30 蘇州の銘茶と、茶菓子、果物
(2)
医療チームが、去ってのち――
病室にて――
「――は? 何? 出ちゃ、ダメなわけ?」
と、言ったのは、すこし不満そうなパク・ソユンであった。
カン・ロウンたちSPY探偵団のメンツや、る・美祢八、それからゴーグルサングラス男は、まだ残っていた。
ロー・テーブルには蘇州の銘茶と、茶菓子、果物が置かれていた。
まさに、茶の香りの立つティータイムのごとく、寛いでいた。
話に戻って、
「まあ、そこは、先生様のいうこと聞いとけよ」
と、キム・テヤンが、わざとらしく“先生様”などと言って答える。
其の言葉に、ゴーグルサングラスが、
「そうだよ。今日と、ひと晩と……、せいぜい、明日の昼くらいまでの、我慢だと思ってさ」
と、便乗する。
ふたりの勧めを聞くも、
「はぁ、別に、私、何ともなってないんだけど」
と、果物をつまむパク・ソユンは、あまり納得した様子ではない。
「まだ、念のため、検査とか残ってるんだろう」
と、カン・ロウンが言う。
「は? いらないし」
「いらないって、なぁ」
と、パク・ソユンの即答に、キム・テヤンが「おいおい」と言う。
また、カン・ロウンが、
「まあ、君のことだから、大丈夫とは思うけどね……、“いちおう”、だよ」
と、補足する。
そのように話しながら、
「まあ、とりあえず……、“あいつら”、帰っちゃったから――」
と、パク・ソユンが、自分たち以外に誰もいない病室と、そのドアのほうをチラリ――、と見ながら、
「――話すぽよ。事件のことを」
と、本題に入るよう、話を切り出した。
「まあ、帰ってはないだろうけどな。また戻ってくるだろ」
キム・テヤンが言いつつ、
「そう、だな。とりあえず、今回の件について、だ」
と、カン・ロウンも、皆を本題へと入らせる。
そうして、
「まず、気になったことだが……、ソユン、君が、どうして45分間水の中で耐えれたのはいいとして、」
と、カン・ロウンが前置きしようとしたところ、
「うん。だから、それ、呼吸法ぽよ。『ぽよ』って―「「「「うん。分かったから。もういいっての、その、『ぽよ』の呼吸は」」」」
と、またしても『ぽよ、ぽよ』言って話の腰を折ってくるパク・ソユンの『ぽよ』を、皆が遮ってブロックする。
遮られた当人の、パク・ソユンであるが、
「……」
と、無言で、「はぁ、」と溜めいきするかのような顔をしていた。
まあ、お前が「はぁ、」みたいな顔をするな、という話だが……
また、本題に戻る。
こんどは、キム・テヤンが聞く。
「まあ、話を戻すと、だ……、お前なら、あの、最初の“水の匣”を、回避できたり、何らかの対処など、できそうなものなんだろうけど、」
との、キム・テヤンの言葉に、
「何か、あったのか?」
と、カン・ロウンが続いた。
パク・ソユンが、
「うん。その、直前に、さ? DJって、ヘッドホン、使うじゃん?」
「「ああ……」」
と、ふたりほど頷きながら、
「その、ヘッドホンで……、何か、あったのかい?」
と、ドン・ヨンファが、パク・ソユンに尋ねた。
「うん。何か、急に、声がしてね。何か、また、『人質を取る』的なことを言ってきて、さ?」
「「「何、だって……」」」
と、『人質を取る』とのパワーワードに、何人かが反応した。
まあ、カン・ロウンたちSPY探偵団のメンツにとって、過去に人質を取られた事件というもあるため、『人質』とのワードに、反応してしまうのだろう。
また、続けて、
「――ということ、は? まあ、“何者か”が、今回の件と、それ以前の『水の匣事件』だったっけ――? に、関与していたってことけ?」
と、美祢八が確認するように聞いてきた。
また、
「ヘッドホンで――、って、ことは?」
とは、ゴーグルサングラス。
その言葉を受けて、キム・テヤンが、
「今回の実行犯ってのが、単独か複数かは分からんけどな……、様子を見ることができる会場内か、もしくは、すこし離れたところに“いた”って可能性があるだろうな」
と、言った。
「てか、DJギアか、ヘッドホンそのものにも、何か細工がされてるよね」
とは、当のヘッドホンを使っていたパク・ソユンが言い、
「まあ、謎の声の主は、たぶん電波か何かで、ハッキングする形で音声をヘッドホンに送ったんだろうけど……、それを中継するためには、DJセットかヘッドホンそのものに、何か、細工をする必要はあるだろうな」
と、キム・テヤンが補足する。
ふたりの話すのを聞いて、ゴーグルサングラスが、
「それを、何らかの隙に、忍びこんでうまくやったのか……? あるいは、運営側にも、実行犯たちの仲間がいるのか?」
と、可能性をあげる。
さらに、
「たし、か……? ス・ミンジュンも、“動く水”の、制御が効かないって、言ってたよな……?」
と、ドン・ヨンファが思い出す。
「そうすると、やはり……、現場内に――」
ゴーグルサングラスが言い、
「――協力者が、“いた”可能性は、ないか?」
と、キム・テヤンが結んだ。
ただ、そこまで話しておいて、
「まあ、とはいえ……、いまここで、その、内通者というか侵入者の可能性を上げても、アレなのか?」
キム・テヤンが確認するように聞くと、
「そう、だな……? 何か、それらしい、思い当たることはあるかい? ソユン」
と、運営側でもあるゴーグルサングラスがパク・ソユンに振り、
「う~ん……、私は、無いけど? アンタは?」
「いや、俺も……、ねぇ」
と、両者ともに、思い当たる人物、事象は無かった。
まあ、のん兵衛でちゃらんぽらんなパク・ソユンと、そのマネージャー役のゴーグルサングラスも大雑把な人間であり、単に、忘れているだけの可能性もあるが。




