16 横転しにかける
とりあえず、その“目的”に関しては、それ以上は考察するものもなく、
「まあ、やけど……、それよりも、気になんのは、」
美祢八が、ふたたび話を切り出して、
「どうやって――? 恐らくは、短い時間に、大量の水を、匣の中に満たしたのか――?」
と、間を置いて、
「……」
ドン・ヨンファと、
「……」
と、ス・ミンジュンのふたりが、沈黙して、続きの言葉に耳を傾けると、
「そして、漏れることなく、並々とした水を湛えているの、か――?」
と、美祢八は、その疑問とするところを言い切った。
まあ、確かに、現場を調べた警察、調査官だけでなく、多くの者が抱き得る疑問だろう。
小さな建物だったり、建物の一区画だったりするものの、その匣を満たすには、それなりの量の水が必要である。
それを、たったの一晩だったり、数時間で満たすわけである。
さらに言えば、美祢八の云うように、水が漏れずに湛えられているというのも、少し驚くべきところである。
いくら、機密性が良い現代の建築だとしても。
また、その水圧に、ガラスをメインにした匣が耐えれているというのも気になるところである。
そういったことを考えつつ、
「う~ん……、この事件の、何だろうね? 水の匣という異質性……、いや、匣の中の水っていうのが、どうも、異質なところがあるように感じるんだよね」
ドン・ヨンファが、言った。
それを聞いて、
「異質な水、け? それこそ、さっき話した、ポリウォータ――、“異常水”っちゅう言葉が、思い浮かぶのう」
と、美祢八も言う。
そうした中で、
「……」
と、ス・ミンジュンだけが、口数少なく喋らず、ふたりの話を聞いていた。
まあ、先ほどから、ドン・ヨンファと美祢八がメインで話しているので、仕方がないのだが。
その、ス・ミンジュンに、
「そういえば、ス・ミンジュンはん? アンタは、この事件に関して、何か思うところはあるんけ?
と、美祢八が話を振った。
「え――? 私、ですか?」
ス・ミンジュンが、自分を指さすように、すこし驚いて見せる。
「まあ、アンタの会社は、その、動く水っちゅうのに関わっとるやねか。せやから、その、匣の中の水についても、何か見解があれば、聞いてみたいと思っての」
「ま、あ……、そうですが」
「ちなみに、だけど……、まさか? 君のところの、技術が用いられているとか、じゃないよね?」
とここで、ドン・ヨンファが、半分冗談まじりに聞いてみる。
すると、
「……!」
と、ス・ミンジュンが、「うっ……!」と云わんかのような、少し強張ったような表情になった。
そこへ、
「おっ――? 犯人は、おっまぇだ~ッ……!」
と、美祢八が、
――ピ、ィンッ――!!
と、探偵モノの主人公がするように、ス・ミンジュンを指さしてみせた。
「へ――?」
ス・ミンジュンが、一瞬、わけが分からない様子でポカンとする。
その傍らで、
「は、ぁ……?」
と、ドン・ヨンファも、ポカンとした顔をしていた。
そんな風に、
…………、…………
と、場は、シーンとなる。
後ろでは、
――ドッ、ドッ、ドッ、ドッ……!!
と、そういえば、EDMフェスだった音が聞こえながら。
「あ、れ……? 滑った、け?」
美祢八が、気まずそうに言うと、
「いや、滑ったって……、やめなよ、美祢八。いくら、僕の友人とはいえ、失礼だろ」
「ま、まあ、」
と、ス・ミンジュン友人は気にしなくていいというも、ドン・ヨンファが指差したままの美祢八に注意した。
まあ、そのきっかけを作ったのは、このドン・ヨンファ自身なのだが。
そうしていると、
「――だけど、う~ん……? そう、言われると……、何か、確かに、気にはなりますねぇ」
と、ス・ミンジュンが口を開いた。
「何け? 何か、心当たりのあるところが、あるんけ?」
「え、ええ」
ス・ミンジュンは頷きながら、
「確かに、この、動く水を用いれば、ですね……、漏水することなく、また、下水とも混じることなく……、清浄な水を、“ああいった箱”の中に、湛えることはできるかも、しれないです」
「まあ、ス・ミンジュンはん、やったっけ? アンタの会社や、関連するグループ、研究者の中に……、何らかの、悪意というか、“理解しがたいナニカ”を持っている者、もしくはグループがいて、」
「……」
と、意味深に話す美祢八に、ス・ミンジュンは沈黙して耳を傾けて、
「――以って、」
と、美祢八が、その続きを話そうとした。
その時、
――ワ、ァァッ……!!!!!
と、ステージからは、大歓声が聞こえてきた。
すなわち、壇上でパフォーマンスをしていたDJのステージは終わる。
「おっ? 次は、ソユン――、DJソウの番じゃないか?」
ス・ミンジュンが言い、
「おおっ! ヨンファの、嫁はんのね!」
「いや、嫁じゃないって。いつの間に、彼女から、嫁に進化してるんだい?」
と、茶化す美祢八に、ドン・ヨンファがつっこんだ。
******
場面は、ちょっと隣に変わってーー
パク・ソユンと、そのスタッフ――、ゴーグルサングラスが特徴的な男と、おせっかいな女が、番が回ってくるのを待っていた。
ステージからの歓声を聞きつつ、
「あ、? ようやく、ソユンの番だな」
ゴーグルサングラス男が言い、
「ソウちゃぁ~ん? 出番ですよぉ~!」
と、ゴーグルサングラスが、おどけた様子で、「ルビィちゃぁ~ん、何が好きぃ~」のように言ってみたところ、
「はぁ~”~”い――!!」
と、パク・ソユンが唐突に、低くも高く、ビブラートの聞いた声――、まるで、かのミッキーマウスのような声で、それに答えた。
その声に、
「「ッ――!?」」
と、ふたりは驚愕しつつ、
――ガ、ック――!!
と、横転しにかける。
「「なっ、何故に、ミッキーマウスみたいな声――!?」」
※読んだら感想欲しいのだ! 拡散して欲しいのだ!
※貶し、罵り、ダメ出しバッチこいなのだ!(ずんだもん風に)
とりま、こんどからむっちゃ書く、コンドーム精神で受け止める。




