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【神楽坂】ゴシック・フォックス調査譚シリーズ 【水の匣】  作者: 山口友祐
第三章 襲来、水の匣

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19/34

19 まるで片栗粉を溶かした水の、ダイラタンシー実験にも似た感覚――、もしくは、ハリボー・グミのような、硬い感触




           (3)




「ッ――!!」

 と、パク・ソユンは目を見開いて反応する。

 眼前には、


 ――ゴゴゴゴゴッ――!!!!!


 と、襲いくる!! 動く水――!! 水のキューブの集合群!!

 だが、パク・ソユンは“動くこと”はできない――!!

 何故なら、先の、ヘッドホンからの謎の声により、この会場にいるオーディエンスたちが人質に取られているからであった。

 そうして、


 ――ド、バァッー!!!!!


 と、水のキューブが、まるでパク・ソユンを食らうのように包みこむ!!

「くっ――!!」

 瞬く間に!! パク・ソユンはDJブースごと、“水の匣”に閉じ込められてしまう!!

 様子を目の当たりにして、ステージの下では、

「お、おいっ!! 水が、ソユンのヤツを!!」

 キム・テヤンと、

「ッ――!? そっ、ソユーンッ――!!」

 と、ドン・ヨンファのふたりが叫んだ。

 プールサイドから見上げても、パク・ソユンが閉じ込められているのは、一辺が6メートルほどはありそうな、大きな水の立方体――

 まさしく、“水の匣”だった。


 また、目まぐるしくも、壇上へと視点を戻して、

「うっ、ぐ……!!」

 パク・ソユンは、思わず喉をおさえていた。

 動くにも動けない、人質という条件――

 そして、この水自体も、何か通常の水とは違い……、おいそれとは、動けそうもない“何か”がある。

 粘度が高いのかだろうか? 何か、拘束するような感じがある。

 このままでは、いくら潜水能力に秀でた人間であれ、溺れてしまうのは時間の問題だろう。

 ふたたび、ステージの下の、プールサイドのほうへ――

「……」

 と、静かに見る美祢八と、その横で、

「むぅ……!」

 と、カン・ロウンが、思わず鬼気迫る表情になっていた。

「み、水の匣かッ――!?」

 キム・テヤンが、思わず『水の匣』と言葉にし、

「ま、マズい!!」

 と、ドン・ヨンファが叫ぶ。

 その次の瞬間には、

「おいッ!! ステージに向かうぞ!! ロウン!! ヨンファ!!」

 と、キム・テヤンが動いていた。

「ああ!!」

 すぐさま、カン・ロウンが反応し、

「あっ、ああ!!」

 と、ドン・ヨンファが遅ればせて答える。

 そうして、先を急ぐキム・テヤンたちを追う形になりながらも、ドン・ヨンファは美祢八とス・ミンジュンの姿に気がついて、

「みっ、美祢八も来てくれ!! あと、ス・ミンジュンもッ!! この、動く水を、何とかできないか!?」

「おうよ」

 美祢八がフランクに答え、

「わ、分かった! 動く水を操作しているシステムから、何とかしてみる」

 と、ス・ミンジュンは、ステージの裏方へ向かった。



          ******



 そうして、SPY探偵団の三人に、る・美祢八、そしてドン・ヨンファの友人のス・ミンジュンが、パク・ソユンの救出に、迅速に向かうこと。

 ステージ上にて――

 DJセットごと、美麗の、水着姿のDJ・SAWことパク・ソユンが、およそ一辺が六メートルほどの、水の匣の中に閉じ込められていた。

 その様は、溺れゆくプリンセスのようにしながらも、まるでアート作品のように美しい何かがある。

 まさに、ある種の、異様な光景――

 そこへ、


 ――ドタドタ、ドタッ!!


 と、カン・ロウンたちSPY探偵団の三人に、美祢八が壇上へと駆け寄ってきた。

「ハァ、ハァ!! そッ、ソユンーッ!!」

 階段を上がって息が切れかけながら、まずドン・ヨンファが思わず叫んだ。

 続いて、

「ちっ――!! ソユン!!」

 舌打ちしながら、キム・テヤンが呼びかけ

「す、すぐ助けるぞ!! ソユン!!」

 と、カン・ロウンが叫んだ。

 さらに続けて、

「ソユン!!」

「なっ!? なんてこった!!」

 と、パク・ソユンの仕事仲間の、ゴーグルサングラスと女のふたりも、慌てて壇上へと駆けつけた。

 さらには、

「おぉいッ!! ソーウ!!」

「ソウちゃぁーん!! 大丈夫!?」

 と、DJ仲間も駆けつける。

 イケメンDJこと、DJオイスター。

 さらに、黒髪に金色と、オレンジ色のメッシュの交じった髪に、赤めのオレンジ色を基調としたファッションの女DJこと、DJアクティブ・クラブなど。

 ちなみに、クラブは『club』ではなく、蟹のほうの『crab』であるが。

 韓国DJ界隈の、錚々(そうそう)たるメンツではあった。



「そっ!!ソユーンッ――!!」

 ドン・ヨンファが叫びながら、水の匣のそばまで駆け寄り、

「くっ!! おいおい!! お前、泳げなかったのかよ!!」

 と、同じくそばで、キム・テヤンが叫びながら“水の匣”を叩いてみせる。

 まあ、記憶にするところ、大波のサーフィンのプロモーション動画を撮っていたくらいであり、充分に水泳能力のあることは分かっている。

 ゆえに、何らかの理由で、パク・ソユンがこうなっているのは分かってはいるのだが。

 それはさておき、ドン・ヨンファと、キム・テヤンは水の匣へと手を伸ばし、中に入ろうとし、助けようとする。

 だが、その時、


 ――ゴッ、ワンッ――!!


 と、無色透明な、澄んだ“水”から返ってきたのは、まるで片栗粉を溶かした水の、ダイラタンシー実験にも似た感覚――、もしくは、ハリボー・グミのような、硬い感触だった。

 そして、“そんなこと”など予期せずに、“水の壁”に手をつっこもうとしたものだから、

「ア、ウチィッ――!!」

 と、ドン・ヨンファが痛みと驚きに、「アウチ!」との、アメリカン・スタイルの叫び声を上げる。

 それを、寸前で気がついたのか、

「おぅっ、とぉ――!!」

 と、キム・テヤンのほうは、最小限のダメージで回避した。


 そんな、ドン・ヨンファとキム・テヤンの様子を見て、

「ど、どうしたんですッ!?」

 と、イケメンのDJオイスターと、

「だ、大丈夫!?」

 と、オレンジの女DJ、アクティブ・クラブが心配して寄りそったところ、

「かっ、硬いッ――!!」

 ドン・ヨンファは思わず、そう叫んで答えた。

「「「「かっ、硬い――、だって!?」」」」

 何人かの、驚く声が重なる。

 まあ、目の前の“水の匣”であるが、立方体という形をもっているのだが、何かの容器に入れられているわけではない。

 ゆえに、もし触って手をつっこんでみれば、水の触感そのものが返ってくるだろうと予想していたところ、それは違っていた。

 皆が驚くのも、無理もない。

 ドン・ヨンファと同じく、

「ああ……、その、“動く水”って代物の力なのか? 手を入れようとしても、よぅ? 何か、硬くて、入んねぇんだ」

 キム・テヤンも、そう言った。

「なっ、何だって……」

 カン・ロウンが言い、

「そんな、馬鹿な、」

 と、ゴーグルサングラスが、「信じられない」との顔をした。

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