」 

 と、女刑事がつっこんだ。


 本題に戻って、

「まあ、そ、そういうことです。そんな、“小説やアニメに出てくるような犯人”の可能性っていうのを、僕たちは、すこし考えてまして、」 

「何だ? それが、お前たちのいう、目星ってやつか?」

「い、いえっ……、その、“可能性程度”の話なんですが、」

 ドン・ヨンファが、ベテラン刑事につめられオロオロする。

「ちっ、」

「そんな、異能力者や人外の存在なんて……、オカルトじゃないか」

「まったく、デタラメ言ってんじゃねぇのか?」 

 舌打ちし、くだらなさそうに言ってくる刑事たちに、

「い、いや、そのぉ……、」

「は? 私たちが解決してきた事件で、けっこう、“そんなの”が出てくるんだけど?」

 とここで、押しの弱いドン・ヨンファに代わって、パク・ソユンが前に出てくる。

「いや、そうは言ってもなぁ、」

「うーん……? そう、ですね……? まあ、確かに……、わが国でも、“そのような類”の事件の事例というのは、ありますし……」 

「まあ、そもそも、このポリウォータっていうのも、あともう少しすれば、SFみたいな技術であるしな」

「現に、このポリウォータの、【水の匣】に、パク・ソユン氏は襲われたわけですから」

 刑事たちは、『ああでもない、こうでもない』と話す。

 まあ、異能力など、オカルトめいた話であり、おいそれと真に受けるわけにいかないわけである。

 ただ、【シンギュラリティ(技術的特異点)】の近づく、現代世界である。

 科学技術の中には、あともうすこし手を加えれば、ドラえもんの秘密道具とまではいわないものの、“近未来SF的な力”を可能にするようなものが出てきているのは確かである。

 それを踏まえながらも、女刑事が、

「――とはいえ、“それらのこと”を考慮しましても……、ス・ミンジュン氏ら、AQ社の人間が、事件に関与している可能性というのは、否定はできませんよね?」

 と、あくまで、ス・ミンジュンたちの疑いも視野に入れ続けると突きつけた。

「うっ……、そ、それは……」

「ぽよ」

 と、そこは、パク・ソユンとドン・ヨンファのふたりも、そして、ス・ミンジュン自身も、

「……」

 と、否定する言葉が、すぐには出てこなかった。

 すると、パク・ソユンが、

「は? いや、だから、さ? エネルギー収支、に関しては、どうなるぽよ?」

「そこは、第三者の……、別の協力者が、“いる”可能性を考えてもよいですし……、現に、“そのような者”の存在と、ス・ミンジュン氏もしくはAQ社の者との接点が無いかどうかを、我々は、追跡しています」 

「はぁ……、ただ、わざわざ、さ? そんな、“自分たちが疑われるようなこと”を、敢えて、ポリウォータが使われるイベントでする必要があるわけ?」

 と、女刑事に問うも、

「ええ。“だからこそ”――、のパターンも、あるんじゃないでしょうか?」

「はぁ、何か、めんどくさいぽよ、アンタ」

「まあ、アナタの【ぽよ】も、大概だと思いますけど」

 と、両者は、すこしピリッとした。

 それはさておき、パク・ソユンとドン・ヨンファは、いちおうス・ミンジュンを擁護する側に立ち、警察は、あくまでス・ミンジュンを連行し、調査をすすめたかった。

 緊張感のただよう空気。

 なので、両者の集中するところ、注意を向けるところは、すっかり“そちら”のほうに向いてしまった。

 アーティスティックに凝った、研究所内。

 そこに、水が、並々と湛えられている事実。

 その水が、“蠢いている”ことに、この時は、まだ両者とも気がつかなかった。

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