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【水の匣】  作者: 石田ヨネ
第五章 蘇州、調査

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37 ちなみに、“ぽんぽこ狸合戦”ではなく、【狸合戦ぽんぽこ】なのであるが




          (1)





「ぽよ――」


 と、パク・ソユンの、【ぽよ】の声に、

「「「「「……」」」」」

 一同、ポカンとする。

 同時に、さきほどまで張りつめていた空間が、いっきにゆるくなる。

「しか、し……? どうやって、入って来たんだ? こいつらは?」

 ベテラン刑事が、言った。

 まあ、いまさらの疑問であるが。

「そもそも、セキュリティで、入れないと思いますし……? しかも、よりにもよって、我々が捜査しているところに――」

 女刑事も、不思議そうに言う。

 そんな、刑事たちが話すを聞いて、

「た、確かに……」

 と、この施設の、AQ社の主でもあるス・ミンジュンも、同じく不思議に思った。

 そんな刑事たちと、ス・ミンジュンに、

「あ、あ……? “これ”、ぽよ」

 と、パク・ソユンは、額にのっかっていた“謎の葉っぱ”を手に取って、

 

 ――スッ――


 と、差し出してみせた。

「「「葉っ、ぱ――?」」」

 数人の声が、重なる。

「これは、その……、妖狐の、妖具――」

 ドン・ヨンファが、恐る恐る言いつつ、

「「妖、狐――?」」

「「あぁ、ん? 妖狐だと――?」」

 と、【妖狐】とのことばに、刑事たちの注目が集める中、

「え、ええ……、その、妖狐の、ドラえもんでいうところの、ひみつ道具とでも言いますか? 【タヌキ化かしの葉っぱ】――、という道具です」

 と、答えた。

「「「タヌキ化かしの、葉っぱ――?」」」

 妖具の名に、刑事たちがポカン――としつつ、

「いや、妖狐の、ドラえもんの、タヌキのって……」

「タヌキなのか、キツネなのか、ネコなのか、どっちだよ?」

 と、つっこんだ。

 それはさておき、

「それは、どんな妖具――、道具なのですか?」

 と、女刑事が尋ねる。

「そう、ですねぇ……?」

 ドン・ヨンファが、すこし天井を仰いで言葉を考えながら、 

「その、例えば、日本では……、昔話などで、タヌキが道具だったり、人間に“化ける”――っていう“設定”が、あるじゃないですか?」

「タヌキが、人間や道具に、化ける――?」

「日本の、昔話……?」

 と、聞き返す声に、

「ぽよ。アニメ映画の、【ぽんぽこ狸合戦】を思い浮かべる、ぽよ」

「「「ああ……。でも、あれは、現代じゃないのかな?」」」

 と、パク・ソユンがあげた【ぽんぽこ狸合戦】に、何人かがピンときた。

 ちなみに、“ぽんぽこ狸合戦”ではなく、【狸合戦ぽんぽこ】なのであるが。

 それはさておき、

「まあ、そのように、ですね……、“これ”をつけていることで、“関係者”にも“化ける”ことができまして……、それによって、あらゆる建物だったり、会社や団体といった、人の集まりの中にも、シレッと侵入できる――。“そうした効果”が、あるとのことらしいんですけど……」

