18 やはりヤバい“何か”
(2)
さて――
DJソウこと、パク・ソユンのステージであるが、もう終盤へと差しかかる。
タイムテーブルからすると、あと3曲ぐらいだろうか。
――ドン!! ドン!! ドンッ!!
と、ハードスタイルの、ドラムのリズムにのりながら、
「――♪、――♪」
パク・ソユンはDJソウとして、曲にノッて踊りつつ、DJプレイをこなしてた。
身体でリズムをとりつつ、フロアから、何かインスピレーションを感じ取ろうとし、即興をふくめて、終盤までの流れのフィーリングを得ようとする。
このまま、勢いのまま、激しくもカワイイ曲で締めくくろうか――?
あるいは、何か美しくもカタルシスを感じるトラックで、ガラリと雰囲気を変えようか?
まあ、リハーサルなどして、前日まで、ある程度の“流れ”は、いくつか考えているのであるが。
――ス、チャッ……
と、パク・ソユンは、ヘッドホンをつける。
「……」
と、もう一度、フロアを、会場全体を見渡してみる。
波打ちながら、プール用のボールの飛び交い、水しぶきが舞うフロア!!
まさに、プール・フロアの、『アクア・ボンバ』のイベント名に相応しきバイブス――!!
また、大型ディスプレイとともに、ドローン・アートにも似た近未来感のある、“動く水”のディスプレイ!!
ここ蘇州の水の都にも合う、その織り成す、刺客的芸術!!
太湖石のような球体と、球体のような形の穴――、その凹凸のバロック感!!
そして、これら凹凸の球体群が、曲に合わせて動き、蠢く。
この動きというのは、人工知能も駆使しつつも、曲と、そのDJミックスから、最適な映像演出となるように計算される。
だが、しかし、
「ん、ん……?」
とここで、DJソウが――、パク・ソユンが、何か、“違和感にも似たナニカ”を感じとった。
「……」
耳にヘッドホンをあてながら、DJソウとしての表情から、SPY探偵団のパク・ソユンとしての顔が混じりながらも、ジッ……と見渡す。
(この感覚、――)
と、パク・ソユンは、今まで調査した、少なくない事件で感じるときに似た“ナニカ”を感じる。
そうして、
「……」
と、チラッ――と、“動く水”のディスプレイのほうへと目をやった。
太湖石のような、水の球体と、穿たれた穴の凹凸――
それらの集合体が、ゆらり……と、まるで人工知能ドローンアートのように動く。
しかし、
――ググ、グ……
と、その振動に感じる、わずかな違和感――
そして、“それ”を感じたのは、パク・ソユンだけでなかった。
******
少しだけ、場面が変わって――
壇上から、下のこと。
プールには入らず、プールサイドに設けられたスペースにて、
「う、む……?」
と、丸サングラスに太陽光を反射させつつ、仲間のパフォーマンスを身守る、SPY探偵団リーダーことカン・ロウンが、ふと怪訝な顔をしてみせた。
それに続く形で、
「う、ん……、こ?」
ちゃっかり一緒にいる、アーティスこと、る・美祢八が、ジッ……と目を細めた。
「うん……、こ?」
とは、カン・ロウンが。聞き首を傾げて聞き返す。
まあ、「う、ん?」だけでよく、敢えて「こ」をつける必要はない。
それは、さておき――
いま現在ステージ上でDJソウを演出しているパク・ソユンだけでなく、下にいるカン・ロウンと美祢八も、“何か違和感”に気がついたわけである。
「なぁ、リーダーはん?」
美祢八が、カン・ロウンに声をかける。
「は、い?」
「何か、のう? あの、動く水とやらに……、少し、違和感を感じんかね?」
「……、美祢八さんも、ですか?」
「うん」
と、ここで、ふたりの感じた違和感が一致する。
「まあ、まだ、“勘”という程度なんですが……、何か、起きそうな違和感を感じるんです」
丸サングラスの底で、“何か”を見るように、カン・ロウンが言う。
「せ、やね……。何っちゅうか……? こっちを、狙っているような、感じがするっちゅうか」
美祢八が、それに答える。
彼らの横では、キム・テヤンとドン・ヨンファのふたりが、ドリンクを飲むなどして、くつろいでいたが、
「あ、ん?」
まず、キム・テヤンと、
「どうか、したのかい?」
と、ドン・ヨンファも、カン・ロウンと美祢八の会話から、“何か”に気がついた。
そのまま、壇上と、動く水のディスプレイのほうに目をやってみるに、
「あ、ぁ”……?」
先に、キム・テヤンと、
「ん……? ソ、ユン?」
と、続いてドン・ヨンファの順で、まず、壇上のパク・ソユンの表情の違和感に気がついた。
ふたたび、顔を下ろして、
「お、い……、“こいつ”は、」
と、キム・テヤンが意味深な顔で、カン・ロウンのほうを向いて言った。
「あ、あ……」
******
――リアルタイムに、また場面は壇上へと戻る。
そこで、やはりヤバい“何か”が、起こることになる。
まず、
――ジュ、バッ――!! バ、バッ……!!
