33 “1兆℃の溶岩のような何か”をエスプレッソのように
「――そういうわけで、タヌキはん?」
とここで、美祢八が、
「う、ん――?」
「アンタが言うように、実行犯――、まあ、単独犯か、グループ・組織なんかは分かんらんけど……、一般ピープルか、せいぜい異能力者や怪人程度の人間ってのが、“何らか道具や力”を、のう? 借りたっちゅう可能性も、あるってわけけ? その、ヨンファたちが、“ドラえもんみたいなアンタ”に借りるようにみたいに」
と、話をまとめながら、妖狐に聞いて確認する。
「ああ……。ていうか、いい加減、キツネ、な? お前ら、すこしは、いい加減にしてくれな」
幾度ものタヌキ呼ばわりに、妖狐も、さすがにつっこむ。
まあ、もはや“わざと”だと思われても仕方がないレベルで、これに関しては、妖狐がすこし不憫ではある。
というよりも、もっと怒ってもいいものだが、人外ゆえか? 沸点が高すぎるのかもしれない。
ちなみに、時に、“1兆℃の溶岩のような何か”をエスプレッソのように飲んで嗜むこともある妖狐である。
そんな、ウルトラマンのゼットンもビックリな超超高温の“飲み物”を平然と飲めるくらいだから、やはり、怒りの沸点も高すぎるのかもしれない。
本題に戻って、
「まあ、とは言っても、仮説は仮説だ……。可能性など、あげれば、いくらでも挙げれるだろうな」
キム・テヤンが、そう言った。
仮説は出たとしても、“その程度”のものなので、下手に一点集中しないほうがいいと言いたいのだろう。
「まあ、な……。巧妙に、瘴気を残さない魔人とかも、いるからな」
妖狐が、補足的に言う。
それを聞いて、
「じゃあ? その、瘴気を残さない魔人“方面”は、さ? タヌキ、アンタが調べてよ?」
と、パク・ソユンが頼むと、
「うん。やだ」
「は――? 何故ぽよ」
と、ふたたび、デジャヴのようなやりとりが来た。
「「「「いや、もう『何故ぽよ』はいいから」」」」
また、数人がつっこんだ。
まあ、もし、次に『何故ぽよ』と言ったら、少なくとも『何故ぽよ』の禁止だけは検討したほうがいい。
そんな、『何故ぽよ』は置いておき、
「――まあ、“その可能性”も、いちおう、気にかけておいてやる」
「ああ、ありがとうございます」
妖狐の言葉に、カン・ロウンが代表して礼を言う。
「とりま、人間、怪人のほうは、貴様たちが調べるのだ」
「ええ」
と、ここで、調査する範囲を分ける。
そうして、もう少し話を煮つめる。
妖狐の“葛葉”により、今回の、アクアボンバの“水の匣”の件だけでなく、他の“水の匣”のケースに関する資料を出してやる。
それらを見ながら、
「とりあえず、人間、怪人のほうを考えるとして……、そうすると、まあ、今回と一連の“水の匣”の件を考えるに、単独犯だと、さすがに難しいのか?」
と、カン・ロウンは、皆に聞く。
「まあ、グループ、もしくは組織的な可能性を、考えておいたほうがいいんじゃねぇか」
と、キム・テヤン。
「そう、だな……」
と、カン・ロウンが頷く。
また、美祢八が、
「あとは、よ? 今回の件を考えるに、他のケースでも、“動く水”ってのが使われている可能性が、あるんかのう?」
「う~ん……? 確、かに」
と、ドン・ヨンファが、「それもそうだ」とうなる。
そこへ、カン・ロウンが、
「確かに、この“動く水”と、“何らかの魔力に類した力”を組み合わせて用いたとすれば……、先日の、この、ガラスの立方体のホテルの件でも、水でいっぱいに満たすことも、可能かもしれないな」
と、言いながら、先日、蘇州の小さなホテルで起きた事件の資料をみせた。
「そうだね……、それであれば、大小の隙間から漏れることなく……、密閉した状態で、これくらいの空間を満たして、“水の匣”とすることも可能だろうね
ドン・ヨンファも、そう話す。
話しながらも
「とは、言え……、そうする、と――」
とここで、恐る恐ると……、あまり、“言葉にしたくはないこと”が思い浮かんだ。
「――万が一、かもしれないけど……、ス・ミンジュンと、彼の会社……、その誰かが、今回の事件、もしくは一連の事件に……、関わっている可能性が、出てくるのかい――?」
と、ドン・ヨンファは、自分でも「まさか……」と言いたげな顔で、言葉にして皆に投げかけてみた。
そんな懸念に、美祢八が、
「まあ、アンタの友人だけでなく、友人はんのライバル企業か……、それとも、企業関係なく、研究者や関係者が、何らかの関与をしているとかも、考えられるんやないかね? まあ、その、業界事情は、知らなんだだけど」
「そう、だね……」
と、ドン・ヨンファは、「それもそうだ」と安堵はできないものの頷いた。
また、そのように話していたところ、
――にゅ、やぁっ……
と、妖狐の神楽坂文が、“葛葉”のツル葉を見せながら、
「ああ――? ちなみに、この、“動く水”とは “これ”であろう?」
と、ホログラフィを新たに出してみせる。
どこかから、ハッキングしたのか――? “蒐集”した情報を、プレゼンのように見やすくまとめたホログラフィ。
分子式や、様々なモデル、方程式とともに、“何かそれっぽくまとめられた”、理工学的な資料。
そこには、
――『ポリウォータ』――
と、奇しくも、パク・ソユンのステージの前に、ドン・ヨンファと美祢八と、ス・ミンジュン友人の三人が交わした会話のこと――、戦後の科学史にすこし残しても良さそうな、奇妙な事件、『ポリウォーター騒動』の主役となったキーワードが出ていた。
「ポリ、ウォータ……?」
ゴーグル・サングラスが、キョトンとし、
「ぽよ?」
と、パク・ソユンが、性懲りもなく“ぽよん”とする。
そんな二人に、
「まあ、“重合水”――。簡単に言えば、水が、プラスチックの高分子のように結合して、燃料になったり、あるいは特別な性質を持ったマテリアルとなる――」
と、ドン・ヨンファが説明し、
「――って、夢と希望を持った、事件ちゃね?」
と、美祢八が、懸け橋のように、その言葉をつなぐ。
「ああ……、それも、半世紀も前の、ね」
ドン・ヨンファが、そう言葉を添えて返しつつ。
その横から、
「ふむ。知らないヤツは、“これ”でも読むのだ――」
と、妖狐が言うとともに、
――ボ、ワン……
と、先ほどのホログラフィに加えて、こんどはネット辞典のような解説資料を表示させてやる。
それを読んで、
「ああ……? そういうことね」
「本当に、分かったのかよ?」
と、「うん。完全に理解した」と云わんかのパク・ソユンに、ドン・ヨンファがつっこみながらも、
「アレ、でしょ? 不純物と、測定技術が未熟で、間違っちゃったデータが出ちゃった的な」
「うん。だいたい、そんな感じ」
と、そこは意外と上手くまとめたパク・ソユンに、ドン・ヨンファが納得した。