 ドン・ヨンファが説明する。

「シレッと、とか言うなや、」

 刑事のひとりがつっこみ、

「何だ? その、別の誰かに“化けてる”わけじゃねぇのか?」

「ま、まあ、」

 と、ベテラン刑事のつっこみに、ドン・ヨンファが言葉をつまらせていると、

「その、アレじゃないでしょうか? 姿は変わらなくても、彼らふたりを関係者として認識するように、我々の認知を変えさせる」

「は、ぁ」

「まあ、それも広義の意味での、“化ける”ってことになるんじゃないでしょうか」

 と、女刑事が変わって説明した。

「ま、まあ、そんな感じです」

 ドン・ヨンファが言うと、

「――ていうか? “それ”を言ったら、もう、化かせないんじゃないのかしら?」

「あっ――」

「ぽよ」

「いや、【ぽよ】じゃなくて、」

 と、女刑事が呆れたようにいう。


 そのようにして、パク・ソユンとドン・ヨンファは妖狐の妖具を使って、この捜査の中に入りこんだものの、ていねいに説明したことで、それはバレてしまう。

 ただ、ご都合主義なのか、ふたりは特につまみだされることなく話は進む。

「ところで、お前たち? たしか、探偵とか言ってたが、」

 ベテラン刑事が、そこに言及してきた。

「あっ、」

 マズい顔をするドン・ヨンファと、

「ぽよ」

 と、パク・ソユンは、相変わらずの【ぽよ】で反応する。

「何か、探偵事務所の名刺とか、ないの?」

 女刑事が聞くと、

「あっ……、い、いやぁ……? そ、のぉ……」

 と、ドン・ヨンファが、しどろもどろする。

 まあ、“それ”くらい、何か妖力で用意しとけよ、という話だが。

「何て、探偵事務所――、会社なの?」

 女刑事が続けて聞いてきて、

「うっ……、そ、そのぉ……」

 と、ドン・ヨンファは迫られる。

【SPY探偵団】――

 それが、いちおう自分たちの、探偵サークルの名称であるのだが、やや中二くささもある活動と名称であるから、できれば口にしたくなかった。


 ――チラ、リ…… 


 と、ドン・ヨンファは、隣のパク・ソユンのほうを振り向いて、

「(そ、ソユン……)」

 と、『君が、代わりに答えてくれよ』と、訴えかけるような目線を送る。

 だが、そのパク・ソユンはというと、

「……」

 と、無言ながらも、

 ――ジトッ……

 とした目で、こちらに、“目力”を返してきた。

 その目力に、

「(うっ……!?)」

 と、ドン・ヨンファが、思わず怯んだ。


 ――じぃっ……


 と、パク・ソユンが目で言うこと、『お前が、答えろ』、とのことである。

「う、うっ……、」

 ドン・ヨンファは、顔を歪ませながら躊躇する。

 そのドン・ヨンファに、パク・ソユンだけでなく、刑事たちも、

「……」

「……」

「……」

「……」

 と、ジッ……と目線を、『早く、言えよ』との、プレッシャーを送ってくる。

「(う、ぐっ……!?)」

 ドン・ヨンファは、ますます顔を歪める。

 出来たら、出したくないサークル名――

 しかし、それを口に、言葉に出さないと話は進まないし、そのうち、『さっさとしろ!』と言われてしまうだろう。

 ドン・ヨンファは、勇気を振り絞るようにして、

「い、いや、その……、え、SP、Y探偵団……、って……」 

 と、ボソボソしながら言った。

「「「SP……、Y……?」」」

「「「探偵、団……?」」」

 と、ボソボソと聞き取りにくかったものの、謎のアルファベットと、少年探偵団であるまいに、【探偵団】などとのワードが聞こえ、皆が首をかしげる。

 そんな、微妙な空気が漂いながら、

「何ぽよ? 恥ずかしがらずに、はっきりいうぽよ」

「はぁ? じゃあ、ソユンが言ってくれよ」

「やだぽよ」

「何だよ、『やだぽよ』って、」

 と、ドン・ヨンファは自分に丸投げしてきたパク・ソユンに、憤りながら呆れてみせた。

 そうして、

「ああ、もう……、いいや。僕らは、【SPY探偵団】っていう、そのぉ……、探偵グループです」

 と、ドン・ヨンファは腹を括ったように、中二くさい探偵サークル名を言いきった。

「何だ? その、【SPY探偵団】って?」

 ベテラン刑事が、怪訝な顔をし、

「会社、なの? その、調査会社みたいな?」

 と、女刑事も聞いた。

「ま、まあ……、ぶっちゃけ、サークルみたいなものです」

 ドン・ヨンファは、そこは隠さずに答えた。

 しかし、その、“サークル名”との言葉に、

「サークルみたいな、もの――?」

 と、女刑事がひっかかる。

「おうおう? そんなもんで、ここに来たのかよ?」

「こちとら、遊びじゃねぇんだぞ」

「さぁ、帰った帰った」

 と、ベテラン刑事ら強面たちが、ここぞとばかしにパク・ソユンとドン・ヨンファのふたりに迫るも、

「ぽよ」

「「「「だ、か、らっ!! 【ぽよ】じゃ、なくてっ!!」」」」

 と、相変わらず、動じずに【ぽよ】を言うパク・ソユンに、調子を狂わされる。

 そうしながらも、その隙にパク・ソユンは

 