と、“動く水”の動きに、何か異変が生じた。
その蠢きは、まるで、バグ――、か!?
もしくは、何か悪意をもったコンピュータ・ウイルスに浸蝕されたかのような、異常な蠢き――!!
それこそ、パク・ソユンや美祢八たち以外の、常人の一般人から見ても、少し異変があることに気がつくくらいに!!
バクったように!! 呪場のように暴れ動く、水の集合体――!! そして、その群!!
「は――?」
パク・ソユンが、露骨に顔をしかめ、声に出した。
その表情は、もはやDJソウとしての“それ”から、SPY探偵団として調査するときの“それ”になりつつ。
やはり感じた違和感――、それが、当たったことに気がついた。
その、次の瞬間には、
――ババ、バッ――!!!
と、“動く水”が!! まずはフロアの、プールの観客たちに向かって襲いかかる!!
「えっ? えッ――!?」
「おいッ!! 何か来たぞォッ――!!」
「き、きゃぁぁぁッ!!!」
「なっ、何だい!? これもパフォーマンスかッ!?」
観客たちは、驚く者から、パフォーマンスかと思う者、両者入り乱れながらも、
軽くパニックが起こる!!
そんな、パニックに陥るプールを横にして、
「おいッ!! ヨンファ!!」
キム・テヤンが声を荒げ、
「――!」
と、ドン・ヨンファが反応するも、それと同時!!
――バッ、シャァァッ――!!
と、分裂した水の集合体が、ドン・ヨンファのほうへと襲いかかる!!
「うわッ――!!」
ドン・ヨンファが声をあげながら、間一髪回避する、
だが、プールサイドにいる自分たちとは違い、身動きの取れにくいプールでは、
「うっ!? うわぁぁん――!!!」
と、“動く水”に捕まってしまう者も出てしまう。
フロアは、プールは、完全にパニック状態になってしまう!!
そのような、ステージの下の様子を目の当たりにしながら、
「は? よりによって、何で? 私のパフォーマンスの時なわけ?」
と、パク・ソユンはイラついた顔で、動こうとした。
未知の相手とはいえ、いちおうは異能力を持つ自分たちSPY探偵団と、それから、る・美祢八と、対抗できそうなのが五人いるわけである。
そうして、DJブースから外れ、壇上から降りようと思った。
その矢先、
『――動くな、パク・ソユン』
と、“何か声”がした。
「――?」
パク・ソユンが、すこし目を見開き、反応する。
“それ”が聞こえたのは、まだ片耳にかけていたヘッドホンからだった。
ヘッドホンからの、“謎の声”は続ける。
『動けば、君の友人たちを……、いや、友人たちのほうは無理そうだから、そう、だな……? 観客を、さしづめ、10人ほどは――、いや、より多く、殺す』
殺人予告をする、ヘッドホンからの声に、
「は――? また、人質とんの?」
と、インカムで、パク・ソユンが聞く。
『……まあ、そういうことに、なるな』
ヘッドホンからの声が、ゆるり……と、答える。
そうして、間を置くなり、
――ぐ、わん……
と、水の、キューブの集合群が、パク・ソユンのほうへと向いた。
その、次の瞬間――!!
――ド、ドドッ!!! ド、バァーッ――!!!!!
と、水のキューブがパク・ソユンへと襲いかかる!!




