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【神楽坂】ゴシック・フォックス調査譚シリーズ 【水の匣】  作者: 山口友祐
第四章 検討を重ねて、調査へ

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33 “1兆℃の溶岩のような何か”をエスプレッソのように


「――そういうわけで、タヌキはん?」

 とここで、美祢八が、

「う、ん――?」

「アンタが言うように、実行犯――、まあ、単独犯か、グループ・組織なんかは分かんらんけど……、一般ピープルか、せいぜい異能力者や怪人程度の人間ってのが、“何らか道具や力”を、のう? 借りたっちゅう可能性も、あるってわけけ? その、ヨンファたちが、“ドラえもんみたいなアンタ”に借りるようにみたいに」

 と、話をまとめながら、妖狐に聞いて確認する。

「ああ……。ていうか、いい加減、キツネ、な? お前ら、すこしは、いい加減にしてくれな」

 幾度ものタヌキ呼ばわりに、妖狐も、さすがにつっこむ。

 まあ、もはや“わざと”だと思われても仕方がないレベルで、これに関しては、妖狐がすこし不憫ではある。

 というよりも、もっと怒ってもいいものだが、人外ゆえか? 沸点が高すぎるのかもしれない。

 ちなみに、時に、“1兆℃の溶岩のような何か”をエスプレッソのように飲んで嗜むこともある妖狐である。

 そんな、ウルトラマンのゼットンもビックリな超超高温の“飲み物”を平然と飲めるくらいだから、やはり、怒りの沸点も高すぎるのかもしれない。


 本題に戻って、

「まあ、とは言っても、仮説は仮説だ……。可能性など、あげれば、いくらでも挙げれるだろうな」

 キム・テヤンが、そう言った。

 仮説は出たとしても、“その程度”のものなので、下手に一点集中しないほうがいいと言いたいのだろう。

「まあ、な……。巧妙に、瘴気を残さない魔人とかも、いるからな」

 妖狐が、補足的に言う。

 それを聞いて、

「じゃあ? その、瘴気を残さない魔人“方面”は、さ? タヌキ、アンタが調べてよ?」

 と、パク・ソユンが頼むと、

「うん。やだ」

「は――? 何故ぽよ」

 と、ふたたび、デジャヴのようなやりとりが来た。

「「「「いや、もう『何故ぽよ』はいいから」」」」

 また、数人がつっこんだ。

 まあ、もし、次に『何故ぽよ』と言ったら、少なくとも『何故ぽよ』の禁止だけは検討したほうがいい。

 そんな、『何故ぽよ』は置いておき、

「――まあ、“その可能性”も、いちおう、気にかけておいてやる」

「ああ、ありがとうございます」

 妖狐の言葉に、カン・ロウンが代表して礼を言う。

「とりま、人間、怪人のほうは、貴様たちが調べるのだ」

「ええ」

 と、ここで、調査する範囲を分ける。

 

 そうして、もう少し話を煮つめる。

 妖狐の“葛葉”により、今回の、アクアボンバの“水の匣”の件だけでなく、他の“水の匣”のケースに関する資料を出してやる。

 それらを見ながら、

「とりあえず、人間、怪人のほうを考えるとして……、そうすると、まあ、今回と一連の“水の匣”の件を考えるに、単独犯だと、さすがに難しいのか?」

 と、カン・ロウンは、皆に聞く。

「まあ、グループ、もしくは組織的な可能性を、考えておいたほうがいいんじゃねぇか」

 と、キム・テヤン。

「そう、だな……」

 と、カン・ロウンが頷く。

 また、美祢八が、

「あとは、よ? 今回の件を考えるに、他のケースでも、“動く水”ってのが使われている可能性が、あるんかのう?」

「う~ん……? 確、かに」

 と、ドン・ヨンファが、「それもそうだ」とうなる。

 そこへ、カン・ロウンが、

「確かに、この“動く水”と、“何らかの魔力に類した力”を組み合わせて用いたとすれば……、先日の、この、ガラスの立方体のホテルの件でも、水でいっぱいに満たすことも、可能かもしれないな」

 と、言いながら、先日、蘇州の小さなホテルで起きた事件の資料をみせた。

「そうだね……、それであれば、大小の隙間から漏れることなく……、密閉した状態で、これくらいの空間を満たして、“水の匣”とすることも可能だろうね

 ドン・ヨンファも、そう話す。

 話しながらも

「とは、言え……、そうする、と――」

 とここで、恐る恐ると……、あまり、“言葉にしたくはないこと”が思い浮かんだ。

 

「――万が一、かもしれないけど……、ス・ミンジュンと、彼の会社……、その誰かが、今回の事件、もしくは一連の事件に……、関わっている可能性が、出てくるのかい――?」


 と、ドン・ヨンファは、自分でも「まさか……」と言いたげな顔で、言葉にして皆に投げかけてみた。

 そんな懸念に、美祢八が、

「まあ、アンタの友人だけでなく、友人はんのライバル企業か……、それとも、企業関係なく、研究者や関係者が、何らかの関与をしているとかも、考えられるんやないかね? まあ、その、業界事情は、知らなんだだけど」

「そう、だね……」

 と、ドン・ヨンファは、「それもそうだ」と安堵はできないものの頷いた。

 また、そのように話していたところ、


 ――にゅ、やぁっ……


 と、妖狐の神楽坂文が、“葛葉”のツル葉を見せながら、

「ああ――? ちなみに、この、“動く水”とは “これ”であろう?」

 と、ホログラフィを新たに出してみせる。

 どこかから、ハッキングしたのか――? “蒐集”した情報を、プレゼンのように見やすくまとめたホログラフィ。

 分子式や、様々なモデル、方程式とともに、“何かそれっぽくまとめられた”、理工学的な資料。

 そこには、


 ――『ポリウォータ』――


 と、奇しくも、パク・ソユンのステージの前に、ドン・ヨンファと美祢八と、ス・ミンジュン友人の三人が交わした会話のこと――、戦後の科学史にすこし残しても良さそうな、奇妙な事件、『ポリウォーター騒動』の主役となったキーワードが出ていた。

「ポリ、ウォータ……?」

 ゴーグル・サングラスが、キョトンとし、

「ぽよ?」

 と、パク・ソユンが、性懲りもなく“ぽよん”とする。

 そんな二人に、

「まあ、“重合水”――。簡単に言えば、水が、プラスチックの高分子のように結合して、燃料になったり、あるいは特別な性質を持ったマテリアルとなる――」

 と、ドン・ヨンファが説明し、

「――って、夢と希望を持った、事件ちゃね?」 

 と、美祢八が、懸け橋のように、その言葉をつなぐ。

「ああ……、それも、半世紀も前の、ね」

 ドン・ヨンファが、そう言葉を添えて返しつつ。


 その横から、

「ふむ。知らないヤツは、“これ”でも読むのだ――」

 と、妖狐が言うとともに、

 ――ボ、ワン……

 と、先ほどのホログラフィに加えて、こんどはネット辞典のような解説資料を表示させてやる。

 それを読んで、

「ああ……? そういうことね」

「本当に、分かったのかよ?」

 と、「うん。完全に理解した」と云わんかのパク・ソユンに、ドン・ヨンファがつっこみながらも、

「アレ、でしょ? 不純物と、測定技術が未熟で、間違っちゃったデータが出ちゃった的な」

「うん。だいたい、そんな感じ」

 と、そこは意外と上手くまとめたパク・ソユンに、ドン・ヨンファが納得した。

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