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【神楽坂】ゴシック・フォックス調査譚シリーズ 【水の匣】  作者: 石田ヨネ
第三章 襲来、水の匣

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26 まるで、そのための右手、そのためのヤシの木のように――


 そうして、アクティブ・クラブが、

 ――ジャッ、キンッ……!!

 と、改めて、ハサミをかまえると、

「これで、切っていいの?」

「「「「いやッ!? 切る以外の何があるんだよッ!! そのためのハサミだろッ――!!」」」」

 と、皆から声を合わせてつっこまれる。

 まるで、そのための右手、そのためのヤシの木のように――


 それはさておき、“匣”に近づくなり、

 ――ビ、ィィンッ――!!

 と、ハサミの刃は、切る対象である“匣”の大きさに合わせて、大きく伸びていく。

「「おぉッ――!?」」

 数人の、歓声のような驚く声がする中、すでにアクティブ・クラブはハサミを広げ、切る動作に入る。

 すると、

 ――ググ、グ……

 と、刃を閉じ、“水の匣”を切ろうとするも、

った――!?」

 と、思わぬ抵抗感に声をあげる。

 やはり、刃から伝わってくるのは、ハリボーグミのような反発――

 そんな、抵抗があるも、


 ――スッ、パッ――!!!


 と、何とかハサミは閉じ、水の立体が切り取られる!!

 その2メートルはあろうかという、“水の立体”だが、“形”を保ってはいたものの、

 ――バッ、シャァッ――!!

 と、耐えかねたように崩れ!! 大小の水の欠片かけらや飛沫となって散っていく。

 しかし、その時。


「「「ッ――!?」」」


 と、カン・ロウンにキム・テヤン、それから美祢八といった数人が、“ある異変”に気がついた。

 そのままであれば、重力によって、ステージ床に広がるだろう水の立体の残がい――

 だが、“そう”はならず、まるで重力に逆らいつつ、なおかつ、

 ――ポト、ポト……!!

 と、小さく散った水の欠片どうしが“融合”し、ある程度の大きさのキューブへと変わる!!

 そうして

 ――シュ、バババッ――!!!

 と、多数の水のキューブが、目の前のアクティブ・クラブめがけて襲いかかる!!

「――!?」

 アクティブ・クラブは驚き、足が止まる。

 そのまま、水のキューブに襲われるかと思った――

 その時!!


『――おい!! キノコ頭!!』


 と、聞こえたのは、妖狐の声だった。

「へっ――?」

 ドン・ヨンファの反応は遅れたものの、その頃にはすでに妖狐が、異世界間を越えながら、ドン・ヨンファの“具現化する植物”を遠隔で操っていた。

 するとそこには、


 ――ファ、サァァッ……!!


 と、まるで石灰いしばいでできたかのような桜吹雪が、ステージ上の虚空、一面に広がる!!

 まさに、絶乾の花というべきか――!?

 その光景に、

「「「「――!!」」」

 と、皆が驚く。

 そして、空間を埋めつくす石灰の桜吹雪に“水のキューブ”が当たるなり、

 ――ジュ、ワァァ……

 と、水に取りこまれてしまうというべきか? 水を取りこんでしまうというべきか――?

 そのまま固まってしまい、水のキューブは、無力化されてしまう。


 さらに、

『おい、変なおじさん』

「誰が、変なおじさん、っちゅんがぜ? こんの、タヌキ」

 妖狐は、こんどは美祢八を呼んで、

『貴様の力を、すこし貸せ。切るのと同時に、動く水とやらの力を、無力化してやるのだ』

「ああ、分かったっちゃ」

 と、『変なおじさん』呼ばわりに軽くイラっと反応しながらも、美祢八は了承する。

 そのまま、アクティブ・クラブのとなりに並んで、“水の匣”と対峙して、

「じゃあ、オレンジの姉ちゃん? 俺と、タヌキとで、 “そいつ”の力を抑えとくから、の? どんどん、切ってけーい」

「え、ええ!」

 と、ふたりもしくは、妖狐をあわせた三人で力を合わせていくことに。

 

 そうして、

 ――フ、ァァン……

 と、美祢八のかざす手にも、何か青白くもオーラが生じる。

 異世界間を越えて、美祢八の手に妖狐の力を伝達し、水の壁の“謎の力”を抑えることに。

 その間にも、

「うっ、んん――!!」

 と、アクティブ・クラブが踏んばる声を出しながら、巨大なハサミで“水の匣”を切っていく。

「「お、おおっ!!」

「「いいぞ!! そのまま行け!!」」

 などと、皆の声があがる。

 ただ、しかし、

「き、切れるけど……、ハァ、ハァ……、ち、ちょっと硬いんだけど、」

 と、アクティブ・クラブは、少しキツそうな息で訴えてきた。

 すなわち、まだハサミをいれて二回目の切断であるものの、依然として、水を切るには抵抗力がかかっていた。


 そこへ、

『ふむ。そしたら、貴様にも少し、妖力というのを注いでやろう』

 と、ふたたび妖狐の声がした。

「え――?」

 アクティブ・クラブが反応する。

 それに続けて、

 ――フ、ァァン……

 と、さきほどの美祢八の時と同じように、アクティブ・クラブのハサミに、オーラがすこし走る。

 すると、

 ――ス、パッ――!!

 ――ス、パッ――!!

「あっ!! 楽に切れる――!!」

 と、先ほどまで苦戦していたのが嘘のように、“水の匣”が切れていく。


 そうして――

 あと、水の中に捕らえられたパク・ソユンまで、50センチから1メートルほどのところまで迫る。

「ここまで、切れたんだけ、ど……? あとは、どうすればいい?」

 アクティブ・クラブが、聞く。

 このまま、ギリギリのところまで切ろうかどうか考えていると、

『ふむ。ここまで来れば、いいだろうな』

 と、妖狐が答えた。

 そのまま、妖狐は続けて、

『おい、キノコヘアー』

「なっ、何だい――?」

 と、反応の遅れるドン・ヨンファをよそに、

 ――シュ、ワァァッ……

 と、“水の匣”へとオーラを発声させる。 


『これで、“水の匣”は無力化できたぞ、キノコヘアー』

「は、ぁ、」

 妖狐の言葉に、ドン・ヨンファが、まだ実感なさげな相づちをするも、

『あとは、さっさと、貴様が入って助けろ』

「あっ、ああ……!!」

 と、妖狐に背を押される。

 なお、妖狐の言葉に、 

((((あれ――? これなら、最初から、妖力だけで行けたんじゃね?))))

 と、皆がつっこみを思い浮かんだ。

 まあ、いまさら過ぎて、誰も口にはしなかったが……

 それはさておき、

「そっ、ソユン!! いま助けるからな!!」

 ドン・ヨンファが叫ぶなり、


 ――ガ、バッ――!!


 と、もう残り僅かになった“水の匣”の中へと入っていく。

 そのまま、ぐったりしたパク・ソユンの身体を、

 ――グイッ!!

 と、抱きかかえる。 

 そうして、また、

 ――ザ、バァ……!!

 と、水をしたたりながらも、“水の匣”から出る。

 そのドン・ヨンファの姿だが、キノコヘアーからダバダバに水がたれながらも、まるで、眠れる姫を助ける王子様のように見えなくもなかった。

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