39 もう、お前の【ぽよ】はいいってんだよ!
(3)
AQ社――、アクア・キューブインダストリアル社での調査・捜査は、続いていた。
「まあ、お前たちのいうように、その、ポリウォータに対してのエネルギー収支だったか計算が合わないと仮定して、だ――」
と、ベテラン刑事が言って、
「ええ……問題は、エネルギー収支の前に、ポリウォータがアナタたちを襲った際のエネルギーというのを……、どうやって? 計算したのですか?」
と、女刑事が、ふたりに問う。
「いや、そ、それは」
「ぽよ」
と、すぐに言葉が浮かばないドン・ヨンファの横、パク・ソユンが“ぽよ”る。
「(ぐっ……、)」
ドン・ヨンファが、顔を歪ませる。
歪ませながらも、「もう、お前の【ぽよ】はいいってんだよ! てか、いつまで、このぽよの高設定は続くんだよ!」と叫びたかったものの、周りもいる手前、自重しておく。
気を取り直して、
「あ、ああ……、それは、ですね……」
と、ドン・ヨンファは、“そのこと”を話そうかどうか迷う。
妖狐のこと、である。
まあ、先ほど、もう妖具の話をしており、刑事たちも妖狐について“まあそんなもん”程度には思ってくれそうなので、
「そ、それは、ですね……、キツ――、タヌキさんに、やってもらいまして、ね」
「はぁ? タヌキ、だと」
ベテラン刑事が、顔をしかめ、
「キツネじゃ、なかったでしたっけ?」
と、女刑事が聞きなおした。
「あっ――?」
ドン・ヨンファは、またしても、キツネからタヌキへと、逆訂正したことに気づく。
いや、もう、絶対にわざとだろう。
「あぁ”、ん? また、妖狐ってヤツかよ」
「胡散くせぇな」
ベテラン刑事たちが、また顔をしかめて言う。
「まあ、胡散くさいってのは、分かるぽよ」
と、パク・ソユン。
それに対して、
「「「……」」」
と、ドン・ヨンファと刑事たちが併せて思うには、
(((まあ、お前の【ぽよ】も、大概なんだけどな……)))
と、いうところであるが。
そうして、
「とりあえず、これを見てください」
ドン・ヨンファが、
――スッ――
と、緑色の三角の葉っぱと金糸が特徴的な、【葛葉】のツル葉を出してみせる。
そこから、
――ボワンッ……
と、軽く煙幕のようなものが生じて、ホログラフィーが具現化される。
「う、ぉっ……」
「な、何だこりゃ?」
刑事たちが、驚く。
その間にも、【葛葉】はアクアボンバの事件現場のCGとともに、そのエネルギー計算、シミュレーションを表示してみせる。
「はぁ、」
ベテラン刑事が、ポカンとし、
「よく、できてますね」
と、女刑事が感心するも、
「おいおい、まったく? こんなもんで、おいそれと信用できるのか?」
と、ベテラン刑事が、疑ってみせる。
「まあ、警部、」
と、女刑事が間に入って、
「そうしましたら? 試しに、こちらでも――、我々のほうも、計算してみてはどうでしょうか?」
「あ、ああ……」
「ちっ、仕方ないな、」
と、ベテラン刑事らに提案した。
そのまま、女刑事は科学調査チームに、
「すみません、いまここで、彼らのいうエネルギー収支というのは、計算はできないですよね?」
「え、ええ……。それなりに、性能あるコンピュータが必要でして、」
「本部に、頼んでみます」
と、その本部とやらに電話をかけつつ、パソコンの操作を始める。
ノートパソコンをカタカタしながら、彼らは事情を説明している。
しばらく、警察側の、スパコンで計算してもらうわけである。
そうして、数分すると、
「結果が出ました」
と、科学調査チームの男が報告し、ノートパソコンの画面を見せてきた、
「うむ」
「ありがとうございます」
と、刑事たちと、
「ぽよ」
「お、お……」
と、パク・ソユンとドン・ヨンファのふたりも、横からのぞきこむ。
警察が行った、可能な限り現場で分かっている情報から、行ったシミュレーション結果の画面。
それを確認するに、
「確かに、今回の事件を起こすには……、会場のワイヤレス送電のみでは、不足しているようですね。それも、桁が違うくらいに……」
と、女刑事の言葉に、
「ほ、本当かよ……」
と、ベテラン刑事が、「信じられない」との顔をした。
また、女刑事がふたりのほうを向いて、
「それで? “このこと”を以って、貴方たちは、ス・ミンジュン氏やAQ社は、今回の件に関与していない――、そう、主張されるということですか?」
「ぽよ」
「いや、【ぽよ】じゃなくて」
と、パク・ソユンの気の抜けた返事に、若干イラっとしつつ、
「ま、まあ、そこまで主張しきれるかは、分かりませんが……」
と、ドン・ヨンファと、
「とりあえず、さ? いったん、待ってもいいんじゃないかしら――? ってこと、ぽよ」
と、彼女のイライラの元凶こと、パク・ソユンがそう答えた。
「すると? 何だ? この、謎のエネルギーの差を埋めるのに、何か、別の犯人がいるってことか?」
