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【神楽坂】ゴシック・フォックス調査譚シリーズ 【水の匣】  作者: 山口友祐
第三章 襲来、水の匣

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22 理不尽にも怒鳴って




          (6)




 パク・ソユンが“水の匣”に閉じ込められてから、すでに、15分ちかく経つ――

 ドン・ヨンファと、る・美祢八たちは救出のために、何とか手を打っていた。

 ドン・ヨンファは、“魔界植物に準ずる程度の装花たち”を操り、美祢八はというと、“壁というべきものをつかさどる力”を発動させる。

“水の匣”の表面はというと、まるで、バリアのように侵入を阻んでいる状態になっており、ふたりは、それを解除しようと試みていた。


 ドン・ヨンファの手元からは植物――、装花が美しくも、“水の匣”へと伸びていく。

 それから、美祢八の異能力によって、“水の匣”の表面の、“水の壁”に波紋が生じ続ける。

 彼らの力は、もしかすると、ちょっとしたドラえもんの道具や魔力に匹敵するかもしれない。

 だが、そんな彼らの力を以ってしても、“水の匣”の、表面の“情報”というのは、そう簡単には“書き変わらなかった”。

 ドン・ヨンファが近づいて、

 ――スッ……

 と、手を突き刺すようにして、水の中に入れようとして確かめてみる。

 だが、

「いっ!? たァッ――!!」

 と、ドン・ヨンファは思わず声を出した。

 手を入れようとはしてみたものの、10センチか少し入るくらいで、まだ、“水の匣”の外側は、弾性グミのように硬かった。

 およそ、水とは云い難い触感。

 とても、この中に侵入できるものでなかった。

 また、


 ――ぐぐ、ぐッ……


 と、ドン・ヨンファの召還した装花が、“水の壁”に穴をあけようとする。

 しかし、これにも、

「うっ――!?」

 と、ふたたび、ドン・ヨンファが声をあげた。

 異能力の、出力不足というべきか、


 ――ピッ、タッ……


 と、装花は、そこで動きを止められてしまう。

“水の壁”への浸蝕を阻まれ、さらに、

 ――ファ、サァッ……

 と、いくつかの花々は、散り去ってしまう。

 すなわち、その力及ばず――、ということだろう。

 そんな様子を見て、

「おおいッ!! 何やってんだッ!! ヨンファッ!!」

 キム・テヤンが、理不尽にも怒鳴ってきた。

「ああ、もうッ!! うるさいなぁ!!」

 と、さすがのドン・ヨンファも、これにはイラついて声を荒げる。

 ここでは、キム・テヤンとカン・ロウンの能力も、まったく役に立たない。

 唯一、自分と美祢八の異能力が、何とかできるくらいだろう。

 まあ、パク・ソユンも、自身の異能力を用いれば脱出はできたのかもしれないが、“そうはさせない何か”があったのだろうと推測される。


 そうして、さらに5分ほど、時間は経過する。

 すでに、パク・ソユンが閉じ込められて、20分くらいか――?

「うう……、駄目なのか……、」

 ドン・ヨンファと、

「やっぱ、そんな上手くいかんっちゃ……」

 と、美祢八が、何とかしようとしていたものの、お手上げの状態だと匙を投げそうにる。

 まあ、諦めるわけにはいかないのだが。

 そこへ、


 ――ドタドタ、ドタッ!!!


 と、レスキューたちが5、6人ほど駆けつけてきた。

 彼らは、“水の匣”を見るなり、

「お、おいッ!!」

「何をやってんだ!? アンタらッ!!」

「なっ!? 何だ、こりゃ!?」

 と、まず、ドン・ヨンファの手から発せられていた装花群に驚いた。

 怪訝な顔するレスキューたちに、

「まあ、異能力っちゅう、やつかねぇ?」

 と、美祢八が、とりあえずの説明をするも、

「はぁ!? 何が異能力だ!?」

「とりあえず、勝手にやってろ!!」

「邪魔だけはするなよ!!」

 と、レスキューたちは苛立ち、邪見な顔をしながらも、“水の匣”へと入ろうとする。


「おっ? おぉい!! その、止めときっちゃ、アンタら、」

 美祢八が、止めようとするも、

「はぁ? 何、言ってんだオッサン?」

「こっちは、プロだぞ」

「お前たちこそ、邪魔だからどっか行けよ」

 と、当然ながら、素人かつ胡散くさい美祢八の言うことなど、聞く耳を持たない。

 だが、レスキューたちが水の匣に入ろうとした、その時、


「ぐっ――!? ぐぉぉ!!!」

「――ッ!?」


 と、二人ほどの隊員が、おそらく痛みに声をあげた。

 急いで“水の匣”へと入ろうとしたものだから、“硬い水の壁”に身体を打ちつける形になったのだろう。

 予想外のことに、

「なっ!? 何だ!? この水は――」

 と、彼らのリーダー格の男が驚愕する。

 それを横目にして、

「ほら、言ったねか」

 と、美祢八が「やれやれ」との身振りをして見せた。


 そんなことをしながらも、かれこれ、25分ほど経過したことになる。

 レスキューたちが、ガチャガチャと道具を持ちだして苦戦しているのを遠目にしながら、

「長い、長すぎる……、」

 ゴーグルサングラスと、

「ま、マズい……、このままでは、ソユンが……、」

 と、カン・ロウンが、悲壮な顔で言った。

 一向に事態が進展しないことに、皆の焦燥感は、もう限界に近づいていた。

“動く水”を操作するプログラムも駄目、道具も駄目。

 なおかつ、異能力を以ってしても、“水の匣”の“壁”を壊すことはできそうにないという、この状況――

 もう、打つ手がないと思われた。

 そこへ、


「お、おい? 一か、八かだが……、“あいつ”に連絡を取っては、どうだ?」


 と、ここで唐突に、キム・テヤンが、“とある何か”を思い出して言った。

「へっ――?」

 ポカンとして、すぐにピンと来ないドン・ヨンファと、

「あい、つ……? ああっ……!」

 とは対照的に、カン・ロウンが少しして、“アイツなる存在”を思い出した。


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