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【神楽坂】ゴシック・フォックス調査譚シリーズ 【水の匣】  作者: 山口友祐
第三章 襲来、水の匣

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24 軽くドン引きするような、人間性を疑うかのような『は――?』の声で

 すると、 

「ああ”? 何で、電話に出て一番、『殺してやろうか?』なんて言われなきゃなんねぇんだよ!! このタヌキ!!」

 と、キム・テヤンが声を荒げるも、

『ふむ、今の、私の状況を考えるのだ。カスども』

 と、電話の向こうから、妖狐は露骨に嫌そうな顔で、そう返したきた。

「今の、神楽坂さんの、状況ですか?」

 カン・ロウンが、キョトンとして聞く。

 スピーカーモードの、電話の向こうからは、

 ――ビッ、シャァァ……!!

 だったり、

 ――バ、シャァ……!!

 だったりと、何やら、水と思しき音が聞こえる。

 というよりも、


 ――ザザ、ザザァッ――!!


 と、恐らくは小規模ながら、清涼な水の落ちる、滝と思しき音が――、まるで背景音のように聞こえていた。

「これ、は……? 何か、水のあるところに――、水辺にでも、いるのですか?」

 カン・ロウンが、怪訝な顔で聞くと、

『ふむ。いま、私は、水責めされている最中でな、』


「「「「みっ、水責め――!?」」」」


 と、妖狐からの返答に、一同が驚愕の声をそろえる。

 すなわち――

 少しだけ、場面は変わって――

 ――電話の一本で隔てた、異世界間。

 ――異世界・兼六園のような、妖狐の住む世界にて。



 神そうなヤツはだいたい友達の、八百万の神々とも、黄泉の国の異形とも取れるいでたちの者たちによって、妖狐は滝行というか、水責めを執行されていた。

「おい、コラァ”?」

「飲めよぉ、飲めよぉ?」

「どう? 滝行は良いものよ? 滝の清涼な水で、アナタの、その汚ったない心でも洗い流しなさい?」

「そうだよ」

「そうすりゃ、少しはギャンブル運もついてきてよ? 今までのツケも、返せるかもしれねぇな」

 などと、滝にぶち込まれつつ、漏斗で口にガバガバと水を注がれるなど、妖狐は水責めされる。

 彼らの言動から、おそらく、賭博やら何やらのツケがあるのか? 妖狐を捕まえ、折檻しているように思われる。

 しかし、

「無理ぽよ無理ぽよー! 冷たいぽよー冷たいぽよー!」

 などと、妖狐は、およそ辛そうな様子とは無縁の声をあげる。

「ああ”? ふざけてんじゃねぇぞ!! この、クソダヌキ!!」

「そうよ? 何が、『ぽよ』よ? ちゃんと反省しなさい?」

 などと、苛立つ神そうな連中によって、もみくちゃにされているところ、


――カランコロン♪ カランコロン♪


 こんどは、妖狐の懐の、スマートフォンが鳴った。

 まあ、神そうな異界の住人にも関わらず、何ゆえ? デフォでスマホを持っているのかというところではあるが……

 それはさておき、スマホを手に取り、

「ふ、む……? おい、貴様ら? いまから電話をするから、ちょっと、邪魔をするな」

「あぁ”ん?」

「電話だって?」

 と、神そうな連中は、水責めの手を止める。

「ああ……。ちょっと、例の、“脆弱な世界”のヤツらから、妖具を出せだの、妖力を使ってくれだの、な――」

 と、妖狐は答えながら、電話に出る。

 そうして、いまに至る――

 


 ――場面は、“こちら側”の世界に戻る。

『まあ、いい……。水の音が、少し気になるかもしれんが、続けるぞ』

「つーか、何やってんだ、てめえ? 水責めなんてよぅ」

 キム・テヤンが、苦虫を潰したような顔で聞く。

『ああ、ちょっと、“こっちの連中”に捕まってな、水責めという水遊びをしていたのだ』

「はぁ、」

 ポカンとして相槌するドン・ヨンファと、

「ああ”? バカじゃねぇか? タヌキ野郎」

 と、キム・テヤンが顔をしかめる。

 さらに、

「何で、そんなことされてるの?」

 とここで、DJアクティブ・クラブが問うも、

『ふむ。それは、な……? こっちの連中と、賭博で負けてな? その、ツケだ。なので、妖力も、かなり減少して弱体化しているという』

「「「「だから、“それ”、止めればいいんじゃね」」」」

 と、遊び人のような回答をしてくる妖狐に、「じゃあ、賭博を止めれば?」と、皆が至極もっともなツッコミをする。


 本題に戻って、

『――で? 要件は、“アレ”であろう? そこの、パク・ソユンのことであろう?』

 と、妖狐が、本題を察して聞いてきた。

「あ、ああ……、」

 カン・ロウンが、険しい顔のまま答える。

 彼らの、電話越しでのやりとりを聞いて、

「な、何で? 分かったの?」

 と、パク・ソユンの仕事仲間の女が、不思議そうに聞いた。

 テレビ電話を通じてならまだしも、電話の向こうの妖狐が、このステージ上の状況を知っているのを不思議に感じるのは、無理もない。

 そこへ、

 ――ニョ、キッ……

 と、カン・ロウンのスマートフォンから、目玉のついた魔界植物とでもいうべき蔓葉が、わざとらしく召還されてみせる。

「わっ!?」

「な、何これ?」

 女をふくめ、二、三人ほどが驚く。

「こ、これが、妖力ってヤツか?」

 驚くゴーグルサングラスに、

「まあ、そうだろうな」

 と、キム・テヤンが答える。


 こんな、パフォーマンスのように見せた魔界植物によって、皆は、妖狐とその妖力について納得する。

 本題を進めて、

『――で? 貴様たちの異能力でもダメだったから、私の妖力というわけか?』

 と、妖狐が、核心となる質問をしてきた。

「そ、そうです」

 カン・ロウンと、

「僕と、美祢八でやってみたけど……、全然、手ごたえがないんだ」

 と、ドン・ヨンファが答える。

『ふむ……』

 妖狐が、相づちする。

 電話の向こうの異界で、少し考えるように、天を仰ぐ。

 そして、間を置いて、



『――てか? ソユンのヤツなら、あと、2、30分はいけるんじゃね?』



「「「「「は――?」」」」」


 と、妖狐から返ってきた言葉に、ほぼ全員が声を重ねた。

 それも、軽くドン引きするような、人間性を疑うかのような『は――?』の声で。

 まあ、人間性といったが、人ではないのだが……

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