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【神楽坂】ゴシック・フォックス調査譚シリーズ 【水の匣】  作者: 山口友祐
第三章 襲来、水の匣

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21 魔界植物には劣るが、それに準ずる植物を操ることができるという、“無いよりはマシ程度な異能力”




          (5)




「「「ソユン――!!!」」」


 と、水の匣を前にして、中に閉じ込められた仲間――、パク・ソユンの名をSPY探偵団の探偵団の三人は叫んだ。

 その様子を、

「……」

 と、る・美祢八は、どこか意味深そうな様子で、沈黙しながら見ていたが。

 また、ドン・ヨンファが。

「ハッ――!!」

 と、思い出したかのように、スマートフォンを取り出した。

 そのまま、電話をかける。

「ううっ……!! 早く出てくれって!!」

 慌てた様子を隠さず、

 

 ――プルルルル……、プルルルル……


 と、呼び出すのを、しばらく待つ。

 それは、10秒ほども経たないものの、

「くっ……!!」

 と、焦る心によって、長くじれったい時間に感じる。

 そうして、電話がつながるや、

「どっ、どうだい!? ス・ミンジュン!!」

 間髪入れずに、ドン・ヨンファは聞いた。

 電話の相手は、ス・ミンジュン友人であった。

 今ここにいない彼であるが、今回のイベントで、動く水をコントロールしている裏方に行っていた。

 動く水自体には、自律した人工知能的なものが備わってはいるのだが、“それら”は裏方にあるパソコンで、制御・コントロールできるようにはなっていた。

 友人、ス・ミンジュンは、それを以って、今回のトラブルに何とか対処しようとしていたのだ。


 その、電話の向こうのス・ミンジュンが答える。

『あ、ああ……!! い、いま、やってるんだけど……、どうもこうも!! まったく、こちらの制御がッ――、コントロールが、いっさい効かなくなっているんだ!!』

「なッ、何だってッ――!?」

 ドン・ヨンファが、思わず叫ぶ。

『緊急用のシステムで、強制的に停止させようとしているんだが!! まったくダメなんだ!!』

 ス・ミンジュンが声をあげる。

 声の様子から、本当に異常事態であり、焦っているのが伝わる。


「そ、そんな……!? ちゃんと、トラブルの対策してるのかよ!?」

 ドン・ヨンファが声を荒げるも、

『ああ、そりゃ、もちろんだって!! だが、今回のは違う――!! おそらく、何者か――、只ならぬ者が、何か悪意を以って、今回の“コト”を起こしているしか考えられない』

「な、何者かの、悪意――、だって?」

『ああ……』

「……」

 と、ス・ミンジュンの答えに、「嘘だろ……」と云わんかの顔で、一瞬絶句した。

 まあ、これまでに、調査・解決してきた奇妙な事件を振り返ってみるに、“何か悪意を持った者が関与している”ということは、別段めずらしいことでもないのだが。


「ダメそう、なのか……?」

 ドン・ヨンファが、険しい顔で聞く。

 焦燥感に、視点がボーッ……としかける。

 下のプール会場でも、混乱と、半ば野次馬と化した様子が目に映る。

『難しそうだが……、何とか……』

 ス・ミンジュン友人から、声が返ってくる。

「頼む……」

 ドン・ヨンファは、ひと言だけ言って、いったん電話を置く。

 友人の声の様子からは、恐らく、ほぼ期待は持てない状況だというのが分かりながら……


 そんな様子を見て、

「ヨンファ? とりあえず、俺と、アンタの能力で、やってみるしかないか?」

 と、美祢八が申し出てきた。

「あ、ああ……」

 ドン・ヨンファは動揺が残りながらも、ひと呼吸おいて、

「やって、みるか……」

 と、意を決して答えた。

 ドン・ヨンファの異能力――

 魔界植物には劣るが、それに準ずる植物を操ることができるという、“無いよりはマシ程度な異能力”である。

 それを以って、何とかせんと――、ゆるりと、“水の匣”のほうへと向かう。

 同時に、

「と、とりあえず、ス・ミンジュン、そのまま続けてくれよ」

『ああ、僕らも、打てる手は打っている』

 と、友人に伝え、いったん電話を切った。

 そうして、ドン・ヨンファと、る・美祢八のふたりは、


 ――ゴゴゴ、ゴゴ……!!!


 と、そびえるように佇む、“水の匣”を前にして立つ。

 やはり、一辺が6メートルほどありそうな、水の立方体キューブ――

「っ……」

 ドン・ヨンファは、その圧巻なさまに、気圧されるような気がしながらも、

「よっし、やってみっかね」

 美祢八の声に、

「あ、ああ……!」

 と、覚悟を決めた。

 そうして、両名ともに、


 ――スッ……


 と、匣から少しばかし離れた、“虚空”に手を伸ばした。

 ドン・ヨンファの手からは、

 ――ファ、ァーン……

 と、薔薇であったり、アート作品めいた幾つかの“植物と思しきもの”が召還される。

“それら”は、“水の匣”へと伸びていく。

 また、美祢八の手から発せられたというか、伝わる“ナニカ”によって、

 ――ぽっ、ちゃん……

 と、“水の匣”の表面に、同心円状に波紋が広がっていく。

 ふたりの、いちおうは異能力者は、一か八か、パク・ソユンの救出に向けて手を打っていく。

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