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【神楽坂】ゴシック・フォックス調査譚シリーズ 【水の匣】  作者: 山口友祐
第四章 検討を重ねて、調査へ

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30 蘇州の銘茶と、茶菓子、果物




          (2)




 医療チームが、去ってのち――

 病室にて――


「――は? 何? 出ちゃ、ダメなわけ?」


 と、言ったのは、すこし不満そうなパク・ソユンであった。

 カン・ロウンたちSPY探偵団のメンツや、る・美祢八、それからゴーグルサングラス男は、まだ残っていた。

 ロー・テーブルには蘇州の銘茶と、茶菓子、果物が置かれていた。

 まさに、茶の香りの立つティータイムのごとく、寛いでいた。

 話に戻って、

「まあ、そこは、先生様のいうこと聞いとけよ」

 と、キム・テヤンが、わざとらしく“先生様”などと言って答える。

 其の言葉に、ゴーグルサングラスが、

「そうだよ。今日と、ひと晩と……、せいぜい、明日の昼くらいまでの、我慢だと思ってさ」

 と、便乗する。

 ふたりの勧めを聞くも、

「はぁ、別に、私、何ともなってないんだけど」

 と、果物をつまむパク・ソユンは、あまり納得した様子ではない。

「まだ、念のため、検査とか残ってるんだろう」

 と、カン・ロウンが言う。

「は? いらないし」

「いらないって、なぁ」

 と、パク・ソユンの即答に、キム・テヤンが「おいおい」と言う。

 また、カン・ロウンが、

「まあ、君のことだから、大丈夫とは思うけどね……、“いちおう”、だよ」

 と、補足する。


 そのように話しながら、

「まあ、とりあえず……、“あいつら”、帰っちゃったから――」

 と、パク・ソユンが、自分たち以外に誰もいない病室と、そのドアのほうをチラリ――、と見ながら、


「――話すぽよ。事件のことを」


 と、本題に入るよう、話を切り出した。

「まあ、帰ってはないだろうけどな。また戻ってくるだろ」

 キム・テヤンが言いつつ、

「そう、だな。とりあえず、今回の件について、だ」

 と、カン・ロウンも、皆を本題へと入らせる。

 そうして、

「まず、気になったことだが……、ソユン、君が、どうして45分間水の中で耐えれたのはいいとして、」

 と、カン・ロウンが前置きしようとしたところ、

「うん。だから、それ、呼吸法ぽよ。『ぽよ』って―「「「「うん。分かったから。もういいっての、その、『ぽよ』の呼吸は」」」」

 と、またしても『ぽよ、ぽよ』言って話の腰を折ってくるパク・ソユンの『ぽよ』を、皆が遮ってブロックする。

 遮られた当人の、パク・ソユンであるが、

「……」

 と、無言で、「はぁ、」と溜めいきするかのような顔をしていた。

 まあ、お前が「はぁ、」みたいな顔をするな、という話だが……


 また、本題に戻る。

 こんどは、キム・テヤンが聞く。

「まあ、話を戻すと、だ……、お前なら、あの、最初の“水の匣”を、回避できたり、何らかの対処など、できそうなものなんだろうけど、」

 との、キム・テヤンの言葉に、

「何か、あったのか?」

 と、カン・ロウンが続いた。

 パク・ソユンが、

「うん。その、直前に、さ? DJって、ヘッドホン、使うじゃん?」 

「「ああ……」」

 と、ふたりほど頷きながら、

「その、ヘッドホンで……、何か、あったのかい?」

 と、ドン・ヨンファが、パク・ソユンに尋ねた。

「うん。何か、急に、声がしてね。何か、また、『人質を取る』的なことを言ってきて、さ?」

「「「何、だって……」」」

 と、『人質を取る』とのパワーワードに、何人かが反応した。

 まあ、カン・ロウンたちSPY探偵団のメンツにとって、過去に人質を取られた事件というもあるため、『人質』とのワードに、反応してしまうのだろう。


 また、続けて、

「――ということ、は? まあ、“何者か”が、今回の件と、それ以前の『水の匣事件』だったっけ――? に、関与していたってことけ?」

 と、美祢八が確認するように聞いてきた。

 また、

「ヘッドホンで――、って、ことは?」

 とは、ゴーグルサングラス。

 その言葉を受けて、キム・テヤンが、

「今回の実行犯ってのが、単独か複数かは分からんけどな……、様子を見ることができる会場内か、もしくは、すこし離れたところに“いた”って可能性があるだろうな」

 と、言った。

「てか、DJギアか、ヘッドホンそのものにも、何か細工がされてるよね」

 とは、当のヘッドホンを使っていたパク・ソユンが言い、

「まあ、謎の声の主は、たぶん電波か何かで、ハッキングする形で音声をヘッドホンに送ったんだろうけど……、それを中継するためには、DJセットかヘッドホンそのものに、何か、細工をする必要はあるだろうな」

 と、キム・テヤンが補足する。


 ふたりの話すのを聞いて、ゴーグルサングラスが、

「それを、何らかの隙に、忍びこんでうまくやったのか……? あるいは、運営側にも、実行犯たちの仲間がいるのか?」

 と、可能性をあげる。

 さらに、

「たし、か……? ス・ミンジュンも、“動く水”の、制御が効かないって、言ってたよな……?」

 と、ドン・ヨンファが思い出す。

「そうすると、やはり……、現場内に――」

 ゴーグルサングラスが言い、

「――協力者が、“いた”可能性は、ないか?」

 と、キム・テヤンが結んだ。


 ただ、そこまで話しておいて、

「まあ、とはいえ……、いまここで、その、内通者というか侵入者の可能性を上げても、アレなのか?」

 キム・テヤンが確認するように聞くと、

「そう、だな……? 何か、それらしい、思い当たることはあるかい? ソユン」

 と、運営側でもあるゴーグルサングラスがパク・ソユンに振り、

「う~ん……、私は、無いけど? アンタは?」

「いや、俺も……、ねぇ」

 と、両者ともに、思い当たる人物、事象は無かった。

 まあ、のん兵衛でちゃらんぽらんなパク・ソユンと、そのマネージャー役のゴーグルサングラスも大雑把な人間であり、単に、忘れているだけの可能性もあるが。

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