24 軽くドン引きするような、人間性を疑うかのような『は――?』の声で
すると、
「ああ”? 何で、電話に出て一番、『殺してやろうか?』なんて言われなきゃなんねぇんだよ!! このタヌキ!!」
と、キム・テヤンが声を荒げるも、
『ふむ、今の、私の状況を考えるのだ。カスども』
と、電話の向こうから、妖狐は露骨に嫌そうな顔で、そう返したきた。
「今の、神楽坂さんの、状況ですか?」
カン・ロウンが、キョトンとして聞く。
スピーカーモードの、電話の向こうからは、
――ビッ、シャァァ……!!
だったり、
――バ、シャァ……!!
だったりと、何やら、水と思しき音が聞こえる。
というよりも、
――ザザ、ザザァッ――!!
と、恐らくは小規模ながら、清涼な水の落ちる、滝と思しき音が――、まるで背景音のように聞こえていた。
「これ、は……? 何か、水のあるところに――、水辺にでも、いるのですか?」
カン・ロウンが、怪訝な顔で聞くと、
『ふむ。いま、私は、水責めされている最中でな、』
「「「「みっ、水責め――!?」」」」
と、妖狐からの返答に、一同が驚愕の声をそろえる。
すなわち――
少しだけ、場面は変わって――
――電話の一本で隔てた、異世界間。
――異世界・兼六園のような、妖狐の住む世界にて。
神そうなヤツはだいたい友達の、八百万の神々とも、黄泉の国の異形とも取れるいでたちの者たちによって、妖狐は滝行というか、水責めを執行されていた。
「おい、コラァ”?」
「飲めよぉ、飲めよぉ?」
「どう? 滝行は良いものよ? 滝の清涼な水で、アナタの、その汚ったない心でも洗い流しなさい?」
「そうだよ」
「そうすりゃ、少しはギャンブル運もついてきてよ? 今までのツケも、返せるかもしれねぇな」
などと、滝にぶち込まれつつ、漏斗で口にガバガバと水を注がれるなど、妖狐は水責めされる。
彼らの言動から、おそらく、賭博やら何やらのツケがあるのか? 妖狐を捕まえ、折檻しているように思われる。
しかし、
「無理ぽよ無理ぽよー! 冷たいぽよー冷たいぽよー!」
などと、妖狐は、およそ辛そうな様子とは無縁の声をあげる。
「ああ”? ふざけてんじゃねぇぞ!! この、クソダヌキ!!」
「そうよ? 何が、『ぽよ』よ? ちゃんと反省しなさい?」
などと、苛立つ神そうな連中によって、もみくちゃにされているところ、
――カランコロン♪ カランコロン♪
こんどは、妖狐の懐の、スマートフォンが鳴った。
まあ、神そうな異界の住人にも関わらず、何ゆえ? デフォでスマホを持っているのかというところではあるが……
それはさておき、スマホを手に取り、
「ふ、む……? おい、貴様ら? いまから電話をするから、ちょっと、邪魔をするな」
「あぁ”ん?」
「電話だって?」
と、神そうな連中は、水責めの手を止める。
「ああ……。ちょっと、例の、“脆弱な世界”のヤツらから、妖具を出せだの、妖力を使ってくれだの、な――」
と、妖狐は答えながら、電話に出る。
そうして、いまに至る――
――場面は、“こちら側”の世界に戻る。
『まあ、いい……。水の音が、少し気になるかもしれんが、続けるぞ』
「つーか、何やってんだ、てめえ? 水責めなんてよぅ」
キム・テヤンが、苦虫を潰したような顔で聞く。
『ああ、ちょっと、“こっちの連中”に捕まってな、水責めという水遊びをしていたのだ』
「はぁ、」
ポカンとして相槌するドン・ヨンファと、
「ああ”? バカじゃねぇか? タヌキ野郎」
と、キム・テヤンが顔をしかめる。
さらに、
「何で、そんなことされてるの?」
とここで、DJアクティブ・クラブが問うも、
『ふむ。それは、な……? こっちの連中と、賭博で負けてな? その、ツケだ。なので、妖力も、かなり減少して弱体化しているという』
「「「「だから、“それ”、止めればいいんじゃね」」」」
と、遊び人のような回答をしてくる妖狐に、「じゃあ、賭博を止めれば?」と、皆が至極もっともなツッコミをする。
本題に戻って、
『――で? 要件は、“アレ”であろう? そこの、パク・ソユンのことであろう?』
と、妖狐が、本題を察して聞いてきた。
「あ、ああ……、」
カン・ロウンが、険しい顔のまま答える。
彼らの、電話越しでのやりとりを聞いて、
「な、何で? 分かったの?」
と、パク・ソユンの仕事仲間の女が、不思議そうに聞いた。
テレビ電話を通じてならまだしも、電話の向こうの妖狐が、このステージ上の状況を知っているのを不思議に感じるのは、無理もない。
そこへ、
――ニョ、キッ……
と、カン・ロウンのスマートフォンから、目玉のついた魔界植物とでもいうべき蔓葉が、わざとらしく召還されてみせる。
「わっ!?」
「な、何これ?」
女をふくめ、二、三人ほどが驚く。
「こ、これが、妖力ってヤツか?」
驚くゴーグルサングラスに、
「まあ、そうだろうな」
と、キム・テヤンが答える。
こんな、パフォーマンスのように見せた魔界植物によって、皆は、妖狐とその妖力について納得する。
本題を進めて、
『――で? 貴様たちの異能力でもダメだったから、私の妖力というわけか?』
と、妖狐が、核心となる質問をしてきた。
「そ、そうです」
カン・ロウンと、
「僕と、美祢八でやってみたけど……、全然、手ごたえがないんだ」
と、ドン・ヨンファが答える。
『ふむ……』
妖狐が、相づちする。
電話の向こうの異界で、少し考えるように、天を仰ぐ。
そして、間を置いて、
『――てか? ソユンのヤツなら、あと、2、30分はいけるんじゃね?』
「「「「「は――?」」」」」
と、妖狐から返ってきた言葉に、ほぼ全員が声を重ねた。
それも、軽くドン引きするような、人間性を疑うかのような『は――?』の声で。
まあ、人間性といったが、人ではないのだが……




