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水の匣  作者: 石田ヨネ
■■ 1 ■■ 上海、外灘、夜のスカイバーにて
3/3


 そのようにしながら、

「それか、さ――? “こっちの水”、飲んでみる? ヨンファ」

 と、パク・ソユンは、あるボトルを見せる。

 透明の、スタイリッシュな東欧感のあるボトル。

 そのラベルを見て、

「水って――、それ、ウォッカじゃないか」 

「おうよ、そんな、きっついアルコール、水みてえにコップで飲みやがって、」

 と、ドン・ヨンファとキム・テヤンが指摘する先、純度の高いウォッカを、パク・ソユンは水の如く、コップに注いで飲んでいるという。

「いや、水でしょ?」

 パク・ソユンが言う。

「いや、水じゃねぇだろが」

「いや、水ぽよ。ヴォットカ――、訳せば、『水』でしょ? だから、これは水ぽよ」

「何言ってやがんだ……、何が、水ぽよ、だってんだよ」

「それに、あれよ? 私、いつも言ってるじゃない? お酒は絶対やめたって、お酒は絶対やめた系の酒豪だって」

「また、そのネタかい? そのネタ、気にってるでしょ」

 とここで、某煙草をやめた会見のように言うパク・ソユンに、ドン・ヨンファがつっこんだ。


 そのようにしながらも、

「だけど、明日、フェスでDJすんだよな? そろそろ、セーブしとけよ」

 と、キム・テヤンが、気にかけて言う。

「ぽよ」

「ったく、……だから、その『ぽよ』、どっちの返事だか分かりにきいんだってよ」

“フェス”とは、翌日から開催される、『アクア・ボンバ』という、夏の音楽フェスのことである。

 プールに、ウォーターキャノンや、大掛かりな水の演出など、まさに夏の水遊びと音楽の協奏というべきイベント。

 それが、上海の隣、東洋のベニスと呼ばれる蘇州で行われるわけである。

 そこに、お酒は絶対やめた系の酒豪を自称する、DJ兼モデルのパクソユンも、DJとして出演する。

 なお、DJネームというか芸名であるが、DJ・SAWと、人気の猟奇映画にちなんだものである

 実際に、グロ動画をパソコンに多重に開いては淡々と鑑賞するという、少なくとも趣味の良いとはいえない趣味を持っている。


 それはさておき、ドン・ヨンファが、

「あっ? そう言えば、さ? 明日のアクアボンバで、“動く水”の演出、あるじゃない?」

「ぽよ」

「それ、僕の、友人の企業が関わっているんだ」

「はぁ、」

 とここで、『動く水』との言葉が出てきた。

「けっ、何が『動く水』だってんだよ、」

 舌打するキム・テヤンに、

「まあ、これを見るぽよ」

「ああ”? 見るぽよじゃねぇってんだよ、ったく」

 と、パク・ソユンが動画を見せる。

 そこには、まるでCGアートのごとく、

 ――ビィィン……

 と、宙に浮いた水が、幾何学アートのようなモニュメント――立方体の、立体市松模様のような――を変幻自在に形成しながら、まるで高度なドローンアート・ショーのように動く様子が、映る。

 それを、『アクア・ボンバ』なる音楽フェスの演出に、用いるわけである。


「へぇ……、こりゃ、正直にすごいな……」

 カン・ロウンが、確かに、驚き感心してみせる。

 続けて、

「これは、どういった技術を、用いてなんだい?」 

「ああ、僕も、詳しいとこまでは聞いてないんだけどね、特殊な、高分子だったり、分子技術を用いているみたいでね、」

「それによって、水の、クラスターだったかな? ――を、人工知能を搭載した、自己組織化する機械のように、するわけか?」

「う、ん……、ま、まあ、そんな感じ」

 ドン・ヨンファが、やや自信なさげに答える。

 そうしながらも、

「ただ……、その、僕たちがここに来た偶然かな? ちょうど、“水”に関して、どうも、ここ最近、“奇妙な事件”が起きているようでね――」

 とここで、そのドン・ヨンファが、“ある話題”に言及した。

「水に関して……、奇妙な事件だと?」

「ああ……。奇しくも、同じ、水つながりで、ね」

 と、怪訝な顔するキム・テヤンに、ドン・ヨンファが答えた。

 その、事件の概要は次のようになる――

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