26 まるで、そのための右手、そのためのヤシの木のように――
そうして、アクティブ・クラブが、
――ジャッ、キンッ……!!
と、改めて、ハサミをかまえると、
「これで、切っていいの?」
「「「「いやッ!? 切る以外の何があるんだよッ!! そのためのハサミだろッ――!!」」」」
と、皆から声を合わせてつっこまれる。
まるで、そのための右手、そのためのヤシの木のように――
それはさておき、“匣”に近づくなり、
――ビ、ィィンッ――!!
と、ハサミの刃は、切る対象である“匣”の大きさに合わせて、大きく伸びていく。
「「おぉッ――!?」」
数人の、歓声のような驚く声がする中、すでにアクティブ・クラブはハサミを広げ、切る動作に入る。
すると、
――ググ、グ……
と、刃を閉じ、“水の匣”を切ろうとするも、
「硬った――!?」
と、思わぬ抵抗感に声をあげる。
やはり、刃から伝わってくるのは、ハリボーグミのような反発――
そんな、抵抗があるも、
――スッ、パッ――!!!
と、何とかハサミは閉じ、水の立体が切り取られる!!
その2メートルはあろうかという、“水の立体”だが、“形”を保ってはいたものの、
――バッ、シャァッ――!!
と、耐えかねたように崩れ!! 大小の水の欠片や飛沫となって散っていく。
しかし、その時。
「「「ッ――!?」」」
と、カン・ロウンにキム・テヤン、それから美祢八といった数人が、“ある異変”に気がついた。
そのままであれば、重力によって、ステージ床に広がるだろう水の立体の残がい――
だが、“そう”はならず、まるで重力に逆らいつつ、なおかつ、
――ポト、ポト……!!
と、小さく散った水の欠片どうしが“融合”し、ある程度の大きさのキューブへと変わる!!
そうして
――シュ、バババッ――!!!
と、多数の水のキューブが、目の前のアクティブ・クラブめがけて襲いかかる!!
「――!?」
アクティブ・クラブは驚き、足が止まる。
そのまま、水のキューブに襲われるかと思った――
その時!!
『――おい!! キノコ頭!!』
と、聞こえたのは、妖狐の声だった。
「へっ――?」
ドン・ヨンファの反応は遅れたものの、その頃にはすでに妖狐が、異世界間を越えながら、ドン・ヨンファの“具現化する植物”を遠隔で操っていた。
するとそこには、
――ファ、サァァッ……!!
と、まるで石灰でできたかのような桜吹雪が、ステージ上の虚空、一面に広がる!!
まさに、絶乾の花というべきか――!?
その光景に、
「「「「――!!」」」
と、皆が驚く。
そして、空間を埋めつくす石灰の桜吹雪に“水のキューブ”が当たるなり、
――ジュ、ワァァ……
と、水に取りこまれてしまうというべきか? 水を取りこんでしまうというべきか――?
そのまま固まってしまい、水のキューブは、無力化されてしまう。
さらに、
『おい、変なおじさん』
「誰が、変なおじさん、っちゅんがぜ? こんの、タヌキ」
妖狐は、こんどは美祢八を呼んで、
『貴様の力を、すこし貸せ。切るのと同時に、動く水とやらの力を、無力化してやるのだ』
「ああ、分かったっちゃ」
と、『変なおじさん』呼ばわりに軽くイラっと反応しながらも、美祢八は了承する。
そのまま、アクティブ・クラブのとなりに並んで、“水の匣”と対峙して、
「じゃあ、オレンジの姉ちゃん? 俺と、タヌキとで、 “そいつ”の力を抑えとくから、の? どんどん、切ってけーい」
「え、ええ!」
と、ふたりもしくは、妖狐をあわせた三人で力を合わせていくことに。
そうして、
――フ、ァァン……
と、美祢八のかざす手にも、何か青白くもオーラが生じる。
異世界間を越えて、美祢八の手に妖狐の力を伝達し、水の壁の“謎の力”を抑えることに。
その間にも、
「うっ、んん――!!」
と、アクティブ・クラブが踏んばる声を出しながら、巨大なハサミで“水の匣”を切っていく。
「「お、おおっ!!」
「「いいぞ!! そのまま行け!!」」
などと、皆の声があがる。
ただ、しかし、
「き、切れるけど……、ハァ、ハァ……、ち、ちょっと硬いんだけど、」
と、アクティブ・クラブは、少しキツそうな息で訴えてきた。
すなわち、まだハサミをいれて二回目の切断であるものの、依然として、水を切るには抵抗力がかかっていた。
そこへ、
『ふむ。そしたら、貴様にも少し、妖力というのを注いでやろう』
と、ふたたび妖狐の声がした。
「え――?」
アクティブ・クラブが反応する。
それに続けて、
――フ、ァァン……
と、さきほどの美祢八の時と同じように、アクティブ・クラブのハサミに、オーラがすこし走る。
すると、
――ス、パッ――!!
――ス、パッ――!!
「あっ!! 楽に切れる――!!」
と、先ほどまで苦戦していたのが嘘のように、“水の匣”が切れていく。
そうして――
あと、水の中に捕らえられたパク・ソユンまで、50センチから1メートルほどのところまで迫る。
「ここまで、切れたんだけ、ど……? あとは、どうすればいい?」
アクティブ・クラブが、聞く。
このまま、ギリギリのところまで切ろうかどうか考えていると、
『ふむ。ここまで来れば、いいだろうな』
と、妖狐が答えた。
そのまま、妖狐は続けて、
『おい、キノコヘアー』
「なっ、何だい――?」
と、反応の遅れるドン・ヨンファをよそに、
――シュ、ワァァッ……
と、“水の匣”へとオーラを発声させる。
『これで、“水の匣”は無力化できたぞ、キノコヘアー』
「は、ぁ、」
妖狐の言葉に、ドン・ヨンファが、まだ実感なさげな相づちをするも、
『あとは、さっさと、貴様が入って助けろ』
「あっ、ああ……!!」
と、妖狐に背を押される。
なお、妖狐の言葉に、
((((あれ――? これなら、最初から、妖力だけで行けたんじゃね?))))
と、皆がつっこみを思い浮かんだ。
まあ、いまさら過ぎて、誰も口にはしなかったが……
それはさておき、
「そっ、ソユン!! いま助けるからな!!」
ドン・ヨンファが叫ぶなり、
――ガ、バッ――!!
と、もう残り僅かになった“水の匣”の中へと入っていく。
そのまま、ぐったりしたパク・ソユンの身体を、
――グイッ!!
と、抱きかかえる。
そうして、また、
――ザ、バァ……!!
と、水をしたたりながらも、“水の匣”から出る。
そのドン・ヨンファの姿だが、キノコヘアーからダバダバに水がたれながらも、まるで、眠れる姫を助ける王子様のように見えなくもなかった。