ベテラン刑事が、聞いた。
「え、ええ……」
「その可能性も、ある、ぽよ」
と、ふたりは答える。
「エネルギー差を、埋める“ナニカ”、か……」
「その、目星はついているのですか?」
女刑事が聞くも、
「い、いえ、」
「何だ? 目星は、ついてないのかよ?」
「そ、そういうわけでは、ないんですけど、」
と、ドン・ヨンファが、またしても言葉をつまらせる。
「じゃあ? 何者なんだ? その、お前たちがいうのは?」
ベテラン刑事が、改めて聞く。
「そ、そうですね、」
「まあ、アレよ? アレ、ぽよ」
「いや、アレじゃなくて」
「アレとか、ぽよとか、まったく……、いい加減、気の抜けたこと言いやがって」
と、呆れる刑事たちに、
「ぽよ」
と、ひたすら”ぽよ”るパク・ソユンに
「「「……」」」
と、刑事たちは、顔をチーン……とさせながら、
(((こ、こいつは……)))
と、何かつっこみたい衝動を覚える。
そこへ、そのパク・ソユンが、
「まあ、アレよ? マンガとかアニメとか、あるじゃん? ぽよ?」
「何? その、マンガやアニメみたいに、異能力だったり、人外の者だったり……、いわゆる、“いまのところの人智を超えた何者か”が、事件に関与している可能性がある――。そう、言いたいのですか?」
「ぽよ」
「だから、どっち? その、【ぽよ】」
と、女刑事がつっこんだ。
本題に戻って、
「まあ、そ、そういうことです。そんな、“小説やアニメに出てくるような犯人”の可能性っていうのを、僕たちは、すこし考えてまして、」
「何だ? それが、お前たちのいう、目星ってやつか?」
「い、いえっ……、その、“可能性程度”の話なんですが、」
ドン・ヨンファが、ベテラン刑事につめられオロオロする。
「ちっ、」
「そんな、異能力者や人外の存在なんて……、オカルトじゃないか」
「まったく、デタラメ言ってんじゃねぇのか?」
舌打ちし、くだらなさそうに言ってくる刑事たちに、
「い、いや、そのぉ……、」
「は? 私たちが解決してきた事件で、けっこう、“そんなの”が出てくるんだけど?」
とここで、押しの弱いドン・ヨンファに代わって、パク・ソユンが前に出てくる。
「いや、そうは言ってもなぁ、」
「うーん……? そう、ですね……? まあ、確かに……、わが国でも、“そのような類”の事件の事例というのは、ありますし……」
「まあ、そもそも、このポリウォータっていうのも、あともう少しすれば、SFみたいな技術であるしな」
「現に、このポリウォータの、【水の匣】に、パク・ソユン氏は襲われたわけですから」
刑事たちは、『ああでもない、こうでもない』と話す。
まあ、異能力など、オカルトめいた話であり、おいそれと真に受けるわけにいかないわけである。
ただ、【シンギュラリティ(技術的特異点)】の近づく、現代世界である。
科学技術の中には、あともうすこし手を加えれば、ドラえもんの秘密道具とまではいわないものの、“近未来SF的な力”を可能にするようなものが出てきているのは確かである。
それを踏まえながらも、女刑事が、
「――とはいえ、“それらのこと”を考慮しましても……、ス・ミンジュン氏ら、AQ社の人間が、事件に関与している可能性というのは、否定はできませんよね?」
と、あくまで、ス・ミンジュンたちの疑いも視野に入れ続けると突きつけた。
「うっ……、そ、それは……」
「ぽよ」
と、そこは、パク・ソユンとドン・ヨンファのふたりも、そして、ス・ミンジュン自身も、
「……」
と、否定する言葉が、すぐには出てこなかった。
すると、パク・ソユンが、
「は? いや、だから、さ? エネルギー収支、に関しては、どうなるぽよ?」
「そこは、第三者の……、別の協力者が、“いる”可能性を考えてもよいですし……、現に、“そのような者”の存在と、ス・ミンジュン氏もしくはAQ社の者との接点が無いかどうかを、我々は、追跡しています」
「はぁ……、ただ、わざわざ、さ? そんな、“自分たちが疑われるようなこと”を、敢えて、ポリウォータが使われるイベントでする必要があるわけ?」
と、女刑事に問うも、
「ええ。“だからこそ”――、のパターンも、あるんじゃないでしょうか?」
「はぁ、何か、めんどくさいぽよ、アンタ」
「まあ、アナタの【ぽよ】も、大概だと思いますけど」
と、両者は、すこしピリッとした。
それはさておき、パク・ソユンとドン・ヨンファは、いちおうス・ミンジュンを擁護する側に立ち、警察は、あくまでス・ミンジュンを連行し、調査をすすめたかった。
緊張感のただよう空気。
なので、両者の集中するところ、注意を向けるところは、すっかり“そちら”のほうに向いてしまった。
アーティスティックに凝った、研究所内。
そこに、水が、並々と湛えられている事実。
その水が、“蠢いている”ことに、この時は、まだ両者とも気がつかなかった。




