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【神楽坂】ゴシック・フォックス調査譚シリーズ 【水の匣】  作者: 山口友祐
第三章 襲来、水の匣

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25 何かオレンジのヤツ




          (8)




 皆がドン引きする中、妖狐の神楽坂文が続けて、

『――だから、言葉のとおりだ。ギンピギンピを食っても、フッ酸を飲んでも、身体を変形させる力を受けても、首輪爆弾でも死ななかったのだろ? ヤツは? そろそろ、水に1時間くらい漬けてても、大丈夫じゃね?』

 と、電話の向こうの異界から、スピーカーモードで聞いてきた。 

「「「大丈夫じゃね――? じゃ、ねぇよ」」」

「「しかも、何だよ? 漬けてって、漬物かよ?」」

 ドン・ヨンファやキム・テヤンやら、ゴーグル・サングラス男などなどの、つっこむ声が重なる。

 なお、カン・ロウンはツッコミ要員ではないので、

「……」

 と、ポカン――として、傍観していたが。


 ただ、そうは言っても、時間は過ぎゆくばかりであり、

「おいおい!! ふざけたこと抜かしやがって!! んな、悠長なこと言ってる場合じゃねぇんだ!! 何か、妖力か、妖具でも出してくれよ!!」

 と、キム・テヤンが声を荒らげ、

「そ、そうだよ!!」

 と、ドン・ヨンファが同調する。

 その横からは、

「というよりも、この、妖狐ってのは、本当にソユンを助けてくれるのかよ!?」

 と、ゴーグル・サングラスの男が、妖狐のことを半ば疑ってきた。

 焦り、苛立ちを募らせる彼らに、

『ふむ。まあ、ちょっと、考えさせるのだ』

 と、妖狐が言った。

「「「は――?」」」

 キム・テヤンと、ゴーグル・サングラス男に、DJオイスターの声が重なる。


「考える、って……? 何を?」

 ドン・ヨンファが、キョトンとしながら聞くと、

『いや、な――? 先ほど言ったように、賭博で負けたツケが溜まってしまってな。妖力が、けっこう、からっからになりかけていてな』

「はぁ、」

 と、ドン・ヨンファが相槌しつつ、

『――なので、何とか、すこしケチりたくてな』

「ケチりたい、って……」

 と、露骨に妖力を「ケチりたい」とのたまう妖狐に、軽く引きながら呆れにかかる。


 そんな、拉致の開かない彼らに、

「ああッ!! ったく!! ムカつくヤツだな!!」

 と、キム・テヤンが、しびれを切らしたように声を荒げながら、

「おいッ!! ヨンファ!! そのオッサンと、もっかいやってみろ!!」

「も、もう一回って、」

「そのオッサンて、な……。まあ、もう一回やっても、駄目なもんは駄目やと思うぜ」

 と、ドン・ヨンファと美祢八は、やるように言われるものの、そんなノリ気ではなかった。


 そのように、連絡はとれたものの、まさかの、妖狐は“何もする気ないモード”という状況。

 30分など、ゆうに過ぎていた。

 見かねて、カン・ロウンが、

「タヌ――、神楽坂さん? もう、ゆうに30分は経とうとしているんです 何とか、手を貸してくれないでしょうか? その、妖力が減少した状態で、申し訳ないのですが」

 と、もう一度、何とか頼んでみる。

『ふ、む――?』

 妖狐が、ふたたび、空を仰いで考える。

 すると、その時


 ――ス、タッ……


 とここで、活発な倶楽部――ではなく、快活な蟹こと、オレンジのセクシーな衣装に身を包んだDJこと、アクティブ・クラブが皆の前に出た。

 そして、

「あっ――? そう言えば、私も、異能力……、使えるんだけど」

 と、アクティブ・クラブの、まさかの発言に、


「「「「「は――?」」」」


 と、ふたたびの再び、皆の、人間性を疑うときの「は?」の声が重なった。

 何で、いま言った? 的な――

 あるいは、「いや、何で? お前? それ、もっと早く言わなかったの?」と、先ほどの妖狐の発言以上に、ドン引きする空気が流れる。


 …………、…………


 と、シーン……とした沈黙が、しばらく続く。

 今さら“それ”を言うとは、天然なのか? それとも、何かサイコ的なところでもあるのか――?

 皆が、次のひと言を言いかねていると、

『――ほ、う? そしたら、やってみよ? 何か、オレンジのヤツ』

 と、妖狐が言ってきた。

((((何かオレンジのヤツ、って……)))

 皆の、心の声がそろう。

(((まあ、オレンジ色メインの衣装を着ているけど、ちょっと、直球すぎないか――))

 と、いった具合に。


 そうして、“何かオレンジのヤツ”こと、DJアクティブ・クラブが、“水の匣”へと近づく。

「……」

 と、DJアクティブ・クラブの目が、変わる。

 オレンジの、瞳――

 少し広げながらも、下に垂らした腕。

 その腕が、次の瞬間には、


 ――ジャッ!! キンッ――!!


 と、1メートル以上はありそうな、大きな“ハサミ”と変化する!!

 オレンジと黒の、何か複合素材のようなハサミ―― 

 それを見て、

「う、うぉっ……!?」 

 と、DJ仲間の、オイスターが驚いて見せる。

「な、何だ? そのハサミは……?」

 オイスターが聞くも、

「あ、あ……、これ、は、」

 と、異能力で具現化した本人、DJオイスターは言葉をつまらせる。

 まさかの、異能力を発動させることになるとは、本人も想定していなかったのだろう。

 すると、

『ふむ? これは、“アレ”じゃなかろうか――? その、あらゆるものを――、万物を“切る”ことのできる、ハサミ的な』

 と、妖狐が、アクティブ・クラブ本人に代わって答えた。

「あっ……、そ、そのとおりです! タヌキさん」

『タヌキじゃなくて、キツネだが、な。貴様も、わざとだろ』

 妖狐は、またしてもタヌキ呼ばわりされつつも、もはや諦めの境地でつっこんだ。

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