 ――ぴ、とっ――


 と、ひたいに、【葉っぱ】をつけなおした。

 

 ――ポ、ワン――


 と、見えないものの、広がるオーラ。

 それらが、

「「「ッ――!?」」」

 と、刑事たちの脳内に走るや否や、その“認知情報”を書き換える。

 そして、一転して、

「分かり、ました……」

「探偵で、捜査に関係するなら、勝手にしろよ」

 と、目の前にいる、“関係者に化けた”ふたりを、いちおうは受け入れてくれた。

「(ほっ……、た、助かった……、か?)」

「(ぽよ)」

 と、ドン・ヨンファは、間一髪つまみ出されなかったことに安堵した。


 そのようにしながら、

「――と、いうよりも……?」

 と、女刑事が、パク・ソユンの顔をまじまじと見て、

「そう言えば、アナタ?」 

「ぽよ?」

 と、ぼーっとした顔で、目を“点”にするパク・ソユンに、

「今日の、アクアボンバで――、【水の匣】の被害にあったDJって、アナタじゃないの?」

 と、尋ねた。

 それを聞いて、他の刑事たちも、

「ん――?」

「……あ?」

 と、ゆるり……と、反応する。

「あ、あ……? そう、言われてみれ、ば……」

 刑事たちは、捜査資料を見てみる。あるいは、アクア・ボンバのサイトやSNSをスマホで開いて、調べてみる。

 アクア・ボンバの、出場アーティスト欄。

 そこには、顔写真や過去のイベントでのパフォーマンスの画像とともに、DJ・SAWこと、パク・ソユンの情報が載っていた。

 そうして、目の前の、

「……」

 と、ジトッとした目で、半分眠そうな顔をしてる控えるパク・ソユン。

 DJしている際の、イキイキとしている感じはなくてローテンションではあるものの、間違いなくDJ・SAWの中身というか、本人そのものだった。

 続けて、

「何でも? 【水の匣】に、45分ちかくも閉じ込められていたとか?」

 刑事の男が、にわかには信じられないとの顔で聞く。

「ぽよ」

 と、パク・ソユン。

「それで? 無事だったの?」

 女刑事が聞くも、

「ぽよ」

 と、相変わらずの【ぽよ】。

 とりあえず、『うん』と、肯定の意味の『ぽよ』だと仮定して、

「そんな、とても、信じられない……」

「いや、それに、いくら何ともだとしても……」

「ふつう、念のため、病院に入院させられるはずだけどな」

 と、ベテラン刑事と、

「入院は、しなかったの?」

 と、女刑事が、“そこ”に気がついて問うた。

「うん。とくに問題なかったから、すぐに退院したー」

 パク・ソユンが、ケロッとして答える。

 なお、その傍らでは、

「……」

 と、ドン・ヨンファが、無言でチラリ……としながらも、

(いや、飛び降りて脱出しただろ……)

 と、つっこみたくなったが、自粛しておいた。

 まあ、“これ”こそ、さすがに言うわけにはいかないので……

 また、

「そんな……、まったく、信じられないわ……」

 女刑事が、改めて口にし、

「45分も水の中で溺れてたって……、普通、生きてないだろ?」

 と、ベテラン刑事も、やはりまだ信じられない様子で言った。

「ぽよ」

 パク・ソユンが、また、“ぽよ”る。

“ぽよ”りながらも、

「まあ? そんなふうだから、さ? 探偵として調べているだけじゃなくて、いちおう、私たちも、“当事者”になるじゃん?」 

「まあ、当事者には、なるとは思いますが……」

「ちっ、何が当事者だ? まったく、」

 と、ベテラン刑事が、苦い顔で舌打ちし、

「とりあえず、邪魔にならないようにだけ、してくださいね」

 と、もう仕方なさそうに、女刑事が言った。

「うん。わかったー」

 パク・ソユンが、返事する。

 絶対に分かってなさそうな、『分かったー』で……

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