15 “無色透明”の――、もしくは、せいぜい“澄んだ青色”程度の“匣”
補足的に話す美祢八に、
「それで、美祢八さん? これは、どこで、着想を得たんですか? やっぱり、左官の壁の?」
と、スーツ姿の女が質問し、
「まあ、そやねぇ……? やっぱり、土壁の、田舎や町の古い家にあるような、荒壁――、その、何だったっけ? “ノスタルジックなナニカ”を、現代的な感覚と融合させたい的な――」
「は、ぇぇ……」
さすがに、そこは左官を冠しただけあるなと、感心しかけた時
「――ってのは、まあ、嘘なんやけどね」
「「嘘なんすか――!?」」
と、梯子を外すような美祢八の言葉に、幾人かが驚愕の声を重ねた。
「いや、まあ……、半分はホントで半分はウソ的なアレよ? 何け? “これ”と似たようなヤツを、昔、“ある場所”で見てねい」
「ようは、パクリというヤツですかぁ?」
「やかましいわ」
Mr.オリベスクに、美祢八がつっこみつつも、
「へえ? その、ある場所というのは、どちらでですか? 興味がありますわ」
と、FM商会の女が聞くと、
「うん。ラブホのエントランスで」
「「「――って、ラブホかーい……!」」」
と、一同がつっこんだ。
「けっこう、エレガントなラブホやったわ。そこで、デリヘルを呼んでからよ、Sの女王の姉ちゃんと、『人はいつ、けつあなが確定するのか?』、『けつあなが安易に確定してしまう風潮とファシズムへの警鐘』というテーマで、2時間ほど議論を交わしたという思い出があってねい」
「ああ、120分コースね」
「いや、どんな思いでよ……」
※『黄色の壁』より
それを聞いて、
「そっ、そ。その……、水の匣事件ってヤツよ」
と、美祢八が、そのとおりだと言う。
また、ここで、
「ああ……? 例の、あの事件ですか」
と、ス・ミンジュンも、この事件に関して知っているようであった。
ここで、すこし振り返りとして説明する。
『水の匣事件』――
その名のとおり、例えば、ガラス張りの立方体・直方体といった箱状の構造物の中が、並々と水で満たされるという奇妙な事件である。
それが、ここ蘇州だったり、上海や杭州の近辺において、散発的に起きているわけである。
なお、水で満たされると言うだけであれば、物損だけの奇妙な事件なのであるが、当然のこと――、中にいる人間ごと水で満たされる……
すなわち、中の人間が、溺死させられているのだ。
そして、これまでの調査においても、何者が――? どのような方法で――? この犯行を行ったのかについては、ほとんど手掛かりはつかめていないという。
さて、三人の会話に戻って、
「あ、れ? ス・ミンジュンも、知ってるのかい?」
と、ドン・ヨンファが、「あの事件のですか?」との、ス・ミンジュンの言葉が気になって聞いた、
「知ってるのかい、って……、いちおう、こっちに住んでる人間だぜ」
ス・ミンジュンが言うと、
「あっ、そっかぁ……」
と、うっかりしてたと、ドン・ヨンファ。
出身は同じ韓国とはいえ、こちらの、中国に来てからは久しかった。
「しかし、奇妙な事件ですね。いったい、何の目的で――? あのような箱を、作るんでしょうな?」
ス・ミンジュンが、言った。
まあ、誰もが思う、当然の疑問だろう。
そこへ、
「何か? 何者かの、メッセージ的なナニカが、あるんやないけ? ドン・ヨンファ、探偵先生」
と、美祢八が言った。
「おいおい? 何だよ、探偵先生って、」
ドン・ヨンファが、ちょっと茶化してくる美祢八に、「勘弁してくれよ」との身振りをしつつ、
「まあ、“メッセージ”……、ねぇ?」
と、天を仰いで考えてみる素振りをする。
見上げた先には、スカイブルーの空が、青く美しい水のごとく広がっていながら。
そうしていると、
「おっ? そう言えば、の?」
と、美祢八がドン・ヨンファに、何か、話題を振ってくる。
「う、ん? どうしたんだい?」
「昔のう、少年ジャンプの、ちょっと変わったマンガで、“赤い箱”を作る殺人鬼っていうエピソードが、あったんやけどね?」
「あ、れ? それ、どっかで、聞いた――、話したこと、あるような……?」
と、ドン・ヨンファは『赤い箱』とのワードに、一瞬、デジャヴにも似たナニカを感じる。
続けて、
「何ちゅうんが、ぜ? 怪人――、怪物人間のように、身体の姿そのものを変えることができる謎の犯人っちゅうのが、怪力で、人間を握り潰し……、その“血肉で満たした赤い箱”をつくるとかいう話なんやけどね」
「うん。何か、そんな話、ソユンとしたことあるような……? てか、ソユンのヤツが、好きそうなネタだし……」
「やろ」
と、話を聞いて、ドン・ヨンファはデジャヴ感が強まる。
まあ、デジャヴなのか、実際に話をしたのか――、ここではさておき、話を進めて、
「そんな感じで、の? 動く水っちゅう、動的なものを、敢えて、匣という静的な形にする――」
「……」
と、ドン・ヨンファが沈黙を挟んで、
「それ、っちゅうのには……、何か、思想だったり、メッセージみたいなもんが、在るんかな? と――」
と、そこまで話した美祢八に、
「ま、あ……? そう、だねぇ……」
と、ドン・ヨンファが相槌を入れて少し考えるも、それっぽい回答は思い浮かばない。
『赤い箱』――
まあ、それに犯人が込めた意図だったりは……、ネタバレになるのでアレだが、とりあえず、猟奇的かつ、“理解不能なナニカ”がそこにあるというのは、分かる。
だが、今回のは、“無色透明”の――、もしくは、せいぜい“澄んだ青色”程度の“匣”である。
意図は理解不能であれど、そこに、猟奇的なイメージというのは、あまり無い。
まあ、中の人間は溺死させられているから、“むごい”ところがゼロではないのだが……
まあ、先に殺してから、水で満たしている可能性も無きにしもあらずだが……
※読んだら感想欲しいのだ! 拡散して欲しいのだ!
※貶し、罵り、ダメ出しバッチこいなのだ!(ずんだもん風に)
とりま、こんどからむっちゃ書く、コンドーム精神で受け止める。




